名坂雪

[そうして、ホワイト家の庭の温室で。>>0:36
やわらかな花の香りに包まれながら、ふたりでくっついて座り、家から持ち出した絵本を声に出して読んだ。
温室のガラスに跳ねる雨の音はやさしく。
ちょっと肌寒くても、身体をさらに寄せたら良かった。

別に禁止されてなかったけれど、なんとなくこっそり、ポケットに忍ばせてきたチョコ菓子を得意げな顔で掲げてみせて。
半分こね、と手のひらに乗せ合うのですら笑っていた。
なんの特別でもない日常だった。

あの時咲いていた花、なんだっけ。
たくさん遊びに行きすぎて混ざってしまってる。


成長して、中学生、高校生になるにつれて。
あれくらいくっつくことは減ってしまった。>>0:185
なんでだろう。……なんでかな。
私たちは幼馴染だけではなく、婚約者でもあり、多分遠慮する必要はなくて……でも、いつも通りの顔をしていては出来ない雰囲気で。
知らず知らず、心がそわそわするようにもなった。

――昔みたいに、くっつきたいな。願いは目覚める間際に浮かび、起きた時には心の中に隠れていた。**]