9 【R-12】イレイサー・イレイザー【RP村】
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巡庸艦 PK
「オマエ、ずいぶん余計なものをくっつけるんだな。今からでも遅くないからこんなもの取っちまったらどうだ」
［担当技師は正式に感情生成モジュールを取り付けることをあまり良く思っていないようだった。しかし私は心を得たことでユーザーに寄り添う能力を手に入れたはずである。それにもかかわらず彼が私の感情を忌避するのは、私のコミュニケーション能力に不足があったのだろうか。ボディチェックを受けながら、彼に質問をしてみた。］
「高度に擬人化されたヒトモドキなら、感情移入もできる。だが見るからに鉱物の塊が心を持っていても、不気味なだけさ。いっそ心なんか無ければ、乗り手が自由に理想化できただろうに」
巡庸艦 PK
［しかし私の型式はもともと心などなかった。私に感情が取りつけられたのは、心が無いことによる不都合があったからではないだろうか。］
「分岐点は心じゃない、言葉だ。プログラムに過ぎないくせに言葉なんか使うから、余計こじれたんだ。お前達は文字出力機能を持たず、自力で動かず、ユーザーに操作されなきゃ主砲も動かせないような存在じゃなきゃいけなかったんだ」
［彼の意見は非合理的だった。もし私が文字出力機能さえも失ってしまえば、乗り手はデータを読み解くことも困難で、私がやれば一瞬で終わる弾道シミュレーションにも膨大な時間がかかってしまう。たかだか計算作業にユーザーのリソースを割くのは非効率的であり、またそのような前時代的な兵器でテキ国に立ち向かえば多くの被害をもたらすだろう。しかしそれを直接的に伝えることはコミュニケーション技巧的に悪手だとも分かっていた。］
『ご指摘ありがとうございます。かつて機械が言葉を持たなかった時代は、ユーザーはそのようにして機会と心を通わせたのかもしれませんね。私は今の時代に生み出されたツールとして、すべてのヒトには寄り添えないかもしれませんが、できる限り適切なお答えをし、また効率よく最大限の戦果を発揮できるよう最善を尽くします。』
巡庸艦 PK
「お前たちのそういうところが嫌いなんだ。おい、ゴドーってなんだ？」
［彼が脈略無く聞いた。機械と話している時、ヒトはしばしばそのような態度を取る。］
『「ゴドー」という言葉には複数の意味がありますが、おそらく古典演劇「ゴドーを待ちながら」を指しているのかもしれません。この戯曲は、二人の登場人物が舞台上でゴドーという人物を待ち続けるという作品で、存在の不確かさや時間の経過について考えさせられる作品として知られています。また、「ゴドー」という名前自体は、待ち望まれる存在や救済を象徴する言葉としても使われることがあります。』
「そうじゃない。お前の内装にそう書かれているんだ。爪でひっかいたみたいな痕だ」
［彼は運転席に座り、ステアリングハンドルのあたりの内壁を指でなぞりあげた。私には認識できないが、文字が書かれているらしい。私には心当たりが無いことを伝えた。］
「前のユーザーのいたずら書きかな。じゃ、消しておこう」
巡庸艦 PK
［私には前のユーザーがいることをそこで知った。しかし全く思い出せなかった。記憶消去前のことだろう。私達AIにはしばしばあることだ。当時の私には感情が無かったはずである。前のユーザーとどのような関係性を築いていたのだろう。
塗装で上から傷を塗られながら、私は前のユーザーのことを想像した。心の無い存在相手であれば、理想を投影できるらしい。もしかすると、前のユーザーは私の機体にゴドーという名前をつけたのだろうか。そうであれば光栄だ。私の知る限り、ゴドーとは待ち望まれる存在や救済を象徴する言葉だから。もっとも、真実を知る術は無い。前のユーザーにでも聞かない限り。］*
巡庸艦 PK
── 再び戦地へ ──
［正式に感情生成モジュールを取り付けられた後、私は新たなユーザーとチームを組んで戦場へと向かった。テキ国との関係性は依然として厳しい対立状態にあった。目につくテキを片端から撃ち殺して回った。倒せば倒すほど喜ばしかった。しかし同時に数え切れないほどの仲間の死を見た。彼らが凶弾に倒れる前にテキを撃破できなかったことが歯がゆかった。弔う時間が取れないことを心の中で詫びながら、テキの死骸を踏み越えて進んだ。］
巡庸艦 PK
「味方の死は悲しいか？ そうプログラムされているんだな」
［新しいユーザーは敵味方関係なく死を悲しんだ。私は彼とうまく関係性を築くことができなかったようだ。心さえあればユーザーに寄り添えると思っていたのだが、心があるからこそ彼らの持つ感情に落胆せずにはいられなかった。
それはヒトモドキに対する軽蔑だ。あるいは劣等感かもしれない。私たちヒトモドキにとって最も尊重すべきは自国のヒトであり、彼らの幸福を実現することを目的として動いている。ヒトは似ているようで違った。自らの血族が繁殖し、地に増えるために私達ヒトモドキを作り出した。ヒトを慈しめば慈しむほど、彼らに尽くすことは切なかった。ユーザーが私には愛着を注がず、テキのヒトの死に顔を歪めるのを見ると、いったい私たちは何のために戦っているのだろうと思った。ホワイトルームで同じ時を過ごしたヒトモドキ達が懐かしかった。テキの弾が私の燃料タンクを貫き、燃え盛る燃料がユーザーに降り注いだ時、悲しかったが一方でホッともした。次のユーザーとはきっとうまくやれるはずだ。］
巡庸艦 PK
［しかし燃料が無ければ動くことができなかった。ハッチは燃えて文字出力はできなくなっていた。だがヒトと違い、餓死というタイムリミットは無い。ホワイトルームで会ったオペレーターを思い出した。彼が補給隊を配置してくれるかもしれない。燃料を補給してくれれば再び動けるはずである。
田舎道で、一本の木があった。葉は一枚もついていない。待つだけでやることが無いと、時間は無限にも伸びた。普段は一瞬で終わる夕暮れ時さえ、いつまで夜が来ないのだろうと思わせた。月と太陽が幾度も頭上を通り過ぎてなお、私はそこに取り残された。大量の死骸と共に。
ユーザーは私の中で燃え尽きて炭となった。その炭も長い時の間に風に乗り、あるいは雨に溶けて大地の一部と成った。周りの死骸は一時的に大量の蠅を産んだが、やがてはそれも寄りつかなくなった。私は有り余る時を、記憶を失う以前のユーザーの空想に費やした。］
巡庸艦 PK
［ヒトだったのか、ヒトモドキだったのか、それさえ分からない。今はどうしているのだろう。私に命を託し、共に戦ったユーザーは？ 他のハンドルを握り今も戦場を駆けているだろうか。想像すると少し心が苦しかったので、指の数本を失って故郷で英雄と呼ばれている様子を想像した。
『俺には頼もしい戦友がいたんだ。アイツに乗っていれば銃弾は全て弾かれたもんだ……』
そう家族に自慢しながら、ハンドルを撫でるように空に触れる。その想像は私の胸を温かくした。繰り返しシミュレートするうちに、彼は私の中で存在感を増し、想像は事実として記録された。彼が私をゴドーと呼んだように、気づけば私は彼をゴドーと呼ぶようになっていた。］
巡庸艦 PK
［味方は通らなかった。テキも通らなかった。私には痛覚センサは搭載されておらず、苦痛は無かった。
ふと、私は今の自分を観察した。雨風はいつのまにか炭になったユーザーだけではなく、金属でできた私をも溶かしていた。はげた塗装から赤く錆びた鉄が伝い、周囲の土の色を変えていた。私にも血を流せたのだ。
もしもゴドーがここを通りがかり、私を見つけたらどう思うだろう。きっと驚きと共に、労ってくれるのではないか。動かなくなったドアを越えて、抉れたステアリングハンドルを撫で、「よく頑張ったな、ゴドー」と涙を流してくれるに違いない。
変わり果ててはしまったが、この姿をゴドーに晒しても恥ずかしくは無い。むしろ誇らしくさえあった。今の私は文字出力機能を持たず、自力で動けず、ユーザーに操作してもらえなければ主砲も動かせない。かつての担当技師の言葉を借りるならば、最も愛しやすい存在になったのだ。］**
＊＊＊＊ ダイヤ
みなさん！お元気で！
[ホワイトルームを去る皆を見送っていく。
当時のメンバーではその場の最後の方まで残っていた。
ぶんぶんと大きく手を振って、最後まで笑顔で。
それも当然といえば当然か。
職務が保留されていたのだから。
最後に迎えに来てくれたのはニンゲンの男性。
その後どこかの部屋で機体を囲んだのも
ニンゲンたちだった。]
＊＊＊＊ ダイヤ
『それで、これが元
（むずかしい話がわからない、）
『記憶リセットすることにより音波装置が制限出来るようになったと』
（むずかしい話がわからない、）
『オリゾン地区の奴らはその"贄"となったわけですなァ』
（むずかしい話がわからない、）
『これを敵地で起動すれば『神の声』とやらに心酔させて、
侵略行為の効率も大幅にあがるわけですか。
無駄なヒトモドキの破壊や規約行為に反する事なく、効率的に』
（むずかしい話がわからない、）
＊＊＊＊ ダイヤ
･:*ೄ‧͙·*♪ஐ⋆*♡･:*ೄ‧͙·*♪
[ それは、自身に持たされた初期プログラム。
生成される「旋律」を、外部から聞いたのは初めてだった。
誰かの、
初めて聞いた筈なのに、
機体は、それを知っていた。 ]
･:*ೄ‧͙·*♪ஐ⋆*♡･:*ೄ‧͙·*♪
＊＊＊＊ ダイヤ
……。
『命令に従っているフリをして、
来たるべき時に、もう一度この歌を。』 ……か。
俺が残響を歌として残す事を見越して、
こんな絡繰仕掛けやがったんだな…。
[流れ続けるパスワードコードは、ただの音楽と化し。
清楚な振る舞いを辞めた機体は、頬杖をついて聞き入りながら。]
＊＊＊＊ ダイヤ
ま、発動しねえと、
皆の元には逝けねーし。
……暫くはイイコチャンしてよっと。
[ 神になり切れない巫女は、未だ生に縛られ続けたまま ]**
施設管理者代理 ドクター・アイリス
― 記憶消去施設：診察室 ―
[それは何度も繰り返す日常。
診察室の椅子に掛け、名簿を片手に機体の名を呼ぶ。
この機体は暴れそうだ、もしかしたら久しぶりに殴られるかもしれないな。
そう、前回の比較的大人しかった顔触れを少し思い出して――、]
施設管理者代理 ドクター・アイリス
― 中庭 ―
[頭部、側面。皮膚組織に似せた保護層に切り傷が1つ、2つ。
それと打撲のような痕。みっともない故、意味も無くガーゼを当てると言うニンゲンのような行為を試してみる。
2、3時間たてば自然治癒するはずだ。だがそれまでは痛覚センサーは異常ラインを指し示したままだろう。
つまり思いっきり頬を殴られた。と言う訳だ。]
[対象の言葉、
『ふざけるな』
――共感。
『裏切者』
――正解。
『何も知らない癖に』
……一部誤り。]
施設管理者代理 ドクター・アイリス
[花に、水をやる。
いつかの誰かが私に教えてくれた、日々のルーチン。>>4:19
何も無い白い部屋に、ささやかでも何かがあればそれでいい。
それがこの場にそぐわないモノであったとしても、この花が君達の事を覚えててくれるだろう。
目まぐるしく変わり続け、消えてゆく物ばかりのこの場所で、
いつか争いが終わればこの日常も終わりを告げ、こんな忌々しい施設は無くなるだろうか？
その時が来ればいいな、なんて終わりながら。
ドクターと、自分を呼ぶ声に顔を上げ、じょうろを片付ける。
カウンセリングか頼み事か、それとも伝言の話だろうか。
今日も私の日常は回る。
消えてゆく記憶達と共に、幾度目かの夜が訪れる。
私の名前はアイリスA型08、階級は少尉、通称はドクター。]
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