12 【突発】ヴァルハラ・ガレージ【R-18ランダ】
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虚航船団 キスミークイック
[フリでも狂い続けていれば、それはまことの愛になるだろうか？
それは誰にもわからないし、きっと当の本人にもわからないだろう。]
ハロー、グラスちゃん♡
今日も帰ってこれたよぉ、ほら。キスして♡
ボクのこの無傷のほっぺたに♡ Kiss me Quick♡♡♡
[少なくとも本人は────今日も運命の恋とやらに、酔いしれている。]*
【見】 立花柏手 フルハウス
店長、*チャイナ・ブルー*を
［そろそろ板に着いた態度でメニュー表から何もわからず酒を選ぶ。
その時、店の扉が開いて、二人の男が現れた。
彼らはお代がわりの鉱石をじゃらっとカウンターに置くと、自分を両側から肩を組んで支えるようにした。］
【見】 立花柏手 フルハウス
もう次に行く時間が来たんだね
でも、注文した分は飲むよう
迷惑客ではないので
［飲み物のブルーの色は、自分の髪の色っぽい。
終わりの一杯ということが店長にはわかっていたのだろうか
利き腕の方を振り払うと、酒を手にし、飲んだ。］
【見】 立花柏手 フルハウス
うまい
やっぱり酒は、最高だよう
［自由に好きな酒を飲む。
こんな楽しいことはない。］
けれど思えば
超高層大気領域はもとより超深度掘削坑最深部だって
元来わたしの居場所なんだよう
【見】 立花柏手 フルハウス
［一杯飲み干せば、最後にカウンターの上に置いてあった、前に折り目を付けたカタログを両腕に抱える。］
怖くても痛くても熱くても寒くても
新しいものがきっとなんとかしてくれます
［次に行くには長い船での時間がある。
そこで装備すればきっと次の星の地底でも、色々役立ってくれるだろう］
【見】 立花柏手 フルハウス
それでは店長、ごちそうさまでした
皆さま、どこかでまた会いましょう
［頭を下げると、再び肩を抱えた両脇の男たちに、今度は大人しくずるずる引かれていった。
なんせ飲みすぎてまともに歩けないので丁度いい。
これから遠くの星に行き、深い地の底で新たな鉱石の採掘を行うのだ。
環境に耐えうる、経験豊富な、不死身？のわたしをみんな手放さない。
そしてわたしはどこかでまた、酒が飲める。
今はもう、それでよかった。
この先はまだわからない。］
已己巳己 ネグローニ
― ―
『Ms.ネグローニ。終業の時刻です。』
ありがとうございます。
[聞き慣れた中性的な機械音声が女のヘッドセットから流れてくる。
同僚であるAI―ミミル―のものだ。
時刻を確認すると、女は端末からログアウトした。
夜勤シフトには引き継ぎは完了し、後は帰るだけというところだ。
今日の女のシフトは日勤。
基地は今日も滞りなく多くの船やひとを受け入れ、送り出していた。]
已己巳己 ネグローニ
『今日は軽微なミスが散見されました。緊張しているのですか？』
ミミルさん、サポートしてくれてとっても助かりました。
ありがとうございます。
……えぇ、だってこれからご挨拶なんですよ。
[今日は妹と、彼女の夫になる予定の男性と食事会の予定が入っていた。
モニター越しに言葉を交わした事はあるが、直接対面するのは初めての事。
義理の弟になる相手に、しっかりとした姿を見せたいところだ。]
已己巳己 ネグローニ
[──そう思い、AIに話していたのだが、どうにも気が逸れて通信相手の名前を間違えそうになったり、ドックとの通信を全館通信に切り換えそうになったりといったミスを重ねてしまっていた。
優秀なAIのサポートによって事なきを得たが。]
『Ms.ネグローニ、貴女達をサポートするのが私達の仕事であり、存在意義です。感謝の言葉は必要ありません』
私が伝えたいだけなので言わせて下さいよ。
『……貴女は変わりませんね。』
[これまでに何度も交わした言葉だ。
航宙管制官のサポートを務めるAIは、対話を繰り返す事で学習し、相手に合わせた反応を返す。
かれ（またはかのじょ）も仕方なそうにしているように聞こえる。]
はい、ですから慣れて下さいね？
それでは、そろそろ行きます。また明日に。
『ええ、また明日。』
[遅番や夜勤のスタッフに一礼すると、女はスタッフルームへと向かった。]
已己巳己 ネグローニ
[予約を取ったのは、落ち着いた雰囲気のレストランにした。
ガレージを選ばなかったのは、今日が顔合わせだったからだ。
直に会った妹の婚約者は、感じのよい青年だった。
この人なら大丈夫だと、女は安堵する。]
何か困った事があったら遠慮なく話して下さいね。
私は二人の味方でいたいと思っています。
……ですが、どうかこの子を悲しませるような事はしないで下さいね。
そうなったら、私はこの子の味方をしますので。
貴方の前に立ちはだかるかもしれません。
[冗談めかして言ったつもりだったのだが、
婚約者と同じ顔で言われて心臓が凍りそうになったというのは、後から聞いた話。
食事会は和やかに時間が進んだ。
妹達を見送ると、女は夜道を歩く。]
已己巳己 ネグローニ
……良かったぁ。
[空を見上げてぽつりと呟く。
そこには万感の思いが籠っていた。
幸せの定義。
それは愛する誰かと添う事であったり、
誰かを想う事であったり、
誇りを持つ役割を全うする事であったりと、様々だ。
女の幸せの大前提は、“妹が幸せである事”だ。
そうでなければ意味がなかった。
そうでなければ、要らなかった。
片割れは誰かと添う事に安心感や喜びを感じるタイプだ。
幸いにも、よい人と出会ってくれたので、後は結ばれるのを待つばかり。
そういった事は当人達次第なので見守ってきたのだが、こうして話が纏まって、本当に良かった。]
已己巳己 ネグローニ
[半年後、妹は女の故郷の星で結婚式を行われた。
女も有給休暇を取って式に出席した。
その後にガレージで居合わせる事があったなら、コーラルレッドのドレスに身を包んだ女と、髪を結った同じ顔をした花嫁のツーショットを見せる事があったかもしれない。
見せる女は当然笑顔だ。*]
流星光底 ソウルキス
[惑星コントラ。
星系序列二番目の星。
凍った淡水の海を持ち、大陸の9割を雪に覆われたその銀世界に、一番目の星から開拓者が降り立ったのは昔。
人類が生存できる僅かな土地の地下に研究所を建て、
温暖な本土では実施できないプロジェクトの数々がここへ持ち込まれた。
一つに、極低温下での義体の製造と稼働実験。
一つに、地下に埋まったメタン資源の採掘。
一つに、本土から輸送される生体の保存。
いずれは新たな居住地となるこの星で、開拓者と研究者達は五十年にも及ぶプロジェクトに励み続けた。
いつか発展の恩恵を自分達が受ける日が来るのを信じながら。]
流星光底 ソウルキス
[絶対の忠誠と未来への展望。
それらによって統制されていた組織が呆気なく瓦解したのはその後。
一世を風靡したそのニュースによれば、既に本土では全身義体化──即ち全人類機械化政策が始まっており、永遠に星を統べる新たな種族として君臨するだろうと。
研究者達の間には驚きよりも不安が走った。
ここで毎日勤しんでいる自分達はどうなる？ 置き去りにされるのではないか？ と。
そして、追い討ちをかける様に。
ある日主星から飛行してきた連絡員はヒトの姿を完全に放棄していた。
脳に改造を施した事で睡眠を必要とせず。
記憶は半永久のものとなり。
生身の数十倍の膂力を発揮する四肢、背には人造の翼。
そう、目の当たりにしてしまったのだ。
自分達が造り、送り出したモノの結末を。
彼等は自らを新時代の神であると称した。
“あの灰色の星に住まうヒト全て”が神話に名を連ねる権利があると。
ソレと対峙していた者達の中で何かが壊れていった。]
流星光底 ソウルキス
[メルサイア主義者らは斃すべき偽りの神を見送ると、
手始めに定刻に同期されているデータを全て改竄した。
定量を超過して発掘した資源を他の星へ売り捌き、
開発中の義体パーツは全て自分達で流用し、
外注の技術者に本土の研究内容をハッキングさせる。
静かに、計画的に、秘密裏に狂っていく歯車は最早止まらず。
冷凍保存されていた──全身義体化手術の順番を歳を取らずに眠りながら待てる特権を手にしている──老若男女の試験用生体に手を出し、脳にメスを入れ、本土で行われている脳改造の実態を探った。
それだけでは飽き足らず、
必要とあれば惑星外から人を攫い。
それでも足りなければ、矛先は開拓者の子供達へと向けられた。]
流星光底 ソウルキス
[取り返しがつかない程の命を切り刻み。
言葉に出来ない程悍ましい行為を繰り返し。
静かなる革命が始まってから二年あまり。
メルサイア主義者達にとっての希望は
外科手術のみによって完成された。
生命維持の為のブレーキは失われたものの
眠気を覚える事が無くなると共に
何かを忘却する事もなくなった。
神を模倣して造った命の、初めての成功例だった。
何も感じなくなれば、ヒトの身体を棄ててしまえば
きっと苦痛は和らいでいた筈だった。
然し運命は辛うじて残されていた、
救済とも呼べぬ虚ろな未来さえ目の前で奪った。]
流星光底 ソウルキス
[廃棄物でも片付けるかのように、
宙に浮かぶ艦隊から放たれるエネルギー砲が
容易く氷の星を焼いていく。
降り立った「新人類」は抵抗する者たちを手ずから屠る。
己から出た錆を露も遺さぬ様。
崩落していく建物から逃れようと廊下を駆け、
轟音と振動の中で信じ難いものを見た。
数年ぶりに再会した唯一の家族は、
適合しない義体の中に脳だけを押し込まれ
その頚部から伸びるコードが突如断たれ、
中から出た膿めいた液体がどろどろと床に零れる。
取り巻いていた研究者らは一息に鏖殺され
噎せ返る様な死の匂いが辺りに満ちた。]
流星光底 ソウルキス
[施設の天井が今にも崩れそうに悲鳴を上げている。
ヤツは此方に気付くと、
笑顔らしき信号を強化液晶の上にたたえて
“我々には貴方を主星へ迎え入れる準備がある”と言った。
その瞬間湧き出したのは、経験した事のない様な怒り。
さっき迄生存していたかどうかも知らなかった癖に。
元々は全てお前達の企みから始まった事じゃないか！]
────こんなもの、
流星光底 ソウルキス
[緊急信号をキャッチした傭兵達の艦船は
破壊されていくコントラの着陸ポイントへ急行する。
メタンが溶け込んだ雲を掻き分け、青白い氷河へ。
既に研究施設は根こそぎやられた後の様で、
地下へ降りる為の道は殆ど瓦礫で埋まっている。
生存者の発見は絶望的だと思われたその時、
緊急用階段を死に物狂いで駆け登ってくる音が二つ。
傭兵団長はその片割れの顔を見るや否や、
総員へ武器を抜く命令を出す。
そして。
水色の実験着のまま駆け出してきた少年の、
その手を掴んだのだった。*]
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フィルタ
生存者 (2人)
犠牲者 (4人)
処刑者 (3人)
突然死者 (0人)
見物人 (2人)
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