3 ― 星見る手紙 ―
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アルレシャ
だから あしたこそ
せんせい ほめてくれると いいな
[幼い子供の拙い文字。
今でもとある研究員の、とある私室へ置かれただけの
きっといつか歴史に消える、過去のこと。]
アルレシャ
――現在：宇宙船内にて
[手紙を送り出した私は、鞄の奥底へ仕舞ったままの
──もう受け取り手を失った手紙を掬い上げた。
なにも知らなかった。
なにも知れなかった。
なにも守れなかった。
なにか掴みたかった。
なにか守りたかった。
なにか なにが なにを …… ]
アルレシャ
……………………ばか。
ばかね ………… あなたって
……そんなとき くらいっ、
[読み返して、〝貴方〟からの手紙をまた読んで
私はついに声を殺して泣いた。
ようやく現実にこころが追いついたって、分かった。
死んじゃう時くらい、もっと恨んでよ
私のことを忘れて 自分のこと、考えててよ。
頭の中にちいさな花の伝承が過る。
きっと、随分拙い、恋だった。]
アルレシャ
〝最期まで〟 ずっと、いっしょに、
…… いてくれたのね……
[しってる。わかってる。りかいしてる。
貴方が私を嫌ってないこと。
恨んでもいないこと。
ごめんね、って言われたく、ないこと。
頭が理解してる。感情が否定してる。
──それでも やっぱり もういない貴方を
追いかけようとは、思わなかった。]
アルレシャ
[様々なことを、私は旅の途中で識っていった。
子どもというものは等しく両親から生まれてくること
痛いときは痛いと泣いてもいいのだということ
喧嘩をしても、その縁は切れないこともあること
不慮の事故に見舞われ、失われるいのちがあること
ロサを出た人たちが夢見た自由は、
きっと存外 そんなに楽しいことばかりではなくて。
けれど確かに、私たちは生きている。
この広い世界 遥か遠くの星々みたいに
皆、懸命に、息をしてる。]
アルレシャ
――とある 良くある御伽噺
みんながわらう しあわせなくにがありました
そこにすんでいるしょうじょは
うつくしい きんいろのとりを かい
まいにち いっしょにあそんでは
あさから よるまで いっしょにいました。
けれど たいへんなことが おこりました。
しょうじょが たいせつにしていた ことり
そのとりは とつぜん そらへとびたち
にどと しょうじょのもとに かえりませんでした。
アルレシャ
しゅういのひとびとは しょうじょへいいました。
「 ことりを うしなったのは
つぎにおとずれる しあわせを
よりつよく かんじるための しれん 」
そういって しょうじょに わらいます。
あさつゆが みどりを ぬらしました。
しょうじょが ひとりぼっちのまま
そらを みあげていた あるひのこと
なんと ことりが かえってきたのです！
アルレシャ
しょうじょは とってもよろこびました
ことりの さえずりを よぉくきいて
あいしてるわ と ささやきました。
どうじに こんどこそ うしなわないように
たいせつな ことりとじぶんを つなぐため
ことりへ リボンを むすびました。
ことりは ぴちち と さえずります
むかしのまま あのころの なきごえで
けれど あさやけがきた とたん
きんいろのとりは まるでおばけのように
まっくろな いろに なりました
アルレシャ
おばけは なきながら いいました
「 きみのとりは どこにもいない 」と
しょうじょの こどくを いやすため
ことりのふりを していたと いいました。
しんじつをしったしょうじょは ないて ないて
けれど ひっしに じぶんをいやそうとした
ことりだったものの さえずりを おもいだし
じぶんにも リボンを むすびました。
「 わたしを もういちど しあわせにしてくれた
そのとりは あなた だったんだね 」
しょうじょがそういった そのしゅんかん
まっくろなもやは あおいとりへ すがたをかえ
ふたたび うつくしいこえで なきました。
アルレシャ
[ それは良くある御伽噺。
茨棘の城に、朝露を望む亡霊の王より
夢から現を旅するカナリアの寝物語よりも
きっと知られてはいない 小さな噺。 ]
アルレシャ
[でもね、未来の話は たくさんあるの。
〝貴方〟を知りたい気持ちと、問いたいことと、
……えっと ええとね
何から始めればいいのかな。
私がそうして迷っているうちに、見知った姿の、
けれど初めましての 貴方 は来たかしら。
夢渡りじゃなくなって、思うままに想うひとを探しに来た
なんにもなしの 夢見る私は、見えたかな。]
…… 、
[思わず慣れた名前を口にしようとして、閉じる。
貴方は シェルタンじゃ ないのだから。
ああ、──そうだった。]
夢見 アルレシャ
[初めましての時は、まず挨拶からって、言うわよね？
でも、還って来た貴方にも、たった一言 告げなくちゃ。
貴方がどんな顔で私を見ていたか
確かめないまま 私は、私宛に届いた手紙たちと
オルゴールが入ったカバンを抱きしめ、微笑んだ。]
──── おかえりなさい。
それから、……はじめまして。
私はアルレシャ。
……貴方のことは 何て呼べば、いいかしら？
[ でもやっぱり、零れてしまう涙だけは
どうかやさしく だきしめてくれるかな。 ]
夢見 アルレシャ
いいよ。
────……もう、いいんだよ、
頑張ったね。
最期まで、私の想い出と一緒に、いてくれた
……約束を貴方は貴方なりに果たしてくれた。
だから、もう、──いいんだよ……。
[〝演者〟は宿主の真似をすると言うけれど。
きっとこれは、そんな悪辣の棘じゃ片付かない。]
夢見 アルレシャ
…………
これでやっと あなたのために、泣ける、ね…。
[夢渡りのことを知らなかったのは、罪じゃない。
私が貴方に、夢渡りが負うものを知られたくなかった。
きっと識ってしまえば、優しい貴方は
いつまでも私から離れられない気がしたから。
恋したちっぽけな女の、ただの我儘よ。
〝ただの私〟として 貴方と恋がしたかった。]
夢見 アルレシャ
[だから、愛した彼への手向けの花は、それでおしまい。
ばかなひと。ばかなひとね。
私がいつまでも心配で、ずっと彼の中にいたんだって
……私もばかだから、都合よく、受け止めるんだから。
ぎこちなく「さん」を付けて呼ぶ、雨濡れの笑顔。
ばつが悪そうに目を逸らすのがなんだか可愛くて、
ふふ …と、私もようやくそこで一緒に笑えた。]
アルレシャ。
…………そう呼んで、ほしいな。
[その方がなんだか、距離を感じないもの。
……慣れなさそうなたどたどしさも良いけれど
でも、だって、さみしいじゃない？]
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