情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
[1] [2] [3] [4] [5] [メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
――カラントとの出逢い2(回想・〆)――
[宇宙船リベルテに乗り込む前、私は所有者であり妻とも呼べる老齢の女性、ドロシーと地球に暮らしていた。その生活圏内にも他人はいたわけだが、この船に乗り込む前の交流は近所にて顔を合わせれば挨拶する程度で。
それは私の生活の中心がドロシーであったという事に他ならず、逆に言えば独り身となってしまった今は、他人との交流が一種の愉しみともなっている。
人との出会いは僥倖である。
私は料理の最中に名を知らぬ彼の挙動をつぶさに見つめていた。
開いたクロッキー帳は使い込んでいる感がある。距離があろうとアンドロイドである私の視力はそこに描かれているものが船内から見る風景、つまりスケッチ画であるのを観察できた。
つまり彼は画家?アーティスト?
今の時代、発達したAIは過去の有名な画家たちに負けない素晴らしい絵を作り上げる。それはしばしば人の描いたものと見分けすらつかない出来栄えであった。が、それでも人がその想像力をいっぱいに詰めて描く作品には、そうしたAI作品にはない魅力があった。
高身長で体躯の良い彼のしっかりした指から生み出される芸術に私は更に興をそそられる。]>>12
[ウェイターのふりをして私が料理と珈琲を運ぶと、彼は丁寧に手を合わせて食事を始めた。この作法はある宗教の合掌が元になってはいるが、そういった信仰に関係なく食事前にする人もいる、と私の頭脳には知識としてインプットされていた。
いただきますという言葉は「山の頂に宿る稲作の神様への感謝の心を表す言葉」であるが、これも同様。勿論彼が信心深い人物である可能性もあるが。]
どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください。
何か他にご用命がありましたら、
遠慮なくお申し付け頂ければと。
[と言って私は彼の傍らに立つ。腹辺りに手を添えて直立する様は、周囲からはペンギンの従業員より従業員に見えるのではなかろうか。]
従業員など畑のかかしや電柱と同じであるから、彼が気を払う事はないだろうとたかをくくり、私は更に観察を続けた。
こっそりと、大胆にね。]
[ウェイターのふりをして私が料理と珈琲を運ぶと、彼は丁寧に手を合わせて食事を始めた。この作法はある宗教の合掌が元になってはいるが、そういった信仰に関係なく食事前にする人もいる、と私の頭脳には知識としてインプットされていた。
いただきますという言葉は「山の頂に宿る稲作の神様への感謝の心を表す言葉」であるが、これも同様。勿論彼が信心深い人物である可能性もあるが。]>>12
どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください。
何か他にご用命がありましたら、
遠慮なくお申し付け頂ければと。
[と言って私は彼の傍らに立つ。腹辺りに手を添えて直立する様は、周囲からはペンギンの従業員より従業員に見えるのではなかろうか。]
従業員など畑のかかしや電柱と同じであるから、彼が気を払う事はないだろうとたかをくくり、私は更に観察を続けた。
こっそりと、大胆にね。]
[はてさて、この食いっぷり。なんとも豪快である。
そもそも料理が三つの異なる料理を山や海のようにどかんと盛り付けたボリュームと豪快さを誇るものであったが、彼の食いつきもまた、豪気、豪胆。
男らしさと食欲がオーラとして放たれるようなそんな様子で私は思わず魅入る。
勝手に作ってしまったものだから嫌いな食材や料理があるかとも懸念したのだが、お任せを頼むだけあり、彼はどれも躊躇わずに口に運んでいく。
料理の山はみるみると削られて、その口の中に吸い込まれて消えていった。
神が起こす天変地異でもここまでの迫力はないだろう。
いや、彼が神でトルコライスが地球ならば人類は飲み込まれて全滅か。
失敬、悪い意味ではない。これはそれだけ、食いっぷりが素晴らしいという賞賛の意味である。
自分が作ったものを美味しそうに食べてもらうこと以上の悦びはない。
うまい、と零れた言葉に私は目を細める。]>>13
[にやりとしたり顔。これも茶目っ気の続きである。勿論、そのままでは彼が驚いたり戸惑ったりするから、すぐに乗客であるアンドロイドであることは明かす。]
申し訳ありませんでした。
はい、私は乗客としてこの船を利用している
アンドロイドです。
[私の謝罪に対して、彼は感謝を述べた。なんと気持ちの良いきっぷの持ち主であろうか。食事の仕方からみても、心の広い、懐が深そうな人物であろうとは推察したが。
そんな彼に私はすっかり心を許した。その懐に甘えても良かろうよ。
互いの自己紹介の後に、私は彼のクロッキー帳を見せて頂いたり、ホワイト・マーブルに向かう目的などを聞いたりしただろうし、私自身の事情も話したりした。
別れ際に「またいつでもお越しください、お客様」と言って敬礼したのはエビフライに続くおまけのおまけ、だったりね。]**
――カフェ(アーネストとの出逢いの回想込み・現在軸)――
[今日も今日とて、珈琲を淹れたり話し相手を見つけたり。そんな風に過ごすにはうってつけである場所にて、私は隅の席に座る見知りの女性の姿を見つけた。
今日も鍛え上げられた魅惑的なボディラインをライダースーツに包んでいるか、はたまた違うか。
彼女との出逢いもこのカフェであった。
私の淹れた珈琲を口にし寛いだ表情を見せてくれた彼女。
快活でノリのいい口調、朗らかな様子にすぐに取り込まれた。
魅力に引きずられてしまった。]
――カフェ(現在軸)――
[ライダースーツ。身をぴっちりと包むその服は、優れた機能性を誇る。転倒した時に地面に身体を叩きつけられてもスーツがクッションとなってくれるのだ。
そういった安全性の観点だけでなく見た目もカッコいいのでライダースーツは人々に愛される。
スーツのデザインも一つではなく、通気性のために腹部や胸元が開いているタイプもある。女性が着るとかなりセクシーな感じになり、着る人の魅力をまた一ランクアップさせるアイテムと言えるだろう。
すらりとしてスタイルの良いアーネストにはとてもよく似合う装いだ。
私以外にも彼女に見惚れている者は沢山いるに違いない。
健康美、の一言。
今日の彼女も元気に溢れているようだ。返ってきた言葉は毬が弾むようにぽんぽんと軽快である。私は知り合いの健勝に眼鏡の奥の瞳を細くし。]
お元気そうで何よりです。
貴女の声は一服の清涼剤のようだ。
ほうほう…羊雲みたいですか?どれ?>>67
[彼女の表現はとてもユニークだったので、その肩越しに窓を覗き込んでみる。確かに「トンネルを抜けると」と言いたくなる感じではなかった。それでも羊の群れを想像するとは。くすりと笑いを零して。]
なるほど、確かに。
これはちょっとした宇宙牧場みたいですね。
[見たものをどう感じるか、どう表現するか。それが人の個性。アンドロイドである私もそれを真似るようにプログラムはされているが、彼女のような独特さは出せないかもしれない。いや、彼女も狙って出しているわけではなかろう。これが彼女の味なのだ。
素晴らしき個性に乾杯したい気持ち。]
[彼女のこうしたユニークさは過去に頂いた言葉にも色濃く反映されている。
私の身の上を話した時、彼女はそれをテセウスの船に喩えた。>>70
テセウスの船はパラドックス、同一性についての思考である。
私は元所有者ドロシーの亡き夫を模して製造された。
つまり、スイッセスの記憶や思い出もインプットされているし、見た目や声についても出来る限りの再現を施されている。
その私はスイッセスと同一なのか、否か?という事だろう。
ドロシーの息子マイケルに問えば間違いなく「同じなわけないだろう」と答えが返ってくる案件。勿論その見方は一般的だし、面と向かってそう言われたとて私は苦笑いすらしない。
しかし、アーネストはそれを一刀両断にした。彼女の答えはとても清々しいもので…私の記憶が消されてしまおうと、スイッセスの生きた証は残ると言い切ってくれた。>>71
なんて思いやりと優しさのこもった言葉であろうか。
そして同時に、そう言い切れる彼女は思考の芯に力強さを持っている。]
[機械とは違う人間の個性。考え。一人一人違うもの。
これを個性やユニークの一言で済ませるのは勿体ないかもしれない。
その時の私は深く礼を述べた。
『アーネストさん、ありがとうございます。
貴女の中に私の欠片が生きられることを
誇りに思います。
その暖かな思いで私を包んでくれて、
ありがとう。』]
[ちなみに私は彼女がスタントマンを努めた映画も偶然だが見ていた。
妻のドロシーは映画が好きで、一緒によく愉しんでいたので。
勿論その映画を見た時に彼女の名前を殊更に意識することはなかったが、細いワイヤーの上を渡るシーンの迫力は素晴らしく>>1
あれはCGでは出せないものであり、妻と共に興奮を覚えながら鑑賞した。
素晴らしい作品には縁の下の力持ちが沢山いる。
監督だけが脚光を浴びる場合もあるが、私は彼女のような存在をとても輝かしいと思う。
話題に上がった時は『是非サインを頂けませんか?』とねだったりもした。
もしサインを貰えたら、それは私の部屋に飾ってあるはずである。
貰えなくとも私にとって彼女はスターであるのは変わりない。]
[私は趣味でやっているせいで給仕に慣れている。
注文を頂けば食事だって作ったりもするので、珈琲を運んでくるぐらいお茶の子さいさいなのであるが、アーネストは一緒にカウンターへ来てくれるようだ。]>>72
そうですか?ありがとうございます。
では、羊さんたちには暫しの別れを。
[カウンターは窓際から離れるので、今の席よりは眺めも良くない。それでも私の所作を見守りたいと言ってくれるのは嬉しいことだ。
私は素早く移動した彼女よりも少し遅れてカウンターに入る。緩慢な動作は老人準拠に設定されている。本来の機能を使っても弾より速く動いたりはしないが。
ゆったりと待つ姿勢になった彼女に微笑みを浮かべながら、私はいつも通りの作業を始めた。今日は少しだけ気温が高めだから…よし。まず湯を沸かすことから始める。]
今日はもうトレーニングはお済ですか?
貴女のニンジャ・カラテを一度生で見てみたいと思うんですよね。
私はジムで鍛える必要がなくて中々あの場所を訪れる事が
ありませんが、
貴女とペンギン師範の格闘はきっと凄いのだろうなと思って。
[なんて話すが、この旅の工程も残り僅かだ。ぼんやりしていたら船はホワイト・マーブルに到着してしまう。
それを思い出して私はこうも彼女に訊ねた。]
差し支えなければ、貴女の妹さんや弟さんたちのお話を
聴かせて貰えませんか。
私の中にはスイッセスの息子であるマイケルが
小さな頃からの記憶があります。
小さな子、好きなんですよ。
[今のマイケルはもう大人で既婚、スイッセスの孫にあたる存在までいる。その家族はホワイト・マーブルに家をかまえており、私がそこに向かっていることはアーネストは知っているだろう。
私は、アーネストが幼い妹や弟たちを地球に残してきた理由を聞いたことがあるだろうか。
孤児であるから血は繋がらなくとも、彼女にとってそれが家族であるのは理解している。
また、彼女のホワイト・マーブルでの予定なども聞くことが出来たらと願う。勿論話したくない事を聞くつもりはない。
珈琲を準備するほんの一時の間でも、心を交わすのは十分出来る事だ。]*
――カフェ(現在軸)――
[アーネストの描いてくれたサインは名前だけでなく星や花が散りばめられてにぎやかなデザインである。眺めるだけで彼女の滑舌良い声が聴こえてくるような、元気がもりもりと湧いてくるような、そんな力のある色紙であった。]
ええ、勿論です。
私は貴女のファンですからね。
…宝物として、ホワイト・マーブルに
持っていきます。>>107
[優れた演者、スタントマンは映画を支える大事な柱。私が、ドロシーの夫ではない私に変わったとしても…彼女の活躍はずっと応援していきたいと思っている。
湯を沸かしカップを温めて、本日の豆を選んで挽き始める。私がハンドルを回すとガリ、ガリという音が静かに響いた。]
[アーネストのトレーニングについての話しに耳を傾ける。ここで彼女がいきなりニンジャ・カラテを披露したら周囲もびっくりするだろう。]>>108
貴女が放り出されそうになったら?勿論、助けますよ。
完璧な角度で頭を下げる自信があります。
[キリリとした表情にて言い切るが、つまり一緒に謝るという事だ。勿論、これは冗談。冗談には冗談で返すのが人の流儀であるから。
そんな楽しい話しに耳を傾けつつ、私は挽いた豆をペーパーフィルターにセットして湯を注いでいく。彼女は私が聴きたいと願った弟妹たちの話をしてくれた。
湯気と香りが辺りに広がって私だけでなく目の前に座っている彼女をも包む。
その優しい空間で語られた話しは――]
――スイッセスの手記2――
[こうして私とドロシーの、二人だけの生活が始まった。
私には、スイッセスの生前の記録が全てインプットされている。どんな食べ物を好み、どんな癖があり、どんな事が得意か。
性格はどんなであるか、どんな時に怒るのか。
勿論データが全てあるわけではない。ドロシーや周囲の人間が「スイッセスはこういう人間であった」と語ったものを元にしている。
スイッセスが日記などをしたためていたのならもう少し正確にコピー出来たかもしれないが、なかったものは仕方がない。
私とドロシーは天気のいい日は公園に散歩に行き、まだ残る自然の木々を眺めたり鳥の声に耳を傾ける。
家では一緒に映画を見たり、読んだ本の感想を言いあったり、共に料理をしたり。
私が点てる珈琲をドロシーは好み、毎日嬉しそうに飲んでいた。
穏やかで静かな日々。]
[ドロシーの一人息子であるマイケルは、母親に自分が住んでいるホワイト・マーブルへの移住を薦めていた。
『ホワイト・マーブルは地球よりもずっと自然が多いし空気だって汚れていないよ。母さんは機械やAIをあんなに嫌っていたじゃないか。
どうしてあんな気持ち悪いアンドロイドを父さんと呼び、一緒に暮らすんだい?』
その会話は私の目の前で行われていた。ドロシーはちらりと私を見て気にするそぶりを見せたが、マイケルにとって私は「家電」同様だから。
『父さんの遺産の大半を使ってしまって…もし母さんが病気になったらどうするんだい?』
ドロシーはそれに対してこう答えた。
『私は高価な薬や治療で無理に寿命を延ばそうと考えていないから。身体の一部を機械化もしたくないわ。
人間は、死ぬ時が来たら死ぬのよ。お父さんだってそうだったでしょう?
だから、お金はそんなにいらないの。』
お父さん、というのは亡くなったスイッセスのことだ。私ではない。]
[『そんなに機械がいやなら、こいつだって機械じゃないかッ』
声を荒げるマイケル。私を指さして顔を真っ赤にし、怒りを露わにしていた。
私はドロシーを慰めるために造られたアンドロイドである。
その私が争いの種になり、ドロシーを悲しませたら本末転倒だ。
しかしドロシーは私の前に立ちはだかりこう言った。
『独りでは生きたくなかったのよ。…生きられなかったの。
お父さんと過ごすのが私の人生そのものなんだもの。
……お願いマイケル、わかって頂戴。
もう老い先短い私の気持ちを汲んで頂戴。
私はお父さんが亡くなった地球に最後まで居たいのよ。』
マイケルは母親の説得を諦め、ホワイト・マーブルに帰っていった。
それから二人が疎遠になってしまった事に私は強く心を傷めたが、どうすることも出来ない。]
[私に出来るのはただ――
ドロシーに寄り添って、穏やかな毎日を暮らすこと。
最初は仕事と思っていた私に変化が生まれたのはこの頃である。
私は。
ドロシーを幸せにしたいと思い始めていた。]**
――食堂エリア(いつか)――
[誰かが言った。
『ここってカフェですか?あなたはカフェのマスターですか?』
私は答えた。
ええそうですよ、と。茶目っ気たっぷりに。]
[その日も私はカウンター内に自宅のように陣取り、珈琲を淹れる準備をしていた。
テーブルの上に並べた道具はドリッパー、ドリッパーにサイズの合ったペーパーフィルター、硝子製のコーヒーサーバー、ハンドルとねじのついたコーヒーミル、そしてやかん(ドリップポット。)
誰かが来ればいつでも美味しい珈琲を振舞えるように。
顔を見せたのは、船内ですれ違った事もある若い女性であった。
彼女は男性のような恰好をしているが、アンドロイドである私は人が分泌するホルモンを鼻のセンサーに捉えるので性別を間違える事はない。
まだ言葉を交わしたことはない相手、もしかしたら珈琲を欲しがるだろうかと観察する。
その表情は何処か暗いというか、憂いに満ちているというか…。
折角の整っていて綺麗な顔立ちが台無しである。
私は数度瞬きをし、カウンターに座る彼女をじっと見つめた。
なんと声を掛けようか。いつもように、趣味で珈琲を点てているアンドロイドですと名乗ろうとした時、彼女が先に口を開いた。]
こんにちは、お嬢さん。
ええそうです。
これが珈琲豆を挽く器具で、
こっちは挽いた豆を入れたフィルターを
セットして固定するための器具ですね。>>151
[一つ一つ、地球から持参し持ち込んだ道具を指し示して説明する。彼女が興味を示してくれたのならば、いつものように「珈琲を召し上がりますか?」と私は聞いただろう。
それに快い返事が頂けるなら、器具の使い方を話しながら作業に入るだろう。アンドロイドであるという自己紹介をするのをすっかりと忘れて…。
芳しい匂いを放つ珈琲が出来上がったら、私はそれを彼女の前に丁寧に置く。
カップには薔薇の花が描かれている。]
どうぞご賞味ください。
ところで…何か悩み事や心配事がありますか?
何か表情が憂いているように見えるのですが、
私の気のせいでしょうか。
[そう訊ねたからであろうか、彼女は思いつめた表情の理由を、問いかけの形で私に返してきた。] >>153
――恋、ですか。
[話題として唐突ではあったが、相手がうら若き女性であることを鑑みるとおかしいとは思わない。人が恋愛に悩むのは常であるから。特に若者であれば。
この一言だけでは、私も概念的な返答しかできない。どうしようかと考えを巡らせてその質問の意図を、それを聴きたいと思った経緯を訊ねる事にした。]
そうですね…出来る限り貴女の考えを助けられるように。
力になれるようにお答えしたいと思うので。
宜しければ、何故それを聴きたいと思ったのか、
そのきっかけがあれば教えて貰えますか?
[いくら彼女のような乙女は常に恋に悩んでもおかしくないとしても、何か思いつめるきっかけはあったはずである。見知らぬ相手の意見を求めるぐらいの切迫した出来事があったのではないかと。
私の問いに彼女はぽつぽつと答えてくれたので、その概要について把握することが出来た。
彼女は元同級生の悪気ないアドバイスにもやもやしてしまったのである。>>154]
[元同級生は恐らく同性であろう。女の子同士はよくコイバナをする。互いの恋愛の進展に興味を持つ。
元同級生は「恋愛は良いものだ」と考えているとしたら、彼女に対してそうした無責任な事を言うのも致し方ない。だがそれを、彼女は気に入らなかった…。
私はそれらの状況を頭に整理する。
彼女は「恋」に対する科学的な知識を持ち合わせているようだ。
その言葉が正しい事は、私のCPUに刻まれている情報と合致することからハッキリしている。
しかし、彼女の求める答えはそれではないのだ。]
そうですね。
恋をするときに働く部位として
「扁桃体」と「大脳皮質」の2つが挙げられますが…
その働きの詳細をお伝えしても、
貴女の悩みは晴れないでしょう。
[器具を洗浄しながら私は考える、言葉を選ぶ。他人と会話する時に大切な事は、正しい事を伝えるだけではない。そも、この問題の場合何が正しいのかというのも曖昧ではあるが。
大切な事は、相手が何を求めているか、相手が答えを出すのに何が必要かを見極めて、言葉を掛ける事だ。
大概の悩みの答えと言うのは、自分自身の中にあるから。]>>155
恋に落ちる、狂おしく想う。
…どちらも抗えないものですね。
自分の意思で選択するものでもない。
だから貴女は…そこに
「仕組みがある」と考えているのですね。
[アンドロイドである私が、この質問に答えるのは随分難解な気がする。
私はドロシーに「恋」をしていたのだろうか。
そも、私に恋をする「心」はあるのか。
自問自答をした後、私はこう言った。]
私の話を少ししても宜しいですか?
もしかしたら、なんのヒントにもならないかも
しれませんが。
[つい、と目線を虚空に漂わせる。片手は胸元にそっと添えた。
想いが、思い出がそこにあるかのように。]
連れ添った妻がいたんです。
少し前に亡くなってしまったのですけれど…。
彼女はね、生前にこんなこと言ってたんです。
『朝起きたら一番に私にキスをして』って。
私は彼女の小さな額にそっと唇をあてるのを
毎朝の日課にしました。
その度にね、彼女は恥じらうんです。
頬を真っ赤にして、目を潤ませて。
おばあちゃんですよ。
でもねえ、とっても可愛かったんです。
[自分から頼んだ事で、毎日繰り返しているのに。ドロシーにとって私のキスは恥ずかしく嬉しいものだったのである。]
私よりずっと若くて美男子がそうしてもね、
きっと彼女はそんな反応をしないと思うんです。
何故って?
妻が恋をしていたのは、私だから。
[正確には、私の元となったドロシーの夫・スイッセスであるかもしれないが。]
そして私もね、そんな彼女を見るたびに
胸をときめかせていたのです。
あの気持ちを…感情を。
脳やホルモンの働きと表現しても私はピンと来ないです。
理屈で説明するものではないと思うのですよ。
…人はどうして恋に落ちるのか。
狂おしく想うのか。
かけがえのないその人の傍にいて。
会話し過ごし、そこに想いが生まれる。
抗えるものではない。
自分でそうしようと思ってなるものではない。
誰も妻の代わりにはなれない。
私が恋をしたのはドロシー、彼女だけ。
そう。
……優しく雨が降るように。
恋はしとど人を濡らす。
[つい、と。私はカウンター越しに彼女の方へ手を延ばす。しわがれた私の指先は彼女の胸元を指さした。]
そこに恋が実際芽生えたら、
違いがわかると思うんです。
少なくとも私は言い切れる。
妻に恋をしていた、愛していたと。
[アンドロイドである私ですら、そう思ったのだから。そういう相手を得た時きっと彼女ならわかるだろうと思ったのである。]
すみません…貴女のお役に立てたか
怪しいですが。
[眉尻を下げてすまなそうにそう言うが、私に出来るのはこれが精一杯であった。彼女が感じた怒りやもやつきが晴れるよう力になりたいと想いながら。]*
――カフェ――
[私とアーネストがタッグを組んで悪者(※船のスタッフ?)をニンジャ・カラテで蹴散らすとしたら、どんなシーンであろう。口には出さぬが私の脳内には映画のワンシーンが展開される。>>161
フルフェイスヘルメットの謎のヒーローと、老齢なカフェマスターがぐるりと周囲を囲まれている。二人は背中を合わせ互いの弱点を護りながらニンジャ・カラテの構えを取る。
絶体絶命のピンチだ。
アーネストに襲い掛かる悪者!
私はキェェェェェという威嚇の声と共にそれを投げ飛ばす!
彼女はその隙をついて別の悪者にライダーキック!
阿吽の呼吸で二人は演武のように華麗に舞っては悪者を一人、また一人と倒していく…。最早敵う者なし。]
[人の人生は悲喜交交だ。楽しく笑っているだけで過ごせる人は稀有な存在だと言い切れる。
良い人も悪い人もいるから、その出逢いによって左右されるのは当たり前のことだ。しかしそれをままならない、と表現するアーネストの気持ちは汲める。
ビューが不幸に陥った、巻き込まれたことは何もアーネストの責任ではない。世の中に悪が存在することも彼女が謝る事でもないのに。
それでも彼女は優しさを溢れさせて。
どうしようもない事にも嘆き、怒り、悔しむ。
アーネストはそんな女性だ。
とても、とても人らしく熱い。
焼いた鉄のようであり、しなやかな竹のようだ。]
[刻は過ぎていく。静かに、残酷に、優しく。
それでも「今」が存在したことは変わらない事実だ。
窓の外を過ぎ行く羊たちだって見えなくなってもいなくなりはしない。
――だから嘆くことなんて何もないのである。]**
――スイッセスの手記3――
[ドロシーを可愛いと感じるようになったのは何時からか。
少女のようにキスをねだり、自分でしてくれと言ったのに照れる彼女に。
自然や動物を愛し、それらに出逢うとはしゃいで走り出す彼女に。
美味しいものを食べるとほっぺをおさえて目をキラキラさせる彼女に。
『どうせなら貴方を若い頃のイケメン姿で造って貰えば良かったかしら?
…でも、私がおばあちゃんだものね?』なんて言いながら笑う彼女に。
心がときめくようになったのは何時からだろう。
心。私は造られた存在だ。脳に当たる場所にあるのはCPUである。
記憶はデータである。反応は計算の結果であるといえばそうだ。
私はスイッセスの遺る全てを受け継いでいる。
彼はドロシーを深く、強く愛していた。
大切に思っていた。]
[私はそれを模しているだけだろうか。
ドロシーと過ごす内、私は様々な事を感じた、思った。
それは、私自身のものなのか、スイッセスのものなのか。
…私にはわからない。
ただこの胸を焦がす想いを誰かが否定するのならば、
スイッセスの名誉において言おう。これは本当の愛だと。]
[ドロシーと私は平穏で平凡な、幸せな日々を過ごした。
毎日の他愛ない出来事が全て宝物だ。
私はアンドロイドなので、十年の歳月を経ても歳を取らない。
しかしドロシーは人として当然のように老いていく。
何もないのに躓くようになった。
物忘れが酷くなった。
食欲が減った。
髪は真っ白になった。
あげつらねたらきりがない変化。段々とベッドから起きるのが困難になったドロシーの髪を撫で、手を握りながら私は過ごすようになる。]
[『お父さんにはね、私より先に絶対死なないでって頼んだのよ?
それなのにあの人ったら約束を違えて。酷い人よね。
私を残して逝ってしまうなんて。』
その愚痴は勿論憎まれ口でしかない。亡き夫への愛情故の言葉だ。
話しながら咳き込んでしまったドロシーの背を私は優しく擦る。
『ごめんなさい、私もう長くないみたい。』
彼女がそう口にしなくても、私は知っていた。
医療ロボットほど正確に全てを把握できるわけではないが、延命の治療を受けなかった彼女の命の灯が消えようとしていることを、呼吸、脈拍、心音、肌の状態などから把握していた。]
[私はドロシーを慰める為に造られたアンドロイドだ。
だから、彼女が私を残して逝く事を詫びる必要はないのだが。
しかしドロシーは、死ぬことがない私の今後を心配しているようだ。
『私と息子のマイケルはそりが合わなくてね。血が繋がっていても…人ってそういう事があるの。
当たり前よね、だって夫婦は血の繋がりなんてないけど家族になるのだから、結局人って個人の相性なんじゃないかしら?と私は思うのよ。
でもね、だからってマイケルが嫌いなわけじゃないの。
考えが合わなくても、私は息子を大切に思っている。』]
[『スイッセス。愛しいあなた。
私が亡くなったらあなたはマイケルのものになるわ。
どうか私の代わりに息子を見守って頂戴。
マイケルがあなたを粗雑に扱わないようにはお願いしておくからね。』
彼女の瞳から零れた涙は透明で美しい。
私は顎を上下させて力強く頷く。
――彼女が静かに息を引き取ったのはその少し後であった。]
――展望施設(午後)――
[午後の時間、私は展望施設にて読書をすることにした。
船に乗った時に持参した一冊の本。
タイトルは『宙色の鍵』。>>32
ジャンルは純文学で、不思議な色の鍵を手に入れた少年が、困難に巻き込まれながら成長していく物語だと裏表紙に紹介されている。
ドロシーは映画、ドラマ、本。
様々な媒体で物語を楽しむのを好んだ。
私と一緒に感想を話し合うこともしばしば。
この本を読み終えても、そういった事を出来る相手がいないのを考えると寂しいものだが、船を降りるまでに読み切りたいと買った一冊だ。
電子書籍ではなく、紙の本である。
本の頁をめくる時紙が立てる音や、紙の手触りが好きだから。]
[あと数頁。お話のラストはどうなるのか……とても気になった。
ベンチに深く腰掛ける。
窓の外には羊の群れみたいな雪国星雲が広がっている。
明日には真っ白な惑星、ホワイト・マーブルが見えるだろうか。
私は膝の上に開いた本の頁に視線を落とした。]*
[口にすると弾むような響きがあった。私は破顔する。
彼女の「また来たい」という言葉に私が二つ返事に頷いたのは言うまでもなく。
彼女が去った後に私はふと思う。あれ?アンドロイドだと私は名乗ったであろうか?
…会話ログの確認。名乗っていない!(驚愕)
数日後に彼女と逢った時「すみません、伝えたつもりでしたが言っていませんでした。私はアンドロイドです。騙すつもりはなく…申し訳ないです。」と言いながら何度も謝ったことは、彼女と私の良い思い出の一つかもしれない。]**
ああ、ツァリーヌさん。
ご機嫌よう。
[彼は私から少し離れた席に腰掛けていた。
ツァリーヌ・ナハトムジーク。
私は彼の名前を乗船前から存じ上げていた。幅広い分野の事業を行い、沢山の支社を持つ「Y&N corp.」の社長は高名である。腕利きのビジネスマンであると。
とはいえ、そのような立場の人に一介のアンドロイドである私が出逢えたのはこの宇宙船に偶然乗り合わせたからだ。
物静かな彼からも渡航の目的などは聞いたと思うし、私も自身の事情については説明をした。珈琲を振舞う事もあったし軽い世間話もしたことがある。
が、彼の深いプライベートに踏み込んだり、思想的な話しはしたことがない。]
[私は他人と話すのが好きだ。しかしそれは時に、人の知られたくない部分まで暴くことになってしまいかねないので、相手が話したそうな素振りをしたり、口火を切ってくれない限りは深入りをしないのだ。
落ち着いた雰囲気を纏う敏腕社長が黙って私の淹れた珈琲を飲んでいる時、何を考えているのか私にはよくわからなかった。
何度か飲んでくれたので不味いとか不満がないのは確かだと思っているが。
彼の質問に私は一度本の表紙に目を落としてから。]
…あ、はい。とても…とても面白かったです。
『宙色の鍵』。貴方がまだ未読でしたら
ネタバレは避けたいと思いますが…
今、読後の興奮から醒めないので、
つい内容を話してしまいそうになりそうです。
凄く文章が巧みで、引き込まれました。
主人公の少年と一緒に冒険を
しているような気持ちになり、
ドキドキしましたね。
良いお話でしたよ。
[面白いか、と聴かれただけなのに私の口は滑り、これだけの言葉を吐き出してしまった。妻のドロシーと感想を言い合う時もこんな風だったな、なんて思い出しつつ。
そして私はふとある事に気が付いた。彼が、いつもは身に着けていないものを胸ポケットにしまっているのを。]
[この質問が続く会話のきっかけになるのか。
はたまた、命取りになるのか…
――その時の私には知る由もなかった(ナレーション風)]*
ええ。本は大好きです。
映画も良いのですけれど、文章の味わいと映像の味わいって
きのこたけのこぐらいには違いますから…
──は、はい。
[きのことたけのこを模したお菓子で戦争が起こり一つの国が滅びたなんて事はないが、人によってどちら派かが分かれるものの喩えとしては適切だったのではないか。いや違ったか。
私がそのまま菓子トークに突入する前に質問が飛んできた。
以前同じ事を聴かれた気がする。ドロシーの息子マイケルに。
父と全く同じように振舞う私を気持ち悪く感じたからだろう。
当然の感情と疑問である。
自然な動作として、私は右手を自身の胸に添える。
そこに心音はない。なんの音もしない。]
…いいえ。物理的にはありませんよ。
心臓という臓器が私にはないので。
だから正確には「ドキドキしているように感じた」
もう少し噛み砕けば
「私は自分の今の状態をドキドキしていると考えた」
となりますね。
[生前のスイッセスは、面白い本を読めば興奮していた。胸をドキドキとさせてその感想を妻に話していた。
本が面白いか、の基準はスイッセスの好きだった本のデータが元となっている。
それを元に私は「この本はスイッセスが面白いと思う本だ」と判断する。
その判断から「スイッセスは面白い本に興奮する、ドキドキする」という状態を導き出す。
その結果、私は「ドキドキした」と口にし、目を輝かせ声を上擦らせるという反応をする、という事だ。
私は自身のその仕組みを理解している。
ただ……。]
でも、意図してやっているわけではないんです。
私は「人として考えるように、感じるように」
プログラムされているので…
それがプログラムとして私自身が導き出しやっているものでも、
認識はあれど実感にはならないんです。
ええと、卵が先かみたいな話になりますけど、
人は自分の感情が造られたものだと思わないでしょう?
だから私はそう、なっているのです。
すみません、伝え方が下手で。
アンドロイドも色々な会社が開発していて、
機能が異なります。
今のはあくまで私の話しであることは、
どうかご理解を。
[自分の感情がプログラムではないと思うようにプログラムされている。こうだろうか。説明が下手なのは、スイッセスに準拠している。
私が教師型アンドロイドならもっと明確な返答を返したかもしれないが、私の言語表現レベルはスイッセスと同じなのだ。
もし分けなさそうに眉尻を下げて彼を見つめる。
スイッセスがそういう人間だからだが、私は人の期待にこたえたい気持ちがあるから、なんとか彼の満足するように説明したかったのだが…。]
[そんな気まずい空気を救うのは、かのヒーローが残していったアイテムであった。明らかにいつもの彼が持つものではない。紳士な彼がゴーグルを手にしているだけで、周りの空気が一変したように感じるほどだ。
ここは特撮映画の撮影現場だったか?違う。]
スタントマンの女性?
ああ…アーネストさんですか。
なるほど、なるほど。
[彼はゴーグルをプレゼントされた理由も説明してくれた。ツァリーヌが既婚であり子供がいることを私は知っている。]
子供と同じ目線…。
子供は仮面ライダーに憧れる。
仮面ライダーになりたいと考えている。
ならば仮面ライダーになれば…
[三段論法だろうか。三段どころか十段ぐらいぶっ飛ばしている感があるが、アーネストを思い浮かべたら納得だ。彼女いつも最高いかした個性を発想にも行動にも滲ませるので。]
えっ
……変身?
……とても、お似合いです。
ええと、お父さんがヒーローになればきっと、
お子さんの気持ちがわからなくとも…
喜ばせる事は叶うと思いますよ。
[ここはライダースーツも薦めるべきか。アーネストがこの場にいたらきっと「いいね☆」を連発してくれそうだがぐっと堪える。
彼は真面目な話をしたいかもしれないからだ。
私は、彼の話しに耳を傾けたいと思っている。
いつもは寡黙な彼が折角このように話しかけてくれたのだ。
彼の心に触れてみたい。
この思慮深い男性の深淵に。]*
[1] [2] [3] [4] [5] [メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
[抽出解除]