3 ― 星見る手紙 ―
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青年 シャト
ー 流れ星と少年、その追憶 ー
[沢山、沢山、手紙を書いた。
君に知ってほしいこと、君と別れたあとのこと。
寒い時季の終わり、身を切るような寒さに耐えながら夜空を仰ぎ見ると、流星が見えること。一つ所に留まらない星の見せる輝きは、君を思い出させること。
暖かになると、花が咲くこと。君と出会った公園で咲く花は、夜に薄ぼんやりと光ること。灯りに惹かれた虫たちが、花粉を纏って同じように光り、花になろうとしているみたいだと感じたこと。
温もりを与えてくれる陽射しのこと、頭上に輝く星がアルカディアの皆に平等に恵みをくれること。偉大だけど、誰も側に近寄れなくて、ちょっと寂しいんじゃないか、なんて考えたこと。]
青年 シャト
[他にも沢山、沢山書いた。感じたことを作品にした。
様々な星の間を駆けて人々の心を繋ぐ、流れ星の女の子の話。
美しい女性に恋をして、少しでも見合う相手になろうと努力する心優しい妖精の話。
偉大な力を分け与えて、人と土地を育て、決して触れあうことはできずとも皆に慕われている不思議な男の子の話。
小さな気づきが、作品を作るきっかけになった。
君とのやり取りが、新しい気づきを得るきっかけになることもあった。
毎日がきらきらと輝いて、美しくて、楽しかった。]
青年 シャト
[でも僕は思うんだ。ずっとどこかで分かっていた。
アルカディアに住む人たちの評価だけが全てじゃないとは思うけど、僕の物語が現実味に欠けるのはその通りだって。
だって僕は何も知らないんだ。
夢が虚像じゃないとは信じていても、現実にならないなら、それは夢でしかない。
夢には重みがある。血が通うことを僕は知っている。現実になった瞬間を見たこともある。
でも、ただ見ているだけなら、それは現実になってはくれない。
夢の中を生きるんだ。
息吹を知り、土地を知り、人を知るんだ。
そうした経験が、きっと僕を、僕の作品を生かしてくれるはず。
だから、僕は。]
青年 シャト
[アルカディアはとても便利で豊かで平和な星だ。
そう言われ続けてきたし、外を知らない僕は本当のところを知らない。
僕は思う。それって本当に現実だと言えるのか。
全てのものに評価をつける、この星の評価は一体誰がつけたのか。
外を知らないからこそ僕は知っている。
この星の評価は、この星の住人の願望からつけられたものだと。
それって自分に都合のいい夢を見ているのと何が違うんだろう。]
青年 シャト
[アルカディアは誰もが活躍できる星だ。能力で役割が割り振られるからだ。
アルカディアは争いのない星だ。評価のために人に優しくあろうとするからだ。
アルカディアは恵まれた星だ。比較される他星と関わらなければ、確かにそうだ。
与えられるものに満足していれば、幸せでいられたのかもしれない。
希望を知って、友人ができて、憧れを抱いて、外の世界とふれあう度に、自分の知る世界が窮屈に感じるようになっていった。
いや、それ以前から感じていた違和感が形になっただけだったのかもしれない。
自分から何かを求めない人生が、本当に幸せなのかって。]
青年 シャト
[能力を重んじるアルカディアは、僕にとっては辛いことが多かった。皆優しくしてくれても他の人との差は歴然で、だから僕は、皆より出来ないと分かっていても、それでも夢を見たくて筆を執った。
与えられた幸せでなく、自分の好きなことで幸せを掴みたかった。出来がいいとか悪いとか、評価なんて置いといて、ただ僕が僕であることを受け入れてほしかったんだ。
アルカディアを愛していたかった。どんなに窮屈で、僕がこの星で生きるのに向いていなくても。
たった一つの生まれ故郷で、沢山の思い出があるこの星を、愛していたいから。
自分の意思で、確かめたい。別に銀河で一番素晴らしい星でなくていい。
心から好きだと思えるところが、一つでも見つかればそれでいい。
もう、何も知らないまま、愛しているとは言えない。]
青年 シャト
[一通の手紙を認める。迷いながら。それでも君に伝えておきたいと思ったから。]
ごめん、ステラ。
[今の君にこんな手紙を送ることが、傷つけるかもしれないと分かっているのに。
それでも、何も言わずに留守にすることはできなかった。]
青年 シャト
[手紙を出して、休暇申請と出星許可証発行の申請を行って。
霜が降りそうだという連絡を同僚から受け取って、僕は寒さに弱い植物たちの対策を行うために公園へと出ていった。]
青年 シャト
[その日の夜、暖かくなっていくはずのこの時季に、霜どころか大雪が降った。まるで極寒期に逆戻りしたみたいに。
息をすれば肺まで凍りつく冷気に、旅人も僕たちも関係なしに家で大人しくしているしかない。宇宙船だって、これじゃ飛べない。
白く塗り込められていく外を窓越しに眺めて、アルカディアが泣いているみたいだとぼんやりと思った。]
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