3 ― 星見る手紙 ―
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【秘】 演者 シェルタン > 新米修復家 キュー
ごめん、こんなのは僕の甘えだった。
どんなお伽噺や風聞を聞いたって、あなたは僕ら“ 演者 ”の生き物としての在り方を理解してくれている……って思って、こんなこと書いてしまった。
こんな僕でも、あなたに受け入れて、貰えるだろうか。
鳥籠を抜け出したカナリアの王子の、
その羽ばたきを拙く真似る、名前のない小鳥より
【秘】 演者 シェルタン > 新米修復家 キュー
追伸
宿主を得る前と得た後では別の生命体、っていうのは、多分的外れじゃないと思う。
前の宿主の記憶はあんまりないし、宿主を得ていない時の記憶もおぼろげなんだ。
記憶が全くないって訳じゃ、ないんだけれど。
[ポストカードの余白にギリギリ詰め込んだと言わんばかりの、本当に小さな文字での追伸だった。]
【秘】 演者 シェルタン > アルレシャ
[その機体名を“ 演者 ”に伝えたのは、受け取った手紙の消印からか、或いはヘイヴンに来た郵送業者の言だったか。
ともあれ、返信の封筒の宛先は「A117-89便：アルレシャ」となっている。
差出人名は――
「惑星FO7402-1938：文学資料館 最果ての島の小鳥」。]
【秘】 演者 シェルタン > アルレシャ
アルレシャさん
お返事、ありがとうございます。
手紙がちゃんと届いて、そして何よりあなたが無事だと判って、本当に、本当に安心しました。
アルレシャさんの抱える気持ちも。夢渡りのお話も。
シェルタンさんへの想いも。そして僕自身への思いも。
全部、読みました。
今はまだ、僕の想いを上手く言葉にすることができません。
それでも……。
僕の言葉を受け取ってくれて、ありがとう。
これだけでもすぐにお伝えしたくて、ペンを執りました。
【秘】 演者 シェルタン > アルレシャ
ごめんなさい、一言だけじゃありませんでした。
アルレシャさんがヘイヴンに到着する予定の日に、僕はヘイヴンで待っています。
その日までの間に一度、僕がアッサに行くこともあるかもしれませんが……もしそうなっても、無理やりにでも船のチケットを取ってヘイヴンに戻ってきます。
あなたを迎えに行く日までの間に、僕が伝えたいことも全部纏まっていると良いのだけれど……それよりも、未来の話が先かな。
顔を合わせたその時に、たくさん、たくさん話ができたらと思います。
アルレシャさんの旅路が、良いものでありますように。
そして再会（すみません、また彼みたいに……）あなたと会える日を楽しみにしています。
最果ての島の、今はまだ、名前のない小鳥より
【秘】 演者 シェルタン > 新米修復家 キュー
[今度の手紙は再び、ヘイヴンの雑草で漉いた紙の封筒と便箋に綴られる。
チノホシ管理システム宛てに、キュー宛てに転送する旨が表面に記載された封筒。
裏面の差出人名も、相変わらずだったが――。
「フルト」の文字の下に小さく、黒いインクで描かれた、黒い小鳥の絵が添えられている。]
【秘】 演者 シェルタン > 新米修復家 キュー
キュー
初めまして。旅先からの返事、ありがとう。
そして僕のことを今でも 友人だって伝えてくれて、こちらこそ、心から、ありがとう。
正直に書くと、あの手紙を送った時、キューに拒絶されることも考えていた。
シェルタン宛ての住所のない手紙を僕が受け取れたからって、僕とキューが友人である証にはならないだろ、とも考えていた。
だから、僕が綴った言葉を、ちゃんと心から出た言葉だと思って貰えたことに。
そして、あなたの友人でいたいという願いを「嬉しかった」と伝えて貰えたことに、本当に、本当にほっとしたんだ。
【秘】 演者 シェルタン > 新米修復家 キュー
実を言うと、あれからまた少しだけ、僕の身に変化があった。
本当に少しだけだけど、僕自身の思考が、シェルタンに引きずられなくなるようになったんだ。
そういう意味では、この先も、僕が僕のまま変わらないかは判らないけれど――やっぱり、すぐには丸っきり人が変わったりはしないんだろうなと思う。（そのくらい、どうしたって彼の影響は強いみたいだ）
なんでそう変化したかっていうと……僕の シェルタンの 僕にとってもシェルタンにとっても大切な人が、僕を「僕自身」の名前で呼ぶことを望んでくれたから。
今まで自分の名前なんて考えたこともなかったから、どうしようってずっと考えてて……。
最終的には、「カラス」って名前で落ち着いた。
カナリアとは全然違う真っ黒な鳥だけれど、光の当たり方次第で、幸せの青い鳥にだってなれるだろって。
だから今度からは僕のことは、カラス、って呼んで貰えたら嬉しいです。
【秘】 演者 シェルタン > 新米修復家 キュー
ところで僕は、ヘイヴン暦XX日くらい（チノホシならXX日くらい？）までは、ここヘイヴンに留まろうと思っている。その時に、あなたに会えるかな。
（暫く公の場に出なくていい口実はつけてきたし……）
この手紙が届く頃にはもうキューはヘイヴンに着いているかもしれないし、僕がアッサにいた間にすれ違っていたかもしれないけれど……。
……って書いたけれど、そちらにニュースが伝わってなかったら意味不明だったよね。ごめん。
今ニュースで、舞台役者シェルタンがアッサの劇場に来て、一座への復帰を宣言したって伝えられているんだ。
彼は紛れもなく、僕が演じているシェルタン。
僕はこれからも、舞台を望む人たちのために、「生きているシェルタン」を演じる決心をしたんだ。
（彼の訃報については、キューとアルレシャ（僕の家族です）以外の人には、伝えない心算でいる）
だからこれからも、舞台の上ではシェルタンとして。
舞台から降りている時には、カラスとして。
いつか彼が語った夢の物語も、これから僕が語る夢の物語も、あなたと分かち合っていけたら嬉しいです。
【秘】 演者 シェルタン > 新米修復家 キュー
ごめん、少し話が逸れたかな。
ともあれ、ヘイヴンという星のこと、たくさん見聞きしていって。
そして、旅した先の他の星の話を手紙で聞かせて貰える日も、楽しみにしています。
僕も、これからの僕自身の日々の中で、たくさんの出会いを重ねていきます。
生きていく長い旅路で、お互いに、きらきら輝く思い出をたくさん持ち返れますように。
カナリアの王子の真似をする名無しの小鳥改め、
カラスより
【秘】 演者 シェルタン > ただの子 レグルス
[この手紙をシェルタンの手が書き記していた時、その耳目に“ 赤獅子 ”の軍籍剥奪の報>>136は届いていない。
それ故に、宛先は変わらず――
「ウル銀河星系惑星アッサ
アッサ防衛軍 レグルス・ヴィルヘルム閣下」
――となっている。
差出人名は、「棘を断ち切った、亡霊の王」。
もはやシェルタンの名を隠す必要はなかったけれど、それでも、成し遂げたことを示すように。]
【秘】 演者 シェルタン > ただの子 レグルス
レグルス・ヴィルヘルム閣下
先日、閣下の一時意識不明の重体の報に大変驚きました。
回復されたとの報に安堵しておりますが、どうぞご自愛ください。
さて、この度はお手紙をくださり、ありがとうございます。
既にご存じかと思いますが、舞台役者シェルタンは無事、アッサの地にてルキウス一座への復帰を果たしました。
私の願いの為に閣下にご尽力いただいたこと、心から感謝いたします。
（訂正の件についても、ご指摘ありがとうございます）
閣下からの三つのお願いにつきましても、ぜひ承りたく存じます。
まず一つ目の、戯曲回収の広告塔の件について。
これは今回の騒動の被害に遭った当事者としてお引き受けします。
またこれにより一座の更なる知名度の向上に……と書くのは不謹慎でしょうが、一座の者からの賛同も得られるだろうと信じています。
【秘】 演者 シェルタン > ただの子 レグルス
次に二つ目のご確認について。
こちらに漂着したXXXX付の情報誌の、一斉摘発の件の記事にて察しておりましたが……、やはり、そうだったのですね。
この期に及んでも未だに信じがたい心地ではありますが、事実として受け止めております。
今後の裁判等で証言が必要でしたらお声がけください。
最後に、三つ目のお願いについて。
私はヘイヴンの住民に顔が利く身ですので、ぜひお任せください。
こちらでも、紛争等により単身で渡ってきた子供たちからの話に日々接しております。
それだけに私自身、双方の橋渡しを務めたく思っています。
ただ実のところ、つい先日、私事にてヘイヴンで新しい生活を送ることにもなりまして……。
アッサでの活動を本格的に行えるのは、こちらの生活状況が一度落ち着いてから、にはなると思います。
（座長はじめ一座の者達、劇場支配人からは了承済みです）
閣下のご厚意に甘える形で、暫くは、己に無理なく思うがままに過ごせればと考えています。
【秘】 演者 シェルタン > ただの子 レグルス
閣下も少将という身分と立場故に、役を、仮面を被らねばならぬ場面が多いだろうとお察しします。
そのような閣下からの労わりのお言葉をいただけたこと、大変うれしく存じます。
これからも、私の周囲で光を指し示してくれる者たちを大事にしていきます。
私からも、互いの未来の成功をお祈りいたします。
そしてまた、劇場でお目に掛かれることを楽しみにしております。
ルキウス一座のシェルタン
【秘】 演者 シェルタン > ただの子 レグルス
[その封筒も便箋も、旅客機内で購入できるシンプルな白の紙で作られたもの。
宛名書きに記されているのは、
「アッサの小さなライオンさんへ」のみ。
差出人名は、「君が信じてくれた先生」。]
【秘】 演者 シェルタン > ただの子 レグルス
小さな小さなライオンさんへ
初めまして。僕はルキウス一座のシェルタンです。
この前（大分前かな？）の銀河間交流行事で君が僕のファンになってくれたと、レグルスおじさんからお話を聞いたため、お手紙を書くことにしました。
あれから僕はみんなにたくさん心配をかけさせてしまったけれど、無事に一座に戻ってくることができました。
次のアッサ歴XXXXにも、アッサの劇場でまた公演を行うので、ぜひ君にもまた見て貰えたら嬉しいです。
それと今度はお仕事だけでなく、お忍びでアッサの観光旅行をしようと思っています。
（あくまでお忍びだから、他のみんなには内緒だよ！）
観光といっても、市場や町の食堂、カフェのような、ごく普通の生活を体感できるような場所に行く心算です。
もしその時に僕に出会うことがあったら、こっそり「ライオンさんです！」って教えてくださいね。
君やみんなの声が、僕を舞台に生かしてくれています。
これからもどうか、応援してもらえたら嬉しいです。
ルキウス一座のシェルタン
【秘】 演者 シェルタン > ただの子 レグルス
追伸
いらなくなった日記帳は今度から、ちゃんと自分の手元で燃やすなりして処分すること。
業者のサービスに任せたりしたら、時々大変なことになりますよ。
以上、シェルタン先生からのお小言でした。
【秘】 演者 シェルタン > 夢見 アルレシャ
[それは、アッサへ向かう便の経由地からの手紙。
白い紙の封筒と便箋に綴られたそれが、ヘイヴンの「アルレシャ」宛てに送られる。]
【秘】 演者 シェルタン > 夢見 アルレシャ
親愛なる、僕のアルレシャ
手紙、ありがとう。
あなたとは暫くずっと長く一緒にいたから、こうして手紙の遣り取りをするのは久しぶりかな。
一緒に暮らす日々の中だと、当たり前すぎて、あまり口には出していなかったけれど……。
僕は、カラスは、今の生活を幸せに感じています。
あなたの傍に居られることが心地よくて、今以上に近くに居たいとも思うようになって、いつかあいつに殴られるんじゃないか こう思考することができるようになったくらいには、シェルタンではない僕としての人生をきちんと踏み出せています。
この幸せがあるのも、アルレシャが僕に「僕」の呼び名を求めてくれたから。
そして、家族になりたいと望んでくれたから。
青い鳥自身の幸せは、あなたという宿木がちゃんと届けてくれています。
だからどうか、安心してください。
あなたからの問題の答え合わせと、ご飯を楽しみにしながら。
アッサでの公演、頑張ってきますね。
【秘】 演者 シェルタン > 夢見 アルレシャ
そして次の公演の時には、ぜひ、あなたと共に星を渡りたいです。
僕の友人や同僚たちだけじゃなくて、一座のみんなにもアルレシャを紹介したい……というのは、シェルタンのことを思うと少し辛いかもしれませんが。
そう考えるくらいには、あなたと離れている時間が少し心細いかな。
最後になりましたが、僕はあなたのことが、好きです。
まだ僕自身の「好き」なのかは、自信が持てない、けれど……。
それでもあなたのやきもちが、困りながらも嬉しくなってしまうくらいには、好きなんだって今、感じています。
カラスより
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