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月は君の正体を照らし出した。
あぁ、どこかから狼の遠吠えが聞こえる――。
どうやらこの中には、村人が7名、人狼が1名いるようだ。
崩壊都市 □□□□が「時間を進める」を選択しました。
/*
よりにもよってこの二人が落ちてしまうとは……
(←プロローグ中にコルンバから一通ずつ送ろうかと考えていたものの間に合わなかった村建て人)
おや。「カラヴェラス」・「ハロウランド」間の
これは臨時の郵便シップ派遣要請が飛んでくるかな。
[モニターに表示されるリージョン情勢の報告を、
コルンバの人型は眉間に皺を寄せて凝視する。
鳩型は一枚のメモをくちばしで咥え、人型の指先へと運ぶ。]
[暫くすれば人型はまた眉間を緩め、メモを髪にクリップで括り付け
常通りの、やる気なさげに見える表情でデスクにもたれ掛かる。]
幸い崩落に巻き込まれた者は確認されず、と。
確認漏れなんてこともあるかも知れないが――
まあそこまでは、わたしたちの
関わるところではないからね。
[傍らに来ていた同僚が、住民その他の安否についての
報道に触れて安堵の息を零した時も。
コルンバの人型はそこまで興味なさげに呟き、
鳩型もまた気ままに、人型の構成員たちの頭上を
くるくると飛び回っていた。]
ああ、カラヴェラスやハロウランドの月もまた、
それぞれに美しいものだよ。
カラヴェラスの月はマリゴールドが如く黄金に輝きながら、
数多の花の色にも彩られ、どこか悲しげながらも陽気だ。
ハロウランドの月も黄金色だが――こちらは少しほの暗く、
魔性のものを惹き付ける紅さも滲ませる美に満ちている。
まあ両地とも、わたしが実際に赴いたことはないのだがね。
/*
通常メモだと字数超過するからプロフィールは全体メモに移すね〜って言った先から全体メモ側からも字数超過で怒られたぼくを誰か哀れんでください……
今日は朝から騒々しい。
研究員が慌てる中、ベアーはマチェットにぶんつーのルールをあれこれ聞いていた。
「なあなあ、なんでみんなあちこちはしりまわってるんだ?」
マチェットはゴノレウと呼ばれる生き物のキメラだ。
人間よりも遥かに大きく力強く、そして賢く心優しい。
実験体たちからも人間からも頼りにされる存在だ。
『どうやら大規模なステアが起こるようだね』
「すてあ?」
『そう。そうだな、前に嵐というものを教えただろう?
雨がいっぱい降って強い風が吹く……というやつだ。それが混沌で起こる』
それが何故人間たちが大慌てになるのかベアーにはピンと来ない。
「それになるとみんなはしりまわるのか!」
『そう、定期船が来なくなるからね。
定期船が来ないと他のリージョンとのやり取りができない、ベアーに関係するとしたら……そうだな、お菓子が手に入らなくなって文通もできなくなる。
と言ったところか』
文通が出来なくなる!それは一大事だ!ベアーはしょんぼりしてしまった。
「ぶんつー……できなくなる……それはゆゆしきじたいだ……」
なお ゆゆしきじたい の意味は分かっていない。
『そうだね、だから研究員たちは定期船が来れなくなっても大丈夫なように準備しているんだ』
説明されてようやくベアーは今のリジェットXの現状を把握した。
「おれのてがみ、とどくかな……」
『今日の定期船に乗せた分は届くだろうけど……、明日以降はステアが治まるまで届かないだろうね。
返事が来たとしても受け取れない』
ベアーはどんどんしょんぼりしてしまう。
そのしょんぼりさ具合に逆にマチェットが慌てる始末だ。
ところで、今はもう滅びた、俺の
多分俺は、そのリージョンで生まれたって訳じゃない。
物心ついた時にはもう既に、俺はそのリージョンに居たんだが……。
俺は旅先で拾われた孤児としてそのリージョンに連れて来られたって話で、実際の出生地が何処かも、生みの親が誰なのかも不明なんだとか。
辛うじて判明しているのは、種族はひとまず人間だっていうことと、服に括りつけられていた覚書から、名前は「
『ステアが治まれば定期船は来る、だからそれまでの辛抱だ』
というものの事前観測の時点で大規模と言われるとレベルだ、数週間あるいは数か月治まらないということもあり得るし、過去にも年単位で治まらないステアが起こったこともある。
「おれ、ぶんつーできないのやだ……」
人間の子供とさして変わらぬベアーにはそれが辛抱ならないのか、ついには泣きだしてしまった。
これにはマチェットも泣きたくなってしまう。
どうにかできないか……考えに考え抜いてマチェットは閃いた。
『ベアー、招待状を穴に入れよう』
そう言って便箋とペンをベアーに差し出した。
出生地が不明で親の素性も不明とは言ったって、俺にとっちゃ人生のスタート地点は間違いなくあの場所で、幼少期をずっとそこで過ごしてきた訳で――。
当然のように、俺の“故郷”はそこになるって訳だ。
まあこの“故郷”、どでかい企業が建設した研究用の人造リージョンでもあったんだがな。
身寄りのない孤児がそんな研究機関に連れてこられるだとか、下手したらそのまま実験体にされていた可能性もあったんじゃないかとも考えちまうが……まあ、流石にそんなことは無かったって訳だ。
少なくとも俺は、研究対象ではなく未来の研究者として、あの場所で育てられて、こうして無事に大人になっている。
穴、この施設が研究所だった頃に使われていた廃棄孔だ。
中に入れたものは混沌に排出される。
廃棄物はそのまま混沌を漂うものもあれば、どこかのリージョンに辿り着くこともある。
『私も最初の文通相手は穴に投げ入れた手紙がきっかけだった。
何十通も投げ入れて返事が来たのは3人。
だから、招待状を作って穴に入れて……そしたら手紙を拾った誰かが、ステアが治まったら来てくれるかもしれないだろう?』
マチェットの苦肉の策だった、だがベアーはその作戦がいたくお気に召したのか、ペンをとって便箋に向かい始めた。
「しょーたいじょーってなにかけばいいんだ?」
泣いた子供が泣き止んだ。
ニコニコと何を書けばいいのか首を傾げ始めたのだ。
『そうだね、自分の名前とどこに来てほしいかと……来てくださいという気持ちをベアーなりの文章にすればいい』
こうして二人で招待状を書き始めた。
便箋を使い切っても、別の便箋に二人で招待状を書いた。
そうして施設内から瓶を集めて、瓶以外にも混沌に耐えられそうな容器に招待状を入れて、二人で穴に“招待状”を投げ入れた。
……つったって俺、別に研究者ってガラじゃねぇしな!
っていうのが幼心にも分かってたんで、とりあえず研究機関での教育は受けながらも、結果として俺は研究者にはならずに故郷を出奔するに至った。
俺を拾って機関に連れてきた研究者――養親ってことになる――には唖然とされたが、まあチエンドゥーが望むなら仕方ないってことで、その人は俺が外のリージョンへ旅立つことを許してくれたんだった。
ああ。狭い研究室に籠ってるより、話に聞く“混沌”の広さを知りたい。数多のリージョンを渡り歩いて、見たことも聞いたこともないモノに巡り合いたい。
そんな意思が、俺を“混沌”を翔ける
……記憶の中の何処にもない出生地だとか親の顔とか、
なんだかんだで気になっていた、っていうのも、
多分、俺の中にあるだとは思うんだけどな。
それでもあの“故郷”こそが俺の育ってきた場所で。
その場所の同窓の面子こそが、俺にとっての同郷の友人で。
ひとりきりの俺を拾ってくれたあの人こそが、俺にとっての親で――
「へへへ、だれかきてくれるといいな!」
吸い込まれないようにそーっと穴を覗くベアー。
この中のいったい何通が拾われるのか、拾った人の何人が招待状にリアクションを返すのか、そのリアクションにここを訪れる可能性は何%か。
マチェットは厳しい現実をベアーに告げることはしない。
いつ終わるかわからないステアの中、ぶんつーを楽しみにしているベアーを悲しませることはしたくなかったからだ。
『ステアが治まるのが楽しみになって来ただろう?
……さあ、ベアー。みんなの手伝いをしようか』
「おう!」
マチェットはベアーの手を引いて穴のある部屋から立ち去った。
―――…俺の親になってくれたその人は、もう、いない。
風の便りに聞いた。関係機関への問い合わせでも知った。
俺の“故郷”を廃棄に至らせた例の大事故で、
あの人もまた、不帰の人になったのだと。
『しょうたいじょーをひろってくれたひとへ
おれのなまえはべあーです
りじぇっとXってとこにすんでます
すてあがおわったらりじぇっとXにあそびにきてください
おれのつくったはっぱとかみとかあります
めかのひとにはいいおいるがあります
おれのともだちもいっぱいいます
きてくれたらいっぱいかんげーします
これなくてもだいじょうぶです
でもきてくれたらうれしいです
べあーより』
爆発爆散 ベアー から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
『しょうたいじょーをひろってくれたひとへ
おれのなまえはべあーです
りじぇっとXってとこにすんでます
すてあがおわったらりじぇっとXにあそびにきてください
おれのつくったはっぱとかみとかあります
めかのひとにはいいおいるがあります
おれのともだちもいっぱいいます
きてくれたらいっぱいかんげーします
これなくてもだいじょうぶです
でもきてくれたらうれしいです
べあーより』
爆発爆散 ベアー から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
『しょうたいじょーをひろってくれたひとへ
おれのなまえはべあーです
りじぇっとXってとこにすんでます
すてあがおわったらりじぇっとXにあそびにきてください
おれのつくったはっぱとかみとかあります
めかのひとにはいいおいるがあります
おれのともだちもいっぱいいます
きてくれたらいっぱいかんげーします
これなくてもだいじょうぶです
でもきてくれたらうれしいです
べあーより』
爆発爆散 ベアー から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
/*いらぬ心配をしていたようだ
ついったーでの宣伝時に詳細な進行のこと話してなかったから心配してたんだ
何事もなくてよかった。
村建て様はお騒がせしました(謝罪
岩場の隙間に見つけた小さな洞窟に
泥の身体を押し込み眠る。
融解した身体は
狭く暗い場所がよく似合う
健気に岩へ取り憑く苔と同じ。
無欲に生命を蔓延らせる菌糸と同じ。
形を留める必要もなく、ただ隠れて眠る。
本能的に。無理性的に。
眠っているときはヒトではないから
その胸に、誰かの亡骸の物語を抱いて。
それをひしと、守るように。
ごぼり。ごぼり。
磯の蟹が集まって泡を吹いて遊び始めた頃。
同じように岩肌の隙間からゴボゴボと音を立てて
泥の体が目を覚ます。
土の地面に爪を立てるように
ガリッっっと深く前足をだして
ずる ずる ずるり。
べちゃり。ぐちゃり。ぐにゃり。
おぞましい音を立てて不定形が外に出て
ゴポゴポと音を立てて形を成して
ばちり、と銀の目を開く。
「 ── えほ、っ、 ゴホッ…… 」
その日はじめに咳いたのは、きっと土煙をひどく
吸ってしまった、それだけの理由では
なかったと思います。
私の居住地──その建物の地下のカタコンベ。
其処の掃除から私の一日は始まります。
ひとりひとりと顔を合わせてとまではしませんが、
私にとってはそこに居ります彼らすべて、
既に馴染みの面子というものです。
幼き頃には酷く恐ろしく近づけなかった筈なのに。
『……………』
突然現れた人影に、
周りの虫達が必死になって逃げ出し始めた。
からだのなかにいてくれてもいいのに
ムカデ、バッタ、ダンゴムシ。
でかいので言えば、カブトムシなんかも飛んでいく。
泥の男は周囲を見回し
まだこの世界が夜であることを確認する。
胸の中に抱きしめていた猫箱を開き物語を読むには、
ここでは少々薄暗い。
その手に鞄を下げ、
ふらりふらりと明るい方へ。
漣の小浜。誰かの声が流れ着くところへ。
/*
今回のプロローグ中のイオニス→マーチェンドのお手紙は大丈夫です!と前置きした上で……
昔、手紙村の
1村にひとりはプロローグ中に即日でお返事送っちゃう人いるよ〜
という旨のお話を聞いた覚えがあります。
(ちなみにぼくが以前に建てた村でも、進行中に即日お返事うっかりやっちゃった人が出たことがあります)
なので、本当についうっかり、という分にはどんまいですよ!
今日もパンパス・コートに朝が来た――夜間も色とりどりの街灯の眩さが絶えない、まさに不夜城のリージョンではあるんだがな、ここ。
クロウに叩き起こされた俺は身支度を整え、宿1階の食事処に向かう……前に、客室扉の郵便受けに投函された手紙を確認した。
今は修理中の(ああ、まだ修理中だ!)俺らのシップの船体識別番号は、きちんと各種関係機関に登録されている。そうした機関に問い合わせれば(それこそあのメール・トルーパーズとか)、こちらから便りを送るまでもなくシップの居場所は特定できる筈だ。
そしてそのシップの所有者であり運転手でもある「マーチェンド」がこの宿に滞在していることも、手紙の配達者には通知されるだろう。
さて、今日届いた手紙の中にもそうした便りがあるやもと前もって考えながら、郵便受けの中身を取り出してみた訳なんだが――…
今日もパンパス・コートに朝が来た――夜間は夜間で色とりどりの街灯の眩さが絶えない、まさに不夜城のリージョンではあるんだがな、ここ。
クロウに叩き起こされた俺は身支度を整え、宿1階の食事処に向かう……前に、客室扉の郵便受けに投函された手紙を確認した。
今は修理中の(ああ、まだ修理中だ!)俺らのシップの船体識別番号は、きちんと各種関係機関に登録されている。そうした機関に問い合わせれば(それこそあのメール・トルーパーズとか)、こちらから便りを送るまでもなくシップの居場所は特定できる筈だ。
そしてそのシップの所有者であり運転手でもある「マーチェンド」がこの宿に滞在していることも、手紙の配達者には通知されるだろう。
さて、今日届いた手紙の中にもそうした便りがあるやもと前もって考えながら、郵便受けの中身を取り出してみた訳なんだが――…
「……、なんだこれ?」
確認できた4通のうち、3通はぱっと見、至って普通の手紙と言っていい。
だが残りの1通は、何というか……紙切れ、なのか? 元々何かしらの容れ物に収められていたのが途中で中身だけになっちまったのか、それとももともと“本体”のみで発送されたものなのか、そこまでは俺には分からない。よく見りゃ紙の片面だけじゃなく、両面に文字が綴られている。
――どっかの紙ごみでも手紙に交じっちまったか?
表面(おそらく)の字の綴られ方と裏面の内容から一瞬こうは思っちまったものの、それでもその表の文面は、確かに“手紙”と呼べるものだった。
俺の名前なんて――自称する通り名も、孤児の数少ない身分証としての名も――どこにも記されていないその手紙もまた、俺は捨てることなく客室のテーブルの上まで運んだんだ。
まあそんなこんなで、今日も多量に来た手紙を机上に並べて――俺がその手紙を真っ先に確認しようと思った理由は、正直、分からない。
何かの予感、みたいなもんだったのかもしれない。
――まさか。
脳裏に過ったのは、「ペリアンス」のことだった。
今やもうその名では呼ばれなくなったあのリージョンも、人間も含めて生き物が死に絶えた訳じゃないらしいこと、まだそこで生きている者がいるらしいことは、俺だって情報として知っている。
けれどもあの事故以来……というより俺があの“故郷”を飛び出して以来、一度も戻ったことのない場所。
階下に降りるべきだとせがむクロウの合成音を他所に、俺は暫く、その文面に向き合っていた。
まあそんなこんなで、今日も多量に来た手紙を机上に並べて――俺がその手紙を真っ先に確認しようと思った理由は、正直、分からない。
何かの予感、みたいなもんだったのかもしれない。
――まさか。
脳裏に過ったのは、「ペリアンス」のことだった。
今やもうその名では呼ばれなくなったあのリージョンも、人間も含めて生き物が死に絶えた訳じゃないらしいこと、まだそこで生きている者がいるらしいことは、俺だって情報として知っている。
けれどもあの事故以来……というより俺があの“故郷”を飛び出して以来、一度も戻ったことのない場所。
階下に降りるべきだとせがむクロウの合成音を他所に、俺は暫く、その手紙の文面に向き合っていた。
遠くにいるおそらく未だ存命の友人。
私からの距離としては凡そ同等では、と思います。
前者には近づき、後者には遠ざかってはいますが。
あの舟に乗らないと決めたのは私ですから。
幾度となく懐古する、友人との終の逢瀬。
「 ──よいのです、病人を迎えられる程
舟のほうに余裕はありませんよね?
他の
私が耐えられぬ事もありえます 」
「 ── なんて事も、云いました、ね 」
一度手を離したならその希望は二度と掴めないと
とっくのとうに知っての言葉。
救いの御手は何度も差し伸べられない。
まあ、心配せずとも舟は定員を満たして、
皆きっと何処かで幸せにやっているだろう。
私も今はもう誰と喧嘩することも無い。
ここはとても静かだ。
息を吐く。点滴のかかったスタンドを片手に、
死者の寝床から(辛うじて)生者の居住スペースへと、
ゆっくり、ぎこちなく歩を進めて行く。
最近はそんなにむかしのことなど、
……特に他の小惑星に思いを馳せることなど、
とんとしてこなかった筈なのに。
その謎が頭を擡げ、……郵便通知に気付く。
多分、昨日気まぐれで書いた此れの所為だ。
何処かの星の誰かに届く手紙。
……流石に昨日の今日で、私が送ったものへの
返事は来るまいと思っていたのだが。
予想に反して、そこにはひとつ封筒があった。
どこもかしこも植物の匂いのする此処に、
明らかな異物がひとつ。
── 何処かに届くなら、ここに何かが届くのも
また道理であるとつい先程まで思い至らず。
ハーブティを淹れて、休憩がてら読もう。
手紙に期待を膨らませるのも随分と久しい。
あまりに達筆な筆致をしげしげ眺めつつ、
丁寧に封を切って、その中身に目を通した。
「 ゲッカの、煙霞山……から。
それは、それは、遠路はるばる…… 」
流石に山の主人の名前までは存じ上げなんだが。
ゲッカというリージョンを目指すと言った者も、
確か何処かに居たような気もする。
散り散りになったエンデの元住人たち、
誰が何処に行ったかも既に定かでは無いけれど。
知る者もいるのでは? ……なんて夢のある話も
小耳に挟んだことがあった気がする。
ともあれ、山主……ならばそれなりに
立場のあるような送り主なのだろうか。
それとも自分のように、独りで恙無く
退屈な生を送っている者なのだろうか。
私の手紙が届いての返事では無さそうだが、
……其方は何処に行ったのかはさて置いて。
興味は尽きない。
その上、今の私は返事を送ることができる。
ベッドのサイドテーブルにそっと便箋を広げ、
ゆっくり、ゆっくりと覚束ない文字を並べていく。
植物の香り、それからどこか薬のような香りのする封筒。
筆跡は細々として頼りなく、力が抜けていってしまうのか、
終わりに向けて段々と文字が薄れているところがあるだろう。
便箋の端には梅の押し花があしらわれている。
終いの地より、煙霞山のあるじ様へと、
そんな簡素な宛名を書きとめて。
疼躊化葬 コルデリア から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
蓬儡様へ
お手紙を受け取りました。
私は終いの地、エンデという名のリージョンに住まうコルデリアと申します。
あなた様が我が星に来たことが無いのならば、凡そははじめましてになりますね。
縁が繋がったこと、たいへん嬉しく思います。
私も大概退屈はしておりますから、よろこんでお話し相手を努めさせていただきます。
けれども、もし長くやりとりが続かなくなったならば、申し訳ありません。
煙霞山とは、どのような処なのでしょう。
山は景色のよい場所であると聞いたことがあります。
私の知る限り、ですが。きっと良い空気が吸えるのでしょうと思います。
こちらは木々に覆われ空も遠い場所におりますゆえ、さぞ綺麗なところでしょうと、想像を膨らませることしか今はかないませんが。
よろしければ、お返事をくださると嬉しいです。
コルデリア
疼躊化葬 コルデリア から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
「 ──、 はは、…… 」
終わりまで書き込んで、手からペンが落ちる。
自嘲気味に溢れた声は、次第にはくはくとした
吐息に変わって ぎゅうと胸元を握りしめた。
明日に楽しみを作るなんて。
未来に楽しみを作るなんて、と。
/*
あーーーーーーーーーーーーーーコルデリアさん………>>31
お手紙の相手、長命の妖魔>>0:75なんだよね……はあああ……
お手紙内容きになりながら つらい つらい いいですね……
"トラッシュ"が動き始めるのは早い。
農場主や牧場主も朝は早いが
"クレーター掘り"には勝てない。
私もその一人だ。
まぁ、実際にはクレーターを掘っているわけではなくて
クレーターに何故か流れ着く物品を拾ってるだけだ
クレーターへは宵のうちに向かい始め
夜明けとともに降りることが出来るように準備をする。
なにせ"クレーター"とは名ばかりで
迷宮と言えるほどの複雑で入り組んだ構造をしてるから。
明かりがなければ探索だって満足に出来ないんだ。
暗くなったら悲惨なもので
道迷いや遭難なんて可愛いほう。
足元に躓いて転倒、クレーターの底へ真っ逆さま。
そんな連中も、実際にいたらしい。
夜明けから日暮れまで。
そういう暗黙のルールのようになっていた。
そんな時間制限があるからか
トラッシュの巨大クレーターは
発見からかなり時間は経過しているけれど、
未だに未踏箇所があるのだとか。
まぁ、既に足を踏み入れた場所でも
何かしら変なものが流れ着いている可能性もあるってことで
調査が終わった場所に誰もが何度も寄るものだから
探検は遅々として進まない。
まあ、そういう"探検"を目的とした連中は
とっくのとうにいなくなっているので
この世界が終わるまでに、このクレーターの全容
それが明らかになることはないのだろう。
冒険者時代はいざ知らず。
私も今は未踏の踏破よりも目先の小銭だ。
背負子に一杯に積んだ"戦利品"を横目に見ながら
昼前に、私はクレーターを後にしたのだった。
「手紙…?」
クレーターから戻ってきて、自宅の郵便受けの前。
いつも通り中を検めると、よく見るチラシやら何やら。
そして"此処"には似つかわしくない物品。
手紙だ。
広告や商品カタログ、請求書以外の郵便物なんて
私には最早縁の遠いものに成り果てていただけに
好奇心に駆られて、郵便受けの前で
封筒を裏返しにして、差出人を確かめる。
「……なんで?」
差出人の名前を見て、思わず疑問が口を吐く。
それは奇しくも、先日の私の手紙の差出人で。
あり得ない事態に、「?」ばかりが浮かぶ。
試案をしながら部屋に戻り、背負子を下ろして
私も椅子に腰を下ろしてから机に向き直る
心当たりなんて一つしかない。
「…船舶情報の通知か
それで何か危急の用事でもあるのかとか
そんな風に勘違いさせちゃったとか…?」
深いため息を深く深く吐いて、
仕方ないな、なんて、自分の過去のやらかしに
苦笑いなんかを浮かべつつ
私はペーパーナイフでさっと封を開けると
中にある手紙を取り出し、広げたのでした。
「……あれ?」
けれど内容は全く予想の外にあったもので。
手紙から目線を外して
再び手紙に目線を戻しても
やっぱり、記されている文言は変わらない。
宛先を間違えたのかな、なんて考えても
でも、私に間違いはないようだった。
疑問に答えは出なかったから
何を考えるでもなく、文字を追いかけてゆく。
けれど答えはどこにもなくて
そして次第にその疑問は雲散霧消してしまった。
じ、っと眺め続けているうちに
困ったような口調で、話しかけられてるような
目の前には文字を記した紙しかないはずなのに
本人が目前で喋っているように思えて。だから。
「……ふふっ」
手紙を読んで、そして彼の身に起きた
愉快な出来事に、知らず、笑みが浮かんだ。
嗚呼、この不思議と穏やかな心地。
それは未だ仲間たちと一緒にいた時
それ以来、久しく味わってはいなかった。
「元気な顔、か。」
我ながら単純なことだとは思うけど
けれど思い出してしまうのだから仕方ない。
嘗て、仲間たちに囲まれていた時に
不貞腐れたり、元気がなかった時に
からかったり、励ましてくれたあの時の皆の事を。
不思議と、"トラッシュ"で顔を合わせた時
そのやり取りをした姿とも重なってしまったから。
……何遍手紙を書き直したか分からない。
いや、丸めて破棄した便箋の数を数えりゃ分かることなんだが。折角“女将”の厚意で頂いたものを、こうも無駄に書き損じ捨ててしまうのは、聊かどころじゃなく気が引ける。
衝動的に何かを書き綴ってしまう手を、意識して、止める。
「お前さんのメカの灰色の頭脳なら、
こんな無駄書きすることもねぇんだろうな」
「ソノトオリ!」とこういう時に限って妙にマニュアル的に応答するクロウに溜息をついてから、もう一度、件の手紙に視線を落とした。
――しかしまあ、随分拙い文章だな。
そう改めて思った時に、俺ははっとしたんだ。
――俺は一体、誰に対して答えようとしていた?
――答える相手はアイツじゃない。あの人でも、ない。
――いま、目の前にいるコイツ、だろ。
……言うまでもないが、手紙の送り主はこの時、実際には俺の目の前には居ない。
要するにこれは、「この手紙を書いた存在」に直接向き合う心算で答えを返せ、ってことだ。
送り主曰く、手紙を書くのは「はじめて」、ということらしい。
そんな相手への文に載せる言葉を、努めて落ち着きを保って、俺は便箋の上に綴り始めた。
『ベアー
はじめまして。てがみをかいてくれて、ありがとう。
おれは マー・チエンドゥー といいます。
いまは マーチェンド ってよばれるほうが おおいが、
おっちゃんなら チエンドゥー ってなまえのほうで
おれのことを よぶことが おおいはずだ。
おれは ペリアンス リジェットXのそとのリージョンで
たべもの、ふく、アクセサリー、メカ、ねんりょう、ほうせき……
ほかにも、いろいろなものを かってきたり、
ほかのひとに うるしごとをしている。
(けいさつに つかまるような あぶない ものは
うったり かったり していないからな!)』
越境貿易商 マーチェンド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
『ベアーはきちんと、ごはんを たべてるんだな。
にがいやつも がんばってたべたなんて、えらいぞ!
リジェットXでは いきているもの みんなで
がんばって たべものをそだてているって、
うわさで きいたことが あるんだ。
もしそうなら、たべものが いのちにとって
ほんとうに だいじだってことは
ベアーもおっちゃんも、よくしっているとおもう。
だから、がんばって にがいのもたべた ベアーは
ほんとうに えらい いいこなんだぞ!』
越境貿易商 マーチェンド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
『ベアーは ぶんつうのルールも
ちゃんとべんきょうしたんだな。それもえらいぞ!
おっちゃんは おれがむかし がっこうのべんきょうを
よくサボっていたことを しっているんだぜ……。
だからおっちゃんには チエンドゥーよりも
ベアーのほうがえらいって、じまんして いいからな。
はじめててがみをかいてみて、
たのしいっておもえたのなら、よかった。
よかったらまた、いつでも てがみを
おれにかいて おくってくれよな!
マー・チエンドゥー』
越境貿易商 マーチェンド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
『ついしん
(このことばのいみが よくわからなかったら
ぶんつうのルールをおしえてくれたひとに きいてみてくれ)
このてがみのびんせんを そのまま
おっちゃんに みせてあげてくれると うれしい。
(ついしんではない ぶんしょうは、とくに みせなくても いいぞ)
俺が一人でペリアンスを出て行ってから、
一度もそっちに帰ってきてなくて、ごめんな。
天涯孤独だった俺をペリアンスまで連れてきてくれた
義母さん――ウルスラ先生があの実験の事故で亡くなった時に、
あの人の傍に俺が居られなかったこと、今でも、悔やんでる。
何時か、気持ちの整理がついた時に、
そっちには一度帰りたい。帰れたらいい。
あんな事故のあとも生き延びてくれた
お前さんたちに、生きてるうちにまた会う為にも。』
越境貿易商 マーチェンド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
/*
前回も初回落ちだった気がしますね。
縁がありますな。
2dまで駆け抜けよう。
可愛らしいお手紙に頬が緩んでしまう。
"ざぁあん。ざああん。"
"ざぁあ…ざあぁあ…"
"……こぷこぷ…かつん、かつん……"
"からん、からん、ころん,…"
"………ざざぁん…ざああん…"
あたりに潮の香りが満ちてくる
さああっと流れる風は
塩気と水分をたっぷりその身に含ませて
泥の男の頬に染み込む。
そのおかげか、頬が逆立ったかのように感じる。
もしくは、塩の結晶がちんでんしきれなかったとか?
漣は いつもと変わらず語りかける。
ただ一つ、大波がごぷんとおきたとき。
その中にカラカラと乾いた音が響くのを耳にした。
……大波が去る。
そこらじゅうが泥へと変わったあと、
まだ清い砂浜の上に一つの小瓶を見出した
『……っ…ゲフ…コホッ…ゴ、ポッ』
大波が来たとき
咄嗟に鞄を抱えて護っていた泥の男は、
自分の体内に入ってこようとした
水たちを弾くのに精一杯で
それが引いていった後も
しばらくはゲホゲホと咳き込んでいた。
■の中に入ってこないで
■は■なのだから 清い水にはなれないのだから
……ぐるり、眼球だけ回すようにして
小瓶の輝きを見つけ出す。
………のた、のた。べちゃ、べちゃと。
産卵に来たばかりのウミガメのように重い身体を引きずってその便りのところへ向かう。
ずる、ずる、ずる。足だか腕だか分からないところが少し膨れて痛む。
じゃぶり。という音と共に小瓶をつまみ上げたならば…そこには
[裂帛の気合を込めた声。
風を斬る音。
木剣のぶつかり合う音。
地面を擦れる音。
男の屋敷から少し下がった場所。
巨岩の上にぽかりと開けた広場に、数人の若き妖魔達の姿があった。
うっかり落ちれば真っ逆さまだが、彼らは怖がりもせずに激しく体を動かしている。
少し離れた場所から様子を見ている男の背後。
広場の奥には道場や弟子達の宿舎がある。
そう多くの弟子を受け入れているわけではないのでその規模は小さいが。
人間の踏み込めるのは、山の下層にある門の前までだ。
麓からそこまで辿り着くには絶壁に申し訳程度に出来た石段を上らなくてはならない。]
[大門から男の屋敷までの階段はそこから更に数千段。
傾斜は更にきつく、道幅も狭くなる。
人の身であればある程度整備された道を必要とするだろうが、妖魔は身体能力が高いので何とかなってしまう。
優雅を誇りたければ、中腹辺りまで乗りつける乗り物でも用意せよ。
勿論、先触れは必要だが。
他のリージョンとをつなぐシップの乗りつける場所と煙霞山は妖魔の感覚では”それなり”に近い。]
よし、そこまで。
[ぱんぱんと手を叩いてみせたのは男だ。
それ程大きくはないが、制止を受けて弟子達は動きを止める。]
王浩は踏み込みが浅い。
兄弟子の胸を借りる気で思い切ってみなさい。
黄磊は気を抜いたな。
剣の振り方に出ていたぞ。
後で素振り五十本。
[淀みなく弟子達それぞれに教えを付ける。
言葉に迷う事はない。]
[男もかつては弟子として師匠の教えを受けていた。
腕っぷしを鍛えるのが楽しすぎて、勉学が疎かになったのはご愛嬌。
親の欲目などで瞳を曇らせず、我が子でも不真面目な者を放逐したのは正しかっただろう。
男から見ても、兄達の方が父の跡目を継ぐのには相応しかった。
家を放逐されて百年程は、ゲッカの中をあちこちと回った。
路銀が底をつけば、人里を荒らす下級妖魔や魔物を倒して稼ぎ、挑んでくる者があれば戦った。
珍しいものがあると聞けば足を運び、戦いたいと思う者には自分から挑んでいった。
何不自由なく暮らしていた公子時代よりも、その方が生きているような気がした。
そうして流れ着いた先がこの煙霞山だ。
山と言っても、山脈と表現した方が正しいが。]
[弟子をはじめて取ったのは、ほんの気まぐれだった。
寄る辺ない妖魔の子を峰まで連れ帰り、配下の者に世話をさせ、たまに剣技を見せてやれば、きらきらと目を輝かせるのが面白くて。
ならば教えてやろう、と小さな木剣を誂えさせた。
感覚的に扱っているものを、昔受けた教えを言語化するのには苦心した。
弟子が成長すれば、楽しかった。
立派に育ち、今では配下として仕えている者もいる。
新天地を求めて山を下りた者や、別の山で主を名乗っている者も。
皆、それぞれだ。
古い弟子などには、随分と丸くなったと言われる。
昔―妖魔の感覚なので数百年は下る―であれば、弟子に叱られるような真似は許さなかったと。]
いずれは楽隠居したいものだ。
[挑戦者を退けているこの身は、老いを感じさせる事はない。
けれどいつかは己を超える者がやって来る。
そんな漠然とした予感があった。
かつて、男が前の山主を倒したように。
いずれ、弟子の中から男の跡目を継ぐ者も出てくるかもしれない。
結局のところ、この山の在り方を守れる者が上に立てばいいのだ。]
/*
送ったのが2通で、頂いたのが1通。
もう1通、手紙…出来るかな、どうかな。
コルデリアさんをかつての住民宛にして、
イオニスさんが縁結びでも良かったかもなんて。
ベアーさんとは爆発仲間ですね(違う)
一緒に落ちるんだってちょっと笑ってしまいました。
全身を塩まみれにされ
少しぐったりとしながら陸地へと上がる
塩害だ。侵害だ。心外だ。
ここまでくれば
寄せて返す波は訪れはしないだろう
無邪気な厄災から離れて
ようやく安全なところで手紙に相見える
パンパンと腕を払い表面についた塩の結晶を取ったら
コルクの隙間に指をねじ込むようにして
きゅっっぽん、と。
その小さな紙片を拾い上げる
こどもだ
むくなもの
はじめから きれいなもの
もろくてやわらか
よごれをしらないかわいいこ
みにくい■がまもりたかったのは
きっときみのように きれいなこ
げんきだろうか
とどくだろうか
きみのせかいのものがたりは
まだ つづいているだろうか
つづいているなら どうかしんじて
きみのものがたりは えいえんにつづくことを
泥の男は鞄を開き
物語の束をそっと取り出す
忘れ去られて 消える泡沫
もう終わってしまった世界の亡骸
誰かに読んでほしくて
けれども捨てざるを得なかった海の亡霊
それでも きみを待っていたかもしれない
世界の断片を どうかきみに
きみによんでほしい ■がここにいきていること
インクにしては妙に茶色い、
粘性のある物体が
拙い文を描いている。
こ んばんは べあー。
とど き ました。てが み。
■は べあー べあ ■■■■
なまえ は あまり覚えてない
なまえは がぁど だった きがします
りじぇっと5 しっている きがします
こんとん をただよう ときに みかけたのかも
いろんな いきものが いるところ
はっぱが とれる な ら
みんなきっと いきています よかった
きみは なんだか げんきそう
そこでは なにがたのしいですか?
泥の男 ガァド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
こ こは ずっと よるの うみ です
■いがいは だれも いません
うみのむこう に い るのかも しれません
こ こは だれも が いらない ものが
ながれつく から ■も
ここにいるのかもしれません
■ は 人間 死体?ゾンビ?
ど ろです いき た どろです
きれい が にがて で
うそ つきが きらい です
ここ は きれい だらけですが ほんとう だらけです
も のがた りが すき でし た
わすれ られるも のがた り は
かな しいです ので
だ れか に みて ほしくて
だ から べあーに わたし ます
泥の男 ガァド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
メッセージの裏側には物語が書かれている。
どうやら、裏側の文字を書いた人とは違うようだ。
依頼人のもとを訪れれば、そこで待っていたのは
うら若い淑女であった。
「ようこそいらっしゃいました。名探偵ウィラード。
あなたの噂はかねがね聞いております。
何でも、かの有名な 倫敦都市爆破未遂事件を
解決まで導いたという…あの噂は本当ですか?」
そんなふうに事件の顛末が伝わっていたのか?と
助手は白目を剥いた。
嘘は言ってないが半ば詐欺師と同じじゃないか!
「えーと。間違ってはないけど間違ってるというか
こいつはたまたまもごご!」
「もちろんです!!!
貴女の事件も無事に解決してみせますよ!!!」
泥の男 ガァド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
「そうですか…では、是非話を聞いてください。
……私の最後の家族……兄の失踪事件について」
探偵達は知る由もない。
この事件が、倫敦だけではない
世界を揺るがす事件へとつながるなんて。
原稿用紙の文字は、途中で途切れている。
別のページに移行したか、まだ話を書いている途中なのか
インクのシミだけが 続きがあるよと伝えている
泥の男 ガァド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
リジェットXは基本的に自給自足で成り立っているリージョンだ。
だからステアによって食べる物が無くなり……というような心配事はない。
ではなぜ研究員たちは走り回っているのか。
それは娯楽の確保のためである。
一日二日であれば「そういう日もあるさ」で済むものが、月単位となれば一大事だ。通信障害が起これば目も当てられない。
――書籍の小説持ってる人いる?
――くそ、読み終わったコミックの雑誌リサイクルに出さなきゃよかった!
――ボードゲーム持ってるって誰か言ってませんでした?
そんな研究員たちに混じってベアーも慌ただしく便箋にペンを走らせていた。
こ れは ■ 友 だれの?
だれかの ものがたり
わすれられた そのさきで
■ たちが いきていたこと
きみが しっていて くれたなら
しあわせ です
いつ か かんそう を
どうか き かせて ください
しぬ まえに きみ に あって みたかった
■■を こめ て
■■■■■・がぁど■■■
泥の男 ガァド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
『おっちゃんのしりあいにひとへ
すてあがあるのでぶんつーおやすみになっちゃう
へんじはすてあなくなてからします
ちゃんとへんじする
まっててね
べあーより』
爆発爆散 ベアー から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
[描き終わった羽ペンを下ろす。
さらり、サラリと泥のインキが固まるのを待ち、
表面についた砂や汚れを羽根で払う。
きれいになったなら、それをもとの小瓶に詰めて。
ついでに、サラサラときれいな白の砂をつめて。
きゅっとコルクで蓋し直す。
泥で作った蝋で留めて。ぎゅっと指で印を押す。
指紋の印。ぐるぐる同心円
そしたら、また波に怯えながら海へ向かう。
一番遠くに届いてくれる波を探して、
彼に委ねるように
ぽぉんと、手紙をおくりだす。
「おっちゃん、これ!
きょうのていきびんに!おっちゃんのしりあいにてがみ!」
空き瓶を片手に慌てた様子で研究員に手紙を押し付ける。
なるほど、きっとこれはステアが来るから返事が書けないと伝えたいのだろうと推察した研究員は、握り締められて若干くしゃくしゃになった手紙を受け取った。
『その空き瓶は?』
そう言えばさっきからマチェットと何やら集めていたが……と言いたげに空き瓶に視線を移すと、ベアーは
「きのうあなにてがみいれたから、それひろったひとにすてあがくるからぶんつーできないって、そういうてがみかくんだ!」
というだけ言って慌ただしく走り去った。
/*
ところでぼくの独り言、誰に対してかを問わずPCに対してさん付けと呼び捨てが混ざってるんですが
特に他意がある訳ではなく、単に慌てて書いたりちょっとマーチェンドの口調が混ざったりして結果的に「さん」が抜けているだけ、でした。はい。
ひとまず落ち着いてお返事の続きを書きましょうね……。
/*
物語の裏面にメッセージ、というのがテーマだったので、
物語を繋いでるけど、送られた側多分意味わからんよな
不思議生物の戯れに付き合っておくれ人類
ゾンビは本能で色々やっちゃうからね!
研究員はベアーから受け取った手紙をじっと見た。
宛先は昨日教えた相手、チエンドゥー。
ここで育ったチエンドゥーなら、このリージョンがステアで孤立することは当然知っていることだ。ニュースなりなんなりで大規模ステアの報道を見れば察しもつくことだろう。
わざわざ手紙を書かなくても……、と思ったがきっと手紙を書くことが楽しいのだろう。
だからあえて何も言わず、今日リジェットXから定期便に乗せる荷物の中に手紙を入れた。
気がかりなのは空き瓶のほうだ。
例え穴に入れた手紙を誰かの拾ったとしても、もう一度同じところに届く確率は限りなくゼロに近い。
そっちの方は指摘してやるべきだったか、と思うものの、言うよりも早く立ち去られてしまったのだ、どうしようもない。
届くと信じて疑わないベアーのために、研究員は
同じ人のところに届きますように
とひそかに祈った。
『てがみをひろったひとへ
ごめんな
おれのところすてあでてがみとどかなくなっちゃった
でもてがみとどいたらちゃんとへんじする
へんじしたくないとかそういうんじゃないよ
すてあおわったらいっぱいてがみかくから
べあーより』
爆発爆散 ベアー から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
さて、俺は手紙の送り主本人――あの研究機関の実験体なんじゃないか、とは考えていた――に向けての返答に封をした訳だったが。
実際のところは、やはり、結局、「アイツ」に向けての言葉も添えてしまってはいた。幾度も衝動的な思考を書いては捨ててを重ねた末の“伝言”だったから、多少はマシな言葉を選んで手紙に添えられたとは思うんだが……。
それとは別の問題として、「コイツ」と「アイツ」に対しての言葉遣いの違いを、封筒を閉じてからふっと考えたものだった。
「研究機関の実験体」と一口に言ったって、その知能の度合いは様々だ。
譬え
つまり、何が言いたいかというとだなあ……。
仮に例の追伸が「コイツ」に理解できた場合、俺が「コイツ」をバカにしてると相手に思われる可能性もあった訳だ!
まあそれならそれで、そこも含めて「おっちゃんのしりあいのひと」――あの男の友人なのだって理解してくれりゃいい。そう諦め……もとい、己の未熟さを認める心算で、俺は返信をそのまま送ることにした。
[……手紙を送り出したあと
大きな棕櫚の木の下で 泥は少しおかしそうに
ゴポゴポと喉を鳴らして笑いました。
海のむこうには どうやら
だれかがいる…らしい?ので
それなら、なにかを、誰かを送るのも
きっとなにか 意味があること
なんだとおもうので
もうひとつ、泥の男は筆を執りました
宛先不明。今はそう、とりあえず。]
インクにしては妙に茶色い、
粘性のある物体が
拙い文を描いている。
こん ばんは
こ のてがみは あな たに
と どき ます か とどき ました か?
■ は が ぁど だとおもい ます
し んだ にんげん い きたどろ
なぜ まだい きて いるかは わ かりません
ここ は うみ のむこ うがわ
い らない もの が ながれつく はま
けれど ■たちは いきていた ので
あ なた に しって いてほ しい
■がいき てい たことを
泥の男 ガァド から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
メッセージの裏側には物語が書かれている。
どうやら、裏側の文字を書いた人とは違うようだ。
…燃え盛る倫敦の一角…逃げ惑う人々…消防士が必死になって駆け回り、大火となった家を押さえ込もうとしていた
「…しかし驚きましたよ…
まさか…貴方だったなんてね…ウィル
こんな大事件を起こして…あなたのせいで…」
その目には相棒の裏切りへの怒りが滲む。
「くくく…私も予想外だよ…ロックス…
まさか、こんな結末を迎えるなんてね…」
ニコリと笑いかける黒幕。もう、これ以上誤魔化すことはできないだろう。観念したように友人の方に向き直って、彼は言うのだ。
「君へのバースデープレゼントにケーキでもと思ってな。
どうだね?サプライズを受けた気持ちは?喜んでくれると嬉しいが!」
今夜、一つの巨悪が生まれた。友人を騙した巨悪が…
泥の男 ガァド から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
…端の方に、茶色い文字の走り書きがある。
ただしいことを しようとし たら
あくに なって いたなんて
そうい う こと は ゆるされま すか?
ゆる されなく ても
■は いきて いた わけですが
泥の男 ガァド から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
きゅぽん。また一つ、思いの欠片を瓶に詰めた。
一緒に棕櫚の木の葉のかけらを入れて。
飛んでいけ。どこまでもどこまでも。
流れに流れて、海の果てまで
「……流石に腹減ったな。
お前さんも充電が要る頃だろ、クロウ」
俺とクロウは階下の食事処に向かうことにした。もっともクロウの“食事処”はあのエンジニアの工房になるんだが。
妖精の“女将”が今朝用意してくれたのは、やはり質素な見た目と味付けの、翡翠色の豆のポタージュ。
「今の時間はマーチェンドしかいないから」とのことで、これを作ってくれたとのこと。もし俺が他の客と同じくらい早い時間に朝食を摂りに来ていたなら、もっと“この国らしい”華やかなメニューを出されていたんだろうな。
俺がこうした地味な食を厭わないと知った上とはいえ、そういう料理を「わざわざ」作った“女将”の思惑にまでは、この時俺は踏み込まなかった。クロウもな。
ともあれ、質素ながらもきちんと美味いポタージュへの礼を述べてから、俺とクロウは充電のための工房へ立ち寄り、それから再び客室へと戻っていた。
……風の音がするほどに
強い強い空気の流れを肌に感じる
…なにかがとんできた?
ひらり ひらり。
風に乗って舞う何かは 泥の住処の真上にある
棕櫚の木のてっぺんへと引っかかった
刺々しい深緑の間に差し入れられた白の封筒
少しそれが気になって
泥はその身を棕櫚の幹に伝わせて
うえへ 上へ さらに上へ
鋭い針葉に突き刺されながら
その隙間にわずかに見える
白に手伸ばし 抜き出した
「 ……う、 ……っぐ ぅ… 」
胸を押さえてしばらく。呻きが小さく漏れ、
ざわざわとした焦燥が喉奥を這う。
身体の痛みも苦しさもずっとずっと慣れない。
息が落ち着くのを待って、……待って。
うろ覚えの記憶で薬の在処を探り飲み下す。
それから早く効くことを祈りつつ臥せって、
しばらくしてやっと人心地つけそうになる。
常のことだ。常のこと。
知らず知らずのうちに浮かんでいた汗を拭い、
脱力しきったまま、残りのことを考える。
……植物の香りがする。
このへんの植物の香りと 違う気がした。
もっと奥まったところの香り。
海の潮より、山の土を思わせる香り。
生い茂る豊かな自然と… ほんのかすかに寂しい香り
/*
コルデリアちゃん薬なくなったら死んじゃうのだろうか
苦しんでるところを見るとぎゅっとしたくなっちゃう
苦しそうにしてるのコルでリアちゃん似合うよねキャラチップ的な意味で(ひどい
残りのこと、── 余っている便箋の使い道。
今更援けは願わない。
ただなにか自分にまだ出来ることがあるのなら、
それをやりたい……というだけ。
いともシンプルな、思考。
身体を持ち上げてペンを取る。
案外、私って未練があったのかもしれない。
こうなるまで、気づきもしなかったけれど。
俺は返信を書いていない3通の手紙のうち、既に一通りの文面を見てはいた手紙を、改めて読み直す。
表と裏で書き手の異なる手紙の、おそらく裏面に当たる方の物語を、この時になって漸くじっくりと読み進めたんだ。
――ああ。ああ。そういうこともあるわなァ。でもよ……。
裏面の物語に少し苦い顔になりながらも、拙い字を記した書き手のほうに向けた言葉を、俺は便箋の上に綴り始めた。
相手の素性の手がかりが少ないこともあって、ちぃとばかし悩んだんだが、敢えて「拙い字」に合わせた言葉を遣うことはしなかった。丁寧な言葉遣いにまで合わせない、なんてことはしなかったが。
もし相手がこの裏面の物語が解った上でこれを送ったのであれば、この文遣いでも読めるだろう、と。
[この手紙は、黒いインクで文字を綴った生成りの無地の便箋を、同種の紙で作った封筒に収めたもの。]
夜の海の果てに在る貴方へ
おはよう、泥色の茶の文を綴りし方。
穏やかなしじまも、打ち寄せる波音もない
不夜城の地の片隅で、貴方の手紙を受け取りました。
私の名前はマーチェンド。
マー・チエンドゥーという名前もありますが、
どうか、貴方の呼びやすい名でお呼びください。
貴方が私に気づいてほしいのが、
手紙の裏に記された物語の断片のことであれば、
確かに私はそれに気づき、読み進めました。
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
倫敦の街を駆け巡る追跡者と、彼に追われる男。
この物語には、少しだけ既視感を得ました。
もしかしたら私自身、いつかどこかで
この物語の書き手に出会っていたのかもしれません。
今まで私が忘れ、無かったことにしていた言葉に
ここで再び気づくことができたのであれば、
私は今度こそ、その言葉を捨てまいと思います。
この“混沌”の中、声を上げることも叶わぬ声や、
上げても顧みられぬ声、忘れられる声も多いでしょう。
貴方はそんな声を拾い上げ、繋ぐことを願う方ではないか。
届いた手紙から、私はそう考えました。
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
ところで、私がもしこの物語の追跡者の立場だったなら、
追われる男にとっての札束の意味を知ってしまえば
幾らかは彼に同情を抱き、罪を重ねない約束のもとに
彼の生命の為に身銭を切ってしまいそうな気はします。
盗まれた側の怒りや絶望も、身に染みているのですがね。
この物語の書き手が読者に伝えたかったのも、
罪あれど同情すべき者たちの存在か、
それでも、それでも罪を許さぬ意志の重さか――
私が抱いたこの感想は、貴方ではなく、
書き手に直に伝えるべきものかもしれませんね。
返答が聊か長くなってしまいましたが、
手紙と物語を送ってくださったことに感謝します。
今の私は不夜城の片隅から出られないままですが、
貴方のいる海の果てをも、何時か訪れてみたいと願います。
マーチェンド
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
追伸
私からも一つ、物語をお送りします。
誰か他の方に、この話をそのまま伝えても構いません。
[これ以降の文章の筆跡は、それまでの手紙の筆跡と同じ。生成りの無地の便箋や黒のインクが使われているのも同様。
ただし、これまでの文面が載せられたものとは別の便箋に綴られている。]
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
私は迷い込んだの 華やかなお城のある国に
美しい服 美しいお化粧 美しい街
煌びやかな花の衣装は朝も昼も陽に輝いて
夜になれば陽に代わり 七色の灯りに照らされる
闇は許されないの 何時だって明るいのよ
着飾れないもの 醜いものは許されないの
そんなものは綺麗なカーテンの裏に隠さなきゃ
そんな国を楽しみながら、私はほんの少し、
少しだけ、息苦しさを覚えたわ
この華やかな国にどこか馴染めない貴女に
この街の片隅で出会った時に、そう気づいたの
けれど私は、このお城の国を咎められない
だって私も 素顔を零した貴女の前でさえ
この笑顔を崩せないのだもの
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
植物の香り、それからどこか薬のような香りのする封筒。
筆跡は細々として頼りなく、力が抜けていってしまうのか、
終わりに向けて所々文字が薄れているところがあるだろう。
それでも丁寧に書かれていることはわかる。
便箋の端には菊の押し花があしらわれている。
それから、よくよく見ると薄らと血を拭ったような跡も。
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
これが誰に届くかもわかりません。
返事もそう望みません。ですが。
誰かに聞いてほしかったのかもしれません。
私はコルデリア。滅びに瀕した終の場所、エンデにて
ひとりで暮らしている住人です。
むかしは、たくさんの人がいて、とても賑やかで。
木々のもたらす恩恵にあずかって、皆豊かに暮らしていました。
けれども幾年か前に突然変異が起き、この小惑星はほかでもないその木々に侵食され、住民たちのほとんどは離れざるを得なくなりました。
今はもう、ここには日の光も覆われてしまい届きません。
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
こんなことをいきなり書かれても困る、とは思います。
けれど、恐れていたことが現実のものとなり、
全ての終わりを考えたときに、……既にこの星を出た者が
存在は知っているでしょうが。
どのような終わりと迎えたかを知るのは誰もいないと思って。
ただの私の未練です。
どうしてくださってもかまいません。そのまま忘れてくださっても。
遠くよりあなたに幸せがあらんことを祈っております。
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
からん、とペンを落として。
こんなことを祈られたとてよい迷惑だろう。
手紙一枚分の重責を勝手に背負わせたような、
そんな内容になってしまったかもしれない。
私の自己満足。誰が受け取るかも知れないもの。
──だから、気にしなくていいの。
そんな独りよがりを込めて、封をした。
/*
コルデリアさんなんてお手紙を……>>73も見えてしまって……もう……ね……
この この しばらくおまちくださいね……(※受け取れるのは明日以降です)
↑これとは別に、こちらからお手紙を送れていなかったのでコルデリアさんのほうからいただけた、というのも嬉しくて。ありがとう!
あの物語の届け手への返信を綴る中で、ひとつ載せた物語――とは言ったが、詩文だな、こりゃ。
そんな詩文の物語に載せようとしたのは、“声上げられぬ声”のようにも思えたあの“彼女”のことで。けれども俺が知る“彼女”の話を勝手に流していいものかと悩んで、物語の語り手を変えることにして。
……結局は俺自身のことも知ってほしかった、ってだけなのかもな。
さて、件の手紙の差出主の居所については、その文面から、ある程度の心当たりは得ていた。
とはいえリージョンの特定までできた訳じゃないから、俺からは「届け」と願いながら送るしかなかった――それこそボトルレターで“混沌”の海に流すみたいに。
まあ実際にはボトルレターなんて洒落たことはしないで、普通の郵便物として他の返信とまとめて送ることにはしたんだが。
……メール・トルーパーズって、こういう郵便物、結構集配していたりするんだろうか。今度バラ・トルーパーズに行った時にでも、関係筋に聞いてみるか……。
それから俺は、残る2通のうちの1通の封を切った。
封筒に記された差出主の住所から、中の便箋を見るまでもなく、この手紙の主が誰なのかは解った。
序に言えば切手の柄も――それに便箋に薄く刷られた版も――どのリージョンからの手紙なのかを想像させるに難くないものだ。
――ああ。ゲッカにも、ここ何年か立ち寄って無かったな。
少しばかり昔のことを懐かしみながら、縦書きで記された闊達な字を読み進めていく。
その字面の流れの中に時折滲んだご愛敬も、あの御仁の気風の表れってことなのかね。
さて、俺は“混沌”じゅうを自由に翔ける貿易商――と言えば格好いいかもしれないが、そうは言ったってしがない個人商だ。企業や権力の後ろ盾がある訳じゃない。
希少性の高い工芸品や芸術品、宝石や貴金属をも取り扱う商売柄、高い地位や高貴な身分に属する顧客を相手にする機会も多かったが、種族を問わず、応対に細心の注意を要する面々も当然のように多い訳で……。パンパス・コートのお貴族様方との取引も、かなり厄介な部類に入りそうな気はしている。
それだけに、かの御仁くらいに気楽に付き合える客に巡り合えるってのは、幸運に他ならない。
とはいえそれでも、相手はあのゲッカの峰の一つに君臨し、下級妖魔たちを従え麓の人間からも畏怖される上級妖魔だ。
山主たる妖魔の意思ひとつで存在を消されてしまう下級妖魔で俺がなくとも、礼を欠いて良い相手って訳じゃあない。
ところでリージョン間貿易商という仕事には、しばしば付きまとってくる問題がある。
その一つが、端的に言えば「外来文化の流入」だ。
まあこの“混沌”、元々リージョン間の交流ってのは(場所にもよるが)珍しいことじゃないんだが……。
そのリージョンに何かひとつ今までなかったモノを持ち込むだけで、それが現地に影響を及ぼすことは往々にしてある。そいつが便利な代物だったり、技術や文化の刷新に繋がるモノだったりすれば、影響は更に大きくなる。
そして俺のような個人商は「薄利多売」よりも「厚利少売」のほうが儲けやすいってこともあって、結構な高額の――値段に見合うだけの利便性のある外来品を持ち込んじまいがちなもんでなぁ……。
で、妖魔たちが治めるゲッカの地にも、ここ数十年くらいで電動の機械を取り入れるっていう変化が生じている訳で(これは勿論、俺の所為だけじゃないんだが)。
果たしてそれが吉か凶か……というのを、外来品を持ち込んだ側として考えてしまうことがある。
……悩むくらいならリージョン間貿易商なんてやめちまえ? そう言われたら大分困るな!
とはいえ、この広い“混沌”の全てを塗り替えて均質化してしまうような存在ってのは、流石にないとは信じている。
現にリージョンによっては、物理法則も魔法法則も他とは全然異なる
もっともパンパス・コートの微妙な電波事情は、リージョン自体の性質の所為だけじゃない気もしているんだが……。
まあ、そんなことを少し考えちまいながら、俺はかの御仁への返信をしたためていたのさ。
/*
って落としてから思ったのだけれど、寧ろ安くて便利なもののほうを広めちゃうほうが文化的な影響が甚大なんじゃないか……
ま まあいいや お返事をまとめよう……
(トラッシュ辺りとかには普通に安価なものもマーチェンド持ち込んでる筈だしな……)(イオニスのログ見ながら)
自分が冒険者崩れで
仲間を亡くしたショックで辞めてしまって
クレーターの発掘紛いの事をやってるってこと
それをあの商人に話したのは、出会った頃だったか。
昔、自分が使っていたものだから
武器やら防具の目利きには自信があった。
取引するにあたって、それなりに手も入れたから
だから、品質の良さを褒められた時に
興が乗って喋ってしまったのかもしれない。
けれど仲間を亡くしたなんてことは
興が乗ったとしても話すべきではなかったな、と
真っ白な便箋を前に、私宛の手紙を横目で見て
あの時はなんだか変な空気になりかけたけど。
元々才能がなかったから、とか
"発掘"の方が私の性にはあってるんだ
なんて、なんでもないよ、という風に誤魔化したけど
そんなつもりはなかったはずなのだけど。
でも。話さずにいるのなら、誤魔化せばよかった。
昔取った杵柄、なんて言って煙に巻いてもよかった。
冒険者だったことも、仲間を亡くしたことも。
きっと誰かに聞いてほしかった。吐き出したかった。
だからなんだろう。
きっと、赦してほしかったんだ。
きっと、詰ってほしかったんだ。
自分は、悪くないのだと。
運が、悪かっただけなのだと。
お前が、すべての元凶なのだと。
お前の所為で、仲間は死ぬことになったのだと。
「辛気臭い顔、か。」
けれど私に一番必要だったのは、きっとこっちの方。
もしも赦してもらえていたのなら
この先ずっと、前を向くことなんてできなかっただろうから。
マーチェンド
まさかそっちから手紙が届くとは思ってなかったので
勇み足でこっちから手紙を書いてしまいました。
先立って手紙が届くかもしれないけれど
その手紙の事はなかったことにして下さい。
…海賊の事は不運だったと思うけれど
本当に無事で何よりです。
船舶情報で無事なのは知りましたけど
こうして手紙で安否を告げてもらった方が安心しますね。
あの子も役に立ってるようでなによりです。
あの子ともども、余裕が出来たら顔を見せにきて下さいね。
"トラッシュ" イオニス から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
こっちの調子はぼちぼちですよ。
変わったことと言えば、貴方がやってくると踏んで
用意してた掘り出し物、何時までたっても来ないから
売り払ってしまいましたよ。
なので掘り出し物に出会える機会は持ち越しですね。
こっちは変わりありませんね。相変わらずのんびりしてます。
クレーターに潜ったり、クレーターを潜る人たちの為に
ヴィジランツの真似事をしたり、前と変わらず、です。
"トラッシュ" イオニス から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
/*
よんでもらえると、うれしい。
なるほど、よんだことがある、なら
いいかんじにしたいな。
ふふ。すごく難解なロルだけど、うけとってくれて、ありがとう
辛気臭いって言われたので
次に会える時はもう少し除湿できてるように
頑張ることにします。
私が辛気臭くなくなる代わりに
パンパス・コートならではのお土産(話)
楽しみにしてますね。
イオニス
追伸:そういえば、パンパス・コートといえば下層民街にある
漢中飯店のアップルパイがとても美味しかったですよ。
甘いものが嫌いでなければ是非食べてみてください。
あ、でも何年も行ってないので、ひょっとしたら店自体
なくなってるかもしれません。その時はごめんなさい。
"トラッシュ" イオニス から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
手紙を書き終えて
家の外から呼ぶ声に気が付く。
玄関口には10歳前後の生意気そうなクソガ…子供。
「いーおーにーすー」なんてまるで友達を誘うかのように
彼は私の家の戸を叩いているのだ。
やれやれ、と頭を掻いて表に出る。
「きょうは、ヴィジランツの日じゃないの?」
なんて言うものだから時間を確かめたら結構な時間。
朝からクレーターに潜る日課をこなしてるこの少年
それが此処にいるのだから当然の話かもしれない。
「ああ、もうそんな時間だったっけ。
ちょっと色々立て込んでたんだ。
忘れてたわけじゃないよ。」
そんな私の言葉に、
ほんとかなぁ、なんて揶揄うように言う
"バジル"と名乗るこの少年。
この子とも何年の付き合いになるだろうか。
それは此処にやってきてすぐの頃。
この"トラッシュ"に辿りついて何日か過ぎて。
宿の部屋に引き籠っていた時の事。
日も暮れて、下階の酒場が賑わっていたのを覚えている。
その時に、クレーターの中で道迷いをした子供の
捜索を手伝ってくれ、と依頼されたのが切欠で。
依頼人は彼の保護者で、捜索対象がバジル少年だった。
紆余曲折いろいろあって、彼を発見することは出来たものの
どうやらクレーターに怪物も引っ張られていたようで
怪物に追いかけまわされていたのを救助した、
というのが出会い。
それからはどういうわけか懐かれて
今日もまた、現れない私に業を煮やしてやってきたのだろう。
ヴィジランツの日は週に二度ほど。
その時はクレーターの近くに建てられた小屋に詰める。
小屋にはクレーターに降りて行った人の名前と
どのあたりに降りるのか、ということを記した書類
それらをまとめたファイルがある。
バジル少年を助けた時に
たまたま酒盛りをしていた探掘家の連中が
この子を見かけていたから、向かう先が知れていたから
早期に発見することが出来たのだけれども。
もしも、何の情報もなかった場合は
恐らくこの少年は怪物に殺されてしまっていただろう。
と、いうことがあったのでクレーターに入る人間は
単独であろうと複数であろうと、ここに行き先を置いてゆく。
そうすれば万が一のことがあった場合
捜索の範囲をいっきに狭くすることができるからだ。
実際に、役に立ったことも複数回あるので
明るい時間にだけ降りてゆくのと同じように
半ば不文律とも化していたのだった。
さて、そんな小屋に詰めるヴィジランツの日、といっても
何をやらなくてはならない、ということはない。
クレーターから上がってきて、帰還した人間は
それを示すサインを自分の届け出に記す。
それを見届けるだけ。
要は"クレーター探索届"の番人のようなもの。
だからファイルのある机のほど近いところで
昔から使っている"黒い鷹"の名を冠する銃の分解をしてる。
「なあ、イオニス」
別にやることはないというのに。
付き合ってもいい事など何もないというのに。
バジル少年は椅子に座って私の作業をじっと見つめている。
そうする理由に心当たりはあったけれども、
私はそ知らぬふりを決め込むんだ。
「やっぱり、剣は教えてくれないんだよな」
私は手を止めることもなく、返事もしない。
あの日、少年を助けた日。たまたま偶然うまくいって
怪物を撃退できただけの私に
戦う術を教えてほしいと言ってきたのはその翌日のこと。
その時は「まだ身体が出来てない」から駄目だと言った。
それから少年は毎日走り回り、大人たちの手伝いも熟し
当然、クレーターに降りることもしていたから
何年もたてば、追いついてくるようになるのは自明だった。
「戦い方を知ってしまうと──」
「──危険が迫った時に、逃げる事より
立ち向かう事を選んでしまいがちになるから。
今の君はまだ子供で、危ない事は大人に任せるべき
──それに、私みたいな半端者に教わっちゃいけない
でしょ?」
私の後を続けるように少年は言う。
何度も何度も言った文言だから、覚えてしまったのだろう
うんざりする様に溜息と頬杖をついて
バジル少年が私を見やる気配を感じる。
「半端者だっていうけどさ。
銃の弾がなくなったら剣で戦って
剣が折れたら、殴ったり蹴ったりして
他にも何かばーっって光みたいのを出したりして
あと、包帯とか絆創膏もなしに怪我を治したりして
そんなことできる人、イオニス以外に見たことないよ」
ただ単に、何をやっても上手くいかなくて
自分の才能を探してた結果の有様なのだけれども。
こうして言われると、半端者だとも思えるし
誰かに何かを教えるのには足りないのだ、と痛感する。
「ありがとう。でもこの世界は狭いけど、世界は沢山あるからね
バジルのお師匠になれるような人もきっといる筈だよ」
私は君に教えません、そう言外に言うものだから
少年はむくれて「ケチ!」と言うのだ。
/*
ちょっと離れている間にイオニスのお話とお手紙が見えて
てれてれにまにましているぼくです ありがとう!
>>80下段の
>元々才能がなかったから、とか
>"発掘"の方が私の性にはあってるんだ
を見た時にちょっとどきっとしてしまったのだけれど、「」で括られている訳じゃないし、台詞での声掛けじゃなくてナレーション的な感じ、で大丈夫ですね!
高い高い棕櫚の木の上
広く大きい針葉の隙間から拾い上げた
誰かの世界の欠片
風に揺られながら封筒の両面を
ひらりひらりと見つめている
刺々しい表皮の棕櫚の頂上。
泥に身体を融かして体勢を維持しているけど
…このすがたで読むのは 相応しくない気がする
ゆらり、ゆらり。
胸元にその手紙を仕舞い込む。
頭をゆらす。ざあと凪ぐ。
目をつむって。地面へ向かって一直線。
……まえにも こんなふうに
おちたことが あるきがする
せかいからおちて
せかいからのがれて
まっさかさまに
くらやみのほうへ
こんとんのやみへ
それならどうして いまここに
ドジャッッッ。
泥がぐちゃりと撥ねて。飛び散って。
飛び散ったものがまた集まり。
もう一度不定形が形を成して。
かつてを忘れた泥人形へ
『……………』
不定形が形になってから
目を開いて。閉じて。また開く。
特に体に異常はない。
もともとそういう生き物であるかのように
ともあれ、はらりと手紙を開く。
桜の押し花をされた、消え入りそうな文字のそれ。
月明かりのほの明るい砂浜で
誰かが残した やわらかな声を読み解く
漣の声にかき消されないように
優しく、耳をそばだてるように
…終いの地 しまいのち。
おわりにむけてあるくみち。
おしまいのちは たくさんある。
はじまったせかいは おわりがくる。
しのむこうがわに むかっている。
ほしのたんいで おわることは めずらしいけれど。
どのせかいのことだろう。どのほしのことだろう。
たくさんのせかいを こんとんからながめていた
…ああもしかして、あのばしょか。
せかいのおわりをまえにして
みんながいっしょにたびだった えんでのはなし。
/*
明日やること
墓落ち用の為のロールを組んでおく。(念のため)
その布石になる夢の過去回想を落としておく。
ベアーの瓶を回収する。
今のところはこんなところかな。
後メモで冒険者時代の最後の冒険の舞台はベアーのかつてのリージョンってことにしていいか尋ねとこ。
はなしあいてはいないのに
かたらうあいてはいないのに
どうしてあなたは そこにいるの
みすてられたの みすてたの
おわりのえんでの さいごのかたりて
あなたのものがたりは
そこでおわってしまっていいの?
なんて。物語を続けることさえできなかった■に言う資格などありはしないのに
おわってしまうというのなら
■にどうかきかせてください
あなたのさいごの ものがたり
きっといつかつたえましょう ひろいせかいのどこかへと
泥の男は立ち上がり、一度砂浜の方へと歩く。
水しぶきに当てられて
キラリキラリと輝く貝殻を探して
小さな桜貝をあつめる
桜の花びらのように
それをひょいと小瓶に詰めて…
ここからあなたへ伝える物語を紡ぐ
インクにしては妙に茶色い、
粘性のある物体が
拙い文を描いている。
コルデリア へ
こんばんは こんばん は
■ の なま えはコルデリア ■■■■■ だれ
がぁど と いう なまえが
あ った とおもいます
ここ は しず かな すなはまです
そらでは かぜ が ないて います
うみでは さざ なみが おいかけて きます
にゃあにゃあ、にゃあにゃあ とりがなきます
おおきな やし のき がゆらぎます
あなた は みたこと ありますか? こるでりあ
泥の男 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
■ は おしまいのばしょを
たくさん しっていま す
この うちゅう には
たくさん の おしまい が あって
■ は おしまいの ひとりです
おしまいのほし えんでのほし
たくさんのひとがたびだった ほし
すこしずつ すこしずつ
きぎやどうぶつたちにかえされるほし
たびだちの ふねは
ぶじにたびだっていきました
■ は それを みとどけま した
あなたは それに のりません でした か
あなたはその おしまいに のこり ましたか
泥の男 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
[この手紙の宛先の住所はゲッカの煙霞山、宛名は「蓬儡様」と記されている。
差出人の住所記載は、マーチェンド所有のシップ名である「トーチバード」および、その船体識別番号になっている。
切手の図柄は、赤と白の洋薔薇を象った模様だが――。
封筒自体は生成りの無地の紙で作られており、便箋に使われている紙も封筒と同種。
元々横書き用の便箋を90度傾ける形で、黒いインクの文字が縦書きで綴られている。]
越境貿易商 マーチェンド から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
蓬儡山主へ
ご無沙汰しております。マーチェンドです。
山主様からのお手紙、嬉しく拝見いたしました。
私がゲッカを訪れてから、はや三年になりましょうか。
この間も幸い天運尽きず、元気にやっております。
お手紙を拝読したところ、山主様のほうも
あれからお変わりなくお過ごしかと存じます。
山主様がまた機械を壊してお弟子さんに追い出されたと伺い、
失礼ながら、思わず苦笑してしまいました。
それと同時に、妖魔としての山主様の
揺るがぬ本質にも改めて触れたような心地で、
そのことに、嬉しさを感じもいたしました。
越境貿易商 マーチェンド から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
商人の身としては有難いことに、
山主様は機械に興味をお持ちくださいますが、
正直に申し上げれば、かのゲッカの山河に
外来の機械を持ち込むことは正しかったのか、と
数多のリージョンの神秘の多様さに惹かれた身としては
考え込んでしまうこともあるのです。
とはいえゲッカや、他所の民にとって
優れた電動の機械がありふれたものになったとしても、
この世から術の存在意義が無くなることは
おそらく無いのではないか、と私は存じます。
越境貿易商 マーチェンド から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
山主様もご存じのことかもしれませんが、
リージョンの中には、魔法、或いは磁気の影響で
機械がまるで動かなくなる地もあるとのこと。
私も一度、そうした地を訪ねたことがあり、
精神修養による術がなければ命を落としていた……
という事態にまで陥った経験があります。
それに加え、妖魔の多くがそうであるように、
生来の性質として、機械を上手く扱えない生命も
この世には少なからず存在します。
そうした存在にとっては術こそが、己や、
己の愛するものを生かし、守るすべとして
役立てられるものになるのではないでしょうか。
越境貿易商 マーチェンド から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
さて、この手紙を記している今、
私はパンパス・コートに滞在しております。
かの王国のリージョンは、妖魔ならぬ人間たちが、
「美貌」を至高とする妖魔にも劣るまいとばかりに
美を服飾の形で表すことを至上とする地です。
かの王らの誇る美が、果たして格高き妖魔の目に
如何に映るかは、私には思いも寄りませんが……
私のトーチバードも、かの王国の民の手によって
少々煌びやかな外観に仕上がってしまいそうです。
越境貿易商 マーチェンド から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
次にゲッカを訪れる時には、ぜひ山主様にお知らせいたします。
その際、もしご所望の品があればお持ちしますよ。
麓の街で、ゲッカの地の美味と旅の土産話を肴に、
山主様と酌み交わせる日を楽しみにいたします。
最後になりましたが、私の身を気にかけてくださり
お手紙をくださったことに、深く感謝いたします。
山主様のご健勝を、心からお祈り申し上げます。
マーチェンド
越境貿易商 マーチェンド から 煙霞山 山主 蓬儡 へ、秘密のやり取りが行われました。
コルデリア
あなたは あなたのほしは すきですか
あなたののこった そのほし に
あなた の しあわせ は ありま すか
あ なたの おしまい の ものがた り
おわってしまわないように
どう か ■ に きかせて ください
泥の男 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
……かの御仁に宛てたこの手紙、今の俺は全然忙しく動き回れる身分じゃないってことをしれっと伏せちまってるんだが……。まあ、旦那から急ぎの用件が来たって訳じゃあないし、大丈夫だよな……?
実はまだ脇腹が少し痛む、なんて馬鹿正直に書くのもなんだか気が引けてなあ……。
「そうだよ、こういう時は、
精神修養の術を使ってなぁ……」
城下街で受けられた医療の質は、決して悪いものじゃなかった。特に外科手術に関しては本当に綺麗に直してくれると言っていい。それでも退院してからも続く、身体の内側からの痛みってやつはあって――。
この時まですっかり忘れていた術と呼吸法とを、本当に久しぶりに、ここで俺は用いていた。
この自己治癒の法を思い出させてくれたのは、旦那からの手紙だったよ。ああ。
……メッセージの裏側には物語が書かれている。
どうやら、裏側の文字を書いた人とは違うようだ。
ガタンゴトンと揺れる列車のコンパートメントの中
憂いを帯びた表情の助手に向かって、
探偵はムスッとした顔を向ける。
「なんだね、ノックス君。何が不満なのかね
せっかく倫敦を離れてぱあっと旅行だというのに!」
「何言ってるんですかウィル。不謹慎ですよ
行方不明者を追いかけてるってのに…
その先で何があるのかわかったもんじゃない」
「それはそうだが…ほら、旅は楽しまなきゃ損だろ?
これから凄惨な真実が明かされるかもしれないからこそ、今のうちに楽しいことは楽しんでおくべきじゃないかね?…ほら、車内販売が来たぞ!サンドイッチを買おう!紅茶はいかがかね!!!」
「それは…まあ楽しんでおいたほうがいいのはわかりますが…
やっぱり僕は、倫敦の街が過ごしやすいんだよなあ……」
泥の男 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
…端の方に、茶色い文字の走り書きがある。
あな た は
たびに でたい で すか
それとも
あな た に しあわせ が ありますように
■■■■■・がぁど■■■
泥の男 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
趙雷、後は頼んだ。
[上の弟子に後を託し、男は山主としての仕事をする為にその場を後にする。
妖魔にとって、この世に生を享ける時に持った力が全てだ。
男は上級妖魔の間に生まれた故に、強い力を持ち、社会の上位にいた。
人間や下級妖魔の上に上級妖魔が君臨する。
ゲッカの社会構造はそのようになっている。
山主の統治方法はその妖魔によって性質は異なる。
「美貌」を至高とする者は、何より己の美貌を磨き上げる為の努力を惜しまず、美しいもので己の周りを纏めたがる傾向が強く、
「恐怖」を至高とする者は、何より己が高みにある事を望み、他者を畏怖で支配したがる傾向が強い。
──とは、男の評だが。
そして「誇り」を至高とする者は、何より己の名誉を大事にし、それを軽んじたり、傷つけようとする者を許さない。]
[男は執務室に入ると、豪奢な黒壇の机の前にゆき、椅子に腰かける。
そうして配下からの口頭の報告を聞き、机の上に置かれた状箱の中にある書物に目を通した。
こういった仕事には最初は閉口したが、今では慣れたものである。
大筋を決めるのが男の仕事で、細かな事は信の置ける配下にさせればいい。
必要な事が済めば、己の心の赴くまま、望む事をする。
領内に遣わした配下からの定期連絡は、領内の状態を知る為の手段の一つだ。
視察を行う事もあるが、お忍びで赴いた方がその地の実情を知れるので後者を好んでいた。
この領内に、男を倒せる者はいない。]
久しぶりに出かけるのも良いかもしれないな。
[急ぎの案件もないようだし、と呟けば、配下の者の表情が青くなった。
武よりも文に優れ、忠義に厚いので傍に仕えさせている者だ。
これまでに何度も出し抜かれ、男の単独行動を許してしまっている。]
「どうか、供をお連れ下さいませ。」
それなら、弟子を連れていけば良いだろう。
見聞を深める事にも繋がる。
「未熟な者達ではなく、どうか手練れの者を。」
[それはもはや懇願だった。
山主の機嫌を損ねれば、上級妖魔とてどうなるか分からない。
彼を突き動かすのは、男への忠義心だ。]
……… コルクで蓋をしめる。
泥の蝋で蓋をする。またも、指の腹で印を押す。
……どちらの方に流せば 届くだろう。
風に乗って届けられたこの文の返事。
…だから、風のよく吹く方へ。
潮風の強い方へと、送り出した。
[少し散歩に出かけてくる。
そんな調子で、数日留守にした前科が男にはある。
それだけはおやめ下さい、と泣いて懇願され、部屋の何処かに留守にする旨を書いた紙を残すようにはなったが。
男が山主としての職務を放棄する事はない。
必ず戻ってくると信じていても、その心労は計り知れない。]
冗談だ。
[男はそう言って、ひらひらと手を振ってみせる。
それで配下の表情が晴れる事はなかったが。]
[公的な文書を片付ければ配下を退室させ、私信用の状箱に視線を向ける。
そこには封筒ではなく、螺鈿細工の施された豪奢な文箱が入っていた。
新しいものに興味を示す同士、親交を深めてきた相手からのものだ。
ゲッカの古い妖魔の間では未だにこうした時代がかったものを使われているが、手紙の相手が文箱を使うのは、美意識の為せる業だ。
封じを解いて箱を開ければ、ふわりと馨しい香りが鼻を擽り、折り畳まれた白い紙が入っていた。
基本的に山主が他の妖魔の縄張りに干渉する事は好まれない。
山主が変わった場合の挨拶くらいはあるが、交流は互いが望めばといった程度で、各地の山主らが雁首揃えて話し合うといった事はなかった。
それは、ゲッカが安定した状態を保っているから、と言えるだろうか。]
ふむ……。
[内容は、友人である山主が新しい衣類を取り寄せたので見せたいというもの。
「美貌」を至高とする彼は、ゲッカだけでなく、他のリージョンの流行にも目を光らせている。
ゲッカでは、他のリージョンから荷物を取り寄せる権利は人間にはない。
あくまで主である上級妖魔を通して行われる行為だった。]
[男は便箋を取り出して迷いなく万年筆をその上に走らせる。
梳いた白地の紙に、臙脂色の飾り枠と罫線が縦に入っているものだ。
今度遊びに行く旨の返事を記すと、便箋を折って細身の封筒に収める。
そうして、それを更に封筒を文箱に収めると封を施し、鈴を鳴らして配下を呼んで手紙を託す。]
さて、土産に何を買っていけば良いか。
[よい酒でも持っていこうか。
他のリージョンから取り寄せた洋酒を持っていけば、相手ももてなしの為に同じ物を用意していた事もあった。
気が合うと、笑って両方空けたのだが。]
ひとつ手紙を書き上げて、それから、
あまりにも長いことぼうっとしていた。
もとよりそう働く頭でも身体でもないものだが。
書くことで想起された思考がただあって。
意識して考えないようにも、していたから
あるいはこれは平穏に暮らすための最適解で、
だって不毛な思考は幾らでもこの身を蝕む。
もう治らないの。ずっと苦しいままなの。
助けてとも言うだけ虚しいの。
舟に乗って行ったかれらは幸せにしてる。
私がそうであるように願ったのだから。
何も後悔するようなことじゃないんだ。
「 ──っ、 う、ゴホゲホッ、……ぁ 」
そんなのはただ息を苦しくするだけだ。
落ち着くまでもまた時間がかかる──
身体に負荷のかかることはすべきではなくて。
ぱた、 ぱたり。
うっかり手紙にまで散った血痕を慌てて拭って、
どうにか綺麗に誤魔化せていることを祈る。
すみません。触れたからとて感染はしません、
ですので何卒おねがいします。
ほんとうは恨み言のひとつでも吐くべきでは?
そう、なのかもしれませんが。
私はとうに、誰になにを云えばよいかも
わからないでいるのです。
舟を見送った日からずっと。
…これは 静寂の海の物語とは
今となっては無縁の話。
渾沌に数多く浮かぶリージョンの一つ。
"
蒸気とガス灯の古き良き町並みの住民は、一人一つ自分だけの固有の特性の能力を有する。
それを有る世界では魔法と呼び、
有る世界では超能力と呼んだことだろう。
そんな根源倫敦の街で、一つの推理小説が人気を博した。
この特殊能力があることが当たり前の世界で、
『特殊能力を持たない世界で殺人事件が起きたなら
探偵は一体どう事件を解決するのか』
そんなテーマで描かれた ドタバタ推理小説。
どこかの世界のシャーロキアンが喜びそうな
それともいちいち壮大な事件の数々に辟易しそうな物語は、いつしか根源倫敦だけでなく、その近隣のリージョンでも読まれるようになっていく…
…この本を手に取ったことがあるのなら、その物語の荒唐無稽さと…馬鹿馬鹿しいのに有り得そうなトリックの数々に、見覚えがあることだろう
……その作者は
ライヘンバッハの滝へと落ちて
死体も残らず消え去った。
皆が憧れた探偵の物語 それを綴った原稿と共に
まるで 物語ごと自分を殺すかのように。
その滝は、
飛び込んだ者は死体も遺らない。
滝から落ちたものは絶対に水面に浮かんでこない。
あれは 渾沌にすべてを捨て去る
世界の綻び それそのものなのだと
近隣の人々もその穴の研究者たちも口々に人々に伝えた
……本の題名は
『ウィラード・ヴァンダインの探偵事件簿』
…消えた作者の名前は…
ハーヴィス・ガードロイド
滝壺に落ちたあと その行方を知るものはいない
/*
ハーヴィス・ガードロイド
根源倫敦の住民で、使える固有能力は『液体状のものを自由に操る能力』
肉体としてはライヘンバッハの滝に飛び込んだ時点で死亡済。
固有能力の影響で自分の体と、滝の水と、混沌に漂う謎エネルギーが溶け合い混ざり合い、たまたま『スワンプマン』に近い生命が生み出された。(特殊能力の想定外の発現と飛び込み先が滝であったことが由来となった奇跡の産物)
根源倫敦にある「ライヘンバッハの滝」は
リージョンにできた穴のひとつで、そこから落ちると
リージョンの外に放り出される=混沌へと消える。
ちゃんとした装備があればそこから別リージョンに旅立つこともできるかもしれないが、滝自体が非常に荒々しい滝で危険性が高く、現在はまだ研究者の手によって調査段階。
/*
Wiki内の混沌間の移動について、
>>いかなる存在(キャラクター)も、「混沌」を生身で(メカなどの場合は生身相当で)移動することは基本的にはできません。
>>魔法が高度に発達したリージョンの出身者や、そうでなくとも何かしら超自然的な力を持つ存在であれば、このような移動手段も持ちえます。(この場合、リージョンからリージョンへ瞬間移動する形になります。生身で「混沌」の中を進む形にはなりません)リージョン界広しといえども、こうした能力の使い手は決して多くはないでしょう。
とあるので、この設定ありなのかは割と悩んでます。
このへんは柔軟に変えられると思うので問題ありそうなら変えましょう。
『ライヘンバッハの滝』そのものが『しじまのうみ』への橋のようなもの…
みたいなイメージがあるので、一方通行の橋として奇跡的に機能していた…という形にもっていくかもしれない。
そもそも生身で移動できてないというか、
記憶喪失ではなく、作者の死体が混沌を漂って、しじまのうみにたどり着いたことで新しく生まれた生命体と捉えるのがいいのかもしらない
薬。
点滴。
納骨堂。
終の惑星。
遮られる陽。
濃い木々の香。
埋もれゆく記憶。
蹲ってばかりの身。
渦巻くばかりの思考。
疼くこの胸中を吐けず。
えづくことを繰り返した。
数に入らなかったノアの舟。
楽園と天国は後者の方が近所。
咳をしても血を吐いてもひとり。
書いて送ったら忘れられるでしょうか。
ふとそう思う。
自らの懊悩を持て余し、それどころか
胞子を飛ばし悩みの種が増えるなら、
一度紙に書き出すのも恐らく有効だった様な。
この期に及んでこんなに便箋に向き合う事に
なるとは思っていなかったけれども。
レターセットならばまだある。
まだ人がいた頃は、よく書いたから。
臥せっていても思いは文字は伝えられた。
身体を飛ばしてくれぬは欠点だが、
それは余りにも無いものねだりだ。
ペンを手に取る。
まだぎこちないままではあるが、
衝動の赴くままに連ねたい心地だった。
植物の香り、それからどこか薬のような香りのする封筒。
筆跡はふるえている部分が時折目立つ。
力があまり入っていないのか、擦れたインクだが
丁寧に文字を書こうとしているらしきことはわかる。
便箋の端には蒲公英の押し花があしらわれている。
それから、なにか水気のあるものが垂れたらしい跡も。
疼躊化葬 コルデリア から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
この手紙が届いてしまったあなたへ
ごめんなさい。はじめに謝っておきます。
きっとここに書き連ねるは嬉しい話題は無く、
現状の──私の、身体に障るような、
あまり考えたくもないことを記しますので。
もし読んでしまってもふかく考えないでください。
私は過去を悔やんではいません。
私の選択も、それしかありませんでした。
だからこのまま1人でいるのも覚悟はしていました。
現実に文句のつけようは、ありません。納得をしています。
疼躊化葬 コルデリア から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
でも、── 私の大好きであったはずの人々が。
私の事も母星のこともさっぱりと忘れて、
きっと今は幸せにしているだろうことが。
私はそれを望んでいたのに、そう願っていたのに、
時折どうしようもなく薄情な仕打ちをされている、
そんなようにも思えてしまうことがあります。
恨みなど、何ひとつないのに。誰も悪くないのに。
そう思ってしまう事もまた、苦しくて。
考えることをしたくなくて。書きました。
悪態を吐こうと私に帰ってくるだけ。
こ■まで書いてわかりましたが、忘れ■どころか
書けば書■ほど思い出■てしま■■
やっ■り駄目■■■、私■馬鹿■■■■
忘■■くだ■■。
疼躊化葬 コルデリア から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
疼躊化葬 コルデリア から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
ぱたり ぱたり。
ただでさえ読み難い弱々しい文字は、
ところどころインクが滲んで崩れて。
また数度咳き込み身体を揺らす。
酷い手紙だ、誰にも見せられたものじゃない。
ペンを取り落として、見たくないものから
目を逸らすように、臭い物に蓋をする様に。
封を閉じた。
「 ……ゴミ箱行き、です、……こんなの 」
つかれた。しんどい。身体が重い。
そのままずるずると倒れ込んで。
それがほんとうに何処かに行くことなど、
少しも思いもせずに。
[リージョン界じゅうを飛び回り、様々な小世界からの
手紙を集配していくメール・トルーパーズ。
その手紙の中には、この組織や構成員に対して
直接宛てられて送られるものも存在する。
さて、この日もそうした手紙のひとひらが、
バラ・トルーパーズ内の本局に舞い込んできた。
とはいえ宛名書きにMTやその構成員の名が
記されていた訳では無かったのだが。]
ふぅむ。
[コルンバの鳩型は、くちばしに咥えたそれを、
人型の指先へと運んでいく。
人型の眼の形は、その文に描かれた文字を追い。
さらに裏返して、書かれた物語の言葉を追っていく。]
面白い便りだ。こうした便りが私の元に届くとは。
此方に届けてはくれないからね。
[コルンバの人型の眼は、視認した紙やテキストの情報、
および人型の指、鳩型のくちばしの触覚で得た情報をも
自身の機体内のメモリに記録していく。
その後、他のメモ書きと同じように、
ひとひらの手紙を一旦、人工繊維で象られた癖毛の髪に
ヘアクリップで括りつけたのだった。]
この感想は、カラヴェラスの件が完了してから
送ってみることとしようか。
わたしが捨てた夢、か。
……どうなんだい、「わたし」?
[コルンバが就くその机上には、特に郵便業務とは関わりのない、
私物としての書籍が山と積まれてもいた。
その中には、ひどく傷ついた装丁の古書も一冊。]
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マーチェンドの反応先に落とす予定だったのだけれど
メモ質問回答を先にしたので、タイミング的にちょっとコルンバのほう先に落としちゃいまし た
こうして漸く、俺は最後の一通を確認した訳なんだが――。
「は、……?
おいちょっと待て、返事にしちゃ早すぎないか?」
驚いたあまり、思わずクロウと顔(の部分)を見合わせながらこう零したものの。
よくよくその文面を書き出しから確かめれば、アイツは此方の音沙汰の無さを案じて一方的に手紙を送ってきた、ってことらしい。
納得したと同時に、聊か恥ずかしくもなったもんだ。……この時の俺の顔、クロウのアイカメラでばっちり記録されてるんだよな?
――こりゃ、俺のほうからの近況報告は要らなかったか。
ついそう考えもしたが、
「ああ、そういや――」
あったな、イオニスが船舶情報を取り寄せてきたっていう通知。
実のところ、全部の通知がこちらに来てた訳じゃないっていうのは、幾名かの顧客の手紙の記載から分かってはいた。というのもこの通知、紙面じゃなくて電子通信でシップに届けられるせいで、外部リージョンとの電波状況のよろしくないパンパス・コート内においては届いたり届かなかったり……という事態が起こっていたらしいのだ。
で、肝心のアイツの通知を把握していたにも関わらず今まで忘れていたっていうのは――まあ、シップの魔改造の件だとかこの王国内の探訪だったりなどで、少々立て込んでいた所為もあったのかもしれない。あと脇腹の鈍痛。
アイツからの手紙への返事については、この日は綴らないことにした。
入れ違いの形で俺から出した手紙が無事に向こうに届いているなら、また改めて返信を送ってくるだろうから。それを読んでからでいいだろう、と。
あのエンジニアと“女将”の魔改造を受ける前も、後も、おおよそ常に俺の傍に付き従う形でついてくるクロウを見遣りながら。
この日に届いた4通の手紙を鞄に仕舞い込んでから、俺は3通の返信を、街頭に設置されたメール・トルーパーズのポストに託していた。
『ええ、そろそろ国王陛下と
ランウェイの日も近いものね!』
そんなうわさ話を楽しげに交わす、リップグロスで煌めいたくちびるとボリュームのあるカラーを横目に見遣りながら、さ。
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