3 ― 星見る手紙 ―
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払暁 アカツキ に 9名が票を入れた。
払暁 アカツキ が断頭台の露と消えた。
翌朝、 アルレシャ の死が告げられた──……。
現在所在が確認できるのは 影絵の郵便局員 リリス、 次期当主 レグルス、 演者 シェルタン、 星の停滞 ステラ、 青年 シャト、 旅行者 パウゼ、 新米修復家 キュー の 7 名。
影絵の郵便局員 リリス
[この銀河間郵便局のある銀河を出身とする人間たちの種は多岐にわたっている。
郵便局で働く者たちはこの銀河の人間たちだけでなく、他銀河を出身とする者もまた少なくない。]
――それで、ワタシがどこの出身かって？
[この日、郵便局に勤めて日の浅い新人から問いかけられたリリスは、唇に指を添えて少し考える素振りを見せながら天井を仰いだ。]
影絵の郵便局員 リリス
この銀河出身っていうのは間違いないけど……
どこの星の人、って聞かれると複雑なのよね。
履歴書内の「出身地」って項目名はもうちょっと
明確な書き方にしてほしいわ。
せめて「出生地」とか。
[この答えを聞いた新人は、「それじゃあ……」と幾らか言い迷うようにしながら訊き方を変えた。]
そうね、「どの星に帰属しているか」なら――…
[リリスの瞼がぱちりと落ちる。
その長いまつげは、影絵の中に揺らめく緑の灯がごとく仄かに光を放つ。]
影絵の郵便局員 リリス
その手の帰属意識なら、特にないわね、多分。
そういう新人ちゃんはどこの出身なのかしら？
うふふ。
[受け取り方次第で幾らか嫌味を籠めているようにも聞こえるリリスの問い返しは、けれども実際のところはそこまで咎める色を帯びていない。]
なんて言ってないで、さっさとお仕事しないと。
今日も仕分けるお手紙がたくさん来るわよ？
[曖昧な笑みと共に話を打ち切るリリスに、新人は「はい！」とぴんと背筋を伸ばして業務に就く。
そしてリリスもまた、いつも通り、郵便局に集められた手紙のチェックに取り掛かるのだった。]
【墓】 アルレシャ
[久しぶりに足を踏み入れた施設は、埃のにおいがした。
子どもたちがいるはずの建物なのに、
人の温もりや笑い声は響かず、痛い静寂が支配している。
無機質な白、白、白、白、白、白、白────
私の記憶のままならば、今の時間は
神さまに関する歴史の勉強とか、確か、そんな時間だ。
与えられた空間で、与えられた存在意義で、
与えられる儘に物事を受け入れて、息をする。
せんせいは一室の扉を開け、私を中へ招き入れた。
──見覚えがある。
カウンセリングルームという名の、矯正室だ。]
【墓】 アルレシャ
[まるで、夢から覚めたはずなのに、夢を見ているみたい。
今の私には何が残っているんだろう。
夢渡りという存在意義も、愛した人も失って、
──そこまで考えて、私は服の裾を握り締めた。]
せんせい、ひとつだけ……お願いがあるの
[検査までこの部屋まで待つように、と告げ
立ち去ろうとするせんせいの背中へ声を投げた。
なんだい？ とせんせいは振り返って笑う。
手紙なら出しておいたよと言われ、
そうだけど、そうじゃないの、と首を振った。]
【墓】 アルレシャ
私宛のお手紙……。
……もうお返事を出せないかも、って言えないまま、
お手紙を出した人が何人かいるの。
だから今日届いた分だけは、私に、ください
…………おねがい、せんせい……
[せんせいの顔は笑っていたけれど、
その意味は決して、私を大事にしているからじゃない。
あの懐かしい花の匂いは霧散して、
思い出の中でしか咲かない貴方の笑顔ばかり考える。]
【墓】 アルレシャ
「 ……随分と…… 」
[やがて返された言葉は。]
「 自我を持ってしまったね、君は 」
[いや、君〝も〟か。
そう言いながら、せんせいは「仕方がない」と頷き、
靴音を鳴らして部屋を出る。
……私は鞄から黙ってオルゴールを取り出しては
昨日の子守歌を聞こうと、取っ手を回した。]
【墓】 アルレシャ
[結局私は。臆病で、卑怯者だった。
与えられる物事へ逆らう勇気もなにもない。
会いたいって書いたくせに
そう思ってくれている自信がなくて、ここにいる。
また同じ間違いと後悔を繰り返すの？
……神さまは、答えてなんか、くれない。]
演者 シェルタン
《 ……昨日ああ言っておいて読もうってか？
そんな。バカか。どうかしてる。
でも他に気を紛らせそうな物も、ない、な。 》
ごめんよ。
[私物の本の一冊もない部屋の中、既に届いた私信を読み返すこともせず（この時の心境では、読み難いものもあった）
誰にも届かない詫びを入れた後、封筒から日記帳を取り出し、茶の革で装丁された表紙を開いた。]
演者 シェルタン
[微かな薄明に染まる、象牙色の上の青い文字。
初めに見たページの日付と内容の組み合わせに、心当たりから目を瞬かせる。
ページを捲り、さらに捲り――]
《 そっか。
っていうか、僕、か。
……やっぱり、嬉しいな。 》
[ふと、「その時」の公演の景色を脳裏に過らせる。
舞台上の役者の目には、観客の顔もまたよく見えていた。人目に付かないように意図された後方席までは、流石に認識しづらかったが。
ともあれ、あの客席にいた誰かの日記なのだと察する。]
演者 シェルタン
[戻らない過去の記憶を振り返らせる、幼い記録。
その後に続く、ひとりの子供の日常の記録。
とりとめのない日々の平和に、また顔を覗かせる「先生」の名。
電子公開された日常録とは異なる、おそらく日記の主の閲覧だけを前提とした文面は、幼さを抜きにしても率直さを感じさせた。]
《 これを教材に利用されたら
流石に僕が居たたまれないだろ……。
危なかったぞ、ジリアン。 》
[進んでいく日付に、薄らと形のない影が胸中に過るも――。
シェルタンの手は、淡々とページを捲っていた。]
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