15 Mystic Letters ― ヒトとアヤカシの手紙 ―
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【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
[今回の便箋は和便箋ではあるが、どちらかといえば愛らしい印象を受ける。
鳥の子紙であるのは前々回と同じだが、前回より少し赤みの加わった灰梅色。
左上に紅梅と、それに留まるシマエナガのイラストが描かれている。
シマエナガは“雪の妖精”と呼ばれているようだと知った為。
妖精であるという彼を連想して、つい買い求めてしまったのだ。
便箋は便箋と同じ材質と色で右下端に梅の枝が描かれている。
貼られている切手はお汁粉のイラストだ。
彼の貼ってくれたマグカップのイラストに似たものを探していたが、和便箋との相性を考えてこれにした。]
【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
雉笛の君
今日は雪晴れの空がすがすがしく、寒いながらも気落ちのいい朝を迎えました。
お元気でお過ごしでしょうか。
こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
前回の手紙が届いた頃は、書店の方はお忙しかったでしょうか。
ありがとうございます。
もし時間が合えば、その時には直にお会い出来たらいいですね。
一応、私の写真は幾らか出回っていますが、名乗らなければ、きっと只のお客として終わる自身がありますよ。
帰りの時にでも、店長さんにお礼を差し上げる事が出来ればいいなとは思っていますが。
【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
えぇ、そうなのです。
意識が芽生える前から墨の香りを嗅いできたので、それが恋しくなってしまうのですよね。
持ち主の方が大切に扱ってくれたから今の私がある、と言っても過言ではありません。
今程サイクルが短くないにしても、魂の宿らぬ前に壊れてしまえば、付喪神にはなれませんから。
異国物は描いた事がないのですが、いずれ書いてみたいですね。
資料集めから入らなければいけませんが。
その時には、色々と聞かせて頂いても良いでしょうか？
海の方は大らかで、こういう異界があってもいいと言って下さいましたよ。
お住まいの近くの潮の流れや、訪れる魚の種類が変わりつつある事なども教えて頂き、とても勉強になりました。
【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
一人で取材に行く事が出来ればいいのですけれど。
私的な旅行としてであれば、足を運べるだろうと思いますが、今度、担当さんに聞いてみます。
此方の国では、確かに神隠しの方が有名ですね。
昨今では聞かなくなったのは、アヤカシが素性を隠して住むようになった時期と重なる気がします。
無闇に騒ぎを起こしては安住の地を追われる羽目になりますし、駆除対象となってしまう可能性もあり得ますので、余程起きないでしょうね。
共に生きてきた時代を覚えているからこそ、今の状況は寂しくもありますね。
エッセイですか。
異界で本を作る事が出来るなら、書く事は出来るかもしれませんね。
あるいは、別のキャラクターに私を投影して、という形であればこちらの世界でも実現できるかもしれません。
貴方が知りたいと思えば女王様に聞けば良いですし、そのままを望むのであればそれでも良いと思います。
どちらを選んだとしても、貴方は貴方だと思いますので。
【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
いえいえ、作品を読んで貴方が感じた事は貴方のものですので、どうぞお気になさらず。
あそこは航の勇気を表すシーンとして、帝が彼を気に留めるシーンとして描きましたが、女性である乙姫が自分の夢を叶えたいと思いを肯定する事も描きたかったのです。
担当さんのお話を聞いていると、結婚や出産を機に仕事を辞める方も多いようで。
職場に復帰される方も、望むような仕事を出来ないという場合があるそうです。
ひと昔前であれば海神の孫娘という立場であれば、婚姻を求められるのは当たり前でしたが、今の時代なら夢を追い求める事を肯定されて、応援されていいのではないかと。
貴方も航と同じように、望む事を選べていたなら幸いです。
【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
昔の貴方の話を想像すると、一体その時にどんな事があったのだろうと思いを巡らせてしまいますが、
今の貴方が良い環境に恵まれているようで良かったです。
ですが、どうか無理はなさいませんよう。
愚痴を零せる相手がいらっしゃるなら吐き出して、抱え過ぎないで下さいね。
適度に気を抜ける方が、踏ん張りも聞くものです。
ありがとうございます。
数百年生きておりますと付き合いや伝手もそれなりにありますし、古くから生きる先達として何かの助けになれればという、只それだけですよ。
私自身に大きな力があるわけではありませんので。
【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
きっと薄れゆくものを留めておきたいから書くのでしょうね。
紙に書けば、適切に保管されれば千年先にも残りますから。
私が書くのはフィクションですが、仮にも歴史に関わるものを書いている以上は、明らかな誤りがあってはいけないと思っています。
龍宮シリーズは、幾つかの時代が交じり合っているので資料も多いです。
調べ物は好きなのですが、うっかりすると空が暗くなっている事もしばしばで。
えぇ、昔はもう少しゆっくりだったのですけれどね。
航のような客人達はいますが、物語の設定上、現代社会から切り離されている分、流行を意識しないで済んでいます。
【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
お客さんの許に本が届いたようで何よりです。
第五巻を読者の方がどう受け取るかは、私も少しどきどきしております。
本は逃げませんので、お時間のある時にでもゆっくりと。
今回は三柱の海神を取り入れて貰ったのですよね。
彼らは龍宮の住民ではないので、これまでと異なった雰囲気を醸し出しているのではないかと思います。
もしよろしければ、感想を頂けたら嬉しいです。
寒さもこれからが本番です。
体調を崩さないよう気をつけてお過ごし下さい。
添木芳文
【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
追伸
御明察です。
丁度、干支のものがあったのでつい購入してしまいました。
この民芸品を作っているところは何処だろうと、調べるのも楽しいですね。
それで疲れが癒されたのであれば何よりです。
ですが、くれぐれも無理はなさらず。
輸入品のポストカード、どうもありがとうございました。
早速、家に飾らせて頂きました。
窓の中に書かれた四葉のクローバーがとても愛らしいです。
それに、書いてある言葉も素晴らしくて。
良い友人と出会えたなら、それは宝ですので大事にしなければいけませんね。
この数百年で親しくさせて頂いているアヤカシも幾人かいますが、新しい友人が出来たらと思っていまして。
もしよろしければ、私と友人になって頂けたら嬉しいです。
【秘】 【妖】 作家 添木(ソエギ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
[封筒の中には二枚の写真が入っている。
そこには、取材に行った際のワダツミの総本社の近くの風景。
そして壇ノ浦の海を遠景で撮ったもの。]
【秘】 【人】 女将 大祓(オオハラエ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
拝啓
凍てつく北風に、しんしんと降り積もっていく雪。
この寒さの中でも貴方様との一枚を見れば
暖かな陽気の春の匂いが戻ってきます。
優しく笑う貴方様のその顔も、声も。
写真はその時その時を切り取り 残すものといいますが
切り取って残っていくものは 表面に見えるものだけでなく
記憶に、心に残っているものなのかもしれません。
【秘】 【人】 女将 大祓(オオハラエ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
時が経つとその記憶が擦り切れ 褪せていくもの。
りょうまさんはお若そうだからいいのだけども
私のような婆になりますと
褪せた色の記憶を辿ることさえ難しくなっていきますから。
こうやって見ては思い起こし、 その時を〝視る〟。
視て、残すことができる写真というものはほんによいものです。
また、りょうまさんがこの民宿に帰ってきたその折
その時は、どんな写真でございましょうかね
楽しみでございますよ
ええ、小説に雑誌……雑誌は少しばかり古いものですが。
小説は短編小説や推理小説。
他にも、一昔前の様相ですが幻想的なお話
———『龍宮シリーズ』とかも置かせて頂いています。
是非、景色を見ながら一緒に本を読みましょう。
【秘】 【人】 女将 大祓(オオハラエ) > 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
風邪を引かないのは 丈夫な証拠。
ですが、貴方様のおっしゃる通り
身体を温めることで気持ちも疲れも安らぐことができますからね。
冬解けのその日が待ち遠しいですね。
何時でも、此処でお待ちしておりますよ。
かしこ
【秘】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ) > 【人】 学生 蛍籠(ホタルカゴ)
[切手の絵柄は冬らしく、雪降る室内に灯るキャンドル。
けれども封筒は春の意匠で、薄紅色の紙に淡い緑色の葉が描かれたもの。
便箋に使われている紙は封筒の葉模様と同色の淡い緑色で、やはり封筒の地と同色の薄紅の桜花が描かれている。]
【秘】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ) > 【人】 学生 蛍籠(ホタルカゴ)
蛍籠
お手紙ありがとう、蛍籠。
猫の切手だけでなく絵も楽しんで貰えて良かった！
干支のモチーフが手元で見つからず、
それでボクなりに表してみたものだったんだ。
二匹の柴犬、凛としながらも可愛かったよ。
犬に親近感を覚えるのはボクが狩人だからかな。
今は住まいの事情もあって犬を飼えないけれど、
思わぬ形で手元に送って貰えて嬉しかったな。
女王様の元を発ってからそれなりの時が経ち、
今どのようなご様子か、とボクも思うところ。
あの方にも、この人間界から手紙を
送ることが叶えば良いのだけれど……。
【秘】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ) > 【人】 学生 蛍籠(ホタルカゴ)
大祓さんの宿に蛍籠も泊まったことがあったんだね。
まさかの偶然に、思わず声を上げてしまったよ。
ボクが見たアルバムの写真の中にも
アナタの姿があったんだと思うと、
もう一度見返したい、ってすごく気になるよ！
そういえば、ボクが泊まった時にも、
小さな女の子がいたような気がしたけど……
ボクの見た目が大人の男性だったからか、
その子に声を掛けられた覚えがないんだよな。
次の春にもう一度、大祓さんの民宿にさ、
帰ろうと考えているところなんだ。
（帰りを待っている、とあの人は伝えてくれた！）
その時に、あの子ともちゃんと話ができたらいいな。
多分、ボクが言うまでもないことだと思うけど、
女将さんはきっと蛍籠の「帰り」も待ってくれてる。
アナタが宿で出会った子も、きっとそうだと思うよ。
【秘】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ) > 【人】 学生 蛍籠(ホタルカゴ)
疲れてしまう現状に慣れるのは悪いことだと
語る人もいるし、事実、そうである場面もある。
けれど、どうにか現実を受け入れることも、
自分や目の前の相手の為に必要な時がある。
今の蛍籠のいる場所は後者なんだろう、と思う。
それでも未来を思い、小さなところから、
自分はこうであるよう勤めていこう、という
アナタの言葉に触れて安心した。
その思いもまた、今この世界を生きるための
支えになれる筈って、ボクは信じているよ。
【秘】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ) > 【人】 学生 蛍籠(ホタルカゴ)
そういえば妖精界の雨の話、ちゃんと書いてなかったな。
一過性のこともあるし、断続的に繰り返しもする。
ボクら妖精には気まぐれなところがあるのだけど、
雨の降り方にも少し似ている節があるかな。
そして労わりの言葉、ありがとう。
次の梅雨の時は、覚悟して頑張ってやり過ごすよ。
そしてお褒めいただいて鼻が高い……なんてね。
おにぎりを作るのが一番簡単だったから、
今のところは昆布おにぎりのお弁当ばかりかな。
サンドイッチも作れるようになってみたいけれど
綺麗な形に切る自信はまだないな……。
【秘】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ) > 【人】 学生 蛍籠(ホタルカゴ)
それと、心配かけさせてしまって、ごめん。
あまり大きな声では言えないのだけれど……
つい去年に、悪いアヤカシを狩る人間に
狩られて死にかけたことがあったんだよ。
もっとも、様々な方面のお陰で命は助かったし、
どうにか駆除の対象からも外して貰えたから、
今はもう、心配することは何もない。
傷も癒えはしたけど……身体、大事にするね。
本当のことを言うと、ボクの本質はあまり、
人間に対して善良とは言い難い。
側に長くいる人間の心を奪う……という性質は
確かに人の世の秩序からすれば好ましくない。
幸い、この性質を抑える道具を作ってくれた方のお陰で、
今は人間とも心穏やかに付き合えてる。
本当に、感謝してもしきれなくて……
【秘】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ) > 【人】 学生 蛍籠(ホタルカゴ)
だからこそ今、ボクの本性を受け入れてくれる
あの人の隣にいることも許されている。
そして、アナタと共に食べ歩きしたいって夢も、
罪の意識無しに見ることができるんだ。
蛍籠が頑張ってくれるのは心強いけれど、
ボクの迷惑にはならないよう、って考えなくて……
ううん、考えてくれてもいい！ だってそれは、
蛍籠がボクの為に頑張ってくれるってことだから。
だからボクも、蛍籠にとってのよすがでありたい。
アナタの手を確りと握りしめる、そのひとりに。
アナタがくれた手紙のなごり雪に相応しく、
少しずつ春に近づいている折。
暖かな日差しを待ち遠しく思いながら、願う。
これからも互いに幸を分かち合えるように。
雉笛の君
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