情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
…隅の方に 走り書きがある。
拙い文字。けれども君のための文字。
ずっとのうそ は だれのため?
[手紙の封筒や便箋の素材、筆記に用いられたインクや字体は、前回の手紙と変わりない。
封筒に宛名書きが特に記されていないのも、前回と同様。]
Dear G.
おはよう、ガード。
(署名に泥か何かが滲んでしまっていたため、
貴方のお名前のうち、読み取れた箇所だけで
お呼びすることを、どうかお許しください)
私の手紙へのお返事と、物語の続きの断片を
送ってくださったことに感謝します。
貴方からの言葉と物語に私が気づけたことを、
あの物語に、物語の書き手に、そして貴方に
喜んでいただけたのなら何よりです。
先日の手紙で物語の感想をお送りした時には
恥ずかしながら失念してしまっていたのですが、
私は以前、根源倫敦の街を訪れた際に
あの物語の書き手にお会いし、
その方の作品を拝読したように覚えています。
その際手渡された冊子はまだ試作品の段階で、
結末についても未定のようでしたが、
それでも、誰かに伝えてほしい、とのことで
書き手の作家から草稿を預けられた記憶があります。
私自身はその時、書籍の買い付けのために
根源倫敦を訪れていた訳ではなかったのですが、
直に頼まれてしまった以上は断れないな、と
作家先生から原稿用紙を一度お預かりしました。
その草稿が丁度、貴方が送ってくださった、
札束泥棒のエピソードだったように覚えています。
“能力”無き倫敦が舞台であるにも関わらず、
札束に爆弾を仕掛けるのは流石に無理がある――
そう頭では考えてしまうのですが、それでも、
非現実的なトリックに不思議と現実味を感じさせる、
読者を魅せる筆力を、当時感じたものでした。
今思えば、突飛もないトリックだけでなく、
荒唐無稽に思える物語自体も、
どこか不思議な面白さを感じさせるものでしたね。
勿論、草稿はあくまで草稿でしたから、
原稿用紙は作家先生に一度お返ししました。
あの後、単行本が実際に発売されたなら
書籍の買い付けのために、再び根源倫敦に
足を運ぼうかと考えていたのですが――
実際にはその機会は得られず仕舞いでしたね。
さて、私のほうからお送りした物語への
感想をくださり、ありがとうございます。
“綺麗”の前に“汚い”想いを隠すことが
「貴女」には上手くできない、ということだけでなく、
「私」の器用さはそんな「貴女」の為のもの――
そのことまで貴方は読み取ってくださったのですね。
相手の為に、という想いゆえに、
笑顔の嘘を鎧として着込み続けてしまう――
笑顔に限らず、何かしらの嘘の鎧で
自らに重しを掛け続け、沈んだ果ての苦しみを
貴方は既にご存じなのでしょう。
ここで正直に種明かしをしますが、あの物語は、
私自身の経験を基にして書いたものです。
「私」はそのまま私のことであり、
「貴女」は不夜城の地で私を助けた恩人のことです。
(正確には「人」ではなく、古来からの森に生きる妖精ですが)
それ故に私は、貴方がこの物語に寄せた感想を、
私自身と恩人のこととして受け取りました。
貴方がくれた感想、そして忠告のお陰で、
これまで恩人の前で抑えていた“汚い”願いを、
思い切って打ち明けることができました。
その結果、彼女自身の願いをも知ることができ、
また、彼女の前では笑顔を取り繕わずにも
いられるようになれた、と感じています。
私の出立が差し迫っていたこともあり、
決して多くを話し合えた訳ではありませんが、
彼女とは手紙を通じて、これからも、お互いに
様々な話を交わしていけたらと思っています。
私が「正直に、隣にいてあげたい」相手は、
彼女だけでなく他にもいますが――
多くをここで書いてしまえば、この手紙を
更に冗長にしてしまいそうでしたから、
これについては、また別の機会にお話できればと思います。
あの札束泥棒の話ではありませんが、
己が纏い続ける嘘が、己だけでなく、
他の誰か、愛する誰かの命や心までも
失わせることもあるでしょう。
一度染み付いたものを自ら拭うのは
決して容易いことではありませんが、
それでも、自分が助けたい相手の前では
己の弱さも苦しさも、過ちも、
曝け出せるように努めてみます。
自分から嘘の鎧を脱がなければ、
相手のありのままの怖れや辛さ、無念、無力、
それらに触れることすら、叶わないでしょうから。
最後に、ひとつだけ貴方にお伺いします。
それこそ、ここで思い抱いてしまったことを
下手に隠して取り繕ってしまうよりは、
たとえ誤りであっても、ここで正直に
打ち明けた方が良いと考えて。
貴方は、かつて私に
『ウィラード・ヴァンダインの探偵事件簿』の
試作品の原稿を預けてくださった、
「ハーヴィス・ガードロイド」さんで
間違いありませんか?
マーチェンド
インクにしては妙に茶色い、
粘性のある物体が
拙い文を描いている。
こ んばんは。
だれ か そこに います か。
ここは しず か な うみ。
いまは あめが ふ り やまぬ しま。
かみ なり が なります。
あめが せ かいを しろく します。
いつ も は しずか な うみも
いまごろは きっ と あらしの うみ
この あ らし のはて に だれ か いますか?
■ は いま きのあなのなか に います
きの あなのなか で これを かきます
■は どろ から う まれ た ものだから
きれいな みず が にがてだから
さわれ ないから にげて にげて ここにいます
にげた から あんぜ ん です
あなたの いるところ は あんぜんですか
あらし は よくないじ けんを
おこします から
あなた の いるば しょに あらし が
あり ま せん ように
■ は ■■を ■■■■ほしく ないので
■は ものがたり を おくり ます
ものがたり を ■■にみて ■■■て
きづい■ほ しくて
■を■■れないで ほしいので
なの で あなた にも
ものが たりが とどくと うれしいです
メッセージの裏側には物語が書かれている。
どうやら、裏側の文字を書いた人とは違うようだ。
「ぜえっ、はあっ…!う、ウィル!あなた一体何をやらかしたんですか!!!」
「まてまてっ…!!! 私はただ酒場で聞き込みをしていただけだ!!!何もしてない!!!」
たくさんの暴漢に追い立てられながら、
ふたりは何度も曲がり道を曲がり、追手を振り切ろうとする。
全く、おかしい。何に彼らがおこっているのか
わからないままにげていく。 たとえば 今の探しびとに何か?と思うところもあったが…それにしてはわけもわからず追われている
…紙の隅に走り書きがある
な ぜか いきる だけで
じけん におわれ る ものが いま す
じけん から かくれる ために
にげるのは ずる でしょ うか?
電子書簡を紙媒体の手紙にするサービスを経由して封書の住所に届けられた手紙だ。
住所と個人の連絡先に紐づけられていれば、個人が持っている通信機器に電子書簡が届くかもしれない。
『蓬儡様へ
初めまして、ベアーの友人です。
この度はベアーの招待状に返信をしてくださりありがとうございます。
現在リジェットXはステアと呼ばれる混沌嵐のため定期船が動かず、手紙のやり取りができない状態にあります。
この手紙は紙媒体変換サービスを使用して送っています。
これは文通をしたいというベアーの意志を介さない、ベアーの友人としての個人的な手紙です。』
『ベアーは絵本とぬいぐるみが欲しいと言っていました。
ベアーは最近ようやく簡単な読み書きができるようになったばかりです、ヒューマンの子供が読むような絵本ならきっと喜ぶと思います。
蓬儡様がリジェットXに来てくれることをベアーは大変喜んでいます。
楽しみにしていた文通ができない状態でありながらも、ステアが終わったら手紙を書くと、とても楽しみにしています。
そこで、もしリジェットXに来られるときには手紙で行く日時を知らせるのではなく、この手紙の連絡先にこっそり教えて貰えないでしょうか?
ベアーをびっくりさせてやりたいのです。
厚かましい申し出だと思いますが、何卒宜しくお願いします。
ベアーの招待状に返事をくれたあなたが良き人だと信じて。
ベアーの友人より』
マーチェンド
この手紙を読んでる時は、何処か遠い空の下でしょうか。
余裕なんてないかもだけど
どうしても、あなたにお礼が言いたかった。
だから、ペンを取りました。
昔の事を思い出して、沈んでいたから
遠くにいるあなたが、私の事を気遣ってくれて。
とても、救われる気持ちになりました。
あなたと出会ってから。
あなたが沢山声をかけてくれたから
私はとても救われました。
近くにいる人たちも気を遣ってくれるけれど。
でも、遠くにいる人が心配をしてくれた事。
案じてくれる人がいるという事。
それを教えてくれた事。
死んでしまった仲間たちもきっと
あなたのように私を案じてくれているのだと
そう思えたら、涙が出るくらいに嬉しかった。
本当はもっといろいろ書きたいけれど。
言葉が、思い浮かびませんでした。
あなたの船がどんな壮麗な威容になったのか
会える日と一緒に、楽しみにしておきますね。
イオニス
「 もしもわたしたちをおぼえているひとが
だれもいなくなったならば
それはなかったのとおなじでしょうか 」
何かにくっついて来てしまったのか、
端に血痕のついた弱々しい筆致のメモが
ひらりと一枚、落ちていた。
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
[抽出解除]