【独】 バイオロイド ジキセイ

コミュニケーションスキルの訓練が終われば、各ヒトモドキの配属先への輸送が始まった。
続々とヒトモドキが出ていって、自分の番。
配属先は指令室……からやや離れた後方支援室で、予備隊の管理をしながら過ごすらしいと聞いた。
気まぐれに一度振り向いて、「お世話になりました」とお辞儀をしたついでに、先ほどは"寂寞"といった印象を抱いた白い部屋をもう一度眺める。

"私"が居たのは数日の間だけの筈なのに、実稼働時間より長く居た様に感じられるなと、新たに感じた。

思い出すきっかけを胸に抱いて、真っ白な施設を後にする。
24時間後には施設の外観情報や、忘れるべきと定義された事柄は忘れてしまうだろうけれど。
ここで数日間の間コミュニティ訓練に勤しんだ事は、ちゃんと長く覚えているだろう。
訓練内容は、消去用の記憶とは別の所に書き込んだものだから。

セイランが過去の自分がかかわった事件を思い出すことがあるのか。
一人のテキ国の少女の死。それら思い出せたとして、その時何を思えるのか。または、何も思わないのか……。
全ては、将来のセイランのみが知る。