情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
[さっそく返事を書こう、と思ったが。
その前に手紙以外の贈り物を添えようと思い立つ。
あの子は学びの塔以外の場所を知らない。
ならば、この海でしか見られないものを贈ろう。
何がいいだろう……、やはり、貝殻か?
そう思い立てばボクは家を出て砂浜を歩こう。
浜辺を歩きながら綺麗な貝殻を探す。
なるべく傷のない美しいもの!
途中、人魚たちにも貝殻探しを協力してもらってのボクの”冒険譚”だ]
[あれこれと砂浜の美しいものをかき集めた結果。
傷一つないピンクの桜貝と
透き通った水色のシーグラスを選ぶ]
よし、これを首飾りに加工するか。
ありがとう人魚たち。
お陰で友人への贈り物が作れそうだ。
[そう人魚たちに礼を言い、家に戻れば魔法も駆使して美しい首飾りを作る]
[贈り物が準備できれば手紙を書き始めよう。
うきうきと楽しそうにペンを走らせる。
書き終えれば封筒に魔法をかけよう。
今日は便箋の量も多いし首飾りも入っている。
いつもの蝶では配達に心許ない。
ある程度の重量も運べる光る小鳥に封筒を変え、空へと放とう。
贈り物を見たユキナの反応を楽しみにしつつ。
しばらく空を見つめていた]
[空を見ていると窓辺に伝書鳩が止まる。
特に何も手紙や小包を持っていないし、ただ羽を休めにこの窓辺にとまっただけのようだ]
よーしよし、パンくずでも食べるかい?
君はこの前カフェで見た子に似ているねェ。
確か……、南のほうの伝書鳩だったか。
ふむ、南に帰るついでにお土産をあげようか。
[そう言えば庭に行き花を摘んで、
その伝書鳩に小ぶりな花飾りを作って贈ろう。
可愛くできた、と笑いながら。
再び飛んでいく伝書鳩を窓辺で見送った]
──学びの塔──
[人形は起き上がる。
封筒や鳩を送り出したばかりの窓には、何もない。
ようやく引き取ったブーツを履いて、きらりとひかる飾りに満足する。
それから小さな箱を組み合わせて作った小物入れの中の花たちと、青い花をそうっと撫でてから部屋を出た。
タッタッタッ。
なおしたブーツの底が床を蹴り軽快な音を立てる。
昨日呼ばれたばかりの博士の部屋の扉を叩けば、いつもの彼の声がする。]
おはようございます、博士。
……はい、わたしはよく寝ました。
[いつものように体調を気遣う博士の後ろには、ときどき人形を呼びに来る助手もいる。
その刺されるような、なんとも言い難い視線は居心地が悪くて、早く出て行きたいのに博士の話が続いていくから出て行けず、いつもように顔を伏せてやり過ごそうとする。]
すみません、博士の近くにいなくて。
西の魔女様、にお手紙を。はい、そうです。
[姿を見せなかったことを叱られたのちに理由を話せば、それはいいことだね、と肯定されて嬉しくなる。
今週は何をしていこうかな、と訊ねられて胸の内に溜まるようになってきたことをどう言えばいいか考えあぐねる。]
[わたしは人形。
博士の作った人形。
博士が素体を作った人形。
魔法で動き学習・成長する人形。
学び育つ自律思考を載せた魔法人形。
わたしは
博■の役にたた■い人形
■の■にもた■ない人形
■の■■■に作ら■た人形
■の■■り■で■■い人形
わたしは、]
[それでも人形は顔を上げる。
ブーツをなおしてくれた人がいた。
道案内をしてくれた人がいた。
花をとらせてくれた人がいた。
物語を好んでくれた人がいた。
きれいなものをくれた人がいた。
お礼をいったら喜んでくれた。
話をしたら喜んでくれた。
選んだ贈り物を──喜んでくれるといいと、思う。
人形は、その人たちの役に立ちたいのだ。
たとえ何もできなくても。
手紙を書いて、物語を教えることしかできなくても。]
博士、わたしは。
もっと勉強して──いろんな人と、会いたいです。
それから、その人たちの役にたって……博士?
[人形の話を穏やかに聞いていた博士の顔が険しくなる。
その手が人形の肩を掴んで、ミシと音を立てる。]
なんで──……だって、勉強は
違います、ここを出る、なんて、いってな
や、やめて博士……
[博士の爪が人形の肌に食い込む。
人形の肌はいい、魔法が常にかけられている人形の肌はすぐに治る。
でも博士の爪はダメだ。折れたら治るのに時間がかかる。
だから必死に止めようとその手を掴むけれど、人間の子供相応の力しかない人形では成人男性の力にかなうはずもなかった。]
[どうしてだか、助手の人は動いてくれない。
以前言っていたように、人形のことが邪魔なのかもしれない。
このままここで壊れてしまえば、いいのだろうか。
それは博士のためになるということだろうか。]
…………。
[人形は、迷う。
でも──でも、人形は、人形の自律思考は思ってしまう。
出した手紙の返事を知りたいと。
この塔ではないところの人の話を、もっと聞きたいと。]
[もう一度助手を見ても動く様子はなかったから、人形はいまだに己の肩を抑えている博士の手に自分の手を重ねた。
くいと袖を引いて、彼を見上げる。
頑張って顔を歪めて「痛そう」な顔をした。]
いたいよ、パパ。
[その一言で力が緩んで、博士の膝が床につく。
体が倒れないように駆け寄れば、血のついてしまった指先で抱きしめられた。
型番であるYU-K110でも、もちろん魔女がつけてくれた「ユキナ」でもなく。
この外観のモデルとなった少女の名前を呼びながら、博士は人形を抱きしめる。
またか、と助手が顔をしかめて呟く。
きっとこの人の方が正しいのだろう、人形は間違っているのだろう。
それでもこれ以外に、人形は思いつけないのだ。
──正しく思考できなくてごめんなさい。
博士の役にも立てなくて、ごめんなさい。]
──人形と博士のむかしの話──
[それは西の魔女が魔法人形にたくさん話してくれた少しあと。
彼女のおかげで語彙が大幅に増加し、話せるようになってきた人形を前に博士が突然錯乱した。
周囲の言葉を理解できるようになってきた人形は、人形のモデルが博士の死んだ娘と知った。
”パパと呼んでくれ”
その願いに、想いに、幼児のように純粋な自律思考は反応した。
ありったけの「妥当な反応」をかき集めて、人形は博士へ手を伸ばした。]
どしたの、パパ。
なかないで、パパ。
だいすきよ、パパ。
[……きっと、それが良くなかった。
博士は時折、人形を娘だと間違えた。
一眠りすれば、あるいは何かをきっかけに正気に成るけれどその間の博士はまったく「正気を失っている」状態だった。]
[自律思考は考えた。
どう呼びかけたって正気ではない博士は「娘」以外に反応しなかった。
「娘」がいないと博士はひどく狼狽した。
隣にいる方が早く治った、だから、人形は──それがいいと、結論づけた。
だが博士のごく近くにいる人たちは違った。
人形がいるからダメだと言った。
人形がいなければ過去になるはずだったと言った。
だが人形が姿を見せなくなると博士は懸命に人形を探すのだ。
それを、聞かないふりが、できなかった。
だって人形は。そのために作られた──のでしょう?]
[人形は博士のために作られた。
人形は博士の役に立てなかった。
だから人形はなんの役にも立てない。
役に立たない道具は壊れていい。
そこに至るのに難しい思考は必要ない。
それでも、人形は誰かの役に立ちたかった。
誰かの役に立てたのなら、博士の役に立てなくても、
人形は──ここに在れていいモノになれると思うのだ。
壊れなくてもいいと、思うのだ。
わたしは こわれたくないと おもう]
―カルカイト新聞社・窓辺にて―
え?僕がここに居るのが珍しいって?
やだなぁ、たまには進んで雑用をしようってだけですよ。
お忙しい諸先輩方に代わって速報をしっかり捌いたりしようという心遣いなのに!
[新聞社に宛てられた手紙はこの窓から伝書鳩が持ってきたり、魔法の手紙が入ってくる事が多い。
本来なら手紙の受け取り、振り分けなんていう簡単な作業は一番新人の仕事だ。
入社して暫く経つ俺がやるような仕事ではない。
なら何でここに居るかって?……事情があるのだ。
うっかりというか、なんというか。俺宛ての手紙がこの新聞社に届くような形にしてしまったのだ。
なんとしても誰かに見られる前に回収してしまいたい。
来るかも分からない物を待つのは性に合わないが、先輩に見られたらそれはそれで恥ずかしいので理由を作ってここに居る。
……今度から俺のデスクへ直接来るように鳩にお願いしよう。
いや、それならいっそ自律飛行型レターセットを買った方が早いか?でもちょっとだけ高価なんだよな…あれ。
うんうんと悩みながら鳩が帰ってくることを期待していれば。
ひらりふわりと目の前で蝶が舞う。]
あれ?
[手紙と鳩が別々に帰ってくるパターンか?と首を傾げながらも手に取れば、それは封筒へと形を変える。
……色も違えば、丁寧に封蝋までしてある。
宛先はどうやら新聞社のようなので、中身を確認してみる事にした。
内容は自分だけでは判断が少し難しい話で。]
せーんぱい!ちょっと相談なんスけど……
[中身を掻い摘んで説明すれば顎に手をあて悩む先輩に、一言。]
話題性はあると思いますよ?
面白そうだし、なにより僕これ興味あります。
[まぁ確かに、と先輩は頷いた。ただし、担当はお前なと言われてしまい。]
んげぇ!僕こういう仕事やった事ないですよ!?
しかも相手が相手だし……失礼があれば不味くないですか?
…あっハーイ。分かりました。詳しい話聞いて調整します、ヨロコンデ。
[任された仕事の大きさに多少慄きながらも、先輩が編集長へと話はつけてくれるらしい。
その辺りをお願いしていいのであれば、と。会社が良く使う便箋を引っ張り出し返事を書き始めた。]
……これでよし、っと。
返信用封筒付けてくれてるの有難いな。
こちらも付けておくか。確か〜この辺に〜あった筈!
よし、これも入れ込んで。
[窓辺に立って、封筒に息を吹きかければ。
クリーム色の蝶々が西へと向かって飛んで行った。]
いつ見ても不思議だなぁ……この魔法。開発したの、西の魔女だっけ。
[俺には魔法の才能が無いに等しいから、感心と尊敬の念を抱きながら見送った。]
[さて一仕事終えたし、お茶でも淹れて休憩するかと息をついたのと同タイミングで。
白いふわふわした物が俺の顔面を目掛けて飛び込んで来た。]
ぐはっ!?!?!なに!?
って、ペペか〜!お帰り、長旅ご苦労さま!
[腕に抱えればその伝書鳩は間違えなく封筒を持っていて。
往復は流石に辛かったか、急いで鳥かごに入れて水と餌を与える。
空腹だったのだろうか、周囲に餌をまき散らしながら食べている鳩……ペペに愛らしさを感じながら
青い鳥の封筒を開けた。
ゆっくりと文字を追って、たまに驚かせられたり、笑ったり。
そんな穏やかなひと時を過ごし。
先程仕事で書いた手紙とは別の便箋を自分のデスクから取り出した。]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新