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[ホワイト・マーブル到着までのカウントダウンは、もう明後日になっちゃった。
焦りを覚えるものの、不思議な事に、思っていたより恐れはない。
たまごぼーろおじさん。…ではなく、ツァリーヌさんと話してから色々考えた。
私の存在は不確かな物に思えるけれど、私の存在を証明しようとする私は、それを諦めない限り確かに其処に在る、とかそう言う事。
なんだか混乱するけれど、そう、なのかな。
彼に借りた赤いハンカチは、船内従業員アンドロイドに綺麗に洗って貰った。>>0:122
下手に素人が洗って、どうにかなってしまったら困る所の騒ぎではない。故に、詳しい者にお任せする。
けれど、アイロンだけは自分で掛けた。
アイロン捌きには自信がある。なんせ自分のYシャツは、毎日自分でアイロン掛けしているから。
面倒な作業とも思うが、慣れてしまえばどうって事は無い。
何でも家事用アンドロイドに任せてしまえるこの時代、自分で何かをするって言うのは大事な事。
この毎日のルーチンも、自分を構成する物の1つ。
一枚仕上がる度、自分がそこに存在してるって、少しでも実感できるから。]
[地球には何もない。
父さんと言う小さなトラウマ以外は、何も。
けれどそれと向き合って、考えて、離別できたら、私はちゃんと私として存在できるようになるのかな。]
[いつ会ってもいいように、
いつでも返せるように。
胸ポケットの中に収めたハンカチは、とっても大切なモノ。
私が誰かの旅の中、一瞬でも関わった証のような品。
ツァリーヌさんが、レットと言う子供に気まぐれで貸した記憶を持って居る、不思議な品物。*]
[そんな事が続いた頃か、]
挨拶が遅れました、
私、レットて言います
[汗だくの首にタオルを引っ掛けながら、褐色の彼に自己紹介を。]
よろしく
[小さく笑んで、自分の世界を広げていく。*]
― ショッピングモール ―
[さて、目的地に着くまでに買い揃える物はあっただろうか。
一か月と言う長い船旅の中、消耗品位は一応補充しなければならない。
大きな荷物類は先に母さんとホワイト・マーブルに到着している物だから、私の手荷物はとても少ない物だった。
それでも下着とか靴下とか、そういう物って新しいものを揃えていたい。
でも女性下着類のお店って、キラキラでフワフワで、一人で入るのは少し恥ずかしい。
そういう店舗の前を素知らぬ顔で通り越しながら、レースを縫い付けたワンピースを横目、レディースファッションの区域に足を踏み入れる。
さて、ここに自分が着れるサイズの服はあっただろうか。
場違い感を感じながらも、立ち止まって周囲を見回していれば、掛けられる声が一つ。]
へ?あ、はい
[声の方に視線をやれば、ふんわりとした可愛い女の子。>>27]
服……、
を、選ぶとき、ですか?
[服?私の選ぶ服、スーツばっかり。
そういえば、自分が本当に好むファッションってなんだっけ?
血さな疑問が頭を擡げるも、今は考え込むタイミングではないと、その情報を脇へと寄せる。]
服は、身体のサイズに合っていて……
[とは言っても、この船は大抵のサイズ幅は揃えて居るだろうから、サイズ問題はクリア出来ると思う。]
似合う、って言うか、
自分の髪色や、肌、目の色とかにも合う物で
[金に近い目の色。それと柔らかな金髪。
脱色した自分の髪よりも更に明るい彼女の髪色を見て、いいなと少し思った。]
目を引かれて、デザインが気になって、
……自分が着たい、好む、物?
[色々並べはしたものの、結局はそこに落ち着くのだろう。
自分の好きな物を着ればいい。そういう物、かな。]
悩んでるの?
[顔を覗き込みながら、そう尋ねる。
女子は大抵、ショッピングに時間をかける物。
だから彼女もそんな感じだろうと、当たりをつけて。
まさか買い物所か、選ぶ事自体に慣れていないとは夢にも思わない。]
カジュアルめやストリート系の店はアッチ
フォーマルメインなら逆方向
[色んな方向を指さして、私まるで案内機みたい。
だって船内の探索は、旅が始まった頃、早々に終えていたから。]
清楚系とか、
ふわっとしてひらひら多め…ガーリーなら、
さっき前を通ったかな
[年齢も近そうだし、言葉遣いは少しフランクに。
彼女が何を好むのか分からないけれど、方向性位は絞れるだろうから。]
― いつかのスポーツジム:アーネストと ―
私も?ライダースーツを?
[アーネストが着こなすカッコいいライダースーツに、目をぱちくり。>>29]
でも私、
あんまりプロポーションに自身、無いし
[しょぼくれた顔で、己のストーンとした胸部を見下ろした。
ダブつくトレーニングウェアの布地は、胸の凸パーツに引っかかることなく、静かに真下に流れている。
一応全身の贅肉は少ないと思って居るが、決して鍛えて絞っている身体ではない訳で。
自信たっぷりに着こなし、ターンとウィンクまでしてみせる彼女を見ながら、ヒーロー兼モデルさんみたいだな、と。
バイクに乗って疾走する彼女の姿を想像して、その隣に自分の姿も添えてみる。
…う〜ん、やっぱり私って、貧相。]
[その後、握手の流れからの、師匠!弟子!!>>30>>31
こうして無事、師弟関係は成立したのであった。]
押忍!
よろしくお願いします!!
[体育会系のノリとか全然わかんないけど、今は全て勢いで物事が進んでいる気がする。
その後三週間、無理のない範囲でジムに通い、アーネストのコーチングを受ける。
初めて口にしたプロテインとか言う物は、思ってたよりマズいものでは無くて安心した。
今までは唯のタスクでしかなかったジム通いが、誰かとの約束に変化する。
それに彼女のコーチングを受けていると、余計なモヤモヤを考え込む頻度が減る事も発見した。
身体を動かすという事は、案外良い事なのかもしれない。
私もライダースーツが似合うプロポーションになれたらいいなって、そんな小さな目標を抱きながら、牛乳割りプロテインを口にするのだ。**]
― いつかのスポーツジム:カラントと ―
[彼に話しかけたのは丁度、私には絶対使いこなせなさそうなマシンのセッティングが終わった付近。>>35>>36
私がライドオンしたら全身ガクガク待ったなしであろうマシンにもかかわらず、彼は難なく使いこなしている。
凄い、本格的。
動作の最中たまにアンドロイドの注意が挟み込まれるものの、凄い事に変わりはない。
アーネストと自分が一緒に行う物とは少し違う、男性の筋力トレーニングに少しドキドキを覚えたりして。
それにトレーニングしながらお話しできるって凄い。
どれも、今の私には絶対無理な事。]
わ…、
よろしくお願いします、
カラントさん
[わぁと、小さな歓声が思わず漏れた。]
あ、師匠…、
……アーネストさんの事知ってるんですね
[同じ船に乗り同じジムに通っているのだから、知った顔が被るのは当たり前か。
ペンギンアンドロイドの横に立つと、力のこもった笑みに向かって、照れ交じりに笑う。
まさか、アーネストとのトレーニングも見られていたとは。
先にへぼへぼ死にそう状態を見られているのだから、今さら何も恥ずかしい事は無いのだが、なんだか照れくさいかも。
随分持つようになって来た。と言われれば、嬉しく思う。
他者からの評価は、自己が自己であると言う認識を強める物。
自分にとってソレは良い物であるという認識とは別、彼の言葉を純粋に嬉しく思うのだ。
だって、褒めてもらったみたいな、そんな感じ。]
うん、多分そう、ですね
私はへたばる頻度、減って来た、と思います
アーネストさんとの特訓の成果かな
[そう、
ランニングマシンにいい様に弄ばれていた過去の己とは違うのだ。]
[※まだ負けてる時もあります※]
カラントさんも、
最初よりマシンの負荷、増やしたりとか
こう…、
強くなった!って感じ、ですか?
[トレーニングに強い弱いは無いと思われるが、この初心者思考が若干横っ飛びな為、言動もやや吹っ飛ぶ。
マシンもトレーニングも立ち向かうべき強大な壁である。と思って居る節がある故。
両の拳を胸のあたりで握りしめ、熱っぽく語る様は、トレーニングと言う物が楽しくなって来た証だったかもしれない。**]
― ―
[その日の私は、珍しく不機嫌だった。
原因は地球に残してきたハイスクールの元同級生からの、突然の連絡。
自分を揶揄う内容が気に食わず、通信端末を自室ベッドの上に放り出し、乱暴に扉を閉める。
向かう先は――、
さて、何処に行こうか。]
― いつかの:食堂エリア ―
[歩みは普段よりも早く、乱暴に、まるで風を切るように。
いつものダウナーな雰囲気を放り出し、モヤモヤを抱きながら食堂の扉をくぐる。
なんとなく歩きたかっただけで、目的地なんて最初から無かった筈だが、気付いたら食堂に到着していた。
多分、此処が通い慣れた場所の1つだったからだと思う。
ジムのランニングマシンに向かい、がむしゃらに走っても良かったのかもしれないが、こんな不機嫌な状態でアーネストやカラントと顔を合わせても気まずいだろう。
そんなギリギリの理性が働いたから、食堂に足を運んだのかもしれない。
――ジムよりも知り合いに出会う確率が高い、と言うのはさておき。]
[せっかく食堂に来たのだから、何か食べて行こう。
ケーキとか、ジェラートとか、ジュースとか。何でもいいや。
設けられたテーブルの間を縫うように歩き、出来るだけいいポジションを探ってみる。
そんな時だったか。
香ったのは、珈琲豆の香ばしい香り。
周囲を見渡せば、カウンターの中に男性が一人。不思議な道具を扱うその人の方へ、気まぐれに足を向ける。
その道具類はいつかの映像記録――、古い映画等で見た珈琲ドリッパーと言う品で、リアルでは初めて見る物だった。
その頃には、不機嫌を抱えた自分より興味深々な自分が勝っていて、吸い込まれるかのようにカウンター席に納まっただろう。]
[よくよく記憶を探ってみれば、この眼鏡の人は、いつもカウンターの中に居た気がする。
単に、それが当たり前の光景になっていたから気づけなかっただけ。
当たり前を当たり前だとスルーして日々を過ごして居た事を少し反省しつつ、カウンターの彼に話しかけた。]
こんにちは、
あの、それって、
手動の珈琲ドリッパー?ですか?
私、初めて見ました
なんだか楽しそう
[興味深そうに手元を覗き込み、言葉を漏らす。
自宅にあった家電類はほぼ全て自動化されていて、何かアクションを起こさなくとも、何時でも望む結果が手に入った。
自分一人の朝も、目が覚めれば暖かい朝食がテーブルに用意されていたし、カーテンのシェードは光を感知して勝手に開閉、部屋は知らない内に掃除されている。
仕組みを知らないブラックボックスに囲まれて育った世代。手動で何かするなんてレトロ趣味な人だけ。
かく言う自分もアイロン掛けルーチンが、そのうちの一つに数えられる。>>17]
[彼の居たカウンターからは、不機嫌を振り撒く自分の入室が丸見えだっただろうが、さて彼は気づいていたか。
一人の船旅は虚しいだけ。
メニューにあるジェラートに心を躍らせていたのは最初の内。>>0:56
食堂なんて、食事を口に運ぶ行為のみを行う、とうに昔に飽きた場所。
だから、いつもの私はつまらなさそうな顔をするばかり。
けれど今は、そんな気分も雰囲気も、すべて揃って放り出し済み。
今は歳相応好奇心の赴くまま、初めて見る品を観察していただろう。
彼から珈琲の話が聞ければ、何度もそれに目を瞬かせ、不思議そうに仕組みを観察する。
もし香り高い珈琲が振舞われたのならば、ちびりちびりと口にし、満足そうにしていただろう。]
[そんな時間を過ごしながら、ふと思い出した話題を口にする。]
あの、突然失礼な事を聞いてしまう、
と、思うんですが
[それは、珈琲とは全然関係ない話題。]
恋に落ちるって、
どういう感じ、なんでしょう
[人生経験豊富に見える相手に、若者が落とす小さな疑問。
……まさか彼がアンドロイドとは夢にも思わない。]
[ずっと引っかかっていたのは、元同級生からの突然の連絡。今日の不機嫌の原因その物。
一か月と言う長い船旅の中、気になる相手を見つけたか聞かれた事。
付き合えば?とか、そのまま駆け落ちしちゃえ等と言う揶揄いの事。
冗談にしては行き過ぎなソレが、自分にとって、とても不愉快だった事。
話を強制的に切り上げるような返信をして、携帯端末を自室ベッドの上に放り出して来た事。
そのまままっすぐ食堂エリアに来た事。
聞かれれば、そんな言葉が幾つも出てきただろう。
私は、珍しく饒舌に、私の事を語る。]
感覚、刺激の類は
ニューロンネットワーク上に発生する
電気信号って習いました
感情も脳深部、システム上で発生する物だって
ホルモン分泌からなる恋愛感情も
本当にその一部なんですか?
[けれど、そういう物だけじゃあ片付けられないとも、記録で読んだことがある。]
人を愛する……
愛おしく思う仕組みって、
一体何なんでしょうね
[眼鏡の向こうを真っすぐ見つめながら、疑問を投げかける。*]
[好きな物がよく分からないと笑った彼女に向って、私は困ったような笑みを返す。>>180>>181]
私も同じ
好きな物って、よく分からないや
周囲の人が好きな物なら、
何となく分かるんだけどね
[ハイスクールの同級生が好んだ服、流行っている色、異性受けするファッション。
何度も一人で選んでみたけれど、結局自分は最後まで良く分からなかった。]
私の服は、地球で買ったフォーマル系
だから、もう少し別なの区域が該当かな
……好きかどうかは、よく分からない
[そう言いながら、羽織るジャケットの襟を摘まみあげる。>>185
黒い布地に、目の色に合った明るいグリーンのライン。
母さんと一緒に選んだ、レディメイド。
買い足しなら一人で出来るけれど、選ぶ事だけは、ずっと苦手だったから。]
貴女は、
どんな自分になりたい?
[それは自分にも問う言葉。
一人旅の日付を重ね、毎夜自問自答を繰り返す。
私って何?私って本当に此処に存在するの?
私はいったい――、
どんな形をしているのだろう。]
いいえ、お話を聞かせてくださって
ありがとうございます
皆が言ってた、恋は素敵だって言ってた事、
なんとなく分かってきました
[そう言って私は笑う。
これは本音。
皆とっくの昔に、ささやかで暖かな何かを得ていたのだろう。私はそれを理解しようとしていなかっただけだ。
私もいつか、雷に打たれるみたいに、突然恋に落ちるのかもしれない。
強い衝動に突き動かされ、天と地がひっくり返る様な思いをするのかもしれない。
でもそれって怖い事じゃなくて、この人みたいに、幸せで素敵な事でもあるんだ。]
お話、嬉しかったです
それと、珈琲御馳走様でした
すごく、…すごく美味しかった
[伏し目がち、とうの昔に空になった薔薇が描かれたカップを静かに置く。]
私、レットって言います
レット・レジストル
[もじもじと、やや恥ずかしそうな視線で見上げる。]
また珈琲を頂きに来ても
いいですか?
[恥ずかしそうにしていたのは、目当てが珈琲のみと思われるかもしれないと思ったから。
そうでは無くて、また貴方と話がしてみたい。
そんな風に思う私が、今此処に存在したから。
こうして私は、
また一つ、船内に心地よい場所を見つけただろう。**]
/*
今日のワープ:船内時間午前0時、0時半、1時
惑星の周りをぐるっと:本日午後1時〜明日午後1時(24時間)
~日付変更~
大気圏投入時刻:午後3時
惑星自体への到着:午後3時半
船の扉が開く時間:午後4時50分
― いつかの食堂エリア:スイッセスと ―
[可愛らしい名前などと言われれば余計に恥ずかしくなってしまうと言う物。>>310]
じゃあ、ス……、
…スー、さん、で?
[彼の好意に甘えつつも、ちゃん付けは憚られたから、さんづけで。
誰かをあだ名で呼んだ事なんていつ以来だろう。
ジュニアハイスクールの頃よりもっと前。私にきちんと、同い年の友達と言う物が存在した時代。
また一つ、昔の自分を思い出す。
私が私の輪郭を認識していた年頃が、なんだかとっても懐かしい。
スーさんが笑うのを見れば、私も笑った。
そのあとは席を立って、ぺこりと一礼。来た時とは正反対の上機嫌で、食堂を後にする。
今日は多分、とってもいい日。
急に昔みたいにスキップをしてみようと思い立ち、廊下をぴょんと飛び跳ねてみたものの、やり方を忘れてしまった事に気付くと、何もなかったかのように歩き出した。
なにもありませんでした!なにもないったら!]
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