星月夜の魔法使い『ラピス』 ジュベナイル

お見送…り？？？:へローとエナガと着弾眼鏡くん

[たくさんのお客様のお見送りをしている中で、
ふと、しろいふわもこを大量に抱えた者がひとり>>194]

へロー！ハロー、です…！
ふふ、レオーネ様でいっぱいですね。
いっぱいいっぱい、ふわふわもこもこで
かわいいになっています

…お洋服、褒めてもらえて嬉しいです…！
妖精さんたちが、魔法使いになるならって、
プレゼントしてくれたんですよ…！

ここのスタッフさんたちは　みんないい人で
楽しくて、あたたかいです…！

[と、褒めてもらえたことが嬉しかったのか、目いっぱいに今の幸せを伝える小さな魔法使い。その仕草や口調は、ほぼ人間のそれに遜色なく、人形の身体であるにも関わらず、その自由自在に変わる表情を作る顔は、ラピス自身の魂の喜びを表しているようだった。ついでに、ラピスがもし壊れていなかったとしたらという、現実での本来の最大限スペックを！いやはやこんなに精密な愛玩人形ができるなんてすごい時代も来たものです]

残鷺の君 ヘロー

[ヘロンはひどく弱ったように眉を下げ、溜息を吐いた。
　「どれも違う」レオーネくんの存在をその身で示し>>206“コトリサマ”の呪文を編み出した偉大なる「魔法使い」>>207が、今やこの情けない在り様である。]


　……参ったな。


[“仲間たち（量産機）”がいるという一機（ひとり）の人形からの「どれも違う」>>241の言葉は、人間が口にする以上の重みをもって、機械工の胸の裡に落ちていた。
　人間の「愛」を未だ全ては知らないなりの、「好き」を捨てようとする（捨てきれていない）者への願い。
　同時に、ラピスに色々とこの顛末を見聞きされてしまった>>208>>239>>240ことも察した訳で……。
　そんな様々なものがないまぜになっての、この一言だった。]

残鷺の君 ヘロー

（……あの“夜を翔ける鷹”（カプリムルグス）の甘さに、付け込んでみるか。
　ああ、“アルデア”との叛逆以前からの誼だのなんだのも、悪くない）


[まるであたかも、これから世紀の大脱出を考えようとする脱獄犯の顔！　とはいえ別にこの時、ヘロンは本当に脱獄を――己の今の立場から逃れることを考えていた訳では無い。
　自分の政治的な立場に抗わない範囲で、ほんの少しだけ、自由に動ける範囲を作ろうとしていただけのことだ。

　ヘロン・メイファは、それこそ王城や貴族たちに利用され付け込まれる程の、この“着倒れ”の王国に相応しからぬ程の天才的な機械工（エンジニア）。
　夢から覚めて得た記録（データ）と記憶を抱えこんだ起き抜けの身体は、もう既に現実の中での別の夢を観始めている。
　この王国では未だ有り得ない、極めて精巧で高度な“ヒトらしい動きと表情”>>206を可能にする機械の発掘。新たな友の遺した身体でもあり、「見つかってほしい」と願われたそれら。
　王国でも有り得なくはないが……異郷のほうでこそ栄える音楽を支える電気仕掛けの楽器群。本当に他愛なくささやかで、それ故に尊いもの。
　その夢を今の立場なりに叶えようとしての、このひそかな企み！]