石火硝煙 ヒート･H･フットマン

　
［オクリビの手に伝わったであろう手応えは、人の肉を引き裂く感触だったはずだ。
彼女の手がそれを感じることができるのではあれば、だが。


フットマンは胸元から逸らしたカタナから手早く左の掌を引き抜くと、距離を取ろうとオクリビの腹部を思い切り蹴飛ばした。──尤も、人間の脚力で機械仕掛けの彼女を吹っ飛ばすことができたかどうか、わからないけれど。
できなくとも、フットマン自身が彼女を足場に、大きく後方へ飛び退いただろう。

オクリビと距離を取って、フットマンは自身の掌をチラリと見る。
厚いはずのグローブを引き裂いて、その下にある肌に到達し、穿たれた穴からぼたぼたと鮮血を地面に散らしている。グローブの向こう側を貫いていないのが幸いか。］
　

荼毘葬送 オクリビ

裏通り・フットマンと

[カタナでの刺突の動きに対しフットマンが取ったのは、銃を手放し鉄パイプを跳ね上げる動作>>120。
　廃材の金属は、地面からくるくると軽やかに跳ねて男の手に納まる。
　女の機工の目は確かにその軌道を追えてはいたが、踏み込んで一息に刺し貫く構えはそのまま。
　側面を叩かれ軌道を逸らされてもなお、真っすぐに進まんとしていたカタナの切っ先は、最終的にグローブ越しの左の掌で押し止められた。]


　　―――――、


[黒手袋越しの、プラスチックに覆われた機工の手は、確かに人の肉を裂く感触を知覚した>>123。
　「人の肉」と何故判るかって？　彼女の前職を考えてみてほしい！
　どの程度の傷の深さかまでは定かでないが、少なくとも掌を貫通するまでには至らなかったよう。]

石火硝煙 ヒート･H･フットマン

　
［オクリビのブーツの底がブレーキをかけるように地面を引っ掻いていく。
しばらく地面を滑って、ようやく止まったところで崩れた体勢を立て直すオクリビは、呻きもしなければ、腹から何も出ない──いや、腹から何も出ないのは、全然問題ではないのだが。


苦痛にすら歪まないのは、彼女が機械仕掛けのお嬢さんだからだろうけれど。
一瞬、そういう機能搭載してねぇのかよ、とつまらなく思った。
どう見たって横目で見た自分の掌からは血が多量に流れ出ているし、それどころではないのに。>>123］