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[お気に入りのパン屋さんで売っていたシフォンケーキが美味しかったから。
今日はそんな理由の手土産付で訪れた病室で
ビューさんといつも通りの他愛ない話をしていたのだが]
え?
アーネストさんも?
[おねーちゃん好きな人いるんだよ>>324のタレコミに、
思わず返した声は自分も、と取れるものだったが
それに気づくよりアーネストさんの想い人についてを話したい熱意の方が強かっただろう。
船で出会った人で、珈琲を淹れるのが上手い人、という言葉に
浮かぶのは一人の男性──
落ち着いていて包容力もありそうで、私の作品を大切に扱ってくれた人だ。
彼がアーネストさんの想い人で、想いを受け取ってくれるなら
きっとアーネストさんは、誰より大切に思われるだろう]
…その人ならきっと、
アーネストさんのこと
誰よりも幸せにしてくれるよ。
それだけじゃない。
幸せにも、なってくれる。
そうなったら、
私たちも、幸せになれるね。
[自分がそうであるように、アーネストも恋をしているなら。
そしてその恋の相手があの人なら、きっと悪いようにはならないだろう。
言葉にした通り幸せを感じる笑顔でビューさんに同意しながら、いい加減恥ずかしさに甘えず自分もカラントとのことを話さないとな、と内心で呟いた**]
── 海辺の病院・妹とサンシア ──
[初対面の時、妹は緊張しつつもサンシアの言葉を真面目な表情で聞いて、何度も感謝の言葉を口にした。
でも、自己紹介がまだだと気付いた時には>>335
素に戻って慌てた様子を見せ
『ああっ!自己紹介がまだでしたね!
ご、ごめんなさいっ、お礼を言うのに必死で……!
改めて、私の名前はビューです。
今後ともどうかよろしくお願いしますっ!』
なんて、勢いよくぺこりと頭を下げたのだ。
そんなこんなでサンシアと妹との交流は始まった]
[その後、何回か交流を重ねてすっかり打ち解ける妹。
今日もサンシアが持ってきてくれた手土産のシフォンケーキを嬉しそうに受けとって、冷蔵庫に入れてあったオレンジジュースをお供に世間話に花を咲かせる。
姉の恋愛話になれば自分のコトのように熱弁したりしてすっかり姉の恋路を応援モードだ。
サンシアの言葉を聞けば。>>337
『えっ!サンシアさんも知ってる人なんですかっ!?
わあぁ……! お話、聞いてもいいですかっ?
ふふっ、おねーちゃんに好きな人ができてよかった。
実は心配だったんです。
おねーちゃんが私たちのために頑張ってくれるのは嬉しいけど、それでおねーちゃんが普通の女の子みたいな恋愛や暮らしをする機会を犠牲にしてるんじゃないかって……、
だから、その人がおねーちゃんを幸せにしてくれたらいいなぁ。
ね、サンシアさん。
私たちも、幸せになりましょうね』
にっこり笑って甘いシフォンケーキを頬張る。
穏やかで幸せな、そんな日常の一幕]
[その数日後、
サンシアが妹を訪ねると妹が興奮気味に熱く語り出すのだ。
『サンシアさん!聞いて聞いてっ!
おねーちゃんぜーったい!恋人できたよっ!!
ある日行先も言わないでふらっと出かけた日があったんだけどね。
その日から明らかに様子が変なの!
毎日着てたライダースーツをやめてワンピースとかスカートとか女の子らしい服を着るようになったし、メイクやアクセサリーなんかもこだわるようになったし。
急に思い出したみたいに顔を赤くしたり、幸せそうな顔で笑ってたりとかさ!
顔つきも「恋する乙女」!みたいでねー。
ぜーったい恋っ!!!!!
あー今日はお赤飯たかなきゃっ』
なんて、自分の事のように姉の恋路(勝手に認定)を祝福するのだ。
そうしてサンシアとその喜びを共有しようとするのだ]
[ちなみに、その数年後。
体調が一般並みに回復してきた妹は、サンシアが手配してくれていた法的措置を使い元夫に今までの暴言・暴行への慰謝料請求の裁判を始める。
辛いこともあった、昔を思い出してまた体調を崩す事もあった。
それでも最後には裁判に勝利し多額の慰謝料を元夫から巻き上げる。
そうして妹は手にした多額の慰謝料を元手にこの地でたくましく生きていくのだ。
今度は自分の幸せのために、人生のために。
自分を救うヒーローになるために。
妹は姉の背を励みに前を向いてたくましく生きていく。
こうしてまたこの地に新しいヒーローが生まれた。
おめでとう!そしてありがとう。
妹の旅路に幸多からん事を。**]
── とある日の一幕 ──
[サンシアとカラントが付き合っていた!!
その事実を知ったアタイは即座に。
『こンの薄情モノーーーーー!!!
えっ!カラントよく連絡取り合ってたよね?
彼女いるって言ってたよね。(興味無くて流してたけど)
共通の友人のサンシアとは聞いてないっ!
ひどいっ!アタイだけ仲間外れにしたー!
ちゃんと言えよ!もぉー!!
アンタ言葉数少なすぎなんだよォッ!』
などと、電話や直接会って伝えただろう。
あったかもしれないそんな日常の一幕]
[ちなみに、サンシアの場合はカラントのように怒ったりしない。
驚きつつも妹の事情もあったのだ。
その気遣いを感謝こそすれ怒ることなどない。
少し驚きつつも優しく笑って。
『そっか、教えてくれてありがと。
アイツ、無骨で口数も少なくてさー
たまに何考えてるのか分かんない時もあっけど、
悪いヤツじゃないのは確かだからネェ。
おめでと!幸せになりなよ。
後、アイツの愚痴とかあったらいつでも聞くから!』
なんて二人のコトを祝福するだろう。
カラントの前では『なんでこんなヤツが良かったンだい?』なんて悪態をつく距離感で。*]
─その後─
[ホワイト・マーブルでの暮らしは、最初は簡単なものではありませんでした。
移住先を決定してから行ったわけではなかったため、まずは移住先の家を探すところから始まります。文化が違う、マナーも違う、なんなら言語が違うひとたちだって居たかもしれません。そういった地球での"普通”が通用するわけでもないひとのなかで、暮らしの仕方を覚えながら、わたしは毎日を過ごします。
家は、街のアパートメントなどであればすぐにでも入居ができたのですが、すこしだけこだわって場所を探しました。
手に入れたのはホワイト・マーブルの中でも比較的地球に近い植生の、自然豊かな場所でした。広がる筈の緑が、白く輝いて見えたのは、ホワイト・マーブルならではでしょうか。]
この場所がいいです。
[選んだのは、宙にも近い、丘の上の小さな家でした。]
[昔むかしのおとぎ話。輪廻転生の物語。ふたりのちいさなきょうだいが幻の星を見つけにいく物語。きらめく幻の星、それを目指して歩いて行けば、ずっとずっと会いたかったひとがお星さまになってふたりを待っていました。>>0:37
わたしはいま、ひとりだけれど、宙に近いこの場所でなら、会いたい星に巡り合えるかもしれません。そんなメルヘンなおとぎ話をずっと信じているわけではないけれど、それでもこの場所がわたしにとっては相応しいのだと思いました。
何もない白い家に、2枚のハンカチを飾ります。贈ってくれた社長さんにはお礼は言えなかったけれど、いつか手紙を書こうと思います。幸い向こうは有名人でしたから、きっと、手紙は届いたはずです。]
[わたしは、まだ何もないこの場所に、遠い未来の夢を見ます。
もう少しこの世界に慣れたなら、わたしたちの家をつくりましょう。庭にはカトレアとジャスミンを植えて、いつか香り一杯の花畑にしましょう。お庭にテーブルを置いたなら、いつかまた出会うはずのドルチェは遊びに来てくれるでしょうか。スイッセスさんの珈琲でティータイムも素敵です。
家のなかにはたくさんの本を並べましょう。もちろん記念すべき1冊目はあの絵本。それから庭で教えてもらった「冒険」の話や、大好きな作家さんの本も並べましょう。
あの長くて短い旅路の中で出会ったひとたち、ひとりひとりに想いを馳せます。なんといってもわたしが"リーン”になって、初めて会ったひとたちですから。忘れることなんてありません。]
今日も一日が幸せでありますように。
[うんと背伸びをしたならば、わたしはふたりぶんの魂を抱きしめて、新しい世界に踏み出していきます。
宙を見上げて、思います。
あなたは、思い通りの色の空を今頃眺めているでしょうか。]
あなたも、幸せでありますように。
[多分一生届くことのない声を、ホワイト・マーブルの宙へと投げかけます。家の中からは甘いクッキーの焼ける匂いがしました。
今、わたしの目に映る空の色は ────────── **]
[書けと言われたから書いた私の処女作は
曾祖父の著書の出版権を持つ会社から賞を貰った。
受賞の賞金は私の手元に来なかったものの、
三年間の作家契約は私のものとなって
結果、そのおかげで今いる私は守られた。
尊厳が踏みにじられそうになって、
無体を働かれる前になんとか逃げ出したけれど、
怖くてどうしたら良いか分からない私に
担当についてくれた人が、逃げて良いと言ってくれて。
作家としての立場を確立する為に書けるだけ書いて
自立する為の力を付けなさいと励まし、
支えると言ってくれた言葉通り
作家契約の更新と共に家出した私を引き受け、
共に暮らしながら自活できる術まで与えてくれたから]
[そのおかげで私の心は殺されずに済んだし、
家族の思惑を潰しまくった代わりに
血の繋がりだけの縁を切ることも出来て。
でも、それまでに間接的にも直接的にも向けられ続けたよこしまな悪意に、
大柄な身体や、大きな手は苦手になっていた。
勿論、非道を行うのは男性に限った話ではないし、
男性が全員そうではないことも知っている。
なので誰彼構わず避けることは流石にしなかったけれど、
新たに築いた人間関係は、以前より更に距離を保つようになった。
ろくに知らないのに、怖い、と押し付けるのは嫌だったから。
このまま誰にも近付かず、
物語を生み続けるだけで良いと思っていたのが
まさか、一人の人の隣にいたいと願って、
隣にいても良いと言ってもらえる日が来るなんて
地球にいた時には、思いも寄らなかった]
[そんな予想外から始まった新生活の拠点は
一人暮らしには大きな一軒家。
淡い橙色を基調とした煉瓦壁に、深みのある緑の屋根。
シンプルにクリーム色の壁紙で統一した部屋の中
一番目立つのは、オーディオルームと
壁にびっしりと本棚を並べた資料室だろう。
それ以外は必要最低限の家具家電と執筆用の机のみという
シンプルに書くことだけを想定した室内と、
連れてきてもらったカラントさんのおうちは、全然違った]
ふわぁ…
すごい、うちと全然違う…
てゆか、あれ、あっちに置いてあるのってジオラマ?!
カラントさん、あの、近くで見ても大丈夫なのってある?
[お互い荷解きやら何やらがあって、
家に連れてきてもらったのは早くても1週間は過ぎてから。
案内された自宅もだけれど、目を輝かせたのはやっぱりアトリエの方だった。
絵具や木、土などが混ざった独特な匂いは、意外と気にならなくて
カラントさんの隣と同じような、居心地の良さがあって。
わくわくとした様子を隠さない態度は、カラントにどんな表情を浮かべさせたか。
初めての訪問は、それでも長居せずに帰ったものの]
…かえりたく、ないな。
[カラントの作る空間にずっといたい、と
彼自身の傍からも離れたくないという気持ちが、
訪れる回数を重ねるにつれ深くなって、
帰りたくないと我儘を言うことも、増えたのだった*]
ー …アフターストーリー… ー
[…その後。恐竜のきぐるみを脱いで
ようやく現れた妻と再会し、
自動運転のレンタル車に乗って、私達は街の郊外に建つ少しばかり敷地のある我が家へと帰る。
正確には、私は初めて訪れるため、
帰宅というよりは初訪問という感じではあるが、家族のいる場所が、私のいる場所であると最も感じるのだから、帰宅ということでいいだろう。
息子たちがメイドロボにあやされてぐっすり眠っている。
助手席に座る妻は、黒く長い髪をかきあげ嬉しそうに笑っていた。
地球にいた時は、随分悪かった顔色が、血の気が通った色合いになっている。恐竜ごっこで興奮しただけという可能性もあるが、それだけできるようになったのは僥倖だった]
…………。なにかね?
『うふふ、ツァーリさん、
なんだか嬉しそうなんだもの。
何か旅の間にいいことがあった?』
[男は正面を向きながらも、パチリと瞬きをする。
また妙なことを言い出したと思うが、彼女は何でも分かってますと言わんばかりの顔で嬉しそうに微笑んでいた]
…………なぜそう思ったんだ?
『だって、貴方が何か話したそうにしてたり、
子どもたちと一緒の視線で遊んでくれたの、
初めてでしょう?
こんなに楽しそうにしてるの始めてみたかも』
……そうか?
[何か私は変わったのだろうか。よくわからない。しかし彼女がこの上なく嬉しそうにしているのはわかった]
…いいことは…あったな
…私とよく似た子供が、
何もないことを嘆いていた子供が、前を向いた
…子どもたちと向き合うきっかけをくれた
正義のヒーローがいた
…私の頭脳と渡り合う知性を持った音楽家がいた。
…人の心を理解するアンドロイドがいた。
…家族に愛される娘がいた。家族がいた。
…旅を続ける男がいた。
……他にも、たくさんいた。絵を描く男、
可憐な少女、利発そうな女性、扉を開ける鍵の小説…
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