3 ― 星見る手紙 ―
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演者 シェルタン
[こうして幾日か（！）の航行の後に船を下り、いつか訪れた劇場への道を駆けていき――。
裏口の扉から駆け込んだ「ルキウス一座のシェルタン」を待ち受けていたのは、極めて不服そうな面持ちの座長ルキウスだった。]
……すみません、座長。
ずっとご迷惑も、ご心配も、お掛けして…――！？
[「何故私に先に一言寄越さなかった」と、“ 赤獅子 ”宛てに手紙を送った件>>-97>>-98>>-99について真顔でぴしゃりと言われた。
座長宛ての座標に届けるための連絡ルートと郵送用目印だってきちん設定していただろう>>1:31、と。
こうして、安否不明だった役者との数年ぶりの再会の場で、わりと辛辣な小言が暫く続けられる。
「そんなに一座の口の堅さを信用できなかったのか」「そんなに郵便事故を恐れていたのか」「実は“ 赤獅子 ”のファンだったのか」「ちゃんと演技の稽古していたのか」「左のデコどうしたんだ」「お前が部屋に残していたファンレター後で取りに来い」「アタシの記事見てくれたー？」等々――]
演者 シェルタン
[――劇場でシェルタンを待っていたのは、“ 赤獅子 ”に話を通して貰ったルキウスだけではなかった。
情報誌に取材されていた脚本家のミルファや、一座の他の面々も、そこには揃っていたのだ。
「どうして？」という問いが口を吐きかけるも、シェルタンとしてこの場にいる生命体は、すぐに理解した。]
……ありがとうございます、座長。
あなたに「劇場で待つように」としか、
あの人には言伝を頼んでいなかったんですが。
僕の考えていることなんてお見通し、ですね。
[「
そして「ルキウス一座の特別二夜公演」の広報も行ってきた、と。
ただし、その演目のとある主要人物のキャストだけは、舞台の幕が開くまでシークレットにするとも。]
演者 シェルタン
[こうして、シェルタンの脚がアッサの地を再び踏んでから数日の後。
そう、たった数日の準備期間を経て――。
アッサの劇場に再び、それは出現する。
かつて、銀河間交流行事の折に披露した演目。
高潔なる白銀の騎士と対峙する、棘の城の亡霊の王。
王が纏う衣装も化粧も、かつての公演時そのまま。
それだけでなく、背丈も顔立ちも、声の張り方も。
立ち振る舞いも、時折客席に向けられる鋭い眼差しも、
呪いと嘆きを紡ぐ台詞の抑揚も、あの頃と同じ！
過去の公演と異なるのは、舞台ならではの幾つかのアドリブと、化粧越しに薄らと覗く、左の額に残る傷跡。
あの時>>2:38肩に受けた銃創は、黒い羽をあしらった衣装の下に隠されたままだったけれど。]
演者 シェルタン
[こうして、「ルキウス一座の特別二夜公演」において。
アッサの劇場の舞台上に、シークレット・キャストとして、確かに「あのシェルタン」は姿を現した。
そして終演後のカーテンコールで、一座の役者たちやスタッフたちと共に並び、屈託ない笑顔で高らかに告げたのだ。]
みんな、今まで心配かけて、ごめんなさい。
僕はちゃんと、ルキウス一座に帰ってきました。
――舞台役者シェルタンは、ここに生きている！
新米修復家 キュー
[いろんなものがあった。
それは手染めの織物だとか。アッサ名物の食べ物、とか。
人工の道を囲む植え込みや花壇のある広場、とか。
あるいは、高台から見える景色。
それから人々の笑い声。
そこで過ごしていくうちに、どういう場所なのかが、ちょっとずつ分かっていくような気がした。]
新米修復家 キュー
[なみなみとした水を湛えて、船旅が楽しめる星。
ゆっくりと銀河中を旅する惑星のこと。
そんな記事を読み進めながら。
ふいに、手紙に書かれていた星を探してみる。
"人の心がわかる星"。
いったい、どんなところだろう？
一度、訪ねてみるのも、いいかもしれない。
手紙に書かれていた、いつか、を望む言葉。
そのことを、想いながら、またページを捲る。]
新米修復家 キュー
[惑星ロサ。
その文字に。
僕は思わず、手を止めて、記事を見つめた。
そこは"カミサマ"を信奉し、幸せを想い、日々平和に感謝する。
みんなが隣人を慈しみ、すべての"お恵み"を分かち合って暮らしている。
そんな紹介文が書かれていた。
僕はもう一度、それを確認するように、そこに綴られた文字を指でなぞる。
カミサマ。
いつか届いた手紙の言葉。
あの人は、あれから、どうしたんだろう。
たとえ手探りだったとしても。
心のまま、いまを過ごせていたら、いいな。
そう、想った。]
新米修復家 キュー
[また、ページを捲る。また捲る。
最後まで、なんとか読みきって、僕は目次を確かめる。
でも、そこに惑星ハーツの文字は見つけられなかった。
この本じゃなかったのかな。
僕は一緒に買った、別の本へと手を伸ばした。]
次期当主 レグルス
[手紙の返事、王からの言葉に答えるのは然程問題ないのだが、自らの頼みについてどう触れようか。
将は悩んでいた。
手紙の内容を見て、役者に頼みたい事柄が出来たのだがそれを暈して伝える方法が思い付かない。
自分の頼みは別に拒否されても良い、
引き受けてくれてば幸いというだけのもの。
役者としての復帰も考慮すると多忙にさせてしまうか？と慮っているのもある。
会いたい者もいよう、やりたいこともあろう。
自由を経た後は本人の好きにさせてやりたい。
彼の星へ赴いてから出来なかったこと全てを。
暫く唸っていたせいで傷口が開いたかと看護兵がやって来たり、一斉摘発の件で部下が頻繁に訪れたりと色々あったがやがて万年筆を取り書き始める。]
新米修復家 キュー
[それから、しばらく滞在していれば、きっと、いろいろな話が舞い込んでくる。
そのなかには、狂気の戯曲に関しての一連の騒動だったり、とか。
そんな話も、もしかしたら、あったかもしれないけど。
その日は、ちょうど、僕宛の手紙…？がチノホシから届いていて。
僕はちょっと開け方に悩んでから、いつものように、それを広げた。]
新米修復家 キュー
[それは、シェルタンからの手紙だった。
この銀河中の惑星を、ぜひ、旅してみてほしいということ。
それから、ヘイヴンのほうでも、ちょっとした変化があったこと。
もしかしたら、一座に復帰して、良い知らせができるかもしれないこと。
そんなことが書かれている。
もし、そうなったら。
いつの日か、どこかの星で君が舞台に立っているのを、見れるかもしれない。
いつの日か、渡り歩いた星々のはなしを、語り合うこともできるかもしれない。
そうなったら、いいな。
いつか、の約束が、もう、ずっと近くにある気がして。
手紙を読む手が、止まった。]
新米修復家 キュー
[手紙を握る手が、ぐしゃり、それをくしゃくしゃになるまで、握りしめる。
何が書いてあるのか、わからない。
いや。
わかりたく、なかった。]
新米修復家 キュー
[うそだ。そう思いたかった。
でも、そんな嘘なんて、吐くはずがない。
それも、ぜんぶ分かってる。
それでも、認めたくなくて。
また、話したかった。
もう一度、会いたかった。
ただ。ただ信じたく、なくて。
そんな、どうしようもない、"僕"の我が儘が、心をいっぱいにしていた。]
新米修復家 キュー
[いつの間にか、すっかり手の中でぐしゃぐしゃになってしまった手紙を、また広げる。
そこにあるのは"彼"の言葉。
でも、ぜんぶ、僕を想って紡がれた言葉だった。
"彼"も、きっと、気が気じゃなかったはず。
それでも、伝えてくれたんだ。
そう思った。
"彼"への手紙を書きたかった。
ぐちゃぐちゃな心のまま、ぐちゃぐちゃに書き綴って。
それでも精一杯、想いを込めた。]
新米修復家 キュー
[それを投函してから。
僕は、ヘイヴンに行くことにした。
買った本を引っ張り出して、ヘイヴンへの道筋を確認する。
それから、なん日もしないうちに、ヘイヴンへと向かう宇宙船へ飛び乗る。]
新米修復家 キュー
[出航の合図が響く。船のなか。
去っていく星々に君を想った。
カナリアの王子の寝物語。
いつか、の夢のはなし。
君がくれた思い出のこと。
それから。
この航海の果て。
見知らぬ世界から。
ずっと手紙を届けてくれた。
きっと、"これから"出会う、"君"のこと。]
新米修復家 キュー
[船は星の海を掻き分けて。
いまだ、見ることも叶わないくらい、彼方にある星を目指しながら、宇宙へ漕ぎ出していく。]
青年 シャト
[ハーフィズとのやり取りから、更に三日が経った。
僕が勤務の傍ら、身体と精神の健康診断を受けたり、出星に必要な手続きをしている間に、彼は約束通り、出星許可をもぎ取ってきてくれた。
休暇申請に対しては通ったものの、ただの旅行というわけにはいかず、今回の僕の旅は他星の調査を兼ねたものになるらしい。休暇というより出張だね、と僕がいうとハーフィズは笑ってこう答えた。]
『アルカディアはある意味、一つの生命体だ。それぞれが各々の役割を果たすことで星を健全に保ち、回してる。
割り振られた役割を放棄して外に出ていくなら、戻ってきたところで居場所があるか分からないからな。戻ってくるつもりなら、外でも仕事はしてもらう。』
[彼の言葉にも態度にも、僕を引き留めようとする意思はもう感じなかった。
その言葉には思いやりがあった。彼は僕を助けてくれたし、力になってくれた。
>>19>>20 あのとき、無期限の自宅療養になるはずだった僕が、療養しつつも仕事を続けられたのは上司である彼が計らってくれたからだ。
もし職を失っていたら、外界との接触がない分、もっと塞ぎこんでいたかもしれない。]
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