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8人目、 曇硝子 スイッセス がやってきました。
曇硝子 スイッセスは、村人 を希望しました(他の人には見えません)。
[初めて宇宙から故郷の星を眺めた時。
まるでラテアートのようだ、と私は思った。
瑠璃色にクリーム色が綺麗に混じる様は、エスプレッソをキャンバスとして描く芸術に近い。流線のなだらかさに溜息が零れた。
美しい星、地球。
地上は大気も海も汚染が進んでいるのに、
遥かな高みから見る球体はあんなにも輝かしくて──
気持ちの良い詐欺のようである。
そんな大地から足を離してはや数週間。
私が乗り込んでいる宇宙船「リベルテ」は、沢山の乗客たちを運びながら惑星「ホワイト・マーブル」を目指している。
この箱船が新天地に到着する時、
私は長く勤めた仕事を終えているはずだ。
あと一週間で――。]
/*
こんにちは、CClemonことsouと申します。
紳士なおじいちゃんアンドロイドをやりたい…と思っています。
頑張ります。
[私は十年前に製造されたアンドロイドだ。
現所有者であるマイケル・サイフォンはこの船の目的地であるホワイト・マーブルに住んでいる。
彼には私を貨物として宇宙船に乗せ運ぶという選択肢もあった。が、幸い旧所有者である彼の母親が存命中に私の旅費(※運搬費ではない)を予め準備してくれていたので、私はこの船で乗客扱いを受けている。人と同等に。
貨物室にて寝ていたら、この一か月は私にとって悲惨なものであったろう。
亡きドロシーには感謝してもしきれない。
彼女は間違いなく私を愛してくれていた。
ただの機械であり、夫を模しただけである私を…。
お蔭で私はこの船旅を満喫していた。
窓の外に広がる宇宙の海を眺め、娯楽施設にて遊び、好きな珈琲を淹れて、ゆっくり思い出に浸る。
そんな風に自分の時間を味わっている。
ドロシーがくれた、最後のプレゼントだ。]
[この船に乗ってから日課にしていることがある。
それは、食堂にて珈琲を淹れる事だ。
ドロシーは珈琲の香りがとても好きだった。
私の淹れる珈琲を飲む時の幸せな表情を、今でも覚えている。
それを思い出すとつい…指が動いてしまうのだ。
食堂には自動で豆を挽く珈琲メーカーがあるのだが、その出来栄えは味気ない。
私は持参のドリッパーとサーバーにて美味しい珈琲を淹れては、その場にいる者に振舞っていた。
アンドロイドだって元は機械なのだから、珈琲メーカーで淹れるのと何が違うかって?
それは、飲む人が決める事である。
私は想いを込めて湯を注ぐ。
私に、アンドロイドに想いを溜め込む場所、つまり心があるのかと問われたら…それは答えられないけれど。]
――食堂エリア――
[いつもの時間に食堂を訪れ、カウンター内に入る。
やかんをコンロにセットし点火、珈琲を点てる準備を始めた。
その時にふと、見た事のない女性が目に止まる。>>23
リベルテは大きな船である。一か月弱過ごしていたところで、逢ったことがない乗客がいても不思議はないだろう。勿論、私は彼女がずっと船室に籠っていたという事情は知らない。>>13
彼女は紅茶を飲もうとしているのだろうか。
それであるなら珈琲を点てたら香りで邪魔をしてしまうかもしれない…
一拍考えてから、私は声を掛けてみる事にする。]
失礼、お嬢さん。
今から珈琲を点てようかと思っているのですが、
良かったら一杯如何ですか?*
――食堂エリア――
[瑞々しいオレンジの香りが仄か薫る。アンドロイドである私にも五感はきちんと存在しており、むしろ人よりも鋭い。
甘酸っぱい匂いを捉えて鼻孔のセンサーが強く反応した。
視界に捉える橙は鮮やか、その丸みを握る指先は細く、若い女性のものと意識した。私の視線はその動きを追ってから、上へ。
そして彼女の柔らかな表情に着地した。>>27
誘いを快く受けて貰えたので私はほ、と胸を撫でおろす。邪魔をしたのは確かだったようだが、もしかしたら珈琲も嫌ではなかったのかもしれない。
対面に位置する席に着く彼女に対して微笑むと、カウンターの中にて手作業をしながら私は自己紹介をすることにした。]
珈琲を淹れるのがここでの趣味、日課のようにものでして。
飲んで下さる人がいるのはむしろ有難いのですよ。
…初めまして。私はリッツ‐ルッカ社製アンドロイドです。
製造番号はRS‐63857ですが、呼びにくいでしょうし、
スイッセスと呼んで頂ければと。
ホワイト・マーブルに新しい所有者がいるので、
この船に乗船してそちらに向かっています。
差し支えなければ貴女のお名前も教えてください、
オレンジの薫るお嬢さん。
[爽やかな柑橘は彼女に似つかわしいイメージではあるが、そんな風に呼ぶ訳にもいかないと思って訊ねる。湯を沸かしてコーヒーカップを暖めるのが最初にやることだ。その間に手動のコーヒーミルで豆を挽こう。]>>28*
前の所有者は。……亡くなりました。
この船旅は、ある意味の私と彼女の
最期の旅行…かもしれません。
私は彼女の「夫」を模して作られているのですが、
この旅が終わるまで…そのままでいてほしいと。
それが彼女の遺言でして。
[俯いた私の瞳は、眼鏡に隠れて見えないだろう。むしろこんなに簡単に人は、涙を零さないのではないか。
でも私は亡き所有者、ドロシーの事を想えば丸眼鏡の硝子を曇らせるのである。
それが私の想いなのか、ドロシーの望んだプログラムかというのは、私にはわからない。
静かに湯をペーパーフィルタ―にセットした粉に注いでいく。湯を吸った粉は膨らんでいい色合いを見せた。
彼女を待たせて申し訳ないが、もう少しかかる。]*
――食堂エリア――
[彼女は生前のドロシーがそうであったように、私の所作を目で追い、静かな食堂内に響く豆の声に耳を傾けている。>>95
待たせることを申し訳なく思うが、急ぐと味が変わってしまうからここはのんびりやらせて貰った。
アンドロイドである私の肌はやかんに触れるだけで湯の温度を測定することが出来る。
蒸気を嗅げば豆の蒸れ具合をパーセンテージで示すことも可能だ。
でも、私は敢えて数値を無視して感覚で珈琲を淹れる。
そうして淹れたものの方がいつもドロシーに喜ばれたから。
単一ではない、微妙に毎回味の異なるものが。
彼女は私が名を呼ぶと少し表情に悦びを乗せてくれたように見えた。
自然な喜怒哀楽。花が綻ぶように人は微笑む。
それを私は美しいと思うし嬉しいから、緩やかに笑みを口元に浮かべた。]
捨ててきた、もの。
[何かを捨てる事に躊躇いを覚えない人もいる。不要と割り切って。逆に、自分の身を切るように感じる人もいる。
彼女の言葉から感じたのは「決断」、または「決別」である。捨てたものが何かは私にはわからない。下世話な推測もしたくない。もし捨てたものを話してくれるのならば、私は何か言えるかもしれないが…そこは彼女に委ねながら口を開いた。]
アンドロイドの主は所有者ですが、
人の主はその人自身。
貴女の選択が、決断がどうなるか…
今は答えのない状態でしょう。
でも、紛れもなく貴女が自身で選んだのなら。
それがきっと貴女のベストだと…
私は思います。
求めるものが新しく手に入っても
満足するかわからないし、
逆に得られなくとも違う充足を得るかもしれない。
[生前のドロシーと旅行が叶えば良かったが、ドロシーは私を製造するだけで大金を消費してしまった。また、ドロシーは離れて暮らす息子にあまり逢いたがってはいなかった。
そんな事情で、私はドロシーの遺骨や遺品と共にこの船に乗っているのである。]
私はホワイト・マーブルに着いたら。
現所有者、彼女の息子に引き渡されたら、
ドロシーと過ごした記憶を消去されます。
そして新しい仕事を得て働くことになります。
つまり、この船旅が私がスイッセスである、
遺された最後の時間なんです。
あと一週間しかありませんが…
私は精一杯彼女を偲びます。
最愛の妻、ドロシーを。
…つまらない話を聴いて下さり有難うございます。
お待たせしました。お砂糖はそこにあります。
ミルクは冷蔵庫にあるので、ご所望でしたら
お出ししますよ。
[カウンターの上の砂糖壺を指し示す。ブラックで飲めとかそんな偉そうな強要はしない。好みで愉しんで欲しい気持ちを込めてみたが伝わるか。
彼女は私の身の上に耳を傾けてくれた。私も、彼女に出来る事があれば何かしたいと思った。私が話を聴くことや、私の点てる珈琲が彼女を癒してくれたらと願う。
今の私が人に出来る細やかな贈り物だから。]*
それはきっと、貴女に大切なものだったのでしょう。
大切でないものは、
なくなっても怖くなどないですから。
手放すのは自分の意思で、行動で。
なくなるのは自分以外によって決まってしまうもので。
自分にはどうしようもないことは…
避けられないかもしれないことは。
不意に訪れる事は、怖い。
それを振り払って、大地に足を踏みしめて。
新しいものに手をのばす貴女を、
自ら動こうとすることを。
私は素敵だと…思いますよ。
……。
[今度は私が黙る番であった。彼女の感想は至極正しい。私の記憶が消去されれば、ドロシーの思い出は消える。
私はドロシーと過ごした十年を、俯瞰では仕事として捉えている。しかし勿論、ドロシーの夫として過ごした日々に何も感じなかった訳ではない。
沢山の幸せが、思い出があった。
ドロシーが亡くなる時に、それはいずれ来るとわかっていても胸が張り裂けんばかりの悲しみを覚えた。
そして今、ドロシーとの思い出を噛み締める時間が残り少ない事にも…。
何も思わないわけではない。]
…でも。
グリーディアさん、貴女には
未来がありますからね。
自ら道を選んだ貴女には、きっと…
どうか手を延ばして、掴んで下さい。
貴女に必要なものを。
[カウンターに両手をついて天井を見上げる。それから、視線を戻して。
私の淹れた珈琲を味わってくれている彼女を見つめてからふと。]
珈琲、飲んで下さり有難うございます。
今の私はそれで満たされますから。
…本当にありがとう。
そうだ、貴女に渡したいものがあります。
この後少しだけお付き合い頂いても?
私の部屋の前まで来て頂くことになるのですが。
[ふと思いつき、私はそう口にした。もう随分長く彼女を拘束しているので申し訳ないと考えつつも、彼女にもう一つ私からあげられるものがあると思ったので。
彼女が辞退するのなら、ここで別れる事になるだろう。]*
/*
部屋に連れ込むわけじゃないです…!って書いた方がなんだかえっちな気がしました。
本当にただ物を渡すだけなんです…!でもなんとなく、何を渡そうとしているか透けてる気がする。
[カップとソーサーを手早く洗い片付ける。私が彼女を誘ったのはそのあとであった。女性を男性が誘う場合色々と警戒されることもあるが、幸い私はアンドロイドである。にこやかな笑みのまま、彼女を伴い食堂を後にしよう。
エスコートは任せてほしい。]
グリーディアさん、ご存じですか。
ほらここの廊下の壁、下の方に
小さな落書きがあるんですよ。
こんな低い位置にありますし、
子供の乗客が描いたのでしょうね。
…可愛らしい。
[通りがかった廊下の壁を指し示す。それはまるっこいペンギン型のアンドロイドを描いたものであった。
落書きは建造物損壊罪に問われる可能性があるが、一か月近くも乗船していれば、大人も子供もこの船を自宅のように思ってしまう、という事なのかもしれない。]
[船内の廊下とエレベーターをいくつか経由し、自室前へ。そこで少しお待ちくださいと告げ、一人室内へと入る。
私は探し物に時間を取らない。何故なら、持ち物の位置は全て脳内に記憶されているから。ほどなくし、私は小さな箱を手にして彼女の元へと戻る。]
お待たせしました。
わざわざ一緒に来て頂いてすみませんでした。
…先程、貴女がオレンジを手にしていたのを見て、
ふとこれを思い出しまして。
[箱の蓋を開くと、そこにはマンダリンオレンジ色のシトリンという宝石がついたブローチが入っていた。]
ドロシーの遺品のうちの一つで、私が贈ったものです。
どうか、貰って頂けませんか。
本当はマイケルに届ける予定のものではあります。
しかし、彼はきっとこれを…
処分してしまうと思うのです。
…私の記憶と同じように。
それに。
[消えてしまう思い出を悲しんでくれた人に、形ある何かを残したい。
一番の想いはこうだが…彼女にこのブローチを贈りたいと考えたのには、
理由がある。
それを口にするのが恥ずかしいと感じる私は、よく出来たアンドロイドなのだろうか。それとも。
少しだけ。そう、ほんの少しだけ私は頬を染め、こう言い添えた。]
美しい貴女には。
…きっとこれが似合うと思って。
──妻、ドロシーと同じように。
[ドロシーにこのブローチをプレゼントした際も、私は気の利いた言葉が言えなかった。気障な台詞は沢山プログラミングされていたけれど、どれも適切ではなくて。
今もまた、私は不器用にただ言葉を並べているだけだ。
祈るような気持ちで私は彼女の答えを待った。]*
/*
瞳と同じ色のが良かっただろうか。そもそも遺品だとえーって感じだろうか。うーんうーん難しい…
※とにかく🐧が出したい
/*
※返品可
どうしてもギャグに走りたくなる…
皆さんとてもエモくて素晴らしいロールなのに。
何故自分だけこんな()
[宝石よりも深い輝きを称えた彼女の瞳に去来した想いはなんだったのだろう。
どんなに優れたAIも、人の複雑な心を正確に推し量る事は出来ない。
でも。
その橙が瑞々しく彼女の胸に咲いた瞬間──私はそこに亡き妻の面影を確かに見た。
小さく息を吐いて、自身の胸を抑える。
何かがそこに溢れていた。見えない何かが。
それは彼女が私の贈り物を受け取ってくれたために溢れたのだと思う。そう、きっと。]
――スイッセスの手記1――
[目を開いた瞬間、私はまず年老いた女性の顔を見た。
彼女は「まあ、起きたわ…」と驚いたように言って。
それから私の頬を撫でた。皺だらけの指で。
そして私の事をこう呼んだ。
「あなた」と。
十一年前、ドロシー・サイフォンは長年連れ添った夫に先立たれた。
夫のスイッセス・サイフォンは多額の遺産を遺してくれたが、その使い道として選んだのが…アンドロイドをフルオーダーで造る、という道で。
既存のアンドロイドを買うのと違い、それは破格の値段を要求された。
息子のマイケルは母親の決断に激しく反対を示す。
しかしそれでもドロシーは、アンドロイドを造る事を諦めなかった。
夫を模したアンドロイドを。]
[そして一年後。
産まれたのが私である。
亡き夫と同じ顔、同じ声、性格パターンや記録をコピーし製造された、RS‐63857。
当時の最新級技術を詰め込んだリッツ‐ルッカ社製のアンドロイドである。
「スイッセス、今日からまた逢えて嬉しいわ。これからどうかずっと、私の傍にいて頂戴ね。」
涙を零すドロシーを私は抱き締め、背中をすった。生前の夫がそうしていたのがデータにあったからだ。
この時の私はまだ「ドロシーの夫として振舞う、それが自分の仕事である」という認識しか持ち合わせていなかった――。]
――カラントとの出逢い(回想)――
[この船に乗り込んでから、私は日課として食堂に足を運んでいた。
食事を取る為ではない。アンドロイドである私は、人間と同じ食事を口にする事は可能であるが、それが動力源として必須かと言われたらノーだ。
私の目的は珈琲を淹れる事。
本来は従業員型ロボットたちや、珈琲サーバーの仕事であるが、私は勝手に器具を持ち込んで珈琲を点てていた。
それを喜んで飲んでくれる方がいるのは大変有難い事である。
その日も私は黙々と珈琲の準備をしていたと思う。
私のそんな所作が目に止まったのであろうか、彼の人が声を掛けてきた。
眼鏡型の電子機器を装着した大柄な男性。薄オレンジ色のフィルター越し、此方に注がれる眼光は鋭い。眠気を伴っている状態そうなっていたのかもしれないが、少なくとも私にはそう見えた。]
[彼の声と容姿はどこか人を惹きつけるものがあり、私の興味を刺激した。
一体何をしている人なのだろう。体格から、スポーツマンか何か?
顔立ちは随分と男前だ。
考えながら私はデミタスカップに注いだエスプレッソ珈琲と、大盛りのトルコライスを用意した。
トルコライスとはひとつのお皿にトンカツ・ナポリタン・ピラフを盛り合わせた料理である。おまけとしてエビフライも乗せておいた。
さて、彼はこのサービスに満足してくれただろうか?
私が彼に正体を明かすのはもう少し後だろう。
勿論、私は怒りなどしない。むしろ従業員のふりをして彼を騙した事を詫びたと思う。]*
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