【鳴】 氷室詩音

[そう、今は二人きり。
そもそも二人きりで無いなら、混浴だとしても一緒に入ることにはならなかったと思うけど。
でも、いざ入るとなると勇気が要る。
その背中に隠れていたとは言え、夢助の裸に心臓がうるさくなるのを感じていた。
水泳の授業だとかで見ているはずなのにね。こう、お風呂場という無防備な場所だとまた違って見えてしまう。
彼の肩の広さだとか、筋肉のつき方だとか。
　
でも、その背に隠れてばかりもいられない。
それにいくら貸切と言っても、マナーとして掛け湯はしなければね。
身体を洗おうとは思ったけれど、あまり待たせてもいけないかしらとそれは後回しにする。
だから、彼の少し後に手桶を手にした。
片手で手拭いを持ったまま脚先にかけ、膝下から、胸元から…と何回かに分けてお湯をかけていく。
よく見てしまえば濡れた手拭いの向こう側、下生えや乳輪の色が透けて見えてしまっていたかもしれない。
ましてや濡らしてしまっては身体にぴたりと張り付いてしまっていたから、体のラインすら隠してくれなかったけれど。
肩からもお湯をかけて、やっと私は湯船へと辿り着く。
脚先からそっと入ると、夢助から少し離れたところへと腰を下ろした。]