15 Mystic Letters ― ヒトとアヤカシの手紙 ―
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新
【墓】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
[雉笛が一番最初に読んだ『龍宮シリーズ』は第四巻。
書店勤務にあたり、店で取り扱う作品を把握しようとした時に、シリーズの最新刊だったからというだけの理由でいきなり手に取ったのだ。
主人公がそれまでの3作から変わっていたこともあってか。
或いはその世界観に、己の故郷との類似点を見たからか。
シリーズ初見の雉笛にも、なんとなくその一冊だけで作風の理解はできた気がした。
それでも書籍の推薦も行う者として「なんとなく」は不味いということで、第一巻から読み直すことになった訳だった。
秋の頃から「手紙」を書き始めるうちに、ふと、この『龍宮シリーズ』の感想を文にして作者に届けたくなった。
けれども雉笛が正直な感想を伝えようとすれば、どうしても「一般の人間」には話せない内容が混ざってしまう。それ故に文章の推敲に苦心し、また人間の言語での筆記自体への苦戦もあり――。
ついにこの妖精の気まぐれは、急に手紙を放り出して便箋をゴミ箱に捨てる、という結果を齎したのである。]
【墓】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
― そして、今 ―
[「天狗の飲み屋」の2階、客の立ち入らぬ住居部分。
薄暗く狭い部屋の畳の上に置かれているのは、指先で開封された飴色の角形封筒。加えて、チャック付きの小さな袋に入れられた、開封済みの手紙と未使用の切手。
そして、和便箋。洋紙に比べ柔らかさを感じる、千草色のその便箋の下に敷かれているのは――]
……、ボクは、まだ、生きている、な。
[一命を取り留めながら、再び死にかけている妖精の手。
「死にかけている」というのはここでは勿論比喩でしかないが、それ程にまで居た堪れない思いでいたのである。]
【墓】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
[その手紙が――元を正せば己の手抜きが――雉笛の君に齎したものはあまりにも多く、未だに幾らか眩む頭では整理しきれていない。
まず、作品を通じて知っている作家から突然手紙が来た。
それも、自分が感想文を断念した相手からの手紙だった。
次に、何故か妖精としての「雉笛の君」の名を知られていた。
加えて、「古狸のうらら」に手紙が届いていなかった。
そして、うらら宛ての「推し文」を、推した作家に読まれていた。
更に、その推薦文に、作家本人からの自筆の感想を貰った。
極めつけは――…]
夢じゃないよな、これ？
[ついでに。「郵便料金をケチった」と取れる文面を含む己の手紙を、わざわざ高めの料金の切手を貼って返送してきてくれていた。それも送り直し用の新たな切手も同梱して。]
【墓】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
（ ……こんなん、なら。
あの時、ファンレター、仕上げれば良かった。 ）
[ネタバレ配慮もあっての端的な感想とはいえ、事実上、既に送ってしまったも同然ではあったが――。
相手の目を見る心算で書くのと、相手に見られると思わずに書くのとでは違う。
回り切らない頭に、恥ずかしさと不思議な安堵とが混ざる中。
ペンの一本も手元にないどころか、未だ腕も上手く動かない雉笛の君は、もどかしく倒れたままでいた。]
【墓】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
[ところでこの「天狗の飲み屋」の大将こと店主の天狗も、『龍宮シリーズ』の読者のひとり。雉笛の君が放り込まれた和室の本棚に、その単行本が収められている。
雉笛は幾らか、どうにか、なんとか落ち着いたところで、重い身体を半ば起こし、這うようにしながら本棚に手を伸ばす。そうして抓み出した一冊を畳の上で開き、うつぶせの姿勢で読み始める。
薄暗い部屋で活字を読むことを訝しんだり咎めたりする者は、ここにはいない。]
（ 室町時代、って確か今から―――…
これ、「本当に見てきた」は本当かもな。 ）
[新たな事実をひとつ知った目で読み直すフィクション。
その事実故に、この作品全体の印象まで変わるかというと――]
【墓】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
（ うららに手紙、今度こそ送ったら、
先生に、お礼書こう。
……ボクとしての、ちゃんとした感想も。 ）
[この体調と状況だと、「良いお年を」の挨拶が使える頃には間に合わないかもしれない。感想なら来年の新刊を読める日を待ってからでも――という考えも過りながら。
そしてここで「お礼」を考えたのが引き金になってか、これとは別件での「お礼」のことも頭に過る。]
（ ボクを助けてくれたのは、
大将とアイツ、だけじゃない、ハズだ。 ）
[「偶然」雉笛を発見したと言い張る小天狗が「駆除」対象の助命を嘆願した所以たる、とあるひとつの名を思う。
かの文筆家の、払いに癖のある整った筆跡で綴られた「巡り合わせ」の語が、再び妖精の瞳に浮かぶ。]
【墓】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
「あ。オマエもう起き上がってんじゃん。
治り早いな！ スゲェな妖精の騎士って！」
そこまで治ってもないんだけど。
[いつの間にか戻ってきていた件の鳶羽の主に、ボロボロの妖精の騎士は眉をひそめた。
腕と首に疲れが出てきていたこともあり、雉笛は単行本に片手を挟んだまま畳に突っ伏してみせる。
そんな妖精に耳打ちする形で、小さな天狗は、飲み屋の主からの提案の伝言をひとつ告げる。]
……立てるようになったら、まあ、いいよ。
立てるようになったら。
【墓】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
[結果としてこの晩、雉笛の君はなんとか立ち上がれるまでには回復した。]
（ こんな格好だけど、まあ、
大将の厚意とあらば行かないと、な。 ）
[読みかけの単行本には、一旦、本の帯を栞代わりに挟んでおく。
それから皮製のベルト――化繊のウェストポーチだったもの――に鞘とは別に付属した四角いポーチから、小さな紙片を一枚取り出す。
それは、和紙で作られた雪模様の栞。]
じゃあ、よろしく頼むよ。雪の妖精さん。
[冗談を口ずさみながら本物の栞を挟み、本の帯は元通りに。
夜光虫に海蛍、不知火の灯る星月夜に、紙の擦れる音と共に降る雪一片。]
【墓】 【妖】 書店員 雉笛(キジブエ)
[こうして、深夜の貸し切り営業という名の「アヤカシオンリーナイト ～百鬼夜行の忘年会～ 」に、病み上がりと無残な出で立ちとで非常にテンションの低い妖精の騎士がひとり現れることとなる。]
……もっと、ゆったりした、カフェの、
クリスマス、イベント、だったらあ、
こんなに、傷に、響く、ことも、
なかっただろうなあっ！ うぅ……
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
―喫茶店・玉椿―
いらっしゃいませ。
[扉が開けば、からん、と鐘が鳴って来客を伝えれば、黒茶のエプロンを付けた男が微笑を浮かべて応対した。
店名と椿の花が白い糸で刺繍されたエプロンは腰を痛めたオーナーのものを借りたが、白いワイシャツに朽葉色のセーター、赤墨色のスラックスは自前である。
オーナーが腰を痛めたのは、倉庫の上の方に飾りを収めた段ボール箱を収めていた事が原因だった。
再会の挨拶をし、近況を語り合った後は、クリスマスの飾りつけを始め、翌日には営業を再開した。
入ってすぐの場所にクリスマスツリーが鎮座し、店内の窓や天井、壁などを、歳月を重ねたクリスマスの飾りが彩っている。
営業を再開した事を聞きつけた常連客が、椅子に腰かけたオーナーに声を掛けていた。
今年もクリスマスのパーティーが出来ると、皆、安堵した様子だ。
この店のクリスマスのイベントは、午後から貸し切りで行われるパーティーだそうだ。
常連客も料理を持ち寄ってくるのだという。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
「文ちゃんには、ボーイも似合うと思っていたのよね。」
[戻って来た添木の姿を見てころころと笑う椿の精は、老女の姿をしていた。
昔はさぞ美しかったのだろうと想像させる顔にはえくぼが浮かんでいる。
そう言えば、今も花盛りだと頬を膨らませて抗議されるのだろうが。
添木は椿の親戚の子という事になっている。
彼らの間に子はいない。
椿に子を産む力がない為だ。
その地に挿し木をする事で本体から離れた地で動く事が出来るようになる代わりに、彼女が失った代償。
椿の挿し木は難しいとされているが、妖力を持つお蔭で成功率は高い。
彼女がその地を去れば枯れてしまうのは、妖力を分散させない為でもあるのだろう。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
「私ね、挿し木はもう出来ないかもしれないのよ。」
[昨夜に少し話があると言われ、居間で明かされた話に、付喪神には僅かならぬ動揺が走った。
最近、とみに妖力の衰えを感じているのだと言う。
本体のある地に戻ればいいのだが、店を何度も変えて経営するのは難しくなる。
かつての知り合いがいなくなるまで、異界などで時間を潰す事が必要だ。
けれどそれは人と交流するのが好きな彼女にとっては悲しい事だろう。
それに妖力が尽きれば、この世から消えてしまう可能性もある。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
「だけど、これが最後の恋っていうのも素敵だと思わない？」
[彼女は悪戯っぽく笑ってみせた。
連れ合いを、愛する人を亡くすと、己の分身でもある椿が一斉に花首を落とす。
花の盛りであろうとなかろうと関係ない。
居合わせた時には、まるでそれが彼女の涙のようだと思った。
哀しくも美しい光景は今でも付喪神の心に残っている。
数年かけて哀しみから立ち直った彼女は、次の恋を探すのだ。
その地に挿し木した椿を枯らして。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
[彼女はいつだって誰かに恋をしていた。
太陽が朝になれば昇る程に当たり前だった事が、また一つなくなってしまう。
いずれは彼女もいなくなってしまう。
親しくしていた同胞との別れは、何度経験したって慣れないものだ。]
「そんな顔しないの。
まだずっとずーっと先の心算だけど、私が枯れたら、一つ持っていってね。
文ちゃんが拾ってくれるまで遺しておいてあげる。」
[そう言って笑う彼女に、添木は肯く事しかできなかった。
きっと今回声が掛かったのは、それを話す為でもあったのだろう。
数百年来の付き合いである付喪神が己を見送ってくれるのだと、
己がいなくなった先も人間界で生きていくのだと。
その信頼が添木の胸を痛ませた。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
「店員さん、お冷頂けるかしら？」
はい、ただいま。
[付喪神ははたと我に返って水差しを持って客の許へと向かう。
揃いのエプロン姿の椿の精は、その後ろ姿を見守っていた。
弟分を見守るような慈愛を籠めて。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
― クリスマスパーティーの後 ―
[午後7時。
客が帰った後の店内で、コーヒーを飲みながら三人で一服する。]
「今日はお疲れ様でした。添木君のお陰で、今年もパーティーが開けて良かったよ。」
「文ちゃんのお蔭よ。本当にありがとう。」
いえいえ、どういたしまして。
私も楽しい時間を過ごす事が出来ました。
[添木は笑顔で首を横に振ってみせた。
昔は良かったが、腰を悪くしてからは荷物の上げ下げが大変になり、今年の飾りつけをするのを延期していたのだと言う。
明日までは飾りを残すが、明後日にはいつも通りの店内だ。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
[椿の紹介によって添木が作家である事がばれてしまい、ついでに読者が居合わせた為に一角でサイン会が開かれる事になってしまった。
慣れないながら、椿に渡されたサインペンで色紙にサインを書いて渡した。
――とはいえ、名前を書いただけではあるが。
プライベートな場での事ではあるものの、念の為、担当者には後で報告しておく事にする。
登場人物の誰が好きだとか、本への率直な感想を直に貰えたのは有難かった。
本当に読者がいるのだと実感できる。
竜灯や不知火について聞かれ、答えれば、妖怪博士だと子供達の関心を集める事になった。
それから子供達に遊びに誘われ、携帯ゲーム機の使い方を教わった。
最後にはサンタの扮装をして、常連客の連れてきた子供達にお菓子の入った袋をプレゼントし、アヤカシ用に細工されたカメラで記念撮影をした。
どれも普段の生活では経験の出来ないものだった。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
[飾りの置き場所も、相談して動かしやすい場所に変える事にした。
モノの位置を入れ替えるので、ちょっとした大掃除になる予定だ。
28日から始めるという正月の飾りも下した方がいいだろう。]
「いっそ、三が日までこっちにいるのはどう？」
え。
[椿の言葉に、添木は瞠目した。]
「無理を言ってはいけないよ。只でさえ急な話に応じて貰ったのに。」
「だって、久しぶりに会えたんだもの。お話もしたいわ。」
[正式に籍を入れたわけではないが、彼らは仲睦まじい夫婦のようだ。
椿が見初めたオーナーは誠実でいい人だ。
その姿を見ながら、付喪神は目を細める。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
……ご夫婦水入らずのところをお邪魔するのも申し訳ありませんし、29日の営業が終わったら戻ります。
[今年の最終営業は29日までという話だったから、それまでは手伝おうと思う。]
「本当にありがとう。何とか来年には店に出られるようにするよ。」
どうぞご自愛下さいね。
また何かあれば、遠慮なくお声掛け下さい。
スケジュールにもよりますが、出来る限りお手伝いしますので。
「助かるわぁ。」
[常連客との交流を通して、改めて愛されている店なのだと感じられた。
少しでも長く続けばよいと願う。
これが椿の持つ最後の店なのかもしれないのだから。]
【墓】 【妖】 作家 添木(ソエギ)
「さてと、今晩は軽めのものにしましょうか。」
「添木君は物足りないんじゃないかな。」
いえ、私もあまり食べない方ですのでお気になさらず。
[言いながら、椿が席を立つ。
老齢の姿ながら、きびきびとした働き者の動きだった。
窓の方に視線をやれば、月と星が夜空に浮かんでいた。]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新
[抽出解除]
フィルタ
生存者 (3人)
犠牲者 (2人)
処刑者 (1人)
突然死者 (1人)
見物人 (0人)
発言種別
一括操作
SWBBS V2.00 Beta 8 あず/asbntby
※当サイトは日本国内専用です。
海外からの操作・閲覧は保証しかねます。
管理人 by milk_sugar/Yuchica
副管理人 by マオ
星狩りの国告知用Twitterアカウントはこちら
副管理人連絡用Twitterアカウントはこちら