3 ― 星見る手紙 ―
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青年 シャト
[そうか、シェルタンさんだって、変わっているはずなんだ。
きっとあのときより幾らか歳を取って、ずっとかっこよくなっているのかもしれない。
と、考えると同時に、彼が希望だという気持ちは変わらないけど、一個人として幸せになってほしいとも感じた。
役者シェルタンとしての幸せだけじゃなく、ただのシェルタンとしての幸せも。
希望であってほしいがために、彼に理想を押しつけるのは、絶対に嫌だ、と感じたから。]
青年 シャト
[最後に書かれた文を目で追う。アルカディアで公演された演目が、そこには記されていた。僕は少し笑って、一人、言葉をこぼす。]
僕は最初の荒野に出ました。貴方はどうですか。虹の麓まで、たどり着けそうですか？
今、僕は、貴方がただの青年であってもいいような気がしました。平凡なただの青年でも。
それでも貴方は、虹の麓まで旅するんでしょうか。
こんなのは、僕の我儘だな。貴方に主人公であってほしいと願ったのは、他ならぬ僕なのに。
貴方でも、書き損じるんですね。真っ黒で、穴も空いてる。ちょっと、親近感を感じます。
ちゃんと読めない。これは、手紙に書くべきかな。
文才や文章の拙さについて言及していたけれど、貴方の文章は思いやりに満ちていて優しい。僕はそれだけでいいと思う。
[そっと手紙を封筒に戻した。文才がないとも思わないし、拙いとも思わない。
ただそれ以上に、僕に対する思いやりでいっぱいの手紙だったと思う。
彼がとても優しい人だということが、手紙から感じた確かなことだった。]
【秘】 旅行者 パウゼ > 新米修復家 キュー
チノホシのキュー 様
こんにちは。
色々教えてくれたのに、手紙の返事が遅れてしまって申し訳ない。
君の星にも四季はないとのこと、正直意外だった。
「夏が来る」という話を聞いた時、きっと「四季」があるものだとばかり思い込んでいたんだ。
もしかしたら、君の星が人の造ったもので埋め尽くされる前は、あるいは目に見えてわかる「四季」があったのかもしれないね。
どちらにしても、私にもその想像はうまくつかないのだけど。
同じ場所で、春の花が咲いて、夏の通り雨が降って、秋の赤い葉が落ちて、冬の雪が降る。
そんなことがあるなら、本当にすごいことだと思う。
一度で良いから、そんな移り変わる日々を体験してみたいと思うよ。
しかし、よく考えれば、今いる星には緩やかな四季があるのかもしれない。
今は、夜が段々寒くなっていっているんだ。
それに気が付いたのも、それなりに長くこの星に居たからなのだけど。
おかげ様で、明日、病院を退院できそうなんだ。
以前に送った手紙では情けない事も書いてしまったけれど、私は元気でやっているよ。
きっとこれからもずっと、変わらずやっていくんだと、そう思っている。
【秘】 旅行者 パウゼ > 新米修復家 キュー
そういえば、あの手紙から間が開いてしまって、さすがに今は「夏」なんじゃないだろうか。
身体の具合は大丈夫だろうか。
「悪い影響」はないだろうか。
いや、決してオヒサマの影響がどのようなものかに興味津々なわけではない。
ただ、もし返事を貰えるのならば、今回封筒の裏面に書く座標に宛てて送ってもらえると、今後も私宛に届くと思う。
暇つぶしで構わないんだ。
けれど、また返事を貰えたら、とても嬉しく思う。
パウゼ
【秘】 旅行者 パウゼ > 夢見 アルレシャ
ロサのアルレシャ 様
いや、もう、ロサのアルレシャさんではないんだね。
実は、この前に手紙を書き上げていたところに、郵便屋が貴方からの手紙を配達してきて、慌てて住所から何から書き直しています。
内容、拝見させていただきました。
あの美しい星を出たんですね。
ロサを否定しなかった、と書かれていましたが、確かに私には孤独を感じる場所ではあったし、貴方の今回の手紙で、やはりどこかで泣いている人が居る星なのだ、ということも知りました。
それでもやはり、あの星は全てが美しく、私が否定するべきところは何もなかった。
ロサは確かに一つの楽園だったのだと思います。
しかし、例え楽園の住人であっても、出て行くことを選ぶ人もいる。
楽園以上の何かを見つけたということは、本当に幸せなことだと思います。
青い鳥はきっと見つかりますよ。
貴方がきっと心からの幸せを手に入れられるであろう事を確信しています。
【秘】 旅行者 パウゼ > 夢見 アルレシャ
さて、以前の手紙ではご心配をおかけしてしまったかもしれませんが、私も明日、病院を退院することとなりました。
奇しくも、私も暫くの後、この星を出ることになります。
そうですね、家族はきっと、私を待ってくれていると思います。
きっと、ロサのような美しい街で、笑顔で待ってくれている事と思います。
今でも、心配をして頂いているとのこと、何だか申し訳ありません。
アルレシャさんのような女の子に心配をさせてしまうのも不甲斐ないところではあるのですが、もしよろしければこちらこそ、今後とも手紙のやり取りができると嬉しく思います。
まだあと暫くの間、私は独りで過ごしていくことになりそうです。
その際に貴方の手紙があれば、私は宇宙のどこかの貴方の物語へ思いを馳せながら、穏やかな一夜を過ごすことができるでしょう。
パウゼ
【秘】 旅行者 パウゼ > 青年 シャト
アルカディアのシャト 様
お久しぶりです。
お変わりなくお過ごしでしょうか。
先日は突然物騒な手紙を送ってしまい申し訳ありませんでした。
おかげ様で、手紙に書いたことも全てがどこかあっけなく恙なく終わり、私自身も明日退院の日を迎えます。
これが、最後の病院からの出紙ということになります。
書いた通り、掃討作戦はあっという間に終わりました。
何かを感じる間もなく終わってしまったというのが正直なところです。
しかもどうやら、何かを埋めてくれるようなものではなかったようで、今も何か、ぽっかりと穴の開いたような気持ちは続いています。
けれども、私の周りの色々なものが、その穴を少しだけ、本当に少しずつですが、埋めようとしてくれています。
この星の人たちは勿論のこと、貴方のくれた手袋や、手紙もです。
そういうものに生かされていることを、ここの暮らしの中で、しみじみと実感しています。
【秘】 旅行者 パウゼ > 青年 シャト
今はアルカディアはもう春でしょうか。
以前の手紙で、地面に咲く花が少しずつ見えるようになったと聞いたことを覚えています。
きっと、これから良い季節なのでしょう。
心が躍るような春、深々と冷え込む冬、不思議ですが、どちらのことを思い浮かべても、少しだけ苦しみは癒されていくのです。
手紙の返事は結構、などと言った手前恐縮ですが、また、宜しければ手紙のやり取りなどが出来れば嬉しく思います。
貴方の伝えてくれる細やかな星の様子、小さな出来事、そんなことが宇宙のどこかで自分の居る場所と同じように、あるいはまったく違うように起こっているとわかることが、私の小さな喜びなのだと、そう感じています。
パウゼ
【秘】 旅行者 パウゼ > 星の停滞 ステラ
旅好きな女性 の方へ
こんにちは、お変わりはないでしょうか。
旅好きな貴方のことですから、もうこの手紙も手元に届かないのかもしれませんね。
それでも送らせてもらうのは、どこか自己満足の部分もあるのかもしれません。
さて、先日は突然物騒な手紙を送りつけて申し訳ありませんでした。
おかげさまで非常事態宣言も解け、自分自身も明日、この病院を退院することとなりました。
後暫くの後、この星も離れることとなります。
貴方とは、やはり初めてこの手紙で知り合ったという気がしないのですが、そのやりとりもまた、ここで一旦終わりと言う事になりそうです。
【秘】 旅行者 パウゼ > 星の停滞 ステラ
しかし、恐らくですが、私はまた暫くしたら、旅に…
きっと仕事ではなく、まとまった休みを取って、旅に出ることになろうかと思います。
もしかしたらその時、いや、その時でなくても。
あと５年後、いや、１０年後でも。
貴方とはどこかでふと、すれ違い一言二言言葉を交わす、そんなことがあるような気がするのです。
可愛らしい物語（とても娘が好きそうなのです）は、色んなものと一緒に大切に保管してあります。
またもしどこかでお会いすることが出来たなら、このような物語の作り方の一端などでも、お聞き出来たら幸いです。
パウゼ
旅行者 パウゼ
［手紙はちゃんと配達先に届いただろうか。
もしかしたら、宛所不明で返ってきたものもあったかもしれない。
暫くの間、不在中とのことで留め置かれたものもあったかもしれない。
しかし、たとえ返送されたとしても返事がなかったとしても、何故か彼らが事故に遭ったなどという感覚をうけることはなかっただろう。
ただの勘だ。
けれども、きっとそれぞれが、何かしかの理由でそこを離れただけ。
そう感じたに違いなかった。］
青年 シャト
[最後の封筒を手に取って、封を開ける。
最初に書かれていたのは、手紙をくれたのは、僕の知っているパウゼさんだということ。
その文面を読んで、人違いじゃなかったのか、と思い。予期せぬ手紙に書かれていたことを思い返す。
彼がアルカディアの様子を知りたいと思ってくれたこと。彼にとって仕事のしやすい星であったこと。
彼にとってアルカディアは、統一的で閉鎖的で窮屈な星ではないようだと知れたことが嬉しかったし、彼に優しい青年と思われていたことが嬉しかった。
手袋は役に立ったかな。多分、彼の手に小さすぎるということはないと思うんだけど。そんなことを考えながら、僕は手紙の続きを読む。]
青年 シャト
[僕が彼に紹介した縁は今も続いているということ。とすると、僕の紹介状は役に立ったらしい。
生活しているときは、あまり気にしなかったけど、そういえば僕も仕事をする上で便利な石を幾つか使ったことがある。あれも彼の組織のお陰だろうか。
気づいてなかっただけで、今のアルカディアの生活には、彼の所属する組織がもたらしてくれた恩恵が浸透しているのかもしれない。
彼にとっても、僕たちにとっても有益な縁を結ぶきっかけになれたなら嬉しい。]
青年 シャト
[それから、冬と春、四季のこと。
僕たちは寒期、暖期と呼んでいるけど、別の星では冬や春というらしい。
四季というのは物語の中で、少しだけ読んだことがある。あるいは、星の外に行った友人たちの話にも言及されていただろうか。
冬と春以外にも、夏や秋というのがあって、時季ごとに色が変わる植物があったり、虫が鈴の音のような声で鳴いたりするらしい。
そんな星が本当に実在するということに心踊らせて。
彼の住んでいるところは時季の移り変わりはなく、ずっと同じような気候が保たれているという。だから僕の星の近況や、四季の話を聞くのが面白いと。
僕も彼の星は、不思議だけど面白いと思う。一年中暖かな場所や寒い場所ではどういった生活をしているのだろう。
人々は自分の好きな気候、過ごしやすい気候の場所を選んで生活するのだろうか。
他の星から来た人も、故郷に近しい気候の場所があるなら過ごしやすいのでは、と考えて、僕も行けるだろうかと考える。
実際どのような場所なのか。故郷と違う暖かさや寒さに、興味を惹かれた。]
青年 シャト
[続く文面に目を落として、そこで思考が止まる。
軍事作戦、彼は大丈夫だろうかという一瞬の心配。
反政府組織の掃討。家族が亡くなったとの言葉。その原因となったのは反政府組織であること。
何が書かれているのか理解ができず、遅れて理解したときには、自分の手が震えて、続きが読み取れなかった。
この手紙が届いたのは、いつのことだったのか。少なくとも雪が降っていた間であることは間違いない。
僕がまだ見ぬ世界に夢を膨らませているとき、彼は痛みや苦しみを必死に耐えていたのだ。
大切な人を喪う苦しみ、僕には分からない、想像すら届かないだろう苦しみ。痛み。絶望。
気づけば視界が滲んでいた。こういうこともある世界だと忘れていた自分の愚かさを認識した。
泣いたってどうにもならない。僕がどれだけ泣いても、彼の気持ちが理解できるわけでもない。
それでも止まらない涙が煩わしい。泣いてしまう自分が嫌だった。]
青年 シャト
[窓越しに、無数の星々が過ぎ去っていく。
様々な色を持ち、輝きに満ちた、人々がいるであろう生活の地。
そこには喜びだけでなく、悲しみもあるのだと、何故忘れていたのか。
外から眺めるだけでは美しいばかりだ。そんな気持ちが、目を曇らせたってことなんだろう。
どこまでも続く景色に、貴方を想う。
それでも、貴方のいる星があると思えないほど美しい光の海に、どうしようもなく悲しくなって、また涙がこぼれた。]
【独】 青年 シャト
/*
ようやく墓落ち前にもらったお手紙を読むことができました。
レグルスさん、シェルタンさん、パウゼさん。ありがとうございます。
【独】 青年 シャト
/*
気づけばアルレシャさんとレグルスさんの肩書きが変わってる。
生きていて、色々なものが変わっていくんだな、となんだか実感します。
新米修復家 キュー
ｰ果てまでの航海ｰ
[しばらく、アッサにいたあいだ。
いや、船のなかででも、赤獅子の報道や、とある星でのテロ事件の顛末など、目にする機会はあったかもしれない。
でも。まだ、それらを受け取められるほど、旅慣れていなくて。
僕は、つい目をそらしていた。
外の世界には、きっと知らないことが、たくさんある。
それがどんなことでも。
もちろん、こういうことがあるってことも、わかってたことだった。
そして。
これからは、ちょっとずつでも、向き合っていかなくちゃならない。
この宇宙のこと。そこに浮かぶ星々のこと。
ぜんぶ知りたいから、いま、ここにいるんだってこと。
僕は、もう一度、それを想った。]
新米修復家 キュー
[そうして、目をそらしたものに、もう一度向き合う。
それぞれがぶつかって、奪われたものや失ったもの、それから生まれた争いのこと。たくさんのことがあったらしい。
チノホシにいたとき届いた手紙のなかにも、そういったことに巻き込まれたんだと、綴られたものがあった。
僕はその人の無事を願ったけど。
なにがあったのか、とか。
いまはどうしているのか、とか。
そういったことは、あまり、書かなかった。
もし、その人になにかあったらと思うと、恐くて。
良くない知らせが届くかもしれないと思うと、なにを書いたらいいのかわからなくなって。
ただ暇潰しになればいいと、それだけを思って。
無事を願ってる。その一言すら、伝えることをしなかった。
きっと、もっとやれることがあったはずだと、いまでも思う。
その人は、いまも無事、だろうか。]
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