46 ― Blood on Letters ―
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【秘】 E：旋風 カペーシア > ギタリスト モーラ
NO LOVE♡ NO LIFE♡
ラブがなくしてこの世は始まんない♡
ラブいメイクに♡ メロい可愛さ♡
命は ラブで繋がれてるのです♡
届きましたゾッ！お前のラブが♡
熱いハートのモーラたや！
サイッコーの
ラブアンドピースだよ〜！！！
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
[以前と同じ種類の封筒と便箋、濃紺のインクを用いて
その手紙は送られる。
今度は切手もきちんと真っ直ぐに貼られており、
緑に覆われた山を背景に、岩場に立つ白馬を描いた
銅版画の絵柄のものが用いられている。
今度の筆跡は、畏まった調子の丁寧なブロック体。
直近の手紙程には乱れた文字にはなっていないが、
幾分かだけ柔らかな線の撥ねがみられる。]
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
グリッサ・エリクソン様
グリッサ様からのお手紙、二通とも嬉しく拝読いたしました。
先のお手紙は前回から間を置かないままとのご連絡とのことでしたが、どうかお気になさらず。
幾らか前に私から差し上げた手紙が無事に届いたとわかり、またフォルクハルト様宛のお手紙も送り返せたとのことで、安心いたしました。
まず、この度は私から休眠の報せでご心配をお掛けしてしまったことと存じます。グリッサ様からのお気遣い、痛み入ります。
幸い私の娘とベネディクトの尽力あって、何事もなく早期に目覚めることが叶いました。現在は幾らかの眠気こそ残っておりますが、問題なく復調しております。
あのティーカップとソーサーについてですが、王子殿下には内緒にとのことで承知いたしました。
普段は驚かす側の殿下が驚かされる側になる……というのも不思議な感じがいたしますが、グリッサ様からのサプライズであればきっと楽しんでくださるのではないかと私も存じます。
とっておきのサプライズの仕掛け人側の者として、私も楽しみにいたしますね。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
運命の方との再会の旅も、殿下にとっては希望の歩みなのですね。
人間にそれと覚られぬように旅を続ける苦難こそあれど、その方との出会いを求めること自体を苦しみなどと勝手に捉えてしまい、大変失礼いたしました。
諦められぬ苦しさを思ったのは私個人の事情からでしたが、今の私であれば、先の見えぬ闇にも可能性の光を信じることを、ただの憧れではなく自分のこととして捉えることができます。
王子殿下が運命の方と巡り合われ、その再会をグリッサ様が無事に見届けられる日が来ることを、私も信じております。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
さて、骨董品について旅路で学ぶにあたっては、携帯に適した専門書で学ばれるのが最も手っ取り早いかと存じます。
もちろん現場で学べればそれに越したことはありませんが、一般の参加が認められていない市場も少なくありませんし、殿下の御心と足が向いた先で蚤の市などが開かれているとも限りませんので……。
書籍だけでの勉強も、意外とばかにできないものですよ。
参考までに、下にお薦めの書籍を幾つか掲載いたします。
最近はオンライン書店でも本が購入できると伺っておりますので、今滞在されている場所の書店で取り扱いがなくとも入手しやすいかと存じます。
[この文章のすぐ下に、小型の専門書のタイトルが数点、
著者名・出版社名と共に記されている。
西洋の陶磁器や調度品を扱っている書籍が主だが、
中には東洋の陶磁器について触れているものも。
いずれも書籍の通販サイトで現在も購入可能なものだ。]
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
実のところ、私は元々、古美術や骨董に関しては素人でした。
ただ、人間だった頃に美術書や芸術誌の編集に携わっておりましたので、その業務を通じて幾らか知見を得てはおります。
当時学んだことを、今あらためて現物に触れて確かめていく感覚は、不思議と快いものですね。
あくまで私は古美術商のアシスタントという位置づけですが、ベネディクトも私が実地で鑑識眼を磨いていく様を、店主として喜んでくれているようです。
そのベネディクトですが、彼はどうやらこの世の吸血鬼全てを尊んでいるようでして……。
いつだったか、同胞のひとりが店を頼ってきた際に「パリピギャルであっても吸血鬼には変わりない。パリピとしての崇高な美学を感じる」などと息巻いて受け入れに応じたこともあった程です。
おそらく彼は、殿下の輝くような品格ある端麗さ、グリッサ様の実直にして心強き凛々しさ、それに私のことも、それぞれの形で「尊い」と感じているのだと推察しております。
本人に仔細までは訊ねておりませんが、彼に一度語らせたら幾夜掛かるか知れないのが恐ろしいところですね。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
ですので、彼が言うところの “永遠なる夜の貴公子” にグリッサ様も混ざっていて全く問題ないかと存じ上げます。
私としましては寧ろ、若輩の私ごときが王子殿下と並ぶことの方が畏れ多いのですが……殿下と長らく苦楽を共にされたグリッサ様から、殿下と並んでも遜色ない程の “貴公子” であると認めていただけたのであれば、光栄に存じます。
ベネディクトも度々私のことを貴公子だの何だのとは言ってきますが、私が忌避する役割を強いることまではしてきません。
信奉者の中にも信奉対象の意思を軽んじる者が少なくないといわれる中、こうしたパートナーに巡り合えたことは甚く幸運なことだと思っております。
次のご来訪の際には是非、ベネディクトにも直に挨拶してやってください。
彼もまた日々の精進を怠らずにその審美眼と交渉術を磨いておりますから、ご来訪の際はぜひ楽しみにしていただけたら幸いです。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
ところでグリッサ様にも、渇きに苛まれた経験があったのですね。その時の耐えがたさ、お察しいたします。
長い生の中で休眠にまで見舞われたことが無かったのは、運のみならず、その時々の局面を切り抜けるだけの力や仲間の縁がグリッサ様や殿下にあったからではないかとも推察いたしました。
私も今回の一件から己の食事の在り方を見直していますが、未だ結論は出せずにいます。
吸血ビジネスについても聞き及んではいるのですが……まずは窮地の際に助け合える “お仲間” との縁を広げることが先決かと考えているところです。
グリッサ様が謝罪されたのがもし私の妻のことでしたら、こちらこそ、どうかお気になさらないでください。
妻のことが微かにぶり返したのは事実でしたが、そもそもあの手紙はフォルクハルト様宛のものだったのですから。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
それに家族のことについては、あれから少しだけ、心境の変化を得ることが叶いました。
手紙の冒頭でも少しだけ触れましたが、先日、娘のカレンと再会いたしました。
仔細は語れば長くなるため割愛いたしますが、娘が偶然XXXXX市を訪れ私を発見したことで、望まぬところで休眠に至った私が無事に目覚めることが叶いました。
私が吸血鬼として蘇ったことも、彼女は受け入れてくれました。
妻のジェニーとは未だまっとうな形では再会できておらず、言葉を交わすこともできておりません。
吸血鬼としての己を彼女の前で曝け出すことにも、未だ抵抗があります。
それでも、ハロウィーンの夜にこの世に戻ってくるただの亡霊として、彼女の元に帰ろうと考えています。
こう考えることが叶ったのも、私の背を押す言葉を届けてくれた “お仲間” たちがいたからです。
本当に、仲間の縁とは掛け替えのないものですね。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
心赴くままに書き綴ってしまい、乱筆乱文となったことをお許しください。
殿下とグリッサ様のご来訪を、気長に、楽しみにお待ちいたします。
その際にはもちろん、元気な姿をお見せいたしますよ。
ヴィブラト
P.S.
グリッサ様が選んでくださった切手、いずれも楽しく拝見しております。
初めに頂いた燕の切手も愛らしいものでしたが、三脚の青銅に山水の水墨画、かの画伯の作品と、此方の土地柄に合わせてお選びくださったものでしょうか。私はこの地の出身でないながらも、親しみを感じて嬉しくなりました。
私からもこの度、手元にあった中から切手をお選びいたしました。この手紙が届く頃にまだ△△国の✕✕にいらっしゃるか判りませんでしたので、王子殿下とグリッサ様、お二方のどちらの雰囲気にも沿うと感じたものにいたしました。
お気に召していただければ良いのですが……。
思えば、妻からも「編集者じゃなくモデルだったら良かったのに」などとよく言われたものでした。
あの当時から容姿に触れられるのはこそばゆいものでしたが、妻に写真を撮られるのは、不思議と快かったものですね。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > Am：朋義 グリッサ
P.P.S.
ベネディクトの審美眼についてのグリッサ様からのお褒めの言葉に、彼は「墓」とだけ申して倒れておりました。
彼なりの至上の喜びの表現でしょうが、確かにこれは、殿下やグリッサ様の前ではお見せできませんね。
【秘】 Am：朋義 グリッサ > E：旋風 カペーシア
[封筒と便箋は、デザインは似ているが少し青みがかった灰色のもの。
便箋には蒼褐色の罫線が横に走っている。
封筒に貼られた切手は、緑色の薔薇をモチーフとしたものだ。
濡羽色で綴られる言葉は前回と同じく、落ち着いた調子であるように努めた。]
【秘】 Am：朋義 グリッサ > E：旋風 カペーシア
カペーシア嬢
こちらもお返事を下さり、ありがとうございます。
コミュニティと連絡を取れたようで安堵しました。
やはり、治安は気になりますよね。
私の情報が役に立ったなら何よりです。
貴女の肌に合うかどうか、やり取りを通じて温度感を確認して頂いたらよいかと思います。
引っ越しをされたのですね。
業者を頼ったとしても、お一人では作業が大変だったでしょう。
誰かに力を借りるのは大切な事です。
その手が多い事に越した事はありません。
(いつか貴女の力を借りる事もあるかもしれませんね)
【秘】 Am：朋義 グリッサ > E：旋風 カペーシア
吸血鬼の身には、そういった問題がありますよね。
同胞の共通の悩みの一つです。
主と私の事について、そう言って頂けて嬉しいです。
誰に何を言われようと貫き通す心算ですが、自分の核のようなものですので。
それを認めて頂けるのはとても有難い事です。
コミュニティ巡りの旅も楽しそうではありましたが、貴女は自分の想いに向き合う事が出来たのですね。
貴方が貴女の大事な物を、想いを大事にしていく事を選択出来た事、喜ばしく思います。
会える相手とは、今のうちに会っておく事をお勧めしますよ。
彼らとの時間をどうぞ大事になさって下さい。
【秘】 Am：朋義 グリッサ > E：旋風 カペーシア
これから沢山の人間や吸血鬼と話して、考えるとよいでしょう。
別に、真直ぐに進まなくても、回り道をしてもよいと思います。
それが貴女の道となるのでしょうから。
貴女が笑顔で人間といっしょに生きられる方法が、見つかりますように。
そう、願っております。
もし悩む事があれば、私でもよろしければ、ご相談下さい。
グリッサ
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > E：旋風 カペーシア
[以前と同じ封筒と便箋、濃紺のインクの筆致で、
その手紙は送られる。
切手の柄は、東洋の花鳥画のタッチで描かれた幽霊図だ。]
カペーシア・ウィールウィンド
こんにちは。
この前の手紙への返事、ありがとう。カペーシアさんも何かと忙しい中で手紙を書いてくれたのだと思う。
あれから少し間が空いてしまったな。君を待たせていないといいんだが……。
君にしてみれば大したことなくとも、俺にしてみれば大きなことだった。
嫌いなものは嫌い、好きなものは好き。そのくらいに単純明快に自分を貫くこと……「ギャルマインド」と言うんだったか。 もし違うようならオッサンの戯言と笑ってくれ。
そうした心意気が人を、吸血鬼を、世界を動かすこともあるってこと……なんて言えばまた小煩いオッサンみたいになってしまいそうだが。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > E：旋風 カペーシア
それでカレンへの手紙なんだが、「無事に届いた」と本人から直接手紙を見せられた。
というより、手紙が届く前に、もう既にあの子は俺を見つけていた。
この辺りの経緯は少々ややこしい（正直、俺も少し頭がこんがらがっている）ので、「カレンと直接会うことも、手紙を届けることも両方叶った」とだけ理解してくれればいい。
叶ったのはもちろん、「うまくいく」のほうもな。
あの子は本当に、俺から手紙が度々届いたことで「実は父は生きている」と信じるようになっていたらしい。
励みになるどころか生きてるかもとすら思えるなんて、本当に、君が書いてくれた通りだったよ。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > E：旋風 カペーシア
そうだな。俺にだって、自分とジェニーのどちらがよりショックを受けてたかなんて分かりやしない。分かりやしないからこそ、あの人とすれ違い、溝ができたままになってしまった。
蘇生と化物になることが必ずしも同じでないことも、無残な姿にさせられながら息が続いてしまい得ることも（これは俺も解ってなかったんだが）、今更俺の口からジェニーに伝えても聞いてはもらえないだろう。
カレンは吸血鬼として「生きている」俺を受け入れてくれたが（前々から「吸血鬼かも」と突き止めていたらしい）、ジェニーにはそんな形での生存も受け入れられないかもしれない。
俺自身、血を求める怪物としての今の自分をジェニーの前で見せたくはない。あの人に拒絶された当初はまだ、自分が本当に怪物だなんて実感してなかったんだがな。
（カペーシアさんや他の “お仲間” のことまで「怪物」だと言っている訳じゃない。これは、俺自身の問題だ）
だから俺は、あの人の前では、未練のために彷徨う亡霊でいい。
いや、ハロウィーンの夜にだけこの世に戻ってくる亡霊でいい。
せめて一夜だけでも、互いの未練を晴らせればいい。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > E：旋風 カペーシア
君もそんな、泣きたいほどの未練を、たくさん重ねて、抱え込んで。
ここまでずっと、生きてきたんだろう。
カペーシアさんの元にも、いつか友達が元気な頃の姿で、一目だけでも戻ってきてくれると信じている。
「信じる」なんていうと、まるで確証があるみたいな言い方になっちまうが、そのくらいの思いを重ねれば叶うこともあるんじゃないか。カレンとの手紙みたいにな。
【秘】 C＃m：宵月 ヴィブラト > E：旋風 カペーシア
生憎今の俺には、「当時の元気な姿」で会いに行くことはできそうにないんだが……まあその方が「亡霊」らしくて良いのかもしれないな。
「狐は千年修行すると尾が増える」なんて話もこの辺りでは聞かれる話だし、俺もそのうち他の吸血鬼みたいに姿を変えられるようになるのかもしれないが。まあそれはさておいて。
そういう訳で、俺はちゃんと家族とうまくやっていくさ。
幸いカレンとは電話もメールも繋がるようになったから、これからも何かと遣り取りを続けていけるだろう。たまにはまた、ゆっくり手紙を書きたいとも思うんだがな。
あとはジェニーのことだけだが、かわいいカペちゃん様に友情出演でご足労おかけしてしまわないよう、良きお父さんは全力で頑張りますよ。
ぜひ、良い結果を待っていてくれ。
写真映えしない亡霊の ヴィブラトおじさんより
P.S.
工芸花茶の心得ならある。
どんな茶を届けてもらえるか、楽しみにしている。
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