【妖】 作家 添木(ソエギ)

[帝は二十代半ばを過ぎたばかりの若者。
この選択が龍宮の存続に関わる可能性は高く、判断には慎重を期すべきだろうと広く意見を集める事とした。
三柱の神に協力すべきか、彼らを止めるべきか。
臣下の中でも意見は分かれる。
客人達は当然、自分達が生まれ育った土地が害される事は望まない。
彼らの意見は宮中には届かないかと思われたが、帝は客人の代表として数名を宮中に召し出した。
その中には航の姿もあった。

結局、地上に怖れを抱かせるべきと息巻く三柱の神達を宥め、地上への侵攻は取り止めとなる。
──そこには客人達との交流も一役買った。
怖れを抱かせて距離を置けたとしても、齎したで災禍で人が亡くなれば、恨みを生む。
それはきっとまた別の災禍を海に呼び込んでしまう。
出来る限り、穏便な形で地上と話す機会が持てないか、探ろうと。

けれどいずれこの龍宮の近くに人の手が届いてしまう日が来るだろう。
その時に龍宮は今の形を保てるのか。
地上の文化レベルの差は客人達の話や眷属達の見聞きした様子を聞けば明らか。
地上は地上。異界は異界。
結界と、技術不足という壁で守られているのに甘んじず、交渉できる力を蓄えなければ、失われてしまうだろう。
乙姫の提唱する地上の技術の具現化、定着化に、図らずも追い風が吹く形となった。]