残鷺の君 ヘロー

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[その人間の形――紛れもなく人間であるその首には、一本のシルバーチェーン。
　この地にあってはやや浮いて見え……ないかもしれない派手な黒衣に合わせたような、銀の煌めき。
　本当は、国外での装着を王城から義務付けられたシルバーチェーン（首輪型爆弾）のほうが先。このデザインに合わせる形で、着る服を選んでいる。

　随伴する一機の人間の形――シラサギのヘッドと細長い四肢を有した機体と共に、その人間はとある“廃棄場”>>21を訪れていた。]


（しかし、まさか“混沌”の外の世界なんてものが
　存在するとはなあ……）


[未だに信じ難いといった態で、その人間は黒いシャドウの瞼を軽く伏せる。]

残鷺の君 ヘロー

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「あら、あら、ヘロン。
　折角夢の遊園地（ここ）で出会った新しい『友達』から
　不思議で素敵なご縁とチャンスを貰えたのよ？
　この夢のことだって、王城は掴めていないのだから、きっと大丈夫よ」


　そうか。それなら――。ところで君は……
　いや、あんなところに　君を行かせる訳にはいかない、か。


「ふふ。ありがとう、あたしの身を心配してくれて。
　そして――『その世界』の機人（ひとびと）のことも案じてあげて」


　……本気で「機械殺しの妖魔」にでもなる心算だったか？
　まあ私も色々な意味で、無事に帰ってこないといけないな。これは。

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残鷺の君 ヘロー

（…………、
　“ゴミ箱”（トラッシュ）にもここまでの墓場は無かった気がするぞ？）


[とはいえこれでも“その機体”が静かに眠れるものであったが故に、この人間の反応はまだマシな方の部類に落ち着いていた。
　これがもっと酷い状態>>0:29であったならば、施設担当者を見るなり銃を抜くこともあったかもしれない。]

残鷺の君 ヘロー

[さながら手の届かぬ青い空を仰ぐかのように数多積み上がる、機工と鉄屑の山。
　両手足のパーツは砕けた状態ながら、眼は安らかな形に閉じている人形へと、その人間はグローブを嵌めた両腕を伸ばす。]


　――――、君を迎えに来た。
　少し厄介な旅路になるが、無事に連れて帰るよ。


[「ラピス」の名は呼ばなかった。その魂がここにないことくらい解っている。
　それどころか、当の本人にはついこの前の夢で出会ったばかりだ！
　グレーのリップを纏った唇は、一瞥した先のシラサギヘッドの機械（メカ）へと指示を紡ぐ。]


　“残鷺匚”、君はこちらの機体を運んでいってくれ。
　使えそうな細かなパーツも、可能なだけ収集を。
　

残鷺の君 ヘロー

[こうして運搬できるだけの機体を回収した後――。
　眠れるその機械人形の亡骸に、さながら生ける（稼働する）モノ相手のように、ふと語りかけていた。]


　私は、君たちの機工（からだ）の研究を通して、
　安価で良質な外装と機工を国産化する。
　王国（わがくに）の“地を這う”民（メカ）の負担を和らげるために。

（……叶うならば“獣”の、“妖精”の負担も和らげる術が
　　　欲しい所ではあるんだがな。
　　　せめて薬学か魔術か、或いは呪法の心得でもあれば――）


[結局それが「人の形を強制する」政策を前提としていることには、変わりなかったけれども。]

残鷺の君 ヘロー

　とはいえ、ただの研究材料で終わらせやしないよ。
　一通りの解析が終わったら、君には君として生きて貰う。
　幸い、君は“君のまま”でも、王城内は兎も角、
　城下町なら普通に出歩くことができるさ。


[黒いアイシャドウの視線の先は、腕の中の壊れた人形から、駆動するヒトガタのシラサギへと移る。]


　……まあ、そういうことだ、“残鷺匚”。
　君の良き遊び相手、相談相手にもなってくれるだろう。


「そうですね」
　

残鷺の君 ヘロー

「ところで、“アレ”を作る話はどうなりましたか？」


　うん？　アレ、とは。


「未来の超高性能メカレオーネくん」


　……………よくメモリから消去しなかった（忘れなかった）な、その話を。
　確かにあの時の手紙を思い出してそう騒いだものだが……。


「私も、とても楽しみにしておりましたので。
　機械（メカ）にもマスコットをもふもふする権利があります。
　その事実は、貴方がその身を以てよく示された筈では？」


[被造物は創造主に似る、とはこのことだったのかもしれない。]

残鷺の君 ヘロー

　まあ、立ち話はここまでにして、早々に引き返そう。
　この辺りの治安には聊か不安があるし――。
　刻限が許せば、表通りの楽器店も見て回りたいからな。

　――警戒せよ、“残鷺匚”。


　「承知いたしました、“白鷺の君”（プリンス・アルデア）」



[後に、この一人と一機を目撃した誰かはこう呟いていたという。
　それはまるで、“ちょっと変わった綺麗なバンドマン”か――
　或いは“夢の彼方から来た人”のようだった、と。**]