低唱B吟 トラッシュ

[雨が降っている
――私の運命が変わる時は何時も雨が、降っていた


物心ついてから最初の記憶は、雨の降る中に走り去る背中
多分、あれは親なのだろう
ここで待っていてと言って置いていかれた廃墟
何日も待ち続け、帰ってこないのを知っても
動くことを忘れたかのようにその場にいた

あの時、桜色が飛び込んできて
一緒に行こうと手を引かなければ
今の私は、なかった

あの天使を引きずり堕とした時
最期に妹を呼ぶ声が銃弾に途切れ
油痕が大地に流れていくのを掻き消すように
雨が、降り注いでいた

そして今――……]

低唱B吟 トラッシュ

[これ、そーまとーってやつ？
はは、これはもーだめかも

機械の天使に銃口を向けられたし？
あ。でも遠ざかってった
ゆっくり死ねってことかしら

背中のふわふわが衝撃を散らしたから
辛うじて生きてる私の意識が途切れる寸前
声がした>>42
ナガムシだね、この声。君も生きてて何より]

　……-――、　―――

[生きてる、いや、どーかな
声にならぬ声。唇だけで返答しようとして]

低唱B吟 トラッシュ

　　っ、ぅ！！！


[こるな、め、さまし――
目から涙がこぼれる。よかった
ああ、よかった

明らかに気力を取り戻す様子はどう見えたか
とりあえず

……トリアージ赤ですね。間違いない]


　ぷりーず、れすきゅー……*

低唱B吟 トラッシュ

[綺麗に治るぞ、と声がする>>55
別に、傷だって勲章よ。って言いたかったけれど
流石にしんどい。口を開くのも実は結構

肺の方は焼け爛れてないんだけど、こう
痛いと声出したら余計痛くなるよね、ってやつ


まあ、イオニスか。或いはアリアのメンツかに
応急手当をして貰ったあとは、
マーチェンドに担架を回してもらって
拠点に運ばれることには、なるのだろう


雨に流されてしまった私の血も、機械の残骸から出てた煙も黒の油痕も再び流されることになるのだろう]

　――、　……。

[Who'll sing a psalm?
　　　　　　　　　　　唇だけで、紡ぐ歌は――]

低唱B吟 トラッシュ

[なお、拠点にて


コルナより重症と判断された私が治療される際
めたくそ痛くて絶叫が響き渡ったことだけは、追記しておく**]

低唱B吟 トラッシュ

終章：それは私とツグミは啼いた

[目が覚めた自分を抱きしめる腕があった
我らがリーダーの細腕。参謀を喪わず済んだことを
喜ぶ君の鳴き声が、死の淵からよみがえった私の
産声のような、ものだった]

　こ、るな

[名前を呼んだら一層嗚咽が大きくなる

ふふ、いつまでたっても、泣き虫ね
そういうとこ、かわんないんだから
アリアの面々が見てびっくりしてるわよ？

――そう、伝えたいのに
爆風で爛れたのだろう私の喉は
貴女の名前を呼ぶ声もしゃがれてた
……あら、これ一寸仰々しくていいんじゃない？

口を開けばひゅー、と笛みたいな呼気が鳴る]

低唱B吟 トラッシュ

[あら、おバカさん
貴女が私の声になるって？やだわやめてよ

貴女の声は皆を鼓舞する声
貴女の足は皆より先に駆けてく足
貴女の瞳は、前を向いて突き進む目

私1人のものになんて、なっちゃだめ
愛しい私のファム・ファタール
ほら、イオニスの方お見舞い行きなさいってば
ケリスだって待ってるんだから

それからナガムシ君やキーパー君には
沢山お世話になったからお礼伝えといて
あら、好みの人がいたかって？やあね
妬いてるわけ？かーわい。大丈夫一番は貴女よ

なによ、最後ってわけじゃないでしょ
最初に出逢ったときみたいに、呼んだげる
貴女の背を、押してあげるわ]

低唱B吟 トラッシュ

　　――いってらっしゃい、
　　　　　”おねえちゃん”**