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[その手紙の主は色んなことを教えてくれました。
既に失われた太古のエリトラの生態系が
現在のかの星と対極なジェイロと似通っていた。
勉強することが沢山ありすぎて、
離れた母星について学ぶなんて考えもしなかった。
尋ねたいことを思い描き、最初に思いついたものを
相手が何でも知っていると信じ込み問い掛けると
的確に言葉を尽くして答えてくれました。
……だからです。その答えです。]
[長い時間を費やす、理解する、相手の理性を認める。
そして一方的な利害関係にならないこと。
恐らく相手の言う通りそれらは当たり前の話。
しかし人類は長い宇宙史の中で、
幾度かその当たり前を見失う過ちを犯した。
今回はどうだろう。
戦争が起きるにはあまりに先住民は少なすぎる。
惑星が荒れては大人の目的は達成出来なくなる。
──そんなことを考えている時点で、
ジェイロにやって来る者達を信じていない。
“一方的な利害関係にならない“
かの星が星外からどんな目を向けられているのか
知っていればその部分が尚更に。]
[星の外と関わりを持つには、踏み入られるには
彼等はその閉塞性故にあまりにか弱すぎる。
銀河を全て己の領域にせんとする人類には
サンクチュアリなど、存在しない。
未発達な文明をそのままに今まで存在していたのが
原生生物と共に滅亡していないのが奇跡な程。
他星に置いていかれた為に、
保たれた特異な生態系が脅威に思われていた故。
謂わば、ジェイロの民もまた
己が信仰する
守られていたのかもしれない──]
[降ろされた惑星は、ポールだった。
かつて父と同じ研究所にいたという壮年の男性は
今は此処の高等教育を行う学校にて
己と同じ道を志す者を育んでいるのだという。
いずれ手続きをし中等教育を受けられるようにする。
それまでは我慢していてほしいと、
彼の家に用意された新しい部屋に通された。
日中は男性は仕事に、夜も二人きり。
静かな暮らしが始まることになるけれど
窓の外から聞こえる音、声。
最新式のメディア機器から流れる情報。
それらがある限り慣れ親しんだ静けさは無い。]
[男性は神経質で気難しそうな顔をしているけれど
──ポールには沢山の星から留学生が来るので
銀河語を使うことが殆どだから、心配しなくていい。
そう屈んで目線を合わせながら語る姿に、
父と似たものを見出しました。
でも、心は明るくならなかった。
僕はそんなことは最初から考えてなかったから。]
[エミュルグの基地に行きたい。
そう伝えたときのおじいの顔!]
宝石を探したいんだ。んーと、宝石じゃないんだけど宝石みたいかもしれなくて
だからエミュルグに逢いに行って来る
[エミュルグっていうのは、惑星エウクィの夜の部分に住んでる王。
綺麗なものが好きで、宝石とか昔の半導体とかを蒐集してるって有名なんだ。
この星、昼の地域は過酷だし、夜の地域は瘴気が多い。
発着場だとか星の主要な設備は、温度と天候の安定してる薄暮の地域にある。
おじいとシトゥラが住んでるのもその中級層。
今まで一人で夜の地域に行きたいなんて言ったことなかったんだ]
[おじいのラメミドリの眸が、ぎゅっと狭まる。
おでこのところに皺が寄るのを見つめた。
「危ないだろうが」
短い言葉に思わず笑っちゃう]
メンテナンスいつもサボってたけど
ちゃんと受けてから行くね
ちょっとの間だけ
お手伝いできないけどおじいはちゃんとご飯たべて
あとお手紙きたら受け取っといてね?
[まだ行っていいとは言ってない。おじいはブツブツ文句言うけど、禁止はしないんだ。
おじいは優しい。
シトゥラのこと放っておいてるみたいだけど、気にかけてくれる。
安全に過ごせるように
好きなものを楽しめるように]
メンテナンス
うんうん、ちゃんとフルコースで受けるよ
夜に溶けちゃうのやだし
メンテ中に新しい本の研究しなきゃ、忙しい!
[ぴょんと跳ねて、倉庫の棚を渡ってく]
[でも、ポールに来て、よかったことも沢山ある。
勉強は楽しいし、他の子供と手紙交換するのだって楽しい。
色んな人の話を知れて、お返事に悩んだり、考えたり、それは多分、マリクにいたら出来なかったことだ。
でもやっぱり、故郷が懐かしく、寂しく感じるのは、きっと自分の生まれた星に住まう人から手紙をもらったから。
海のある星に住む。海を大切にしている人。海と一緒に生きている人。
その人に返事を書くのに、僕も星集めとして手紙が書けたらって。そう考えて。
でも、僕はもう厳密には星集めではないから。ポールに住むマリクの人として、自由に手紙を書くんだ。]
[嬉しいな。今日は沢山の手紙が届いた。
本当は、他の子どもたちみたいに、色々な便箋やシール、インクで工夫をしてみたいと思う。
綺麗な手紙の送り主には、綺麗だと思ってもらえる手紙を返したい。
簡素な手紙の送り主には、僕とのやり取りを少しでも楽しんでほしい。
でも僕は留学生で、面倒を見てもらっていて。そうでなくても、あんまりわがままを言うのはよくない。
先生からもらったレターセットには、封をするものがなかった。だから、シールだけ、わがままを聞いてもらった。
僕が自分で選んだシールは、まだ半分も使われてない。
一枚、もう一枚、枚数を使うたび、僕に楽しく、勉強になる時間をくれる。
僕が手紙を送った人にとっても、そのようなものであれば、嬉しいな。]
[学校の教室でも、家庭の事情で明日から暫くヌンキが学校を休む旨が教員から伝えられる。
ヌンキが帰って来たら授業のノートを見せてあげるとか、逆に自分が休む際にはヌンキがフォローしてくれとか、そんな話が他愛なく(?)交わされながら――。
昼食後の長い休み時間に、教室……ではなく図書室で、今日届いた2通の手紙を読むことにした。
明日の出立で慌ただしくなることを思えば、今日は初めから落ち着いたところで手紙を読みたい気分で。]
[封筒の一つは、まるで大人が仕事で使うような印象の窓付封筒。
けれども宛先は窓の中ではなく、封筒に直接、ヌンキの目にも拙いと解る字で書かれている。
郵便受けでぱっと見た時は叔父宛ての手紙だと勘違いしかけたものだが、宛名書きは間違いなく自分だった。]
(あれ。これって……)
[それは確かに、自分が手紙を送ろうとした相手の星からの手紙。
けれどもそれを書き記したのは「代表の人」ではなく――]
(あ。そうだ。そうだった。
ジェイロにも、外からの人が来てるんだ)
[その「外からの人」のひとりが、「代わり」に綴った返事を読み進める。]
[……この手紙を、同級生からの茶々入れが来ない図書室で開いたのは正解だった。
随所での助詞の脱落もあり滑らかには読めない、拙く幼い字で綴られた文章。
その中で語られていた話に、ヌンキは暫く目を伏せる。
豊かな自然や眠る資源の収奪の話まで、詳しく聞いていた訳ではないけれど――。
一方で、手紙の送り主自身のことも、問いへの答えという形でその手紙には綴られていた。]
(外からの研究者の子でも、大変、なんだな)
[なんだか少し親近感を覚えながらも、ヌンキ自身の話になると小さく唸ってしまったり(つい、声が漏れた)。
その星のすがたを直に見ている人からの、かの鳥の話にどきりとしたり。]
[ところで惑星ジェイロ宛てに送った手紙の中で、ヌンキはいくつかとんでもない文章を綴っていた。
しかし相手からの手紙の中でそっくりそれと同じ表現を目にした時、自分がその誤記をやらかしていたことをすっかり忘れていた。]
(え? どういう、こと?
あれ。そんなこと書いたっけ、ぼく?)
[一旦その件は脇に置くことにして――。]
[その人からの手紙を読み終えてから、ヌンキは暫く物思いにふけっていた――その手紙への返事を、すぐには綴れなかった。
手紙を今日出しても、届く頃にはその人はもうジェイロにいないかも、とも考えながら。
幾らか経ってから、もう一通の手紙の封を開く。]
[窓付封筒の一番奥に、無地の白い紙が入れられていたことには――そこにとある文字と絵が描かれていたことには、この時のヌンキはまだ、気付かない。]
[もう一つの封筒を開けようとした時、シンプルな装丁のその裏面の右下の端に、箔押しのようなが印があることに気づいた。
でこぼこを触ってみてもその形はよく判らないので、角度を変えて箔の形を確かめる。
図書室の柔らかい光の下でその印の色合いが変わり、リボンの形を眼前に浮かび上がらせる。]
わ、きれ ……。
[そんな感嘆をふっと零し……周囲の目を気にして口を噤む(注意を惹きたくないというのもあるが、そもそもここは図書室だ)。
些かばつの悪い思いのまま、封筒から取り出した手紙を読み進める。]
(お返事だ!)
[誰にともなく宛てられた、ユオピスクからの手紙。
それに自分が返した手紙への返答は、文字の美しさも銀河語の流暢さも、最初に受け取った手紙と変わりなかったけれど]
(海の下で、魚が踊ってるみたい)
[空白の作り方や改行の置き方に、ふっとそんな印象が浮かぶ。
ちょうど便箋の空白の中には、水面に跳ねる魚のような絵も描かれていて――。]
(ぼくも泳げるんだ?
……泳げるのかな?)
[そんな不思議が頭の中に過った時。
先ほどまで読んでいた、ジェイロからの手紙に記されていた話のこともふっと思い返された。]
(……ぼくは、バハラルダの外に出てもいいの?)
[その問題はともかくとして、手紙に記された問いへの返答を綴ろうとした時に、授業の再開を告げるチャイムが鳴ってしまう。
あわてて2通の手紙を手に教室に戻ろうとした時。
ユオピスクからの手紙に記された文章の金色のインクが、きらりと黒く見えたのが目に映る。]
あれ? これも――…
……、だ、大丈夫です、戻ります、先生!
[司書の教員に少し心配される形で教室に促され、今度こそ、と図書室を後にした。
この便箋を様々な光の下にかざして、その色の変化を確かめられるのは、もう暫く後のことになるだろう。]
[こうして今日の授業が終わった後、ヌンキは寄り道をせずに自宅に戻っていく。
明日からの出立の荷造りが、まだ終わっていなかったから。
通学用ではない、旅行用のリュックサックの中に、日用品と共に。
外の星からこれまでに受け取った手紙の束と、手紙を書き記すための封筒と便箋、筆記用具を収めていく。]
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