C：伝説 ラムロルズ

――人狼。ヒトの仮面を被って生きるモノよ。
僕の前でだけでいい。
キミの素顔をさらけ出せ。ありのままの、キミを。

庭園の主 プラルトリラ

[灰色の薔薇を夜風が揺らす。
　ふわり落ちていく花弁の幾枚かが、それぞれ
モーラ^{(カペーシアorグリッサorモーラorヴィブラト)}とカペーシア^{(カペーシアorグリッサorモーラorヴィブラト)}が在る地の方へと流れ往く。]
　

庭園の主 プラルトリラ

その夜の、庭園

庭園の主 プラルトリラ

[プラルトリラはコテージから出て、庭園の正門まで来ていた「お客様」の前に姿を現す。
　庭園内部にも正門にも灯りらしい灯りは無かったが、この時のプラルトリラの手には電気式のランタンがひとつ提げられていた。
　プラルトリラの常通りの小綺麗な紅色のスーツが、そのランタンの灯りと、「お客様」の手の内のスマートフォンから漏れる光を微かに受けて浮かび上がる。]


　お客様、もうこのコテージガーデンの
　本日の営業時間は終了しているわ。
　また明日、ここにいらっしゃいな。


[その左目の周りを縁取る蒼い蝶の翅飾りもまた、鱗粉めいたラメを輝かせて。]

庭園の主 プラルトリラ

[その「お客様」がここで後ろに跳び退いたのは、どこかカーニバルの仮装をも思わせるメイクの顔がふっと暗闇に浮かび上がったことに対してであり――。
　その「お客様」自身の、ある種のやましい目的からの後ろめたさからでもあったのだろう。]


　ふふふ。お客様、もしかして――…
　何かおもしろい噂でも見聞きなさって、
　ここで肝試しでもなさろうとしていたのかしら？


[その「お客様」は焦りを滲ませた面持ちのまま、おずおずと一度頷いた。]


　……そう。
　であれば、それはお止めになった方がいいわ。

　

庭園の主 プラルトリラ

　あなたがお化け（吸血鬼）たちに喰らわれる心算でないのならね？

　

庭園の主 プラルトリラ

　………なんてね？　ふふ。ふふふ。


[プラルトリラはまるで悪戯好きな妖精か、或いはやはり悪戯っぽい少女のように、くすくす、くすくすと笑ってみせた。
　やがてその表情を穏やかながらも硬いものに変え、窘めの眼差しを人間の「お客様」に真っすぐに向けていた。]


　あなたが今やろうとしていたことは、立派な不法侵入よ。
　ですが、あなたがここで引き返してくださるなら、
　わたくしも警察への通報はいたしません。


[この時のプラルトリラの毅然とした佇まいにはもう、本物の「お化け」めいた圧は滲んでいなかったものの。
　まるであたかも　な　に　か　を見てしまった者のように、その人間は一歩、一歩と後ずさっていく。]


　ええ。そのまま――すぐに立ち去りなさい。
　

庭園の主 プラルトリラ

[こうして心霊スポット目当ての「お客様」が退散した後の庭園の正門で、プラルトリラは小さく溜息を吐いた。]


　………………、まったく。
「お化け紅薔薇」もあながち的外れではないけれど、
　書き方、伝え方ってものがあるでしょうに。


[いつかあの「お嬢さん」が教えてくれた、インターネットでまことしやかに流されていた都市伝説のひとつ。
　それに対してのコメントで、何故かこの庭園の存在も示唆されていたことを思い出しながら。]

Am：朋義 グリッサ

―翌日・夜―

お、いらっしゃい？

[女が個室に入って来れば、男は黄昏色の瞳を細めた。
自らの血液を吸血鬼に差し出す代わりに、金を受け取る。
一定の需要がある事から、この世界の裏側にはそんなビジネスがひっそりと存在した。
勿論、人間の埒外に当たるので、そこで何かトラブルが起きないという保証はないが。
金に困ってか、ちょっとした好奇心か。
吸血による快楽を期待して、という変わり種もいなくはないが。

緊張している所為か、少し顔色の悪い女を向かいのソファに座らせると飲み物を勧める。
それは気遣いのようでいて、捕食する相手が力んでしまうと食事がしにくいからという理由だった。]

Am：朋義 グリッサ

うん、少し血色が良くなったな。
昨日はあんまり眠れなかったか？
確か、今回が初めてだったか……。
なるべく痛くないようにするから、安心してくれ。

さ、上着を脱いで。

[グラスが空になる頃。
椅子から立ち上がった男は、医者が患者に問診でもするような調子で話しながらゆっくりと女に近づいていき、上着を脱いだ女の細い肩に触れる。
そこには有無を言わせない力が籠っていた為、小さな悲鳴が上がったが、防音壁に阻まれて部屋の外に声が漏れる事はない。

一思いに上着で隠れる鎖骨付近に尖った牙を沈め、血を啜る。
本能的に逃れようとする女の身体を抑え込んでいたが、すぐに抵抗は止まった。]

Am：朋義 グリッサ

[暫くの後に、男は女から身体を離した。
くったりと身体をソファに預ける女が忘我の境に入っているのを横目に、自分の唇の端を舐めた。]

……ご馳走様。

細いから心配だったが、今度、主にも提供して欲しいくらいだ。

[自らの食事と、味が良ければ主に紹介するテイスティングも兼ねていた。

彼女が落ち着いた頃、少し色を付けた代金を電子マネーで支払うと戸口の前まで見送ってやる。
部屋に入った時と異なり、女の頬には仄かに赤みを差していた。]

じゃあ、縁があれば、また。

[吸血鬼との縁などない方が良いが、と思いながらも、後ろ姿にそんな言葉をかけた。]

Am：朋義 グリッサ

[此処は吸血鬼の管理するセーフハウスの一つ。
間借りしているのと異なる場所にするのは、万が一を考えての事。
催眠をかけたので男の容貌や訪れた場所に対する記憶は曖昧になっているが、個人差がある。]

さて、仕事も終わったし、戻るか。

[端末で今日の血液提供者のレビューをつけた後、男は部屋を出た。
人間のやっている飲食店のレビューサイトのようなもので、血液提供者の評価を確認したり、次回以降の希望を出す事が出来る。
そこでの評価が良くなれば、血液提供時の料金が上がる仕組みだ。]

Am：朋義 グリッサ

―仮の宿―

「やぁ、おかえり。」

ただいま戻りました。

[今日は、主は仮の宿に戻っていた。
公園で少女に貰ったのだという野花を、大事そうに借りた花瓶に飾っている。
男はその話を微笑ましく思いながら聞いていたが、彼はふと言葉を紡ぐのをやめて近寄って来た。]

「いい匂いがする。」

[すん、と鼻を鳴らすと、野花を愛でるような朗らかさで彼は微笑む。]

Am：朋義 グリッサ

あぁ、食事をしてきたので。

「そうかい、縁があれば私も味わってみたいな。」

[主の口に合うのではと思ったが、どうやら琴線に触れたらしい。
捕食者たる姿を覗かせる彼は、普段は虫も殺せないような顔をしながら、男と同じ“人でなし”だ。]

それなら、希望を出しておきますよ。
予約した日にすっぽかさないで下さいね。

[良い子の返事をする主には前科が何度かある。
彼の優先事項は“運命の人”で、食事は二の次だ。]

Am：朋義 グリッサ

「何処にいても君が見つけてくれるだろう？」

[主は無邪気に笑う。
それは主の持っている携帯端末のGPS機能のお陰でもあるのだが。

利用を始めた直後はまるで主に首輪をつけるような罪悪感があったので機能について説明したが、従者が自分を探すのに便利らしい、としか認識していないだろう。]

当然です、俺は貴方の従者なので。
ただ、携帯の充電はお忘れなく。

[主の食事を管理するのも男の務めの一部だ。
主が眠る前、携帯電話の充電をしているか確かめるのも。]

Am：朋義 グリッサ

[良い子の返事をする主のティータイムの準備を始める。
今日は帰り道で見つけた店で買ったパンナコッタと買い置きのアマレッティを紅茶と一緒に並べた。
主が優雅に紅茶を楽しむのを横目に、男は携帯端末で血液提供の希望を出しておく。

それから、主の邪魔をしないように注意しながら部屋の中を軽く点検する。
冷蔵庫の飲料や買い置きの菓子は足りているか。
回収し損ねた洗濯物はないか。
ごみは溜まっていないか。

洗濯はセーフハウスのサービスを利用するが、掃除は主の外出中に済ませるようにしている。
城にいた頃よりも手狭な環境ではあるが、一人で身の回りの様々な事を熟すのはそれなりに大変だ。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

― 日が昇ってから ―

[時に　“夜の魔物”　ともよばれる吸血鬼の中には、
　人間たちが作りあげた物語の通りに
　陽光を浴びると灰と化す者もいるという。
　ヴィブラトがその類の吸血鬼にならなかったことは、
　今のこの生活を送る上では極めて幸運だった。

　ガラス窓から朝陽が差し込むキッチンで、
　昨晩の吸血による遅起きが予想される同居人向けの
　朝食を作り始める。]

（……ああ、前もこれだったな。
　飽きてきていないといいんだが）

[参照するレシピは、紙の書籍に載っているものを。
　携帯端末の画面を見ながらの調理には未だ慣れない、
　人だったなら高齢、吸血鬼としては若輩の男である。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[今や住み込みの“アシスタント”として
　家事やその一環としての料理にも励むこの男だったが、
　人としての生前も果たして同じだったかと言えば……。]

（……ジェニーやカレンには、
　何もロクに作ってなかったな）

[実に今更のようにこんな悔悟がよぎるのは、
　昨夜読み返した手紙の所為だったに違いない。
　ここで手掛けたブロッコリーのクラムチャウダーも、
　家族のために作った記憶は、この男にはなかった。]

E：旋風 カペーシア

ー次の日:自宅という名のボロアパートー

[ガラクタにも見える山の中にあるベッドから起き上がり、一緒に眠っていたクタクタのクマを残して顔を洗いに行く。

吸血鬼の姿は鏡に映らない、とはよく言うが
それは実体の薄い吸血鬼に発生しがちなものであり、
肉体をしっかり保持しているカペちゃんには
適応されないものであるらしい

おかげさまで、今日のメイクもばっちぐ♡
お肌のノリもばっちぐ〜♡ってかんじ！

マスカラつけて、ファンデとリップを愛らしく
ニコっと笑えば、みんな大好きかわいい
カペちゃんのはい完成！

今日は大学に行く日だから、さっさと準備しなくっちゃ♡
そう思いながら、トーストをチンしつつ、
ふと郵便受けをガチャりと開けると…
そこには三通の手紙。まず一通目をあけてみると…]

E：旋風 カペーシア

…うげっっっ！
うっそでしょ！！！退去通知！！！？
カペちゃん、ゴキちゃんもまだ飼ってないっつーの！！！

[それはボロアパートの大家からの退去通知であった。
退去理由について確認すると、家が汚すぎるから…ではなくて。
なんと、このボロアパート自体の耐久性があまりにもろくなっているために建物そのものを建て替える！ということだそうだった。

建て替えが終わるまでの間はどこか別のところに避難しとけ、家賃○○万までなら保証する…的なことはかいてあるが、この金額で入れる家なんてあるもんならこっちが行きたい。このボロアパートと同等レベルでやっすい賃貸なんて早々ないし、見つかったとしてもこの荷物量を運び出すのも大変なのだ！]

ざっけんな〜〜〜！通知おそすぎ〜〜〜！！！
カペちゃん今から大学なのに〜〜〜！！！
次の家探さなきゃぢゃん〜〜〜〜〜！！！！

[カペちゃんげきおこぷんぷんまる！！！
…とはいえ背に腹はかえられない。
あと二通ほど手紙は受け取っていたが、今は一旦置いといて
大学に行くのと、新しい家探し！！！]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[慣れた調子でコンロの火を止め
（仮に電磁調理器に改装済みであったならば、
　ヴィブラトに上手く扱えたかは定かでない）
　クラムチャウダーの鍋に蓋をして。
　まだベッドの中の同居人へのモーニングコールの前に、
　郵便受けの中身を確認しに行く。]

（あったな。今日はこれだけか）

[この古美術商のアンティークショップは
　扱う品とお揃いのように古風な店構えなれど、
　顧客や行政機関らとの遣り取りはほぼ電子化済み。
　序に言えば　“信奉者”　としてのネットワークも
　電子の海のメディア上で築いているのだとか……。

　それ故に、ここに届く手紙の類は、
　凡そは紙の手紙を好む　“同胞”　筋からのもの。
　　その中にあの“宛先の住所記載のない”手紙が
　　混ざっていることもあったが、
　　この朝、その人からの手紙は届いていなかった。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[さて、この吸血鬼の元に届く「灰色の手紙」には、
　“同胞”　の証明とされる花弁染めのものもあれば、
　ただ単に灰色のレターセットが選ばれただけのものも。
　この朝届いたそれはおそらく後者だろうと、
　若輩なりに幾らかの知見を得ている吸血鬼は覚る。]

（燕の切手……あの街か。誰からだ？）

[さながら気安い友に対してがごとく、
　思いのままに綴ったと思しき表書きの筆跡。
　頭文字から後の文字列に軽く首をかしげるも、
　ヴィブラトはそれをただの誤記だと判断し、
　すぐさまにその封筒の封を切った。

　さて、誤記に慣れた郵便局員の中には
　住所や宛名の綴りに多数の誤りがあっても、
　正しい宛先が何処かを察して届けてしまう者もいるという。
　そうした郵便局員の存在を知っていたヴィブラトは、
　これもまたそうした類の手紙だと思い込んでいたのである。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[こうして書斎で、この手紙に目を通すことにしたのだが。

　封筒と同色の便箋、その上に走る濡羽色。
　豪快に空を翔ける大鴉をも思わせる筆致で、
　（やはり誤記だと思い込んでいた）宛名のすぐ下に
　綴られていた差出主の名は……]

　…………………は？？

[その名と、この筆致とが、頭の中で繋がらない。
　名前自体は、この若き吸血鬼の記憶の中にもあった。
　だがその心当たりの相手が、果たしてこのような
　知己の調子で語りかけてきたものだったか……。

　それでもヴィブラトはなお、この手紙を読み進める。
　語り口は兎も角、手紙の内容自体は、
　自分相手に対してのものと読んでも
　特に違和感のないものだった――]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[――最後の一文を除いては。]


　………………、……………

[ヴィブラトはその便箋に、暫く視線を落とした後。
　黙って便箋を折り畳み、封筒の中に収め直し、
　書き物机に肩肘を突き、頭を抱えた。
　盛大な溜息を二度ほど零してから、
　今現在の優先事項に頭を切り替えようと試みる。]

　まずは店のほうだ、
　それから……いや、その前に……

[思考を声に出して頭の中を整理してから。
　書斎を出て、大股で廊下へと踏み出し、
　革の靴底でつかつかと床を鳴らして寝室に赴く。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

　起きろベネディクト！
　開店まであと5分！

[ベッドの中でうとうとしたままの同居人に対し、
　身体を揺さぶるというおまけ付きの目覚ましを掛ける。
　こんな粗暴なモーニングコールをする心算は無かったが、
　このこれから紹介するパートナーのいない吸血鬼も、
　冷静さを取り戻した心算で、酷く動揺したままだったのだ。

　なお、「あと5分」は流石に嘘である。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[こうして寝坊の古美術商を叩き起こしてから
（寝坊させた原因はこの吸血鬼だったのだが）
　ヴィブラトは店舗の開店準備を進めていく。

　もう今ならはっきりと「誤配」だと断言できる
　かの手紙に向き合うのは、休憩時間か終業後か。
　実はこの日のうちにもう一通、ヴィブラトのもとに
　届くことになる手紙があるのだが、
　それは、もう少しだけ後のこと。]

ギタリスト モーラ

[俺の活動時間は夕方から明け方までの時間帯だ。
　朝は日光を遮った部屋の中でずっと眠りにつく。
　幸いにも日光を浴びれば即灰になって死ぬわけではなく弱るだけなのはいいのだが。
　バンド活動的に夜を中心に活動をしている。

　今日はライブもなく行きつけのスタジオでバンドメンバーとセッションをしたりする。
　観客はいなくてもいつだって全力だ。
　そうして積み上げた練習量が実力になってライブを盛り上げてくれる。
　最後に歌舞伎の見得を切ればメンバーの拍手が起こる]


　「今の見得、よかったっすねー！次の海外遠征で取り入れましょうよ！」
　「そういや海外遠征の下見旅行ももうすぐでしたっけ？」

　っつーか、下見ってより派手に遊ぶだけだろ？
　気楽に行こうぜ。


[わいわいと盛り上がりながら次の海外遠征の話をする。
　下見旅行はもう数日後だ、メンバーたちも楽しみにしていた]

ギタリスト モーラ

[セッションの最後に切った見得。
　昨日届いた手紙を思い出してやってみたが──……。
　現代でもウケがよさそうだと知り、今後も取り入れてみるかと目論む俺だ。
　手紙の返事は帰ってからするかぁと思いつつメンバーと談笑する]


　「モーラさん生粋の東国人って感じっすけど外国語もできるんっすよね。
　　それに、旅慣れてる感じで心強いっす！！」

　おうよ！外国には数百年前から旅してるからな！！
　今回の旅も楽しみだぜ！どんな出会いがあるかねェー。


[そう言えばメンバー同士で旅の前の高揚感に浸りながら。
　海外遠征での楽曲の打ち合わせやパフォーマンスなどを夜遅くまで検討した]

ギタリスト モーラ

　
　そーいや、あの”王子様”も運命の相手をずっと探してるんだったか。
　いいねェ、浪漫だねェ。
　俺ァ色恋沙汰にはとんと縁がないが。
　もし俺が出会うとしたら、今は”コイツ”かな。


[楽し気に愛用のギターを運命の出会いとかき鳴らす。
　ああ、風来坊の俺にぴったりの運命の出会いだ]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[結局、ヴィブラトが件の誤配の手紙に
　改めて向き合えたのは、
　陽も落ちての終業後のことだった。

　血の回復しきっていなかったその古美術商に対し、
　彼ら（信奉者）の業界（感性）でも褒賞とは言い難いかもしれない
　手荒い目覚ましを掛けてしまったことで、
　この人間は最悪な労働効率状態に置かれることになった。
　そしてこの事態の元凶である　“お手伝い”　の吸血鬼もまた、
　その補佐に追われることになって……という次第である。

　ともあれ日中の業務にケリをつけてから、書斎へと。
　普段用いるものとは異なる封筒を見繕い、
　その中に件の手紙を収めた。
　それから、その手紙の送り主への手紙を綴り始める。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[手紙を綴るヴィブラトの気がひどく重いのは、
　“同胞たち”の中でも自分が若輩の身だという意識が、
　かつて年長の者から「ヴィブラト」の名を与えられた
　この吸血鬼のうちにあったからに相違ない。
　　草の根の繋がりで生を繋ぐ　“人でなし”　のうちに、
　　本当は年功序列も何もないのかもしれなかったが。

　一方で、人間であった頃の若きブレンダンの、
　かつて似たような始末書を書く羽目になった、
　そんな悪夢もどこかで蘇っていたのだろう。
　　本当に「詫びたかった」ことの未練は、
　　ビジネスとは別の記憶にあった、けれども。

　何にせよ、この時のヴィブラトの頭の中は、
　やらかしたビジネスパーソンの謝罪でいっぱいで。
　覗き見てしまった内容自体に対しての言葉を
　添えるだけの余裕も度胸もなかった訳だったが……]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[過去に一通、その吸血鬼に手紙を送った心当たりはある。
　件の手紙の中の「受け取った」の一文に対し
　ヴィブラトが違和感を抱かなかったのはこのためだ。

　実際のところ、その心当たりの吸血鬼と共にいた
　かの来訪者が探し求めていた相手が
　彼の　“愛する者”　だ、という話があったか否かは、
　それなりの時を経て薄れた記憶の中で
　聊か不確かになってきてもいたのだが……。

　それ以前に、当時この店を訪れた吸血鬼たちの名を
　正確に覚えられているかも定かでなかった、が。
　　　　（店員としては、これはかなり問題がある訳だが……）]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[ただ一つだけ、あまりにも鮮烈な印象を残したが故に
　おそらく事実で相違ないと言える記憶がヴィブラトにはある。

　それはその吸血鬼たちの来訪の際に、
　頑としてバックヤードから表に出ず顔を出さなかった
　古美術商ベネディクト・リンの、このコメントである。]

「ヴィブラト様……ヴィブラトさん……どうかマジでお察しくださいっすよこれは〜〜〜…。
　あんなこんな高貴にて光輝なる御方とその凛々しき従者様まで交えての　“永遠なる夜の貴公子”　三者揃い踏みのあまりの尊さに僕は墓に入ってしまう気しかしなかったんですから！！
　顔なんて合わせられる訳ないじゃないっすか〜〜〜！　本当にしんでしまいます！！　ああ、眩い光を浴びて灰になるのは僕だった！！　それはいけない！！　ここでしんだら僕は！！　僕は！！！　あなたの腕の中でこの血を全て捧げるという野望（ゆめ）を果たせなくなってしまう！！！！！！！」

[ちなみにこのコメントの後、ヴィブラトはこの人間を「いい加減早く寝ろ」の一言と共にベッドに放り込んだという。]

E：旋風 カペーシア

ー　大学の講義終わり: 友達とのトークの中で　ー

『んぁ〜、つっかれた〜。
セブ先の話、ネチネチしすぎてねむすぎぃ〜。
今日もまたポッティちゃんいぢめてたよ〜』

セブ先、ポッティ嫌いだもんね〜
まぢあ〜いうの、学長なんとかしてくんないのかな〜

『セブ先あれらしいよ〜。
好きな人ポッティに取られたらしいよ〜。
けどだからったね〜、ネチネチ質問攻めってね〜
あ〜あ〜、とばっちりで宿題増えたしぃ！
こんなん、モーラ様の曲聴きながらじゃなきゃのらない〜！』

[ねちっこい先生の講義が終わり、
愚痴を吐きながら学生たちはカフェで
宿題に勤しんていた。

そいつらはいわば、今の自体の『友達』ってやつ。全員人間だけど『友達』だから特別に見逃してやってる。バカなやつばっかだけど、本質を見抜く力すげーあるから、そ〜いうとこは別に嫌いじゃない。イヤホンでシャカシャカ何か聞いてるのを見ながら、カペちゃんは宿題と今朝届いた手紙の一通を開き、話を聞く]

E：旋風 カペーシア

ねえ、モーラ様って何？流行ってんの？
あ、店員さーん、
ブラッドオレンジジュースくださ〜い

『え！？カペちゃんモーラ様知らないの！？
いま東の国の方で人気が出始めたギタリストだよ！？
あ、私カリフォルニアアップルジュースくださ〜い

昔死んだカブキ？男が、吸血鬼になって蘇った！
ってやつ！！！めっっっちゃクールなんだから！！！！』

ふ〜ん。カペちゃんアイドルわかんないけど、
なんかすっごい設定盛ってんじゃ〜ん、ギャルみある〜

[モーラ様について知らないカペちゃんに向かってマブダチは、聞かないなんてもったいない！と彼のライブ演奏の音源を聞かせてくれる。
激しくかき鳴らされるギターの音と大見得を切る張りのある声。なるへそ確かにこれは人気出そう感ありよりのありけり。

けどこんなに歌上手いならなんだってみょーちきりんな設定盛り盛りしてギタリストやってんの？？？という疑問をいだきつつ…宿題と物件情報を見ながら、そういえば今朝手紙届いてたなと一通開いてみる。

今のカペちゃんの優先順位は物件>>宿題>>モーラ…だったが]

E：旋風 カペーシア

…………ャバ！マヂウケなんですけどぉ！？

『え！？なに！？どうしたの？？？』

い、いや、久しぶりにお手紙もらったんだけどぉ…
な、なかみが…ぶ、ぶふふ…

[優先順位がモーラ>>>物件情報>>宿題に変わった！！！
グッバイマイ宿題。ごめんね来週セブ先に怒られる私。

だってなにこいつ面白すぎない？？？
灰色の薔薇で染められた和紙の手紙は、まさしく彼がカペちゃんの『同胞』であることを示しているし。
それに使われてるペン…東の国の、筆文字？？？っての？？？、荒々しくって力強くって、さてはこいつ第二の生を謳歌してんな？？？とわかる。

おまけに『友達』が聞かせてくる彼の音楽まで耳にしてしまえば、笑いは止まらない。

やば、吸血鬼エンジョイ勢マヂオモロ。天上天下唯我独尊すぎて、手紙越しでさえその快活な声が聞こえてきそう。
楽しいってんならこっちも楽しいで返してやんなきゃぢゃん？じゃないとギャルが廃るじゃん？？？カペちゃん早速お返事の手紙を書くことにいたしました]

E：旋風 カペーシア

　
[手紙を書き終えれば、ルンルンになって
封筒の封を閉める。妖力を込めて眷族のものに渡せば、国が違くともしばらくすれば相手には届いてくれるだろう。届くのが楽しみだ、とにっこにこしてると]

『あれ？カペちゃんどうしたの？
お手紙書いてるなんて珍しいね。

あ〜！もしかして、カペちゃんもモーラ様気に入った？』

[と、疑問の声。ね〜ね〜！ど〜なの〜？！と
肩を揺する人間の『友達』に]

うん！アタシも、『モーラ様』気に入っちゃった♡
早速ファンレター送ってみることにしたの♡
はやくとどくといいな〜！カペちゃんスカウトされたりして♪

[えー！？カペちゃんだけ送るのずるい！
私も送る〜！！！と『友達』は宿題をほっぽって、ファンレター作りに勤しみ始めた！(セブ先に怒られる仲間が一人増えたゼヤッタ♡、とは口には出さなかった。こうなりゃ貴様も道連れじゃい愚か者めぇ♪)

こちらの手紙はおそらく普通の国際郵便になるから届くのには1ヶ月はかかるだろう。落差が激しいのは海の広さのせいだ仕方ない。さてさて、『友達』の努力をニコニコ見守りながらいただくブラッドオレンジジュースは、なんともかんとも甘露なものでございました♡]

ギタリスト モーラ

[バンドメンバーと打ち合わせが終わればその日は解散。
　後は家に帰って海外遠征の準備を始める。
　──と言っても、普段から旅の荷造りは済ませてある。
　愛用のギターとトランクがあればいつでも出発できた。

　なので、特にやることもない。
　ならばと貰った同胞への手紙を綴ろうとする、が]


　そういや、最近じゃ機械でも文を送れるんだったな。
　便利な時代になったもんだねェ……。
　よし！いっちょ俺も流行りを取り入れてみるかァ！


[思い立ったが吉日と。
　以前に聞いた同胞の端末アドレスにメッセージを送る。
　アドレスを変えていないなら届くはず！]

ギタリスト モーラ

[えっちらおっちら。
　機械に不慣れな為、誤タップやら訂正で時間がかかったが。
　電子化された文章なら会話するように滑らかな文になったはず！
　得意気にメッセージを送信すれば気分は粋な現代吸血鬼！

　ノリノリでギターを奏でて即興で歌を歌う]


　運命探して旅の果てー♪
　ようやく出会えた俺の相棒♪
　もう離さない歌おう踊ろう夜明けまでー♪


[俺の相棒のギターを運命の恋人に見立てて陽気に歌う。
　ネオン明るい夜の街。
　粋な現代吸血鬼の楽しい楽しい夜遊び時間は続く]

Am：朋義 グリッサ

[部屋の確認を終えて、紅茶を堪能する主の横顔を盗み見る。
初めて会った時からその美貌は変わらない。

背中に届く波打つ髪は、月光を溶かしたような白金色。
滑らかな白磁の肌。
宝石を嵌め込んだような真紅色の瞳。
柔和な印象を受ける顔には、いつも微笑みが湛えられている。

まるでお伽噺から抜け出してきた王子のような“永遠の貴公子”。]

Am：朋義 グリッサ

[纏うものは全て男の用意した上質な物だが、量販店で購入した安物であってもモデルのように着こなしてしまうだろう。
何を着せても似合うのだから、選び甲斐がある。
旅をしている身なので、あまり荷物を増やす事が出来ないのが残念だ。

彼の“運命の相手”が見つかるまでは侍るのは男のみだが、信奉者を抱えるようになったなら、大量の人や貢ぎ物で溢れかえってしまうだろう。
──というのは、従者の欲目もあるかもしれないが。
男はそれを信じて疑わない。]

Am：朋義 グリッサ

[ティータイムが終わると、男は茶器を持って主の部屋を辞した。
茶器を片付け終わった後、自分の部屋に戻ると机の上に手紙を見つける。]

ん？

[手に取って表書きを確認する。
送り主に覚えがなかったが、手紙からは同族の気配がした。
住所指定はないので、何らかの術を使っているのだろうか。

男は術をあまり使う事はないので、感心しながら封を切る。
灰色の花弁染めの便箋に綴られた文字に視線を落とした。]

Am：朋義 グリッサ

これは、ギャルって奴か？

[思わず笑みが浮かんでしまう。
妙齢の女性だろうか。
食事以外での関わりは薄いのだが、手紙の主がその場で話しているような形なところに親近感を覚えた。]

食事な……。

[悩み相談の内容には、昨今の吸血鬼の共通の問題でもある。

相手に適しているかどうかわからないが、一つの手段として知るのはありだろう。
男は昨日の残りの便箋を取り出した。]

Am：朋義 グリッサ

……ふむ。

[久々に従者らしい言葉を綴った。
便箋を折り、手紙に封をすると、男は届いた封筒に再び触れる。
同族の気配を辿った後、右手の人差し指で切手をなぞった。
脳裏に思い浮かべるのは、不可視の糸で送り主に繋ぐイメージ。]

ん……、こんな感じか？

[暫くしてから男はそっと切手から指を離す。
こういった事を主ならば息をするように出来るのだが、あまり使わないので時間がかかってしまう。
かといって、主の手を煩わせるわけにはいかない。

術に綻びのない事を確認すると、その手紙をセーフハウスの管理人に預けた。]

E：旋風 カペーシア

ー　大学終了後　自宅にて　ー

[愉快な気持ちのまま大学から帰ってきたカペちゃん
しかしやることはやらねばならない…
…それはすなわちおうち探し。

NEWハウジングを探しつつ、日程も調整。
引っ越しのために『パパ』たちに合う時期をずらさないといけなくなったのが本当に痛い。『引っ越すならぜひうちに！！！』とか言う下心の塊のようなパパも居れば、家族がいるから会えなくなってホッとした、今後はもう会わないでおこう？と別れを切り出すパパもいる。

こうなってくると、大切な『食事』や収益量が減ってしまうため、違和感のない理由で、なおかつすぐに会えるよ♡感も出してさっさと引っ越しを済ませなければならない。

なに、世の中いろんな安い家はある。
事故物件とかおすすめだ。
人間の幽霊なんぞ吸血鬼の足元にも及ばない。
実態のない死体が実態のある死体に勝てる道理があるわけないというのがカペちゃんの持論である。取り憑いて来れるほどの力もないため、『どしたん？話聞こか？』ってすればたいてい勝手に満足してどこかに行くか静かにしている。ゴキちゃんや生身の人間よりかは可愛らしい]

E：旋風 カペーシア

[いくつか候補を見繕って、不動産屋に見学の予約を取ればある程度日取りを決められた。あとはさっさと家を決めて、この所狭しとうず高く積まれた『過去の遺物』たちを運び出す準備をしなければならない。

流石にパンの袋とかのゴミの類は毎日捨ててる。
けど、誰かからもらった服やアクセサリーや、
戦時中に友人が最期にくれた贈り物のドロップ缶とか戦災や災害で燃えて半分無くなってしまった友人の本は、捨てるに捨てられない。

幽霊が出るのが怖いんじゃない。
これをすててしまったら最後、あいつらとの縁が切れそうなのが怖いのだ。

人間は愚かだが、死んでしまった友に罪はない。彼らが最期に見せた笑顔くらい自分が覚えておいてやらなきゃいけない。

…自由に生きるバンパイアが、
人間ごときにメソメソしてると思われるのは癪だけど
カペちゃんとて、おもうところのひとつやふたつ
くらいはあるのだ]

E：旋風 カペーシア

[…さてそんなわけで、ある程度荷物の仕分けという名の片付けをしている中で、ポストの中にもう一通残っていることを思い出す。

ふと思い出してその封筒を見てみると…]


…んん？
ナニコレ、アタシ宛ぢゃないんですケド
ウッソ。まさか間違えたわけ？

ここらの郵便配達員、仕事雑すぎ〜。
たまに宗教勧誘とか一緒に入れてくるし〜。

[宗教勧誘は多分郵便配達員とは関係ないと思う。というツッコミはさておいて。その手紙の宛先は明らかに自分のものではない。が、住所や切手はないしこの手紙に込められている『妖力』は、誰かに届けと願ったそれだ。吸血鬼の特有の気配も感じられる。

白無地の紙を見るに、灰色の薔薇染めの習慣を知らないか、あるいは『吸血鬼だと知られたくないからあえて白無地』にしたのか。

どちらにしても、こんな手紙の出し方をするのは気にかかる。そんなに大事な手紙なのだろうか。…封筒の封をなるべく傷つけないように開けて、中身を取り出す。そしてはらりと内容を確認した]

E：旋風 カペーシア

…天国から？

[その手紙の内容は、ぱっと見たときにはよく分からなかった。
どうもこの手紙の送り主は『天国』から、娘に対して手紙を送っているらしいのだが…こいつは死んでない、吸血鬼として生きてる。

それなのに死んだふりしてる。…そして何度もやりとりをしてきたような形跡が見られる。手紙の送り先は、どうも戦災地域らしい。父娘のやり取りくらい平和にさせてくれない戦争、紛争、まぢさいあく。と思ったのは内緒にした

『妻』の方には連絡をしていないらしい。
『娘』とはできるが、『妻』にはできない……
なんか事情があるのだろうことはわかるが、
流石にこれは、なんとかして娘さん本人に届けてやりたいところだ…
…が、申し訳ないことに名前だけではその人の居場所がわかるはずがない。……カペちゃんは悩んだ末、その手紙をそのまま送り返そうと思った。

その添状として、灰色の薔薇染の封筒と便箋で手紙を綴る]

E：旋風 カペーシア

…んー…


[…けどちょっと。思うところは一つある。
ええい、思うところも書いてしまえい！

カペちゃんはいつだって
やりたいことやったもん勝ち主義なのです]

E：旋風 カペーシア

…よしと


[手紙を書き終えれば、少女は一回り大きな封筒を用意して『カレン・クレセンツ』宛の手紙(中身だけ)と、自分の手紙をまとめて束にして封をした。
妖力が篭った便箋が入っていると妖力が混じって本来届けるべき場所からずれてしまう可能性があるのだ。それは避けたい。

結果、随分と分厚くなった紙束が送られることになるだろうが、まあ眷属を利用した妖力便なら問題ないだろう。頑張って届けてね〜と手を振って、少女は手紙を送り出した]

E：旋風 カペーシア

[取り残されたからの便箋をひらひら眺める。
それに込められた、届いてほしいと思う力は本物だ]


…カレン・クレセンツかー。
大学とかで聞き込みしてみよっかな〜。


[ポツリ。また捨てられないものができちゃった。
カペちゃんはひとり、そうおもうのでした]

E：旋風 カペーシア

[…ひらひらと残った封筒をみつつ、
旅立っていったお手紙（便箋紙）達は、果たして届いてくれるだろうか、届いて欲しいなと祈って空を見上げる。

ちなみにちゃんと配達ミスされたお手紙の紙はちゃんとともに封入しております。便箋の方に込められている妖力は少ないので、まあ届くでしょう。多分]

C＃m：宵月 ヴィブラト

― 夜/終業後 ―

[昨夜ベネディクトから喰らった生き血の量は、
　今宵に一滴の糧を得ずとも十分保つだけのもの。
　……という体感からの目測で日々を過ごす中で、
　　　馴染みの屋台主から「いつもの貧血」と言われる
　　　不調をきたすこともあった訳だが……。
　　　
　ひとりの人間から、その身体の回復を待たずに
　夜毎血を啜り続けてしまえばそれこそ、
　相手が文字通りに「しんで」しまいかねない。
　それもあって、ヴィブラトはこの晩、同居人にして
　雇用主でもあるその人間に牙を突き立てなかった。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[……そんな、体調万全とはいえない状態で
　不祥事への謝罪文をしたためていたものだから、
　精神面の疲弊も相当なものであった。
　日中の顧客対応に常以上に追われていたことも、
　ここで付け加えておこう。]


　「消えたい」……というやつだな、これは。

[こんな折にあの　“信奉者”　に身を差し出されでもすれば
　後で極度の自責と罪悪感に苛まれるような
　衝動的な行為に出ていたかもしれなかったが……。
　この時、書斎に籠るヴィブラトの元を訪ねてきたのは
　幸いにして、全く別の来訪者――
　正確には　“伝書鴉”　とでも呼び得る存在だった。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

　……使い魔、か。

[鴉の姿をしたその来訪者の出現にあまり驚かなかったのは、
　過去にも同様の形で手紙を届けてきた　“同胞”　がいたから。
　その鴉に託された封筒の色は、かの薔薇の灰色。
　これだけでも、この「使い魔」が吸血鬼筋であることは明白だったが]

　ああ、やはり、な。

[その鴉の眼の輝きと、指先で触れる和紙の手触り、
　それに奔放な毛筆の筆跡による冒頭の挨拶とで、
　この手紙の差出主の心当たりにはすぐ辿り着いた。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[それは、“なりたて”　だった頃のヴィブラトが
　とあるセーフハウスを頼った時のこと――
　より正確には、必死の思いで逃げ延びてきた時のこと。
　あの時も、今この時の心労とはまた別の意味で
　ひどく憔悴した状態で匿われていたものだったが……。

　さて、当時のヴィブラトは一体何から逃げてきたのか？
　簡潔に言えば、それは「非科学的事象の
　科学的証明を目論む研究者」からであり、
　後にこの事件は年長の　“同胞”　の働きによって
　人間の表社会に漏れることなく済んだ訳だったが、
　この辺りの仔細は、また別の機会に。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[そんなかつての苦境の折に、この手紙の主たる
　長生の　“同胞”　からも援助を受けていた記憶がある。
　　仮にヴィブラトが彼らの援助を得ていなかったなら、
　　“同胞”　を己の同胞と思うことも無かったかもしれない。

　心労抱えるヴィブラトの表情がふっと和らいだのは、
　ステージを縦横無尽に駆け回る奏者を思わすような
　所々の跳ねて踊るような筆遣いにつられただけでなく、
　この手紙の主から恩を受けた記憶もあってだろう。]

（そうだった、な。
　あの方にも、話していたか）

[あの時に零した己の「家族」の存在について。
　その「家族（妻）」からの拒絶を受けて
　間もない頃でもあった、ということもあり、
　自分からは、「思い出話」とも言えないような
　端的な話を零すのみに留まっていた。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

（……、なんともあの方らしい）

[ヴィブラトが苦笑と共に、書き物机の
　ペンに自然と手を伸ばす様を見てか、
　“伝書鴉”　はその場に留まり続けていた。
　その様子を見て、この吸血鬼はそのまま、
　真新しい便箋にペンを走らせていく。

　“夜の魔物”　の永生からみれば刹那の一夜も、
　一通の手紙を書き記す時間としては、それなりに長い。
　故に、この大人しい様子の　“伝書鴉”　には、
　少々の辛抱を強いるかもしれなかったが……。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[ペンを執る最中、ヴィブラトの脳裏を掠めたのは、
　丁度、ブレンダンのさいごの日の、すぐ前の晩のこと。]

　

C＃m：宵月 ヴィブラト

[感傷は時に、独り善がりかと思える程に
　数多の言葉を吐き出していく。
　その「独り善がり」を、敢えてそのまま
　かの長生の　“同胞”　に送ることにしたのは、
　人の噂と人ならぬ者の噂の双方で、かのバンド――
　「月夜の鴉」について聞き及んでいたからだ。

　ともあれ、夜更けから未明に至るまでの長い時を掛けて
　認めた返信を、ヴィブラトは　“伝書鴉”　に託した。
　少しだけ頭がぼんやりとするのは、
　未だ残った心労の所為か、或いは「思い出」の所為か。]

　……ああ、こちらも出さないと、

[件の誤配の手紙を同封した手紙のほうは、この鴉には託さず、
　自らの手で、“同胞”　のネットワークに繋がるポストへと。]

C＃m：宵月 ヴィブラト

[こうして陽が昇らぬうちに手紙を出し終えてから、
　ヴィブラトという吸血鬼は、少しふらついた足取りで、
　あろうことか、ベネディクトの寝室のベッドに倒れ込んだ。

　当然、先客がいる状態で。]
　

C＃m：宵月 ヴィブラト

[……その吸血鬼は、別に誰に対して牙を剥くでもなく、
　手を出すでも無かったのに。
　この夜の静寂にひとつ人間の悲鳴が響いた気がしたのは、
　さて、どういうことだったのだろう？]