【妖】 作家 添木(ソエギ)

― 1月某日 ―

[龍宮シリーズ第五巻が書店に並ぶ頃。
添木は自宅で買い溜めた本に目を通すのに時間を費やしていた。
人が書いた本は付喪神の心の栄養でもあるのだった。
新刊が出たという事は、次回作の構想を練らなければならないという事だ。

第四巻のあらすじはこうだ。
三柱の海神が運んできたのは、近年の人の技術の進歩と、それに伴う距離感についての相談だった。
海神達もまた、結界を張った独自の異界―溟―を持っているが、龍宮のように広く人を受け入れる体制ではない。
技術の進歩によって隠れる事が難しくなっているアヤカシ達の安息の地としての性質を持っていた。
溟の住民の比率はアヤカシが大多数で、人は何方かといえば搾取される側の立ち位置だった。

彼らはワダツミと、帝に問うた。
『このまま人の好きにさせていたら、我々の異界が浸食されてしまう。
　今一度、人に海の強大さを、怖ろしさを知らしめなければならぬ。汝は如何か。』と。
道の最高神であり、航海の安全を司る三女神達は、反対を表明している。
ワダツミは人を己の異界に受け入れ続けてきた神。
龍宮がどうするかは人の手に委ねると帝に伝えた。]