「少年は少女の目が空いていることが、良いことなのか、否なのか、判断がつきかねた。
少年は彼女の目が空いていたことで見つけられた。
それは彼にとってはともかく、彼女にとってはどうだったのか。
考えたとしても答えは出ない。
今、少年に分かるのは、確かに自分は彼女によって見つけられたという、それだけだ。
口をついて出そうになった言葉は、感謝の言葉ではなかったから、少年は言葉を呑み込んだ。
輪郭を持とうとした暖かさが、その形を曖昧に変えていく。
それでいいのだ。少年の感情は漢字一文字で表せられるものでもなければ、文字を連ねて言葉にできるものでもない。
彼女の去った後に、温度だけが残る。
そっと感情を胸に抱いた。穏やかで心地のいい気持ちだった。」