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翌朝、 崩壊都市 □□□□ の姿が消えていた……。
月夜が終わり、朝日が昇る。
だが、見慣れた村人の姿がそこにはない。
後に残るは、不吉な赤色の染み。
噂を恐れた村人達は、一日に一人ずつ疑わしい相手を選ぶことにした。
選ばれた者の運命からは、目を逸らし――…。
現在所在が確認できるのは 机城勤務 コルンバ、 泥の男 ガァド、 越境貿易商 マーチェンド、 爆発爆散 ベアー、 "トラッシュ" イオニス、 疼躊化葬 コルデリア、 煙霞山 山主 蓬儡 の 7 名。
机城勤務 コルンバは、 煙霞山 山主 蓬儡 を投票先に選びました。
机城勤務 コルンバは、 爆発爆散 ベアー を能力(襲う)の対象に選びました。
"トラッシュ" イオニスは、 煙霞山 山主 蓬儡 を投票先に選びました。
疼躊化葬 コルデリアは、 煙霞山 山主 蓬儡 を投票先に選びました。
まず、
ここバラ・トルーパーズで生産されたものだ。
そして、わたしの疑似人格のモデルは、
さる幽幻の妖しの魔、コルンバ――…
きみ、何を驚くことがある? たかが人格モデルだよ?
[「人間」ではなく「妖し」と聞かされて戸惑う同僚に、
コルンバの人型は、軽く肩を竦めてみせた。]
妖魔とメカとは相性が悪い、と思う者も多いだろうが、
コルンバという幽幻の妖しは、特にそういうやつではない。
そしてあの者は、個性ある存在たる自分のコピーが作られても、
大して気にする類のものでもないのでね。
……解ったかい、きみ? さあ、話を戻そう。
幽幻なるコルンバの出身地は「イニシュ」。
……え、聞いたことないって?
まあこのリージョンについては、きみが知らないのも無理はないか。
イニシュは、冷たい風吹く海の上に
幾つかの小島が浮かぶリージョン。
コルンバはその中でも一番大きな島から生じたんだ。
イニシュには、人間はあまり多くは棲んではいなかった。
それよりも草木が、獣が、鳥が、魚が、虫が、
そしてコルンバのような幽幻のものが主たる島だった。
ヒトは野の生物や妖しのものを恐れ、畏れもしたが、
それでも特に深刻な対立があった訳じゃない。
誰もが各々に、時に互いに関わり合いながら、
至って静かに日々を過ごしていたんだが――
爆発爆散 ベアーは、 煙霞山 山主 蓬儡 を投票先に選びました。
ある時、イニシュの海と島々を、
他のリージョンからの開拓民が訪れたんだ。
かれらは、「未開地」たるイニシュの開発や
リージョン間機構との連携を求めて、
イニシュ在来の妖しのものや人間らと
様々な交渉を行いに来たんだが――
その交渉が、少々もつれてしまってね。
コルンバはそのいざこざのあおりを受けて、
自らの遣いたる鳩の霊と共に、
イニシュから離れざるを得なくなった。
その亡命に際し用いられたのが、
わたしたちメール・トルーパーズのシップだった。
その後、結局交渉は決裂し、
イニシュの民と開拓民との間で
文字通りの戦争が起こってしまったらしい。
その結果として、開拓民はイニシュを諦め、
かの島々と海は再び平穏と孤高を得た――とは、
本局のデータベースに記録されている通り。
事実として、わたしたちの赴くリージョンに、
イニシュの地はもはや含まれていないから、
短命の人間の身であるきみが知らないのも
無理はない、ということだ。
――ところで、きみ。
ランチをこの小籠包だけで本当に済ませる気かい?
これから集配作業で東奔西走する身だというのに。
これだからな、忙しない短命の人間というものは。
[吐息を零さぬ機械の口は、
若干の呆れを滲ませた声音も響かせて。]
/*
Q.ガワがメカで中身(人格)が妖魔・妖精とかなんでこんなややこしい設定にしたの
A.コルンバの種族は元々、他のPCの種族と被らない(というより、いないor少ない)ところに合わせようと考えていたんですが、プロローグ最初の方に来た人(イオニスまで)が人間多め・モンスター属性も濃いめかな〜と考えたので、妖魔寄り案とメカ寄り案で絞っていたんですよね。
その際にわりと妖魔寄り案のイメージがかなり濃くなってしまったので(>>4参照)そちらでうっかり進めかけていたら、結果的に妖魔PC(蓬儡さん)がいらっしゃってメカPCはいらっしゃらなかった……ということで、狼の基本をメカにして人格に妖魔を残す、という方向性に持っていったという顛末でした。ぼくが今年メカPCをわりと多くやっていたので避けようとしていたとかそんなことはないんですからね……
/*
↑原作をご存じない方向けに解説すると、
原作のキャラクターの種族設定は、大きく分けて
・ヒューマン(人間)
・妖魔
・メカ
・モンスター
の4つに分類されています。
それで「妖魔寄り案とメカ寄り案で絞っていた」、ということになりますね。
ちなみにこのうち妖魔は作中の独自要素がかなり強い種族になるんですが(蓬儡さんの描写内でいくつか>>0:72>>0:75>>1:50>>1:103採用されていますね!)、実際の作中で妖魔に括られる存在の範囲はわりと広めに取られていて、現実の伝承における妖精(スプライトとか、アンシリーコートとか)が妖魔として扱われているケースもあるんですよね。
妖魔・妖精と纏める形でぼくが記載したのはこうした理由からなんですが、これちょっと意図が判り辛い〜って参加者さんがなってないかはちょっと気に掛かるところかな……。
「妖魔」と「妖精」が両方魔族として同族的に扱われている作品ってサガフロ以外にもあるんですが……みんなそれを知っているって訳でもないですからね……
(マーチェンドのログに出てきている妖精の“女将”は何者なのかって? それはマーチェンドのほうでお話させてね……!)
越境貿易商 マーチェンドは、 煙霞山 山主 蓬儡 を投票先に選びました。
今朝俺を叩き起こしたのはクロウではなく、客室の外から扉をノックする、あのエンジニアだった。
寝起きの身格好で応対するのも躊躇われたんで、扉越しに取り急ぎその用件を聞いたんだが……。
「トーチバードの修復が今度こそ完了したぞ!
今回仕上げた翼は、君にも納得がいく仕上がりだろう」
さてどうだか……というのがこの時の正直な思いだったが、まあいい加減妥協しないといけない頃合いだっていうのも解ってはいた訳で……。
「トーチバード」――船体識別番号とは別に付けた、俺らのシップの固有名。
この名が想起する意味合いは様々だが、とりあえず、喉元がオレンジ色の可愛らしい小鳥とはそこまで似ていない機体、だった。
「だった」という過去形なのは、まあ、そういうことだ。
このエンジニアに“女将”までもが機体のデザイン改造に手を入れた結果、派手でキュートでフワッフワな装飾を入れられまくった、という経緯があったってことさ。
この王国の民としてのファッションへの拘りの発露の結果なのか……なんて頭を抱えながらもデザインに幾度もダメ出しを入れてきた俺も、傍から見りゃ気難しく拘りの強い芸術家みたいに見えちまうのかもしれない。
そういう訳で、いい加減今度はどんな機体にされていても受け入れるか……なんて考えだしていた、その時。
俺がその仕上がりを実際に目にする前に、このエンジニア――ヘロンという名の人間の下層民は、扉越しにこう告げてきた。
大樹の虚に 鎮まり眠る
表皮を這う 冷たい朝露 滴る雫
融けた泥の身体を這いまわる山椒魚
ぐるん 身体をうねらせて
虚いっぱいに腕を伸ばして しがみつき
どろり、どろりと呼吸を返し
黒々とした 夢から覚める
「……ああ、そうかい。
分かったよ、ヘロン姐さん」
“女将”と違い、ヘロンからは自分が女性であるという話を既に聞いている。男だと言われても信じちまう恰好の人なんだがな。
ともあれ、そのエンジニア・ヘロンの声色の変化から、この忠告が冗談の類じゃないらしいってことは、容易に察せられたのさ。
……客室の郵便受けに収められた3通の手紙を手に取ったのは、ヘロンが立ち去ってすぐのことだった。
『……………………』
先程までいた山椒魚をぐるりぐるりと
目視で探す。
べちゃべちゃと頭の上から何かが走る音がして
そこにいたかと手を差し伸ばして地面におろす
今日の森には 霧がかかる
白い霧の向こうに山椒魚が逃げ出したのを見届けたなら
いつものように ずるりべちゃりと 島を彷徨う
熱で頭がぼんやりするのよいことに
考えないようにしていたこと。
外の事 世界の事 未来の事
住人の事 まだ見ぬ事 遍くこの世界にある
美しく素敵で純粋なもののことすべて、
それから、死の恐怖について。
大規模ステア発生前の定期便は荷物が多く、こちらからの荷物は載せられない。
なにせ主に研究員たちが長期間の孤立に備えて娯楽品だの嗜好品だのをしこたま取り寄せるせいで、船には積載量限界すれすれの荷物が載るのだから、荷物おろしもそれはそれは時間がかかる。
そしてステアに巻き込まれたらひとたまりもない小型船は、ステアの予兆が観測される前に母港に戻るために、出せる最高速度を出すために空の状態で戻らないといけない。
大規模ステアの発生はこのリージョンにとってものすごく大変なことなのだ。
研究員の一人がベアーに手紙を持って来たのはそんな大騒動が一段落付いたころである。
「てがみ?おれに?」
差し出された手紙を恐る恐る受け取る。
差出人は……研究員が教えてくれた人物だ。
「…へんじきた!!!」
嬉しさを隠せない様子でベアーはその場でピョンピョン飛び跳ねた。
「おれのだしたてがみにへんじきた!」
喜ぶベアーに研究員は「文通だから返事は来るだろう」と思ったが言わなかった。
その場でびりびりと封筒を破くベアーに
――読むなら座って読みなさい。
と一言注意すると自分の荷物の荷解きをすべくベアーの部屋を去った。
手紙はベアーが読める字で書いてあったのですらすらと読むことができた。
「ていきびんのひとみたいなことしてるのかぁ。
……へへ」
初めての手紙にベアーの胸はくすぐったくなった。
自分が知らないことばかり書いてある。
ぶんつーとはなんと刺激的なことか!ベアーはもっといろんな人と手紙のやり取りをしたくなった。
が、手紙を読むベアーの手が止まった。
「よめない……」
読めない字が出てきたのだ!
しかし、読めない字の上にどうすればいいのか書いてあることにベアーは気が付いた。
賢い!
ベアーは封筒に便箋を戻すと部屋を出て研究員の部屋に向かった。
エンデの朝は夜と地続きだ。
曖昧で、起き抜けはどれだけ眠りこけていたのか
すぐにはわからない。
陽の光は遮られていて、常より薄暗いまま。
日射に焼かれるよりはまだいいかもしれないが。
その日に日付が変わったらしいと気づいたのは、
昨日も鳴った郵便通知、──しかも2つ。
怠い身体を起こし、意識を落とす間際の事を
まだぼんやりとした頭のまま、思い出して。
「てがみ!おっちゃんにも!」
幸いなことに研究員は部屋にいた。
何ごとかと訝しむ研究員にベアーは封筒を差し出した。
「おれのよめないじはおっちゃんがよんで、だって」
なるほどとベアーの言葉に腑が落ちた。
だから「おっちゃんにも」ということか。
封筒を受け取ると部屋に居座るとばかり思っていたベアーは部屋を出て行こうとする。
どうした、と聞けば
「ついしんってことば、まちぇっとにおしえてもらう!」
そう言い残して走って部屋を出て行ったのだ。
相変わらず落ち着きがないと苦笑しながら研究員は荷解き中の箱に腰を下ろして手紙を読み始めた。
夜の帳が降り切って
世界は闇へと包まれる。
比喩ではない、夜のない世界というのもあるけれど
このトラッシュは普通の世界。夜があり、闇がある。
そして、当然、人間の身体は眠るようにできている。
もしかしたら科学技術によって
睡眠が必要のない存在もいるのかもしれないが
残念なことに私は眠ることが必要な人間で。
そして、当然、眠ることになれば、夢を見る。
そう、夢。
願望や望みを未来に託すものではなく
記憶を整理する為に脳内の銀幕が投影する過去の記憶。
どれほど思い出すことを拒否しても、見せられ続ける
嗚呼、またこの夢だ。悪夢だ。
嘗ての事に思いを馳せれば、否応なく苛む刺。
手紙の所為なんて思いたくはないけれど。
仲間たちの事を思い出すたびに
忘れるな、と警告するかのような
あの"最後の日"の情景が浮かぶ。
依頼の内容は簡単な調査だったのだ。
設備の増設が過ぎて、把握しきれていない場所の確認。
もともとは職員で対応していたのだけれども。
以前、敵対的なモンスターが入り込んでいたお陰で
甚大な被害が出たという話だったから、お鉢が回った話。
少しばかり変な頭痛を感じる程度だけれども
特に何か起こるでもなく、少しずつ調査を進めていって
色んな機械や不可思議な液体の詰まった培養層。
それがたくさん並んでる大部屋に入った時
不定形体のモンスターが、頭上から襲い掛かっていた。
そういう奇襲は勿論警戒していたから
モンスターの攻撃を受けるという事はなかったけれど。
奇襲をやり過ごしたから、油断をしてしまったのか。
…いや、仮に気を張っていたとしても
あの時、不定形のモンスターに有効な"火"を用意する
仲間を止める事なんて出来なかっただろう。
今だから分かる。
微妙な頭痛があったのも。
あの部屋、ないしは部屋に通じる場所から
爆発性の混合気体が堆積していたのだろうという事
仲間が火を用意した瞬間
空間にあった混合気体が一気に反応して燃焼
爆発を引き起こしてしまったのだろうという事を。
けれどあの時は、なにがあったのか分からずにいて
吹き飛ばされて、周囲の様子が確認できた頃は
…私にとっては、地獄そのものの光景が広がっていた。
仲間が。かつての仲間たちが。
"人間ではないモノ"になってゆく様。
それをまざまざと見ることになったのだから。
火を用意した仲間は、爆発の衝撃をまともに受けて
見た目で即死だとはっきりとわかる有様で。
その仲間を中心に、
私は部屋の外側で、
彼らは部屋の中にいたものだから
爆発の衝撃で私は部屋の外に弾き飛ばされて
仲間たちは部屋の中に放り出される。
そして、爆発の衝撃で破壊された巨大なビーカーから漏れた
正体不明の液体を浴びてしまっていたのだ。
目の前の光景が信じられないのと同時に
何をすることもなく、何もできることもなく
ただ震えて、仲間が仲間だったモノへ
人間が、人間だったモノへと変貌する様を眺めるしかなかった。
「────、──────!!」
部屋の中の仲間の声に、弾かれたように向き直る
仲間の声も、もう思い出すことは出来ないけれど
その叫びに、怒声に、私が答えたことは覚えてる。
「…無理、無理だよ…! できっこない!
そんなこと、出来るわけないじゃないか!」
臆病風に吹かれたのだろう。
いや元々私には勇気の"ゆ"の字も持ち合わせてなかった
ただ、それだけの話だ。
悍ましい光景。恐ろしい光景。
まるで世界の終りにま見えたような、
そんな心持だったことは今でも覚えてる…。
いや、忘れようがなかった。
「────! ────────
────────────!!」
何度も、何度も私に向かって叫ぶ"仲間だったモノ"
けれども、それに手を伸ばすことも、部屋に入ることも出来ず
ただ、目の前の現実を拒否するかのように
大きく頭を振り乱しながら
やがてその液体を浴びた人間だったモノは
最後に大きく叫んだ声もぐぐもって変質してしまって。
その事実に恐ろしくなった私は…
仲間に背を向けて、現実から背を向けて
走って、走って、走り続けて。
ずっと、ずっと走り続けて、力尽きて倒れてしまった後──
咆哮のような慟哭を挙げたのちに、夢の世界から帰還するんだ。
仰向けになっていた寝台の上。
私はいつの間にか目を覚ましていた。
頬に感じる濡れた感触。
嗚呼、私には涙を流す権利など、ありはしないのに。
仲間を見捨て、逃げだした私に悲しむ資格などないのに。
体を起こして、何も考えられず、視線を彷徨わせる。
過去を思い出すと、何時もこうなってしまう。
身体のどこにも不調はない筈なのに。
肺か、気管か、心臓か。痛くて、苦しくて。
添えた手に力が入る。
嗚咽が漏れそうになるけれど。
聞く人も、聞かれる心配もないのだけれども
涙も声もでないように歯を食いしばって凌いだ。
この発作は、今日はどうやら軽微なようで
半刻ほどで自分自身を取り戻すことが出来た。
「頑張る、って決めたのにな…」
決意を新たにしたときに、出鼻を挫かれるのはよくあること。
だから、あの手紙を見た時に、"頑張ること"を決めた時に。
この"夢"を見てしまうかもしれない、ということは
覚悟はしていたつもりだったし、何度もみた悪夢だから
少しは免疫がついて、耐えられるかとも考えたけれど。
「……なにこれ…封筒?」
指先の感触を手繰り寄せて目前まで持ってくれば
全くの心当たりも身に覚えもない封筒があった。
寝ている間に誰かが置いていったのか、なんて
そんな荒唐無稽なことを考えるけれど
そうでもないと納得できないような存在だった。
宛名があるわけでもない"それ"に
私は首を傾げつつも。
寝台から足を下ろして立ち上がり
机の上に置いてあるペーパーナイフで封を切る。
封筒の中に入っていた手紙を引っ張り出して
私はなんとなく、椅子ではなく寝台に腰掛け
目に紙面を映した。
過去を遡っても
そういうモノを用いる人と出会ったことがなかったから。
いや、もしかしたら出会ったことがあるのかもしれないが
すくなくともこういうものを貰う経験はなかった。
しかし、郵便事故だったとしても
眠ってる私のベッドの上に置くとか、趣味が悪すぎる。
でも、この世界には
どこからか知らない由来の物品が集まるクレーターなんて
そんなおかしな物体があるのだから
たんぽぽの押し花がされた便箋入りの封筒が
私の目の前に辿り着いたとしても不思議はない…筈。
そんな現実逃避をしてから記される文字を見れば
何故だか、胸が締め付けられる心地を感じた。
ただの文字。文章だというのに。
丁寧に、けれど掠れた文字の羅列は
差出人の体調がとても思わしくない事を示してるように感じて
誰に充てたわけでもない、自分の想いをぶつける内容に
けれど、それが自分でもどうにも制御できないものだと
そういうことは冒頭の謝罪から感じることが出来てしまって。
そして何より、きっとこの人は──
手紙を読み終えた研究員は、物が山積みになったデスクに封筒を置いた。
事故では多くの命が失われた。
研究員だけではない、実験体も、命になる前の実験体もだ。
その後、連日のように上層部の人間、研究員だけでなく育成施設の子供たちまで事故調査委員会に呼び出され、ほとんどがそのままこのリージョンを離れた。
――チエンドゥーは離れてて正解だったかもしれないな。
ぼんやりとあり得なかった過去を考え、研究員は自嘲した。
――あいつならきっと生み出された命たちのこと考えてここに戻っただろうから。
この男が知るチエンドゥーはそういう人間だから。
「……」
抽象的だけど。抽象的だからこそ。
この人の置かれた状況というものが
何故だかありありと心に浮かんできてしまって。
納得をしているのに、けれども覚える不満というものは
何故だか私の心に刺さるように残ってゆく。
勿論、私の妄想、考え過ぎなのかもしれないけれど
文字情報なんて受け取り手が自分勝手に解釈するものだ
もしかしたら──
都合の良い考えが出そうになって苦笑い。
頭を振ってその考えを追い出す。
それとは別に、この差出人の事は気にかかった。
返事を書かなければ、と思うけれど。
何処の誰から届いた手紙であるのかが解らない。
それに何を書けばいいのかもわからない。
私は立ち上がり、封を開けた封筒に
たんぽぽ押し花の便箋を丁寧にたたんで
そっと入れてから、机の一番上の引き出しへと。
ベアーはゼラチナスと施設の外の池にいた。
ここにはたまに変なものが落ちているのだ。
マチェットの話だと
――穴の逆で混沌から物が流れ着くのではないか
この間はここでピカピカ光る金の玉を見つけた。
「あ、なんかしずんでる!」
研究員たちリラクゼーションのために作られた池は透明度が高く、底までも見渡すことができる。
『ソこ モぐル?』
透明な不定形の命は不明瞭な声のような音を発しながら震えた。
ゼラチナスはベアーよりも後に生まれた実験体だ。
いや、正しくは実験体ではない、事故の後に発見された生命体なのだ。
事故時に何かしらが起こり生まれたのだろう。
明らかに知性があるこの生命体を、研究員たちは実験体であるとして守ったのだ。自分たちの不祥事をすべて消し去ろうとした上層部から。
ベアーが頷くとゼラチナスはとぷんと池に飛び込んだ。
水に入るとゼラチナスは核の部分しか見えなくなる。
やがて核は底にあった物と一緒に水面に近づく。
『とッて キた』
びしゃっと陸に上がったゼラチナスの中には何やら瓶のようなものがある。
ベアーは透明な体に手を入れると、瓶を掴んで取り出した。
「……なかになんかはいってる」
底の泥が付いたのか、薄汚れた瓶の中に白いものが入っていることがわかる。
とりあえず瓶を池で洗って改めて見てみると、それはどうやら紙のようだ。
『カみ べアーの いっテタ テがミ カも?』
「てがみ!?」
もしかして穴に入れた瓶の返事か!?
と慌てて開けようとするが、まったく開かない。
しょんぼりするベアー。
ゼラチナスも手のような物を作り出して開けようとするが開かない。
しょんぼりするゼラチナス。
『まチえット ニ タのもウ』
きっと力強く賢いマチェットならこの瓶も開けられるだろう。
二人は顔を見回せて頷くと施設に戻った。
サイドテーブルに散らばった封筒。ペン。
レターセットの数々。届いていた手紙。
ぼんやりとしていた視界が輪郭を定めていく。
そう、手紙を書いた、
それであまりに疲れて、眠って。
送るつもりであったものはここにはない、が。
間際に書いていた、ゴミ箱行きのものは。
──── 一気に意識が覚醒した。
「 ……え、 ……無い、…… 」
正しく
──なんてことは露ほども思わず。
私は何を書いたのだっけ。思うままにヒステリックに
ぐちゃぐちゃに書き連ねたような気が。する。最悪だ。
もう後の私が願うことができるのは、
どうかあの手紙を受け取った人が、中身を見ずに
悪戯だと捨てて貰えます様に──そんな事だけ。
ここにないということは、そういうことですから。
一度手を離れれば大概のものは自分の意思が
介在できない場所にいってしまいますから。
頭がぐるぐるとして、ゆるく吐き気を覚える。
他者の存在を意識することも、対人関係を考え
こうして気分を悪くするのもずいぶん久しぶりで。
何かに引っ張られたように紐解かれる記憶。
お前は死にたいのか と。
いつか聞かれたことを思い出す。
あの時も多分返事を間違えた。
「
言葉が震えないように、涙が溢れないように、
出ていく彼らの足枷にならないように、
精一杯笑ってこたえてやった、はず だ。
/*
増えていたログににっこりごろごろしつつ
イオニスたちの遭った事故、もしかしてペリエンス想定だったのかなーって思っていたら本当にそうなった だと !!
これは俺は 俺は ああああああ ちょ ちょっとお返事先に書くね!!!!
そして>>40
おっちゃん流石俺のことよく解ってるじゃないか……ときゅんとなったんだぜ……
その後の事はもう知らない。
「 ────っぐ、 」
最悪の目覚めだ、と思いつつ蹲る。
息を整えつつ、点滴をからんと揺らして
ひどく自分の吐息が響く。
どれだけ大きい音だろうが誰も気には留めない。
机の端に並び立っている手紙──小瓶たちの存在に、
気が付くまでは、まだもう少しかかる。
……ぐちゅ。ぐちゃ。ぐぢゃり。
粘液質な音を立て
身体をわずかに溶かしながら
ゆっくりと森を歩く
振り返れば 茶色い足跡の中に
白い結晶が混ざっている。
…昨日浴びた海水の中の塩分が
泥の体内で乾燥して沈殿して
塩の結晶になったらしい。…歩く塩害?
…足の中にザラザラとした感覚があったのは
おそらくそれなのだろう。ムズムズした感じが心地悪い
…さく、さくさく。
もう少し歩く。川のせせらぎのある方へ。
……ぐちゅ。ぐちゃ。ぐぢゃり。
粘液質な音を立て
身体をわずかに溶かしながら
ゆっくりと森を歩く
振り返れば 茶色い足跡の中に
白い結晶が混ざっている。
…昨日浴びた海水の中の塩分が
泥の体内で乾燥して沈殿して
塩の結晶になったらしい。…歩く塩害?
…足の中にザラザラとした感覚があったのは
おそらくそれなのだろう。ムズムズした感じが心地悪い
…さく、さくさく。
もう少し歩く。川のせせらぎのある方へ。
/*
私もやりかけたことあるよ、コルデリア!
ドンマイ!
でも書いた手紙どこやったっけ…
ない…! ない…! うーわ、最悪だ…ってなってるコルデリア可愛くない? 私は可愛いと思います。(はくしん
/*
そういえば今回の村、一部例外(手紙の資材関係)を除いて文字情報以外は送れない、という規定にしているんですが
匂いについてそういえばはっきりダメとは書いてなかったです ね !!
匂いについて考えてなかった……と思っていたら、そういえばぼく自身が昔めっちゃ酒臭い手紙を送ってたなーって思い出したので、これは村建て人の記載漏れです ね うっかり……
とりあえずマーチェンド側からはちょっとスルーで行こうかな……
煙霞山 山主 蓬儡は、 煙霞山 山主 蓬儡 を投票先に選びました。
/*
施設増築しまくって管理ガバガバになる。→
取り合えず、何をするにも点検しなきゃならん…
あと、ガバった管理上に問い詰められたらヤバいよな…
よし、とりあえず職員に調査してもらお!→
なんか実験動物が狂暴化して徘徊しとる…
幸い普段使用してる施設群はそういうのないけど
これ職員の手に余るやん…ゴロツキでも使うか→
/*
ちなみにルール上の問題は別として、
コルデリアさんからのお手紙の匂いの描写、すごく好きなんですよ……! 植物の香りに薬のような香りも交じっているこの感じ、これだけでもすごくぐっときちゃってですね……。
血を拭ったような痕、というのも想定外だったんですが、これもいいなあああああって中身が悶えていてですね……。
ちなみに便箋に押し花が使われているらしい>>37>>42というのも見えているんですが、
これは「便箋の色や模様の描写」に類すると考えられたので、OK!の方針でいます。
/*
よっしゃ、依頼を受けてくれる物好き捕まえたで!
これで一安心だやったぜ!→
管理がガバガバだったので
揮発して着火源があれば爆発するあぶねぇ液体の容器が
サイトグラス割れてて漏れだしてた。
不定形のモンスターに火を使おうとしたら大爆発。
部屋のなんか危ない液体もぶちまけられて犠牲者(ゴロツキ)多数。
生還したゴロツキが「任務失敗しました」って言って逃げるように去ってゆく。
一連の騒動が上にバレて施設のほとんどが解体。放棄
かわのながれ せせらぎのおと
ながしながされ きよめるもの
なにもかもをおしながし
かこのゆめさえ きよいものさえ
けがれたものと ともにけしさる
きれいなふりをするから きれいなままをのぞむから
じぶんのどろごと ついえてきえた
/*
的な彼是を考えてました。
何処の世界にも楽して甘い汁を吸おうとする人っているものだし…的な彼是。(大半は真面目な人ばっかりなんだけどね…)
まあ、此処まで決める必要もないのでこのあたりは
「なんかそれらしいことがあった!」でいいと思いました。
/*
事実としてあるのは
「不定形のモンスター(実験素体)が徘徊してた」(逃亡中?)
「揮発すると爆発気体になる危ねぇガスが堆積してた」(容器から漏れてた?)
「爆発を起こして、
この三つですね。
静かな森に似つかわしく
辿り着いた小川は穏やかに水を湛え
からららと涼やかな音とともに
この自然に潤いを届けていた
少し大きめの鳥が、小魚を咥え飛び立つ。
茂みから出てきた鹿にも似た生き物がこくりこくりとその水を飲む。
ゆらりゆらりと飛ぶのはホタル?
命の恵み、夜の光。
月明かりを反射してキラキラ輝くそこに
ざばり。と両脚を入れて形を崩す。
塩気が流され 消えていく。
■がほどけて けれどある。
この泥の身体は 一定以上の距離は離れないらしい
少しばかり意識が遠くなりながら
しばらくはそのように脚を浸していた。
……そのほとりにも、一つの小瓶。
前にも見覚えのある形のもの。
『…………』
今度は海ではなく河流の中に流れ着いたか
対岸のそれをじっとみつめ
すい、と腕を伸ばしてみる。
とどくだろうか とどくだろうか
/*
コルデリアかわいいね 健気だね
ぶきようで かわいいね
おいてってほしくて、無理をして笑うと
けどあいてはきずついてしまうから
だからよけいに 葛藤してしまうの
/*
…それをし続けて、自分を消して
結局潰えて、泥しか残っていないのが■だから
コルデリアには、幸せになってほしいなと思うけど
こちらに引きずり込むのは…どうなのだろうね。
死人側だからなあ
エンジニア・ヘロンからの忠告を受けてからというもの、蔦模様のカーテンの向こう側の表通りの様子に意識が寄りもしたが……。
この時はまだ早朝で、クロウのスリープモードは継続中。
だから俺も、身支度を整えた後もひとまず客室に留まり、3通の手紙の確認を今のうちに行うことにした。
で、1通目は――。
今日の俺は、まあまさかの速達って訳じゃないだろう……と冷静に考えた、心算だった。だがよくよく考えりゃ、「文通」においてこういう形で立て続けに手紙を送ることがあるか?って話なんだよな。
で、その真相は――簡潔に綴られた拙い文章を読めば、納得がいくものだった。
「ああー、このタイミングかー…。マジかよ……」
“ステア”については当然、俺も知っている。知らなきゃリージョン間貿易商もシップ運転手も勤まらない。
アイツとの文通が始まったばかりでのこれは本当に残念過ぎるタイミングだが、“混沌”の自然現象ってやつは知生体の都合なんてお構いなしだ。文句言ったってしょうがない。
自給自足の生活が事実であれば(俺は実際に現地に帰っていないので仮定形にしているが、アイツらが命をちゃんと繋げているんだから、昨日届いた手紙の内容も鑑みればほぼ事実とみていいだろう)、“嵐”によって物資補給が絶たれてもアイツらはちゃんと耐えられる筈だ。
それこそ何年も“嵐”が続く事態も過去のステアの事例から考えられたが、アイツらなら大丈夫だと俺は信じているし――信じるしかない、ともいえた。
さて、ステアのことを律儀に伝えてくれた(事前予報のお陰で叶った連絡だろう)アイツに対し、俺は特に返信を書くことはしなかった。
今日の定期便のタイミングで手紙を送れば、上手く間に合えばあちらに届く可能性もあったんだが……「まっててね」に対しての返事が向こうにすぐさまに届いてしまえば、俺が待てずにせっかちを起こしたみたいになっちまう。それもなんだかなあ、ってな。
――ああ。お前さんからの返事、待ってるさ。
俺は心の中でだけそう呟いて、広げた手紙を再び仕舞い直した。
力強く賢いマチェットは瓶の蓋が開かないのは蠟で栓をしてあるから、と素早く理解した。
三人で調理場に向かいお湯で蝋を溶かし蓋を開ける。
「てがみと……すながはいってる!」
中の砂を溢さないように慎重に手紙を取り出すと手紙を広げる。
マチェットは砂に興味があるようで
『この砂を解析すればどこのリージョンかわかるかもしれないね』
と言って砂に触れている。
一方のベアーはさっそく手紙を広げ、ゼラチナスもにょんと体を伸ばして手紙を覗き込む。
「……うーん……てつがく……」
なお てつがく の意味は分かっていない。
『イイまワし が むズかシいネ』
むむっと唸るベアーを見かねてか、マチェットは瓶が倒れても大丈夫なように蓋をしてベアーの頭越しに手紙を読んだ。
――もし、仮にだ。
俺が今、
あの場所に残ることを決めた友らと、
あの場所で生まれた、生み出されたいのちたちと、
……なんて「もし」を考えるのは、止しておくことにした。
「ああ、起きたか、クロウ」
丁度いいタイミングで、クロウが“目覚めて”くれた。
ひとまず残りの手紙の確認は、“女将”の供してくれる朝食で腹を満たしてからにしよう。
……言っておくが、あの“
あの
いないんだが、それはそれとして――…
/*
しかしこの調子だと。
掘り出し物を探すためにクレーターに潜ってコア(戦闘用)を見つけた後にセキュリティに引っかかって戦闘用ドローン多数が引っ張られて足利義輝ごっこが出来そうにないかな。
ロールが物凄くくどくなりそう(なりそう)
/*
戦闘ロール苦手だからバジル少年を助けた時の描写も巻き入ってたし(一人称の上に自信がないというバックボーンなので自分の事を殊更に強調したりはしないのだ。)
ただ、"忘れてたはずの仲間の声"は思い出さないと立ち直れない。だからそれはしないといけないねぇ…。
とりあえずベアーの瓶詰手紙も回収しないといけない…。
手紙を読んだマチェットの説明によると、この手紙を書いた人物は夜の海に囲まれたリージョンにおり、物語が好きな泥?の人であるようだ。
マチェットの言った
『哲学もあながち間違ってないね』
という言葉の意味はベアーにはわからなかった。
「ものがたりがすき……、じゃあすごくあたまいいやつなんだ!」
ベアーの目がキラキラと光り出す。
すごい人から手紙をもらったと大喜びしているのだ。
『こノ ウらのガ もノガたリ カな?』
ゼラチナスから伸びた腕がぺたりと紙につくと器用にそれを裏返す。
「まちぇっとしってる?」
紙を手に取り物語を読んだマチェットは首を横に振った。
『物語の一部かもしれない』
「いちぶかー」
どうやら一つの物語の一部分を送ってきたようだとベアーはマチェットの説明で理解した。
『誰かに見てほしいからベアーに渡す、って書いてあるね。
もしかしたらこの人物が続きを持っているかもしれないな』
ベアーは時間をかけてゆっくりとマチェットの言葉を咀嚼した。その間にゼラチナスはマチェットが何を言ったのか理解したのだが、ベアーがゆっくり考えているので黙っていた。
空気の読める不定形なのだ。
「……あったらものがたりぜんぶわかる……?」
導き出したベアーの解答に二人は頷いた。
「すっげー!すてあおわったらあいたい!
ものがたりぜんぶしりたい!」
どんな物語かわからなかったが、見てほしいと一部を手紙と共に瓶で流したのだ。
きっと物語を聞いたら教えてくれるに違いない!
ベアーはわくわくしてきた。
『それじゃあ本格的にこの砂を解析しようか。
ちゃんとこの人に手紙を届けるためには、リージョンの名前がわからないと届けられないから』
マチェットは瓶を手に取って振った。シャカシャカと音がする。
『スてア オワるの たノしミ!』
「きてくれるかな!しょーたいじょーかかなきゃ!」
椅子から飛び降りベアーは意味もなく屈伸をした。
わくわくしすぎて体を動かしたくなったのだ。
「おれ!しょーたいじょーかいてくる!」
食堂にマチェットとゼラチナスを残し、ベアーは走って部屋に戻った。
便箋にしょーたいじょーを書き、瓶に入れて穴に向かう。
が
『ベアー、ダメだよ。ステアが来るから穴は封鎖中だよ』
混沌に繋がるということは混沌からの影響を受けるということ。
穴の封鎖作業を終えた研究員からかけられた言葉に、ベアーはしょんぼりするのであった。
しょんぼり。
結局、あの後私はもう一度眠ってしまった。
今度は何も夢を見なかったようで胸を撫で下ろす
けれども、気分は相当に沈んでしまったようで
クレーターに潜るにしても大きく出遅れてしまって。
途中であったバジル少年にも心配された。
少年には「夢見が悪かった」と
本当のことを言ったのに、疑われもして。
よっぽど酷い
辛気臭い顔は止めようと決めた即座にこの為体は
情けなくて、乾いた笑いが出てしまって。
それもまた、余計に心配させる羽目になってしまった。
投身自殺でもすると思われていたのかもしれない。
そんなことは出来ないし、するつもりもないのだけど
心配させないために元気を出せば
「空元気は余計に痛々しい」という趣旨の言葉を投げられて
こんなにも、世の中は上手く回らないものか…
なんて、一周回っておかしく感じたりもしていたけれど。
色々あって、クレーターに投身自殺をすることもなく
私は少年と別れて、一人でクレーター内を物色する。
掘り出し物を売ってしまった、なんていうのは大法螺だけど
きちんとした掘り出し物を用意しておけば驚くかな
まあ、そんな益体もない理由で黙々と探すのだけれど
「……出遅れたからな」
まあ、良いものなんて早々残ってる筈もなくて。
適当にガラクタを回収しながら奥へと、奥へと。
大分下の方に潜ってきて
時間はそろそろ戻らないといけない時間。
背負子にはまだまだ余裕はあるし
目ぼしいものは見つけられてないけれど、今日は潮時
そんなことを考えて、立ち上がると
視界に映る小さな光に気が付いた。
一瞬、当たりかな、と心が沸き立つ
けれど、貴金属の類ではなくて
其処にあったのは蓋がされた瓶。
それに光が当たって、輝いたようにみえただけだろう。
まあトラッシュなのだから"ごみ"がやってきて当然。
なーんだ、とばかりに溜息を吐いて
何かの気まぐれで拾い上げてみたら
中には一枚の紙片が入っていた。
「ボトルメールなんてベタベタだな…」
なんて、苦笑いを浮かべるけれど
ここは色んなものが流れ着く"トラッシュ"
ひょっとしたらとんでもない掘り出し物の可能性はあった。
失われた技術であったり
どこぞの企業の機密文書であったり
或いは、未完小説の続きの原稿の可能性もある。
瓶のふたを開けてみて、おられた紙片を引き出して
興奮冷めやらぬ心持で文字を追いかけるけれど──
「…まあ、世の中そんな旨い話が転がってる筈もないか」
なんて苦笑いをして、文字を読み終えた。
この"招待状"を冠する手紙には疑問は尽きないけど
今はクレーター(ここ)から出ることが先決。
陽が傾き始めた状況に心持速度を上げて
私はクレーターから脱出するのでした。
「…まあ、世の中そんな旨い話が転がってる筈もないか」
なんて苦笑いをして、文字を読み終えた。
この"招待状"を冠する手紙には疑問は尽きないけど
今は
陽が傾き始めた状況に心持速度を上げて
私はクレーターから脱出するのでした。
/*
ゴミ箱っていう設定はよかったかな。
こうやって色んなものがやってくる設定に無理がない(ほんとか?)
問題はキャラクターの設定だな!
さすがに内に引き籠り過ぎて出会いがねぇ!
/*
とりあえず出された分の手紙の処理は出来たぜうへぇ。
後はベアーの招待状がどこから来てるのか調べてショックを受けるだけでいいな!
しばらく自分の粗忽に頭を抱えていた。
元より落ち込みがちなきらいはあるが、
芳しくない体調も面白いくらい引き摺られる。
こんな時に誰かが居てくれれば
笑い飛ばしてでもくれるのに。
自分の甘えに首を振って、
夢想と現実に線引きをして。
今日もなすべきことをしよう、と。
数多のしゃれこうべに向きあった。
ひとりでいる限り沈もうと思えば
幾らでも沈むことができる。
けれど起き上がるために要する力も
自分で用意しなければならない。
掃除も整理整頓も、何もせずに臥せっているより
幾らか気が紛れるから、というところで
無理のない範囲で日課にしているが。
今日は尚のこと無心で拭き掃除をしてしまった。
「 ── ふう、 」
一仕事終えて、机の端。
郵便物というよりは漂流物と言った方が
しっくりくる小瓶たちを、手に取って。
一つ目を開く。
「 …… しょうたい、じょう? 」
先日届いた手紙は書き慣れた筆致であったが、
この瓶の手紙の主は初々しさがあった。
私も文字を習いたての頃はたしか、
こんな字を書いていたような気がする。
遠くからこんな場所まで、よくぞ招待をして
下さったという思いと。
きっとそれに私は応えられないという、
一抹の申し訳なさがあった。
けれど、是非お会いしましょうなんて
叶わない嘘を伝える気にもなれないのだ。
今朝の宿の食事処には、他の客の姿も多数見られた。ああ、丁度込み合う時間帯に来ちまったって訳だ。
俺みたいな「余所者の地味さ」を纏う客もいれば、この王国の民らしく盛大に着飾った客の姿も。そして華やかな装いの客たちにだって、食事だけを求めにきた地元の民か、「郷に従った」外来の民か、といった違いがある。
『明日なんだよね、ランウェイのお祭り。
こんな時にステアとか来なくて良かったね〜』
パステルピンクのコルセットを緩く締めてこう無邪気に話している客は、明日の祭り目当てでパンパス・コートを訪れた観光客だろう。
会話の内容も勿論だが――「この国の民であれば、ああしたコルセットはもっときつく締めあげる」というのが、少し前にヘロンから聞かされた話だったんだよ。
まあこんな頃合いでの朝食だったから、“女将”が振舞うのも、実にこの王国らしい派手で華やかな料理だった。
真珠を思わせる輝きを纏う真球のパフと、薄紅の薔薇の花弁を模した薄切りのチーズを載せた、緑寄りの青に染められた米粒のリゾット。仕上げに散らされているのは細かい薬味の葉の他、金粉のような粒も。
味は流石に“派手”じゃなく、食物としてきちんと塩味や旨味のバランスを考えて作られているのが解る。多分、毎日食べても病気を引き起こすとかはないだろう。……味付け以外の原料に何を使っているかにもよるが。
そんなリゾットを俺や他の客らに振舞う妖精の“女将”は、長く白く伸ばした片方だけのつけまつげを何気なく瞬かせながら、今日も明るく愛想よく食事処を切り盛りしていたんだ。
そんな“女将”に対して、「あんなこと」を言おうと呼び止めることは、この時の俺にはできなかった。他の客の眼がある手前、な。
……この何気ない賑やかさを「嵐の前の静けさ」みたいに感じちまうのは、今朝早くのヘロンの忠告の所為だったんだろうか。
あの一言を聞かなきゃ、これまでと変わらないこの国の日常として、何の疑問もなく受け取れたんだろうか。
ああ、でも。
これまでにトーチバードと共に訪れたリージョンの中にも、こんな空気が漂う場所が、あったように覚えてるんだよなあ……。
当たり障りのないことしか“女将”に言えなかったまま、未だ客でごった返す食事処を後にして、また客室に一旦戻って――。
こんな一時を経た上で、俺は、あの2通目の手紙の文面に向き合うことになった。
「……、馬鹿野郎」
件の手紙を見て、真っ先に零れた言葉が、これだった。
とてもじゃないがこれ、面識のない相手(少なくとも俺は、この人に会った心当たりが無い)に対して吐いていい罵倒じゃないな。
甚く丁寧に綴られた筆致は、それでも終焉に向かうがごとく、頼りない。ところどころの文字が薄れている様は、それこそ本当に血を吐く程の病に臥せった者のようだ。
そんな手紙の主であるこの人に、俺から何を伝えられるか。何ができるか。――何が、許されるのか。
ここですぐに返信を書き綴り……でもすればまた便箋を大量に廃棄することになりかねない。
クロウのやつに今の顔を覗き込まれるのも構わずに、俺はなんとか、慎重に言葉を紡ごうとした。
あの
ただ起こった事が事だけに、渡航制限については何度も耳にしていたし、制限なんて無視して自ら突っ込む……なんて暴挙にも出なかった。何せ住民の殆どを、散り散りの形ででも他リージョンに避難させるほどの事態が起こったっていうんだからな。
そんな風にしてあの星を避けてきた俺自身が、一体どの場所からここに来て――どんな拭えない染みを抱え込んでいるのか。
そんな手前勝手な愚痴めいたことは、この手紙を――今にも立ち消えそうな文を綴ったこの人に対して、わざわざ送りたくは無かったんだが……。
/*
肝心の手紙を落とすまでちょっと今夜行けそうになかったのでなんかいいところでCM入るみたいになってしまtt……
明日 明日には !!
家に帰って、背負子を下ろして
瓶に入っていた手紙を色んな角度から見遣り
透かしたり、光に充てたり、熱を加えてみたり
けれど、どうやら書いてある文字以上の意味はなく
その文字も、どこかたどたどしい感じ。
子供が書いた手紙、それ以上でも以下でもなかった。
紙の質は新しいものだし
瓶だって珍しいものではない。
そう、何年も、何十年も前からのモノではなく
数年内、ひょっとしたら極最近に記されたもの
その可能性が非常に高い。
しかしそう結論付ければ逆に謎が生えてくる。
「何で
少なくとも、この手紙は誰かが拾ってくれること
それを企図したものだろう。内容からして。
しかし、文字の拙さと知識との乖離がある。
何某かの方法で、郵便組織を使わずに手紙を出す
その手段を知っていて利用したにもかかわらず
この文章からは、それを能動的に行った感じはしない。
「うーん……」
では悪意を感じるか、というとそうでもない。
何かをだまそうとか、悪だくみを使用とか
そういう意思は全く感じられないというのもまた
この手紙の難解さをいや増す結果になっていたのだ。
それと手紙…いや、招待状にある固有名詞。
差出人の名前の他に、もう一つ。
「りじぇっとX…でいいのかな。」
名前の感じからして恐らく地名、
恐らくリージョンの名前であろうことは知れたけれど
聞き覚えのないモノだった。
情報収集やらはもう何年もやっていないから
もうすっかり取り残されているのかもしれないけれど
好奇心が疼いたのかもしれない。
私は手っ取り早くその正体を確かめるために
郵便局に向かうことにした。
「えーっと、ごめんなさいね。
で、なんでしたっけ、リジェットX?」
「ええまぁ。差出人の居留地がリジェットXらしいんですけど
其処に全く覚えがなくて…
もしかしたら、ど忘れしてたり、間違って覚えてる
なんてこともあるかもしれないので…」
「ああ、はいはい。ちょっと待ってくださいね」
言って、郵便局員は大きなファイルを棚から取り出し
パラパラとめくり始める。
「リジェット、リジェット…」と呟きながら探すこと少し
「ありましたありました。えーっとですねぇ
其処はもともと研究だとか実験だとかの為に作られたトコで
数年前に事故があって放棄されたみたいですねぇ。
あー。なんか滅茶苦茶大騒ぎになったの覚えてます。
此処の事だったんですねぇ。名前変わってるみたいで。
前の名前…確か──」
ペリアンス。
その名前を耳に入れた瞬間、すべての音が遠くなった。
「お役に立てましたかね?」なんていう郵便職員の声に
私は如何答えたのか、その記憶はなかった。
ただただ何故、どうして、という疑問符が
私の中を強く強く占めてしまっていた。
あの後。なにをしたのか、
どういう風に郵便局から帰ってきたのか。
その辺りの記憶は完全に飛んでしまっていて
気が付けば、家の寝台に横たわって
手紙の入った瓶を眺め続けてる。
過去に向き合おうとしたことは
最近でも何度もあった。
けれど、それは此方に選択権があった。
向き合う事を止めたり、目をそらすことも出来た。
いや、ひょっとしたらこれも
強制的に過去が追いかけてきたと勘違いしてるだけで
私がこの紙片を無かったことにする選択肢
それは与えられているのかもしれない。
実際、この瓶の中身を燃やして瓶を捨てて
全部なかったことにしてしまう事も可能かもしれない
けれど、この拙い文字からは
悪意や害意などは感じられずにいたから
どうしても、その選択肢を取ることは出来ずにいて。
瓶をサイドテーブルに置いて
寝台の上で寝返りを打つ。
どうやら明日もまた
睡眠時間の不足する一日になりそうな予感を感じていた。
[弟子達の朝の訓練を見た後に執務室へ足を運び、執務を行う。
友人の許へ行く予定は数日がかりで、外せない用事の合間を縫ってねじ込んだ。
山主不在の間も滞りのないようにと前倒しで書類が運び込まれ、いつもより忙しい。
ようやく一息ついたところで、配下の差し出してきた茶椀を受け取り、啜る。
林檎のような香りと洋菊茶独特のすっきりとした味わいを暫し堪能した。]
……さて。
[今日は私信用の状箱が幾つかの手紙で埋まっていた。
封筒が二つ、残りの二つは瓶。
前者は先日手送った手紙の返事と推測されるもので、後者は覚えのないもの。
配下に聞けば、瓶入りの手紙は、いずれも煙霞山の異なる泉で見つかったのだという。
不可思議なものは、山主に届けられるのが通例。
怪しい気配のない事は既に配下によって調べられているが、一見して害のなさそうなものが引き起こす厄災もある。
男はまずは瓶に入った手紙から確認する事にした。]
[一つ目の瓶を念の為に調べてから栓を抜く。
便箋に広がった子供のような筆跡には仕事で疲れた心が癒されるような心地がして、頬を緩ませた。
伴侶を持たない男にとって子供は縁が薄いとはいえ、愛らしいものを愛らしいと想う心はある。]
これは……招待状か。
こんな可愛らしいものを貰ったのは随分前に甥っ子が寄こしてきたもの以来か。
[放逐された身ではあったが、山主となった際に慣例として各地の山主達と同様に実家にも文を送った。
兄から寿ぎの言葉が返って来て以来、兄や母と私信を交わすようになっていた。
甥っ子はとっくに成長し、大人となっているので随分前とは百年単位で過去の話だった。
きっと父親を超えるべく今日も修行に励んでいるのだろう。
手紙に書かれている“リジェットV”とは、男は行った事のないリージョンだった。
けれど招いてくれたのならば、断るという選択肢は男にはない。
葉っぱや紙を作っているという事は、何らかの施設にいるのだろうか。
後で返事をする為に、紙を机の左側に寄せる。]
[そうして二つ目の瓶も簡易に調べてから栓を抜く。
粘性のある物体は、男にとっては未知のもの。
特に毒というわけでもないようだ。
紙に書かれた文字から、二人の人物によって書かれているように感じた。
自らを“生きた泥”と名乗る者の言葉は、子供のように拙い。
そして幾つかの染みのように読み取れない部分があった。
文脈的には手紙を書いた者自身を指しているように見える。
一人のようで、複数いるような、不思議な手紙だった。
もう一人の人物は、文字を書き慣れているように思えた。
裏側に書かれていたのは物語の断片。
読み物はゲッカにも古くからあったが、推理小説というジャンルは珍しい。]
ん、む……。
[矯めつ眇めつ眺めてみたが、物語の全てが描かれているのではないようで。]
気になるな……。
[ぽつりと呟く。
どうして彼らがこうなったかが知りたい。
もしも本を購入させる為の手管であったなら、まんまと引っかかってしまった。
けれど何処かで読んだ文体のような気もする。
後で書院を探してみて、それでも見つからなければ、配下の者に心当たりがないかを聞いてみようと決める。
隅の方の走り書きは考えさせられるもので。
熟考の後に返事をしたためようと。]
[そうして、封筒に入った手紙に手を伸ばす。
まずは知らぬ送り主の方から。
男の名前が書かれているので、縁を結びたいと願った手紙から応えが返ってきたのかもしれない。
封筒から仄かに薫るのは植物の……薬の匂いだろうか。
ゲッカでは植物が薬の材料として使われているので馴染み深い。
けれど梅の押し花のあしらわれた便箋に書かれた筆跡は何処か頼りないような。
終いの地、という住所も何処か物悲しさを覚えさせた。
男は便箋に書かれた文章に目を通す。
読んでいる内に、男の表情は陰っていく。
礼儀正しく、話し相手にとの男の要望に応じてくれながらも、そう長く続かないと諦めてしまっているような気配がした。]
エンデ……。
[移民の受け入れの要請が入った際、引き受ける事にした記憶がある。
リージョン特有の病などを持っていないか確認した後、領内に住居を用意させた筈だった。
木々に侵食され、滅びゆくリージョン。
棲んでいた住民達は散り散りになってしまったと聞いていた。
まだそこに残っている者もいるのか。
返事とは別に、受け入れた移民のいる邑に文をやって、改めて状況を確認しようと決める。]
[そうして、最後の手紙に手を伸ばした。
見慣れた名前に僅かばかり安堵しながら、生成りの無地の封筒の封を切り、中から便箋を取り出す。
どうやら元々横書きのものを縦書きに使っているようだ。
こちらに合わせてくれたのだろうか。
三年ぶりの既知からの返事は、男の記憶に外れるものではなかった。
男にとって三年はそう長い時間ではないが、人間の一生にとっては大きなもの。
人となりが変わってしまってもおかしくない。
それでも変わっていない事に、今は安心する。]
……はは。
[男の零した言葉への応えは、真摯なものだった。
電気で動く機械をはじめてゲッカに取り寄せたのは、男だった。
他のリージョンで見かけたそれを手元に置きたくなった。
そんな気まぐれ。
メカ音痴故に、すぐに壊してしまったのだが。]
[不良品かと思いきや、再度取り寄せて半魔の弟子に触らせてみれば、問題なく作動した。
麓の邑の人間に与えてみれば、やがてそれはゲッカに根付くようになった。
中には解体して、どういった仕組みであるのかを解き明かそうとする者も出た。
書物を取り寄せたいと願い出られれば、検閲を行った上で与えた。
バッテリで動くものから、外から技術者を呼んで発電施設を造らせた。
岩壁のような山に電気を通す事は叶っていないが。
メカ音痴によって、山が崩壊してもいけない。
他のリージョンと比べれば、機械化は進んでいない。
ゲッカに君臨する妖魔が機械と相性が悪い、というのが致命的だ。
けれどゲッカが変わっていく。
男はそれが楽しかった。]
……何、求めたのは私だ。
責任は取るさ。
[もしも機械がゲッカの災いになるならば、それは好奇心に勝てなかった男の責任だ。
けれど機械のある生活を知った今、昔に戻れと言うのは酷だろう。]
[彼の滞在しているリージョンは、男も聞き知っている場所だった。
もっとも、訪ねる予定の友人の方が詳しいだろうが。
彼のシップがかの地で手を加えられているという事は、何やらトラブルに遭ったのだろうと推察する。
リージョン間の航行は、決して安全が保障されているものではない。
事情を話せと求める心算はないが、彼がゲッカに訪れる際にトーチバードの姿は見せて貰うとしようか。
すべての手紙を読み終える頃、先の手紙の余韻は胸に残っているものの、男の心は凪ぎを取り戻していた。]
/*
読んで書いて形式で作ろうとしていたのですが、すべて読んでからの方が自然かなって。
最初の想定より変わっているので推敲が舞っているのですが。
イオニスさんにお手紙を送る方法を考えていたんですが、意図的誤爆しか思いつかない。
自分の体の隙間を
浄流がつきぬけていく
泥の体を引き裂こうとする
ぐぢゃぐぢゃに かきまぜられる精神
かつての フラッシュバックのような記憶
■は ■を■■たかった
■は ■を■■■■■■に■■■■■かった
あ あ、なん だった だろう
その願 いは叶っ たはずな のに
それなら どう し て まだ
てを の ばす の
他の
そう多くはありません。
何せ自らその地へ向かう事は拒んだ身、
正しく別世界の、お話ですから。
ですからリジェットVが何処のどんな所か、
私には想像すらつきません。
ただ、まだ年幼いような子どもならば、
たくさんの友達を作って、楽しく暮らして
行ってほしいなどとは、願っていました。
私にだってそんな年頃はありましたから。
ボトルメールも同じように出せば届くか、
定かではありませんが。
私の元へはこうして届きました。
ならばきっとなるようになるでしょう。
自室にあった小瓶、それからリボン。
瓶ならば多少嵩張るものも入れられるかと、
すこし思案をします。
お菓子は衛生的ではありませんし、
そういったものではない何かを、と。
未来あるひとへと。
小瓶には若草色のリボンが結われ、
手紙の入った封筒と、その他に小さな小包。
中には花の種が入っているようだ。
文字のお手本になるような丁寧な筆致は、
筆圧が弱く掠れている部分もあるが、それでも
十分に読み易く綺麗なものだと言えるだろう。
便箋の端にはガーベラの押し花があしらわれている。
疼躊化葬 コルデリア から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
ベアーさんへ
しょうたいじょうをくださり、ありがとうございます。
リジェットVから大きくはなれたエンデまでとどきました。
ほかのほしからあそびのしょうたいをうけるのははじめてで、
とてもうれしく思っています。
ですが、わたしはじぶんのほしから出られません。
あそびに行きたいのはやまやまなのですが、
それはかなわないゆめのようなおはなしです。
わたしはそちらに行けませんが、
かわりに花のたねをいっしょに入れておきました。
ガーベラ、という花です。このてがみのはじにある
花とおなじものがさきます。
ちがうほしなので上手にそだつかは分かりませんが、
よければためしてみてください。
疼躊化葬 コルデリア から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
どうか、あなたのまいにちが
きらきらしたすてきなものでありますように。
とおくからおいのりしています。
エンデから コルデリア
疼躊化葬 コルデリア から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
お花のそだてかた
1、土にたねをうめる
ゆびいっぽんくらいのあなをほって、たねをいれてうめる。
2、水をかける
土がしっかりしめるまで たっぷりの水をやりましょう。
それからたくさんひかりにあててあげてください。
これをまいにちくりかえすと、
きっときれいな花がさきます。
もし、ちがうそだてかたをしているばあいは、
まわりの人にきいてみてください。
疼躊化葬 コルデリア から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
どうにか書き終えた頃には、
利き手はすっかり疲れきってしまっていた。
疲労感はあったが、ある種の達成感もあった。
何はともあれ、これでちゃんと辿り着いたならば
送られた方も困らない筈だ。
向こうの環境や植生については私の思慮の外。
「 ……── よい日々を 」
ぎゅ、と 思い切り栓を閉めて。
子供の頃。この小惑星から人が去るなど
微塵も考えずにずっと暮らせていた時代。
おおきくなったら、……何になりたかったかな。
陽の光の下で歩き回って、遊んで、
友達と毎日のように顔を合わせて、
勉強めんどくさいだなんて笑っていられた。
あの頃はまだ木々を恐ろしくも思っていなくて
私達が生活するに欠かせないものだって、
その大きな恩恵を受け取って生活していた。
ですから、誰も信じられませんでした。
共生していた筈のそれらが突如として
村を、街を呑み込むようになったことが。
はじめは森林部にほど近い地域より。
じわじわとリージョン全体を覆うように
日に日に拡がっていく大樹は、
まるで
囲い込んでいると思えました。
早急に逃げ出さなくては。そうなった頃には
既に多くの被害に遭われた人がいました。
トラウマが脳裏を掠め、一度暝目を。
「 ………… げほっ、 」
地上の人間が減ったことで樹々の得られる養分は
大幅に減り、進行も穏やかになりました。
ですから、未だ私はここに生きていられる訳で。
ひぅ、ぜい、と痛む胸と共に息をしつつ、
……落ち着いたら、次の瓶を開けよう。
"ザ、バァッッッ"
『… ゲホッ、ゴ、ホッ。ゲボッ…』
小川のほんの僅かな距離を
泥の男は 渡ることもできず
ぐるり ぐるりと流れに流され
少し下流の反対側の岸に漂着していた
…顔の穴から盛大に清水をはきだす。
自分の中から醜い泥があふれるように感じる
…なにを みて い たの だったろう
な にか ……■■■■ ……それとも■■
………… ま あ …い い か…
きょろり、きょろりとまわりをみる。
手を伸ばしたときに爪先に引っかかったのか
見覚えのある小瓶が とぷりとぷりと
自分の近くを漂っていた
その小瓶を抱え、水辺を離れて森の中を引き返す。
どうも、清い水の流れは本当にだめらしい。
塩気という不純物が混ざっているだけ
海の水はまだマシであったというのは意外だった。
今度は、渡し石や倒木が流れ着き
対岸に渡りやすそうな場所を選んで、元の道を戻る
その胸に 大切な誰かの想いを抱いて
もともと眠っていた大樹の虚まで戻ってくれば
身体をズルリと中に滑り込ませて
ジメジメとした空間で一度休む。
グッ、とコルクを開けて すこしぼおっとしたまま
その手紙に目を通した
こえに だして だれかのなをよんだ
なんだ か ひさしぶり な きがする
ま え みたとき より
ひっ せきが あらい いそいでかいた?
すてあ …すてあ
すてあ が あると てがみこないら しい
おて がみ でき ない か
ざん ねん な きがする
い つ おわる だろ う
い つ とど く だろう
インクにしては妙に茶色い、
粘性のある物体が
拙い文を描いている。
きみ を ま っている よ
べ あー
■■ を こめて
■■■■■・ガアド■■■
泥の男 ガァド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
メッセージの裏側には物語が書かれている。
どうやら、裏側の文字を書いた人とは違うようだ。
「……嗚呼!酷い目にあった…
駅からたったここまでで、こんなにも降るとは!!!」
「…なんだか異様な天気ですね…折角のサンドイッチが台無しになってしまった……それにしてもこの街に本当に彼はいるのでしょうか?
レディ・ボーデンの話ではここを最後に消息を絶った…と」
と、両手いっぱいのサンドイッチが犠牲になったことを嘆きながら、ノックスは一つ一つとお別れしていく。
ちゃっかりと旅をエンジョイするのは良いところだ
「このあたりではしばらく雨が降り続いているらしい。
災害が多いから、この嵐ではホテルを出るのも危険だろう…案外単純に足止め食らっているのでは?ちょっとフロントの人に聴き込んでみるか」
そう思い立ちフロントへ向かう。
誠実な彼らなら答えてくれるだろうと。
だがその名を出した途端、フロントの者は顔色を変えた
『そんな人、見たことも聞いたこともありませんね…』
泥の男 ガァド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
…紙の隅に走り書きがある
あらし は
よくない じけ んを よびます
どう か おから だ に
きを つけて
泥の男 ガァド から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
…それを書き終わると、
男はぐるり。あたりをみわたす。
送ってもらった小瓶にそれを変わりに詰めて
今度は森のきのみやどんぐりなどを詰めてみた
虫のついていないもの 食べられるもの
腐らないものを 選んだつもり
つく頃には 粉々かもしれないが
ギュッ、ギュッ。前と同じく泥で蝋をして
ふらりふらりと浜辺へ向かう。
……水の大群には注意して、潮が落ち着いているときに
またも、ぽおんと 手紙を送った。
[生成りの無地の封筒に、同種の紙で作られた便箋が収められている。
封筒の裏面に記載された差出人の住所はリージョン名ではなく、「トーチバード」というシップ名および、その船体識別番号。
便箋上の手紙本文は、黒いインクで記されている。
文字の一つ一つを丁寧にかつ、少しだけ力強い筆致で綴っている、そんな文字遣いだ。]
越境貿易商 マーチェンド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
コルデリアさん
初めまして。
パンパス・コートの城下の下層民街にて、
コルデリアさんからのお手紙を受け取りました。
「返事もそう望みません」とお手紙にありましたが、
私自身が望むこととして、返信の筆を執りました。
私はマーチェンド。
リージョン間貿易を生業としています。
マー・チエンドゥーという名もありますが、
コルデリアさんにとって呼びやすい方の名で
私を呼んでくださって構いません。
越境貿易商 マーチェンド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
幾年か前にエンデの地に起こったことについては、
幾らかですが、私も聞き及んでいます。
突然変異した植物の危険性を考慮しての
渡航制限の通達を受けたことも、度々あります。
エンデから逃れた住民が、様々なリージョンに
散り散りの形ででも移住している、との話も。
実を言うと、まだ栄えていた頃のエンデに
私も何度か足を運んだことがあります。
いずれも商談のための数日間程度の滞在でしたが、
木々と人々が共に在る星の神秘と美しさ、
その木々の恵みを受けた人々の豊かさや
心の温かさに触れた滞在だったように覚えています。
越境貿易商 マーチェンド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
そういえば、コルデリアさんのお手紙に
菊の花があしらわれていましたが、
上記の商談で取り扱ったものが、ちょうど
あの菊花によく似たエンデの花を描いた
地元出身の美術家の水彩画でした。
絵画の購入者については守秘義務上お答えできませんが、
最近その方から、エンデのいのちの美しさを描き残した
その絵を今も大切にしている、という手紙を頂いたんですよ。
越境貿易商 マーチェンド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
このような、かつてのエンデの豊かさを知るがゆえに、
この星から離れざるを得なかった人々のこと、
そして今もこの星に留まるあなたのことに、
私はどうしても想いを馳せざるを得ないのです。
とはいえ、私ひとりの身でできることなど多くはありません。
だから、エンデの終焉を手紙にしたためた
コルデリアさんのために……と私が書いたところで
それは偽善に過ぎない、ということも解っています。
その上で、私の我儘として、
幾つかお伝えしたいことがあります。
越境貿易商 マーチェンド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
いえ、「お伝えしたいこと」よりも先に、
「お伺いしたいこと」からになりますが……
滅びに瀕するエンデの地に、今もひとりで残るあなたに、
機械でも、人知を超えた妖精などでもない
ただの人間の身である私が
直接お会いしても、差し支えないでしょうか?
越境貿易商 マーチェンド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
現実問題として、エンデへの渡航制限の他、
私自身の仕事の都合で、他のリージョンに
優先して立ち寄らないといけないという事情があり、
今からすぐにエンデに向かうことはできません。
それでも、コルデリアさんの手紙を読んでしまった以上、
かの星にひとりで今も生きているあなたを
遠くの星にいるただの見ず知らずの他人として
見捨てたくはない、と思い抱いてしまったのです。
日の光も届かぬ地に、文字通り光を齎す力なんて
私にはありませんし、
比喩としても、そんな力はないかもしれませんが。
越境貿易商 マーチェンド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
もし、生きて直接会うことが叶わないとしても、
コルデリアさんの元から私へと辿り着いた言葉を
忘れたり、手紙ごと捨てるなんてことはできません。
あなたの未練は、私が記憶し続けます。
もしコルデリアさんさえ望むなら、
数多の星々に散り散りになったエンデの人々へも、
コルデリアさんの手紙のことを伝えられればと思います。
私にだって、いまは変わり果てた故郷に纏わる、
未練として消せぬままの染みがあるのですから。
越境貿易商 マーチェンド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
この通り、尋ね事をひとつ手紙に載せていますが、
お返事を無理してまで綴る必要はありません。
どうかお身体に無理なく、お過ごしください。
最後になりましたが、遠きエンデの星から
お手紙を送ってくださり、ありがとうございます。
あなたの元にも幸あれ、と私が願うのは
聊か勝手で無責任かもしれません。
それでも、コルデリアさんの幸せを、私も祈っています。
マーチェンド
追伸
「トーチバード」のシップ名を宛名書きに記せば
問題なく私の元に手紙が届くはずです。
ただ、“混沌”航行中は手紙を受け取れませんし、
短期の滞在先では、郵便船と入れ違いになって
手紙を受け取り損ねることもあります。その時はごめんなさい。
越境貿易商 マーチェンド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
……ひとまず、俺からあの人に伝えられることは手紙に書き記した。聊かどころじゃなく長い手紙になっちまったが、本当に余計なことは省いたから問題ない。
便箋を確認して、封筒に収めて封をして。
宛名書きも差出人記載も間違いない。よし。
結局この返信の際にも便箋の書き損じが出ちまったんだが、1枚程度で済んだんだから良しとしよう。
“女将”、ごめんな、と心の奥で呟いてから、その書き損じの紙を丸めてゴミ箱に破棄した。
というわけで、最後の1通の確認っと――…
――…………………、…………。
「なあ、クロウ。
なんでそんな意味深な眼で俺を見るんだ……?」
メカのアイカメラに意味深も何もあるかって話だが。
何か言いたげにも見えるが別に何も発してこないクロウのことはひとまず置いて、俺は今度こそ最後の手紙の確認に取り掛かった。
[“書き損じているのは今その封筒に入れた便箋のほうですよ”
とは発さない、このクロウというメカなのであった。]
/*
クロウは本当に文面を見ちゃった訳では無くて、
多分打消し線を引く動作とかで書き損じか否かを判別している、という感じで、 どうかひとつ……
(なんか第三者が手紙の中身を覗き見ちゃった感じになってしまったので)
舟に乗らずこの地に残った人は私だけではない。
生まれ育ったこの地から離れたくない。
滅びを受け入れ、この地にともに消えようと、
ほとんどは、お年寄りであったり、私のように
残り幾許も無いという理由で席を開けたり。
まだひとがいるうちは良かった。
そのうちひとり、ふたりと姿を見せなくなり。
……誤算は、私が存外にしぶとかったこと。
/*
そういや住民の「ほとんど」が避難ってところまでPCPL共に把握していた筈だったのに
エンデに残るのを決めたのはコルデリアひとりだった、みたいな手紙の書き方してしまってましたね……(>>123を見ながら)
大変失礼しました……。
押し花のことも、マーチェンド宛ての手紙にもちゃんと書いてあったのに
イオニスの反応のほうだけ見えてて肝心の自分側で見落とすところだったので、中の人の読みが大分甘くなってますね……。
/*
マーチェンド、きみはもうちょっと
コルデリアさん以外にエンデに留まった住民のことも考えなさい!!!
と言っておきますね……
「 ……こうなるつもりはね、無かったんです 」
地下であれば侵食は来まいと作られた、
カタコンベの中は次々と賑やかになりました。
淡々とひとびとを見送って、自分の番は、
──茫洋と揺蕩う思考を止めて。息を吐きます。
死んだ人は戻ってこない。行ってしまった人も。
再度怠い身体を持ち上げ、もう一つの瓶を
そうっと手に取ります。
今度の手紙もまたひらがなが主で、
茶色いインクが紙面にまばらに散っていて。
また、年幼いひとからのものなのでしょうか。
そこまで見て、思い至りました。
もしかして私は子供たちの遊び場に、
自らの未練やら嘆きを流してしまったのかと。
……さすがに少しばかり悔いました。
この手紙は、私のものを受け取った物の様で、
端々に私の名前が記されており。
本当に届いたのかという驚きとともに、
その紙上を目でなぞり、 …………?
「 ……何かの書物、……?
裏紙を使ったのでしょうか…… 」
明らかに文字が違うものだし、内容もまた
私に宛てたもののような、そうでないような、
…………。
新しい本を読むことも、最近はずうっと
していませんでしたね。
謎多き手紙は、瓶の中からほのりと潮の香と
細やかな桜貝もともに運んできていました。
海。そういうものがあると聞いたことがある、
このリージョンでは存在しないもの。
確か貝殻からは海の音がすると聞いたような。
すこしばかり耳を澄ませてみて、……ううん。
ざざんざざんとしたような、しないような。
私の耳が悪かっただけかもしれませんが。
どこかくすぐったく愉快に思いつつ、
紙面に目を落として、しばらく。
中にあった一つのことばに、息を呑んで。
「 …………私、は、…… 」
この小惑星のことは好き、
好きだった人たち、お気に入りの場所。
それはすべて過去の遺物であり、今は、
"…ざぁん…ざざぁん…"
遠く遠くに小瓶が流れていくのを見届ければ
少しの時間、風の騒ぎを耳にしながら
ボォっとしたように遠くを見つめる
この海岸に流れ着くものは少ない
この砂浜以外の場所は存在しなくて
小さな小島だけで命を回す世界
……なのかもしれない。
じっさいのところは分からないが、
海藻や鳥に食われる小さな小魚くらいしか
流れつかない様子を見ていれば、
何となくそのように思うこともある。
…じゃあ ひとをおもわせる いろんなものは
せかいの そとから ながれついた?
『…………』
…他者の書いた言葉を触発されたのか
虚ろだった意識が、ほんの僅かだが、
何かを求めて 体を動かす
……だ れ か
…泥は、かつてそこに漂着した小瓶のことからか
漂着物の多い岩礁へと再び足を向ける
……今度は 何が届いているだろうと、おもって
… とどく だれから だれに
しばらくの間、海水に沈んだ漂流物の数々を
引きずり出しては中を漁り、
外れだと分かれば捨てることを繰り返して
………すべての中身を晒ったあと、
人の意志がわかるものはここには沈んでいないとわかる。
――ステアの発生が予測されています。ステア発生時には通信障害が発生することもあります、外部との重要な連絡は今のうちに済ませておくように。
施設内にそんな放送が流れる中、ベアーは一人の研究員を訪ねた。
「なあなあ、ものがたりってどうかくんだ?」
本を読んでいた研究員は手を止めてベアーを見た。
今何と言った?そんな顔でじっくりとベアーを見てる。
「おれ、ものがたりかきたい。から、ものがたりのかきかたおしえて」
先日お気に入りのおもちゃが壊れて落ち込んでいたベアーに、何の気なしに文字を教えてみたのがこの研究員だ。
すっかり文字を書くことが気に入り、外部と手紙のやり取りをしたがっている……という報告を聞いたのは二三日前で、それが物語を書きたいと、どうしてそうなったのか。
研究員は眉間に皺を寄せた。
『…………………』
ふらり、ふらり。
手足の中に塩気が混じって動きにくい。
……だが、静水で清めるわけにも行かない。
……仕方ないので、月明かりがよく当たる、
風当たりの良い岩場の方へと歩いていって横になる。
軽く天日干しして、塩の結晶になったところを
ひと粒ひと粒弾いて、手当の代わりにする…つもりで。
夜空を見上げ、風に当たって…
手足を構成する泥を軽く融かして
なるべくすぐ渇くようにして…
何故そんなことを、と問うとベアーはハニカミながら
「あんな、おれのぶんつーあいてがものがりがすきなどろのひとで、そんでな、ものがたりのいちぶおくってくれたんだ。
だからおれもものがたりのいちぶおくるんだ!」
そんなことを言う。
研究員はなるほどと声を漏らした。
なにがなるほどなのか?
「そんで、ぶんつーあいてにあったときにものがたりぜんぶおしえてもらって、おれはおくったものがたりおしえる!」
なるほど?
いや、なるほどと言いながら研究員は何もわからなかった。
その後じっくり聞きとった結果、ステアで文通ができない間に物語を作って、ステアが収まったら会いに行って送ってもらった物語について色々聞きたいと、そして自分が作った物語の結末を話したいと。
そういうことのようだ。
……目を閉じて。しばらくして目を開いたとき。
岩でできたその枕元に、
手紙が差し入れられていたとはまさか思わない。
風で吹き飛ばされないように、
わざわざ小さな岩で軽く押さえられている。
"誰か"が確かに届けてくれたそれに
……泥の男は しばらく驚きを隠せなくて
形を保つのもやっとだったとか。
実際にベアーがここから出ることが可能かどうかは別として、とても面白いと研究員は思った。
今まで動物的な行動をが主だった実験体が、文字を理解するというきっかけから外部とコミュニケーションを取り、創作に興味を持つ……これはシンギュラリティに到達したとも言える現象だ。
研究者としての興味と、実験体たちと暮らしてきて生まれた保護者としての感情から、これは是非とも見守らなければ……研究員は胸を躍らせた。
残念ながらここにはベアーの物語の参考になるものはない、と告げるとあからさまに残念な表情を浮かべたが
『育成施設にいた人たちならベアーの作る物語のヒントをいっぱい持っているかもしれない』
具体的な人物名と共にそう伝えると、満面の笑みに変わった。
「おー……おー!!!!
おれのものがたり!!!がぁどにみせてやるんだ!!!
ありがとな!!!!おれいにものがたりできたらおしえてやるから!!!」
ベアーはいたく興奮した様子で研究員の前から走り去った。
ベアーが立ち去った後、研究員は読み止しの本を手に取った。
ベアーの、原始的な知能を持つ動物的キメラの知性が特異点に到達したと論文に認めれば間違いなく、喝さいを浴びる偉業を成し遂げられるだろう。
だが研究員がそうしようとは思わなかった。
倫理から外れた実験の末に生まれた生命体だからということも当然あるが、それ以上にここにいる人工的に生み出されたいのち達を好奇の目に晒すようなことはしたくなかったのだ。
――こどもみたいなもんだからなぁ……。
自分よりも賢いあのいのちも、人間のこどもと大して変わらないあのいのちも、まったくの偶然で生まれたあのいのちも、人間のようなコミュニケーションは取れないあのいのちも、異形のあのいのちも……みな研究員にとって家族であり、こどものようなものなのだ。
結局のところ。
前を向く、立ち直る。そう言ったところで
結局は過去の罪科から目を背けて、
逃げ続けていただけなのだろう。
立ち直ったと思ったのは幻想で
元気になったというのは妄想で
あの日。仲間を喪った日から。
その事を考えない要する為に、やることを増やして
過去の行いの赦しを、贖罪を求めて
人助けをしたり、道迷いの少年を助けたりして。
助けた少年に懐かれて。此処が自分の居場所になったと
勘違いをしてしまったのだろう。
そうでもなければ、これ程沢山の物が一度にやってくる
そんなことなんて起こりえないはずなのだから。
今まで懸命に積み上げてきた積み木は。
過去の罪というたったのひと薙ぎで吹き飛ばされて。
嗚呼、もう何をやっても無駄なのだと、寝台の上で丸くなる。
けれど、では死ぬという選択肢は取れなかった。
なぜなら私の命は仲間たちが繋いだものだから。
生きる事、どんなにつらくても苦しくても"死"に逃げない事。
それが今の私に出来る唯一の贖罪だから。
果てた気力は戻ることはなかったけれど。
ふと、たんぽぽの手紙の事を思い出す。
私とはきっと正反対の境遇の人。
私は仲間を犠牲にして、生きることになった。
あの人は、大事な人の為に犠牲になった。
のろのろと起き上がり、机に向かう。
一番上の引き出しを開ければ、そこには封が開かれた封筒。
たんぽぽの押し花があしらわれたその便箋を取り出して
今一度、内容を確かめる。
最後に署名らしきものはあったけれど。
文字が潰れていて何処の誰かは解らない。
けれどきっと、その方が私にも"たんぽぽの人"にも
都合がいいのかもしれない、なんて少しだけ前向きに考えて
私はペンを手に取った。
「…はは。」
書き終えて、厚顔無恥な自分の様に嘲笑ってしまう。
自分の心を映してみたように見えて
けれどその実、見苦しく赦しを乞うているだけの文面に
どうせ、自分の醜い心は相手には見えはしない。
お節介ならお節介でいい。
そもそも、相手に届くかどうかすらわからない。
そんな手紙なのだから。
私は身支度を整えて、クレーターへと向かう。
目指すのは、ボトルメールを拾ったあの場所。
名前も所在も解らない相手に手紙を出すなんて
郵便局は受け付けないだろうし届かないだろうけれど
けれど、あのクレーターならば万が一の事もあるかも、と
結局のところ、希望は薄いものだけれど。
何もしないでいるという選択よりはマシな筈だから。
たんぽぽ押し花の便箋の人へ。
あなたの手紙を、私は受け取りました。
あなたがどのような状況にあって、どんな決断をしたのか
そして、何を思って自らを犠牲にすることを選んだのか
それを理解することはきっとない、と思います。
でも、あなたの犠牲、献身によって助かった人の気持ち
それならば、少しだけ理解できる気がします。
私は、仲間の献身…いえ、仲間を見捨てて生きています。
助けを求める仲間を見殺しにして。手を伸ばすこともなく。
他人の犠牲によって、今の私は生きているのですから。
あなたが今、幸せに、何不自由もなく暮らせている
そう、あなたの献身を受けた人が思っているのなら
その限りではありません。
けれど、あなたの献身を知って
そしてその献身によってあなたが不自由な状況に置かれる
そういうことが僅かなりとも想像できるのならばきっと
その献身によって救われた人は
何かの契機の度に、あなたのことを思い出すでしょう。
そして、あなたの献身を受けるしかなかった自分に
どうしようもない無力感を、嫌悪感を受けて
自分は、幸せになってはいけないのだと
その十字架をきっとずっと背負うことになるでしょう。
もしかしたら、あなたの窮状をなんとか救わんと
一所懸命に奮闘しているかもしれません。
あなたの大好きな人達は
あなたが孤独に咽ぶことを、苦しむことを良しとする
そんな人たちではないだろうと思います。
そんな人たちであったのなら
あなたが献身を選ぶことはない筈でしょう?
だからどうか、その人たちの事を疑わないで上げてください
私はあなた事は知りません。
だから、どんな愚痴も、不満も、悪い事は私に吐き出してください。
誰にも言えない事。言っても仕方がないと諦める事。
貯めこんで我慢するより、吐き出してください。
名前も知らない、所在も解らない
決して出会う事のない私相手なら、
何を言っても大丈夫ですよ。
けれど、あなたの願いがあの手紙の文面のように
なかったことにしたいというのであれば、このお節介は不要でしょう。
どうかこの手紙はそのまま処分してください。
優しいあなたの心が少しでも楽になりますように。
"
[けれど、"都合の良い奇跡"など
そうそう起こるものではない。
イオニスの記した手紙は、確かに混沌を彷徨うけれど
それは誰に拾われることもなく、やがて忘れ去られるのだ
イオニスの甘えた願望や逃避に手を貸す程に
神は慈悲深い存在ではないのだろう]
/*
郵便事故でも面白いかなって思ったんだけどな。
マーチェンドあたりに届いたら面白いことになりそうだなと
そんな風に思いました。
この日確認した最後の1通の差出主は、あのイオニスだった。今度こそ、俺からの手紙への返信で間違いない。
――「なかったことに」というのは、さて、どうしようかね。
そりゃ確かに「勇み足」で送った側からすれば、きまり悪くもなるだろうとは思うんだが……。
「マジかー…」
あちらさんがあれから変わりなくやっているらしいっていうのは素直に安心できる話だったんだが、ちょっとばかし残念な報せも混ざってはいた訳で……。思わず苦笑が顔に出ちまったが、この程度、悪い報せの内にも入らないだろう。
……まあそりゃ残念だったんだがなぁ! 悔しいわ!
俺は2通の手紙をテーブルに並べながらも、それらへの返信を一旦後にする形で、クロウと共に客室を後にした。
それから宿を出て、表通りへ――。
風を受けて華やかに揺れる被服だけでなく、足取りや声色まで浮足立っているかのような人通りを抜けて、ある一件の店の扉を潜ることにした。
その店の屋根は濃い緑青の瓦造り、明るい白壁に鮮烈な赤の柱。所々の装飾には眩いばかりの黄金があしらわれている。
パステルカラーの壁に貝殻のようなきらめきを塗し、数多の花を飾り付けた石造りのアパートメントとはまた異なる絢爛さ。
夜のとばりが降り始める頃には、まるく膨らんだ赤のランタンが一斉に火を灯し、夜無きが如き光の街を形作る、そんな一角だ。
――まだ腹、減ってないんだけれどなぁ……。
そう思いながらも、『漢中飯店』の看板を掲げたその食事処に俺がこの時立ち寄ったのは、多分、少しの焦りからだった。
その店自体が「なくなってるかも」という一言に圧されていたんだろうな、俺は。まあここに来て以来、素通りする形でずっと見かけていた店ではあったんだが。
飯店でとあるメニューの味を確かめた後、俺とクロウは何軒かの服飾店と生地の販売店を訪ね歩いた。仕立て屋の方は――今からのオーダーだと出立までに間に合わなそうだったんで、そちらの品は諦めることにして。
それからエンジニア・ヘロンの工房でトーチバードの仕上がりを確認したり、出国に際しての手続きを済ませたり、といった一連の事務を終わらせてから、再び宿の客室へと引き返した。
(結局トーチバードがどんな有様になっていたかは、後に語らせてほしい)
こうして今度こそ、本当にアイツへの返信に取り掛かった。
かの“終いの小惑星”にいる人へ手紙を綴っていた時とは異なり、ペンを執る手が幾分か軽くなっているのが、自分でも分かる。
……これらの手紙を実際にポストに投函してからふっと気づいたこともあったんだが、その話もまた後に。
『イオニス
俺からの手紙、そっちに届いたみたいだな。
返信、ありがとう。
先にこっちに来た手紙については、まあ、
「気にすんな」ってだけ言っておくさ!
何はともあれ、俺の無事がお前さんに
ちゃんと伝わって良かった。
あの海賊連中には散々な目に遭わされたが、
命拾いしただけ幸運だったって思うことにするさ。
お前さんからの作業ロボ改めクロウも、
作業員としても護衛としても役に立ってくれている。
クロウにも、お前さんにも感謝しているよ。
そちらも特に変わりないようで、安心した。
ぼちぼちっていうのを喜んでいいかは微妙だが、
のんびりできる日々っていうのも貴重なもんだしな。』
越境貿易商 マーチェンド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
『掘り出し物の件については残念だったが、
ちょうどいいタイミングでそっちに寄れなかった
俺が悪かったってことで。次の機会に期待するさ。
クレーター“発掘”や“発掘者”の護衛のほうも、
あれから特に変わりないみたいで、良かった。
そっちも一時はクレーターの全容解明だの宝探しだので
人が押し寄せた時代があったって聞くが、
変に熱気があるよりも、寂れているくらいが安心なもんだ。
(俺が初めてそっちに来た時は、まるで無邪気なガキみたいに
「全踏破してみてぇな!」って宣ったりもしたけどな……。
あの時は、よく手入れされたハンドガンと
上質な盾を仕入れられた勢いで
調子に乗ってたってことで、どうかひとつ) 』
越境貿易商 マーチェンド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
『お前さんの除湿の努力に報いられるよう、
パンパス・コート土産もちゃんと見繕ってきたから、
話のほう共々、楽しみにしていてほしい。
それと、お前さんが薦めてくれた
漢中飯店にも行ってみたんだが、
あのアップルパイ、本当に美味かった!
フィリングの林檎は薄切りにされて
赤い薔薇の形にして詰められていたんだが、
これの食感がちゃんとしゃきっとしていてさ。
甘酸っぱさはカスタードの濃厚さと上手く調和しているし、
パイ生地のさくっとした軽い食感も最高だった。
ってこの感想、既に食べてるお前さんに言う話でも
無かったかもしれないが……まあ受け取ってくれ。
お前さんが薦めてくれなきゃ、もしかしたら
あの店をずっと素通りしていたかもしれない。
いいもん教えてくれて、ありがとな。』
越境貿易商 マーチェンド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
『トーチバードの方も、お陰様で無事修復が完了して
出立の手続きも一通り終わったところだ。
この手紙が届く頃には、もう既に
王国の大地から飛び立てているかもな。
それと、もしまた何か、トラッシュのほうで
不足している物資があれば遠慮なく伝えてくれ。
これから、無事な積荷を各方面に届けに行くから、
暫くの間、こっちからの連絡は
滞りがちにはなると思うが。』
越境貿易商 マーチェンド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
『それと、多分この話、今までお前さんには
話してなかったと思うんだが。
俺にもさ、事故で亡くした大切な人がいる。
それで、あの時こうしてりゃ良かった、とか、
なんで俺は生き延びていやがる、とか、
そんな思いが未だに過ることも、ある。
それでもさ、自分が生かされている以上は、
笑っていなきゃ前に進めそうにもないし。
今の自分が守りたい、助けたいって願う相手を
助けることもできなくなっちまいそうでさ。
(そもそも商売人としても、
愛想良く在りたいもんだしな!)
まあ、俺がそんな風に考えてるもんで、
お前さんにも「辛気臭い顔ばっかするな」って書いた訳だ。
単純に、お前さんの笑った顔が
見たいっていうのもあったんだがな。』
越境貿易商 マーチェンド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
『とはいえ「とにかく笑っていようぜ」っていうのは
あくまで俺のやり方でしかないし、
この持ち直し方が俺にとっても本当に正しいか、
正直、解らなくなる瞬間が無いわけじゃない。
だからイオニス、お前さんも、
本気で笑ってられない時は笑わなくていい。
前の手紙で俺が締めくくりに書いたことを
ひっくり返すみたいになっちまうがな。
お前さんがさ、元々才能がだの何だの言いながらも
仲間を亡くしたことで冒険者辞めたって話をした時、
確かに俺も大分暗い顔をして黙り込んじまったが――
それでもさ、辛い過去のことを、
俺に打ち明けてくれたってことは、嬉しかった。
あの時はちゃんと言ってくれて、ありがとうな。』
越境貿易商 マーチェンド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
『ひとまず、話はこの辺りまでにしておくさ。
上にも書いた通り、暫くの間は連絡が滞ると思うが
また何かあれば、気兼ねなく伝えてくれ。
それと、最後になったが――
トーチバードの外観が、ちと説明に困るくらい
可愛 派手に様変わりしちまってな……。
次にそっちに行く時、事前に一報入れるとは思うが、
何が降り立ってきても驚くんじゃないぞ!
マーチェンド』
越境貿易商 マーチェンド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
「天運尽きず」。「幸運」。
ああ。これまでの手紙で、俺は様々な言葉を嘯いてきたもんだ。
手紙の中でだけ言える本音――なんて言葉もあったりはするが、俺はその手紙の中ですら笑顔を張り付けているらしい。
そんな“嘘”をアイツにまで押し付け続けるのもどうかと思って、俺は幾らかの言葉を添えていた。
ここで思い切ってあの話を打ち明けたのが、果たして正しいかは知れないが――。
ああ、それこそこれは、「手紙の中でだけ言える本音」だったのかもしれないな。
こうして俺は、2通の返信を投函しに行ったんだが……
――俺はどうも、“目の前”の人を思いすぎて、
他にも確かに生きていた筈の人の存在を、
無かったことにしてしまっていたんじゃないか。
なんて、既にポストに託してしまった手紙のことを振り返りもしたのさ。
そういえばこちらの手紙でも、つい「あのこと」を書きかけたりしたものだったが、こんな話は送るべきじゃないと判断して訂正線を引き、その上でその便箋を破棄することにした。
その後にイオニスに宛てた手紙とは違って、あの人への手紙の中のあの一文は、補足としても要らない話だった。
だから、あれは捨てて良かった。だから良し。
………………捨てた筈、なんだが。
ちなみにイオニス宛ての手紙の方でも、つい筆が滑って書き損じた箇所はあったんだが、これについてはそのまま送ってしまうことにした。
便箋が勿体なかった、っていう事情もあるにはあったが、それがなくともまあ大したことじゃない(と思う)し、(俺目線だが)事実にも変わりなかったからな……。
/*
>>146>>A15無慈悲なるラ神様に任せなくても良かったのに……(おそらく相当悩まれたのかなとは思うのです が !)
イオニスさんとお相手さんをふたりともそっとなでぎゅむしますね……
『………? ェ゛……』
目が冴えるというか 目が覚めるというのは
こういうことをいうのだろうか
風に飛ばされないよう石の下に鎮座する手紙は
風当たりの良さにハタハタと四隅を揺らしていた。
頭をグルン、とまわしてそれを凝視する
なんとか掴もうとしても、
溶けきった塩混じりの四肢を引き戻すのが難しい
ガリガリと岩の表面に泥をこすり当てて
いたい。が それでも 。
塩分の粒をこそぎ落とすと
なんとか腕の一本の形をもとに戻して手紙に伸ばした
『…?……?』
まずその手紙の封筒を目に入れたところ
投函者と届け人の存在を証明する郵便の
スタンプがついているという事実に
男は二、三と瞬きをする。
この もよう しって い る
とお く と おく せかいのはても
ふみを とど ける めーるとるーぱーず
な ぜ、 しるの か
どろのあたま はわからない
くるり、くるり、何度も封筒を見返した。
どうやら、相手はこの夜の海がある"場所"について
ある程度の心当たりのもと曖昧ながら送り出したらしい。
中身を取り出し、はらりとめくる
……とどかない かのうせいのほうがたかい。
ふつうに かんが え たら…
…おくりぬし …めーるとるーぱーず ど うやった?
『…… マ゛ァ……、 …?』
………… きい た こと ある ような
…… たん ごの ひび きに なじみが ある
…ていねいな かんそう だった
れいぎ ただ しい ひとだ と おもった
ことばあそび の えんちょうせ ん の
ちい さな ぼうけん たん を
たいせつ に して くれているのが
わかった
あっ た こと が
あるのかも しれ な い のは
なんと なく こちら も
そんな かれの
かいた ものがたりは
いきぐるしさと きれいをとりつくろうにんげんと
わかっていてやるくるしさが あった
きれいだからこそ きれいがとおざかる
ああ ■とおんなじだ
…おんなじ よろこんではいけないのだけど
けれども わかってしまう から わらうの
/*
マーチェンドにやる気を回復させてもらう(キャラクター話)
過去が追い付いてきたり、夢見が悪かったりで
本当にダメージが大きかったからね…。
こんな手紙見たらイオニス泣いちゃうよ。
/*
でもきっと、私程度の話なんて
すでにガァドやマーチェンドがしてる筈なんで
私のは要らないよね。ううん知らないけどきっとそう。
/*
妖魔の君さん名前なんて読むんだろう…←読めない
元冒険者として知古を取れればよかったけど
今更かなぁ…。
/*
ガァドさんの反応にてれてれしつつ
>>154これ、>>1:126の最後を拾ってくれたのかな……!? ああああありがとうわざわざ……
エレメンタルロンドンもそろそろどこかで拾いたいと思っていたのだけれど
>>155も見つつ、お返事いただいてからでもおそくない かな……?
(明日先に落ちる身として、自分が地上にいる間には落としたいところ)
インクにしては妙に茶色い、
粘性のある物体が
拙い文を描いている。
deaR MerChenT
こん ばんは まーちぇんと
おてがみ おへんじ を あ りがとう
き づいて くれて あり がとう
うけ と めて くれて ありがとう
たく さん たいせつに たいせつに
よ んで くれた と わかりま した から
■は いま うれしい だと おもいます
こ の ものがたりも きっと よろこん で います
はじまった ものがたりは ころがりだしたら
だれかに よんでほしがるもの ですから
泥の男 ガァド から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
■ は なぜ この ものがたりを
よむの か わかりま せん。
ただ だれか に きづいて ほしかった、ので
おくり ま した。
だれ か が よんでくれま した
だ れか が つたえてくれ る と いいました
ものがたり は ほんになり だれかをまちました
だれ が よんでくれたのか もうおもいだせないけど
てわたした だれか が なにかをおもってくれれば
しあわせです
かんそう も ありがとう
どちら が わるいのでしょう
ぬすんだおとこ、おいかけるおとこ
けど あなた は ぬすんだおとこのつみを
ゆるすこと ができて それは とてもやさしい
おいかけ る おとこ の
せいぎ とは またちがうもの
泥の男 ガァド から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
あ なたの ついしん ものがたりも
よみまし た。
ごうか はなやか きらびやか なのに
うそつきのにおいが ずっとしている おしろのくに
きれいでいなきゃ いけないせかい
きれいでいなきゃ いみのないせかい
きたないきもちは きれいのまえに
かくさなきゃいけなくて
きっと、「なじめないあなた」は、それができない
ぶきようで。「わたし」はかのじょのためのきようもの
きれいにきれいにぬりこめつづけて
あいてのためにうそをついて わらいつづけて
さいごは えがお の よろいをとけないのでしょう
そうしてしずむ くるしさは なんとはなく、わかります
泥の男 ガァド から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
周りの環境、自分の立場。居心地の悪いその場所で
周りに全部気遣って 嘘をついて嘘をついて嘘をついて
一番言いたかったことを相手のためにといわなかったら
嘘の鎧と一緒に沈んで泥になるだけだというのに
それにきづけるのは きっと 沈んで呼吸も止まったあと
泥の男 ガァド から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
まーちぇんど どうかあなたは
■のように なりませんように
…… ただしさに おぼれて
うそをついてかくしごとをして
それが あなたのよろいをつくって
もろとも"こんとん"に しずみませんように
■ の ように は なりません ように
たく さん たいせつ なひと と
はなして みて く だ さい
泥の男 ガァド から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
メッセージの裏側には物語が書かれている。
どうやら、裏側の文字を書いた人とは違うようだ。
「……正直に話してくれてありがとうございます。お陰様で、札束の中に爆弾が紛れ込んでいたと…気付くことができました。すべてはあなたのおかげです。
うちの馬鹿探偵のことは本当にすみません」
札束泥棒にそう言って頭を下げると、泥棒はいやいやいや!と首を横に振り、むしろこちらも頭を下げた。結果オーライとはいえとんでもないことをやらかしたのだと
「い、いやいや!謝んねえでくれノックスさん!俺も悪かったんだ、どうかしてた…あんな大量の金を見てどうかしてた…ずっと誰にも相談できなくてさ…怖かったんだ。今の生活を壊すのが…怖かった…けど、俺がばらまいてた金のせいでたくさんの被害者が出たと知ったとき、言わなきゃって…
俺は、俺の嘘を続けて、かっこつけて…それで、人の命を奪ったり…追い詰めたりしたくないって気づけたんだ。
…だから、ありがとうな。俺、ムショでたら人生やり直すよ…!」
泥の男 ガァド から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
…紙の隅に走り書きがある
くるしんでいる だれか が いるなら
あり のまま うけとめてあげたら いい
つよいじぶん でとりつくろわないで
こわいも つらいも むねんも むりょくも
そこにあっていい
ただしょうじきに となり にいてあげて
また あなたの はなしをききたいです
■■■■■・ガード■■■
泥の男 ガァド から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
手紙を書き終えたならば、
ふらふらとさまよい、 また小瓶をみつける。
そこにまた詰めて、蓋をするが、
こんどは、葉っぱでできたラベルに
"まーちぇんとさま"と宛名を書いて、瓶にくくりつけた。
どうせ、海を漂ううちにはずれるだろうに。
…ただなんとなく、 それに相応しい返しをしたかった
[そうして、男はすべての手紙を書き終えた。
万年筆を抽斗に仕舞い、とんとんと拳で己の肩を軽く叩く。
瓶に入った手紙の片割れは居住するリージョンが分かったので、他の手紙と共に配下に託す。
けれどガァドからの手紙は、住処が不明な状態だ。
どのようにして男の許に届いたか分からない手紙なので普通の手紙と同じように扱って正しく届くかは自信がない。
結局、同じ瓶に手紙の入った封筒を入れ、壊れないように守護の術と、縁が繋がるようにと念じた上で栓をした。
別のリージョンに繋がっているとは思えないが、一番可能性が高い、瓶の発見場所である泉に沈めさせる事とした。
何せこのボトルは、海を越えてきたのだから。]
[白い縦型封筒には送料として、魚を咥える熊の絵柄の印紙が一つ。
白地に蓬の版画が淡い緑色で薄く刷られた便箋には、罫線の代わりに薄っすらと縦に線上の凹みが何本か並んでいる。
己の姓である蓬と、文中にある熊を選んだ。
リージョンによっては全く異なる姿をしているかもしれないが、男の考える“熊”が何であるか分かるだろう。
線に沿って緑釉色のインクで書かれた文字は一言で言えば闊達だ。
時折、はみ出しているところもあるのはご愛嬌。
手紙の文体から子供と予想し、なるべく平易な表現を目指した。
難しい言葉は、近くの大人に聞いて貰えると信じて。
差出人の住所は、ゲッカの煙霞山と書かれている。]
煙霞山 山主 蓬儡 から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
ベアーへ
お招きいただき、どうもありがとう。
私はゲッカの
私はリジェットVには行った事がないが、折角なのでお邪魔してもいいだろうか。
間違えていなければ、あなたの名前の“ベアー”とは、私の住むゲッカでは
熊の玩具でもお土産に持っていこうか。
もしあなたの希望があれば、教えてほしい。
折角なので喜んでもらいたいからな。
蓬儡
煙霞山 山主 蓬儡 から 爆発爆散 ベアー へ、秘密のやり取りが行われました。
[白い縦型封筒には送料として、雲霧と不思議な形をした岩山群の絵柄の印紙が一つ。
白地に紅葉の押し花を仕込んだ便箋には、薄っすらと縦に朱色の罫線が何本か並んでいる。
手紙に書かれている情景を想像するのを助けるような意図だ。
仄かに便箋より薫るのは、沈香。
鎮静や鎮痛の効果があるとされているもの。
もっとも、この程度では効果はないだろうが。
便箋に書かれている文字は、最初の手紙と同じようでいて、少し迷いがある。
二度目のやり取りで、何処まで踏み込んで良いのか考えあぐねるように。]
煙霞山 山主 蓬儡 から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
コルデリアへ
はじめまして。
返事を貰えて、話し相手になって貰えて、とても嬉しく思う。
エンデに足を運んだ事はないが、移民を領内に受け入れた縁がある。
残念ながら、移民とまだ深く言葉を交わせていないのだ。
慣れぬ土地の生活で大変だろうとそっとしておいたが、そろそろ話をしてみてもよいかもしれないな。
長くやり取りが続かなくなったら、というのは、何処か具合が悪いのだろうか。
貴女と話したいが、どうか、無理をしないでくれると有難い。
煙霞山 山主 蓬儡 から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
ゲッカは大地の起伏が激しいリージョンで、壁のように岩山が聳えている。
私の屋敷のある山頂は見晴らしがとてもいいぞ。
自然が豊かなので、空気も澄んでいると思う。
秋には木々が赤く色づいて、春には桃の花が咲く。
どちらも、白い岩肌と相まって美しい。
煙霞山の名所と言えば、まるで両手を合わせるような形をした合掌峰と呼ばれる場所や、三日月の形をした湖がある。
貴女の住むエンデは、どのようなところなのだろうか。
木々に覆われ、空が遠いその場所の事を、貴女の言葉で教えてくれると嬉しい。
蓬儡
煙霞山 山主 蓬儡 から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
[送られてきた瓶の中に、白い縦型封筒が一つ。
そこには、ガァドへ、とのみ記されている。
送料にと海に浮かぶ帆船の絵柄の印紙が一つ。
白地に蓮の花の版画が淡紅色で薄く刷られた便箋には、罫線の代わりに薄っすらと縦に線上の凹みが何本か並んでいる。
海の向こう側にいるというこの瓶の持ち主と、蓮は泥の中でも美しい花を咲かせる事から選んだ。
線に沿って緑釉色のインクで書かれた文字は一言で言えば闊達だ。
時折、はみ出しているところもあるのはご愛嬌。
ガァドに合わせて、なるべく平易な表現を目指した。
差出人の住所は、ゲッカの煙霞山と書かれている。]
煙霞山 山主 蓬儡 から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
ガァドへ
こんばんは。
そしてはじめまして。
私はゲッカの煙霞山の山主である蓬儡という。
貴方からの手紙が届いたので、手紙をしたためている。
ちゃんと貴方の許へ届くと良いのだが。
貴方は元人間で、生きた泥……魔物のような存在となったのだろうか。
ゲッカでは、強い思いを持って死んだ人間が妖魔へと変じる事もある。
折角、海を越えて、結ばれた縁だ。
私は貴方達の事をもっと知りたい。
私は妖魔だ。
貴方達が何であったとしても、気にはしない。
煙霞山 山主 蓬儡 から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
裏側に書かれていた物語だが、非常に楽しく読ませてもらった。
書かれていなかった部分が読みたいと思ったよ。
もっとも、物語を全て収めていたら瓶がいっぱいになってしまっただろうが。
貴方が人間だった頃は、物書きをしていたのだろうか。
何処かで読んだ事がある文のように思った。
もしかしたら、私の蔵書にあるかもしれないな。
ゲッカでは、こうした種類の物語は珍しい。
叶う事ならもっと読んでみたいと思う。
煙霞山 山主 蓬儡 から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
さて、端に書かれていた言葉についてだが、正しいか、間違っているかは、ひとによって異なるだろうな。
今は正しくても、数百年後には悪となっているかもしれない。
正しい事をしようと思っていたという事は、きっと貴方なりの信念があったのだろう。
結果として悪になったのか、している間に悪になっていたのか。
もしも貴方自身の心を裏切る事になったのなら、痛苦を伴ったかもしれない。
考えてみたのだが、私もそういう選択をするかもしれないと思った。
自分の心には逆らえない。
妖魔とは本質的にそういうものだ。
許すか許せないかではなくて申し訳ないな。
貴方達は誰かに許されたいのだろうか?
蓬儡
煙霞山 山主 蓬儡 から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
[彼の所在は判明したが、念の為、今回の宛先の住所は「トーチバード」と、船体識別番号になっている。
印紙の絵柄はゲッカ原産の半八重咲きの淡いオレンジ色の薔薇。通称、長春花。
封筒は前回と同じ白地。
白地に菊花の版画が薄い黄色で薄く刷られた便箋には、罫線の代わりに薄っすらと縦に線上の凹みが何本か並んでいる。
緑釉色のインクで書かれた文字は先のやり取りと同じ調子で書かれている。]
煙霞山 山主 蓬儡 から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
マーチェンドへ
返事をありがとう。
元気と聞いて安心したぞ。
もう三年になるか。
全く、時というのはあっという間に過ぎてしまう。
妖魔とは、己の心に正直なのだ。
長寿の者にとって数年は瞬きの間。
そうそう変わるものではないよ。
貴方は、私の求めるままに品物を売ったまで。
機械を持ち込んだ事でゲッカに何か遭ったとしても、それは私の責任だ。
あまり気負わないでくれ。
私達と相性が悪いのもあって、機械化の速度は遅い。
かつての文化が機械の流入によって消えてしまった例は、私も調べている。
その事実を知らないのと知っているのとでは、辿る道も異なるだろう。
けれどいくつものリージョンを渡っている貴方からそう聞いて、少し安堵した。
術の神秘そのものが失われるわけではないものな。先の事は分からないが。
煙霞山 山主 蓬儡 から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
土地により、機械が動かなくなる事例は、最初の頃に少し調べていた。
人間が触っている限りは問題なく動くようなので、ゲッカの場合はそれには当てはまらなそうだが。
しかし、命を落としそうになる程とは、決して笑い事ではないな。
生来の性質であれば致し方なしか。
それでも私のように興味を示す者はこの世界の何処かにはいるのだろう。
もし出会えたなら、酒でも飲み交わしながら失敗談を話してみたい。
貴方の言うように私達には術があり、己の至高とするものを守る。
きっとこれからもそうなのだろう。
ゲッカの人間は私達程巧みに術を扱えないが、機械が彼らの暮らしを豊かにする事が出来ればいいと、願っている。
上手く共生する事が出来ればいいが、それは私達の努力次第だな。
煙霞山 山主 蓬儡 から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
パンパス・コートは、私よりも友人の方が良く知っているだろうな。
しかし「美貌」を至高とする妖魔と並ぶ程か。
私も美しいものは好きだが、至高とする程ではないな。
けれど一度くらいは足を運んでみたいものだ。
彼らの作り上げる美を、直に目に収めてみたい。
あまり無理のないように。連絡は気長に待っている。
それでは丈夫な電子レンジを幾つか、と言いたいところだが、壊したばかりだからな。
自動掃除機の新機種を数点頼もうか。
あれはあまり触らないで済む。
ありがとう、私の方は変わらずだ。
貴方の訪いと、姿の変わったトーチバードに見える事を楽しみにしていよう。
それでは、また。
蓬儡
煙霞山 山主 蓬儡 から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
それでは、後を頼むぞ。
[やがて、男は数人の供を連れて出立する。
今回は弟子が二人と、護衛を七人。
男を加えて十人編成だ。
内訳は、男の希望と配下の願いを反映させた形だ。
本来ならもっと護衛を付けるべきだと配下は主張するが、大所帯であればその分時間もかかってしまう。
留守番の弟子達には課題を与えると共に、土産を約束している。
配下達にも約束こそしてはいないが。
準備していた荷物は騎獣達にそれぞれ固定されていた。
虎や豹、羽のある犬など、様々な形をしているのは、皆、魔物を手懐けたものだ。
男の青毛の馬は通常の馬よりも大柄で、脚力も強く、険しい山さえものともしない。]
[男は難なく馬に飛び乗ると、鐙に足を固定する。
供の者達も皆、それに倣った。
護衛数騎が前につき、男の斜め後ろに弟子がつく。
そうして山主は、煙霞山を離れた。
戻ってくるのは数日後となる。]
/*
よし、落とせた。
イオニスさんに宛先間違えも考えていたんですが、この後落ちるとやり取りができない投げっぱなしジャーマンになるので中途半端なのを送るよりも、良いかなと思い。
僕はもうあのさそりのように
ほんとうにみんなの幸のためならば
僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。
けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。
そんな、昔に読んだ物語の一文を思い出した。
尤もここは煌めく星はなく、せいぜい石炭袋。
未来のない行き止まりでしかない。
おしまいの場所をたくさん知っているのなら。
すこしくらい語って聞かせても悪くないと、
僅かに気分の悪さをおぼえつ、
……書き切ってから臥せようとペンを握った。
小瓶には桜色のリボンがつけられていた。
それから、植物や薬の香りも。
便箋には前回と同じ桜の押し花があしらわれている。
前より筆跡は弱く、時折崩れてすこし読みにくいやもしれない。
けれども、時間をかけて丁寧に書こうとしたのは見て取れるだろう。
疼躊化葬 コルデリア から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
ガァドさんへ
わたしの手紙がとどいたのですね。
おへんじをありがとうございます。
それから、あなたのいる世界のことも、
教えてくれてありがとうございます。
わたしは海に行ったことがありません。
まわりは木ばかりで、風がそよぐと葉のこすれる音や、
遠くの鳥の声が聞こえることはありますが、
にゃあにゃあ鳴く鳥や、おおきなヤシの木は
はじめてお話に聞くものでした。
きっとしずかで涼やかで、おだやかな所なのでしょうね。
前に貝から海の音が聞こえると聞いたことがあり、
なにか聞こえるかとためしてみましたが、わかりませんでした。
疼躊化葬 コルデリア から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
あなたもおしまいについてよく知っているのですか。
あなたの住むところにも、大きな災害や事件が
起きるような事があったのですか。
あまり思いだしたくないようなことなら、すみません。
あなたも、ひとりなのですか。
さびしくはないですか。苦しくはないですか。わたしは
わたしは、無事にたびだったふねを見おくり、
おしまいにのこった、ひとり です。のれませんのりませんでした。
疼躊化葬 コルデリア から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
わたしはわたしの星がすきでした。
好きな人たちが居て、私とたくさんの話をしました。
けれどもけんかをして、もう二度と会えなくなりました。
好きな場所もありました。陽当たりのいい小さな岡。
あまり人が来ず、広く花々がよく咲き誇っていました。
もう跡形もありません。
たくさんの好きだった思い出はここにあります。
見捨てることが難しいくらいに、たくさん、たくさん。
元どおりにはもう二度とならないと知っていますが。
疼躊化葬 コルデリア から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
それでも愛着のあるふるさとです。
好きな場所であって、大切な思い出があって
望んだようにここにいるのに
ずっと息が苦しいのはどうしてなのでしょう。
どんな薬をのんでもきかなくて。
しあわせは、── わかりません。
旅に出ることは、あきらめていました。
わたしの身体はたえられません、から。
考えられません。
疼躊化葬 コルデリア から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
/*
……本当に痛々しい人っていうのは
きっとコルデリアみたいな子だな。
イオニスはなんか、自分で不幸に酔ってる感ある。
(まあ、禊というか、自分で自分を許してないだけだけど)
変なことを書いてごめんなさい。
しあわせをいのってくれて、ありがとうございます。
でも、おしまいのお話、そうたのしいものではないんです。
おわる定めのものが正しくおわり、わたしがまだいる、
それだけのことですから。
やさしいあなたにも、どうかしあわせがありますように。
コルデリア
ついしん
紅茶やサンドイッチを手に誰かとどこかへ、
あなたは行ったことがあるのですか。そうならば素敵ですね。
疼躊化葬 コルデリア から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
/*
浅ましい根性がコルデリアへの手紙にあったのは確かなんよね。
仲間が死んだのは苦しいし悲しい。何もできなかったことも加えて。
そして、逃げろ、お前は生きろって言われて。
その言葉だけは絶対に守らないといけないって。
でも自分がどうしても許せないから
思い出を改竄して、"仲間の助けを無視した卑怯者"というレッテルを貼って、自分で自分をだまして傷付けてる。
その苦しさから逃げ出したい、赦してほしいって思いから
自分の心を相手に当て嵌めて考えて。
"たんぽぽの人"の"大事な人への不満"が、自分に向けられたもののように感じたから、その言い訳みたいな感じ、という側面があったことは否定しないんだよな。
/*
まあでも、イオニスがコルデリアの事を救われてほしい
そう思うのは嘘ではないからね。
境遇が逆の人なのだから。
イオニスからしてみれば、生きている筈の仲間に願いを篭めてるみたいなものだからね。
まあ、そういう意味ではやっぱり卑怯者なのかもしれない。
/*
確率的に3:1:1くらいの方が良かったかもしれないね…。
えい届く(届くor届かないor届くor郵便事故or届く)
「 …………、 」
書いているうちに書かなくてもいい事まで
書き連ねてしまった気もするが、
それでもどうにか終わりまで書き終えると、
力無くペンは手から落ちた。
コルクを外れないようしっかりしめて、
今日手紙を書いた瓶二つ、は、……
そもそもどう届いたものかはわからないが。
封筒と同じように扱えばいいだろうかと、
同じように手続きをした。
はじめの手紙もそれで届いたようだし。
「 ……えほっ、ごほ げほっ…… 」
今日はここまでか、とにわかに溢れ出た咳に、
ちかりと眩んだ視界に。
ふらふらとベッドに横たわる。
ものを考えすぎでもしたかもしれない。
とても疲れた。そう感じつつ、目を閉じた。
「 ……えほっ、ごほ げほっ…… 」
今日はここまでか、とにわかに溢れ出た咳に、
ちかりと眩んだ視界に思う。
そのままふらりとベッドに沈み込んだ。
すこし無理をしすぎたかもしれない。
負荷のかかることをようく考えてしまったか。
とても疲れた。そう感じつつ、目を閉じた。
ぐちゃり ぐにゃり ぐちゅり
きおくがよぎる きおくがしずむ
きおくがひらいてとじる
だれかに ほんをあずけた
だれか に ■■をだれかにつたえてほしいと
行商の■■に 異世界を知る■■に
試■品の ■冊子
結末まで■■ない ■ためし■■
■とのぼうけんは このう え ない
し■■■ ■った と ■■に ■ってほしくて
――カラヴェラス・ハロウランド間の臨時シップは
無事に手配できたようだね。
それでは、こちらの感想文に取り掛かるとしよう。
[コルンバの人型は、己の髪に括りつけていた
ひとひらの髪を今一度手元に取る。
その筆跡と文面、紙の手触りの情報から
差出主の居所――かの手紙の元々の形態について
幾らかの推測を行いながら。]
[これは、ガラス瓶を封筒の代わりに用いる形で送られる手紙。
コルクで栓をされた瓶の中には、便箋が収められているのみ。
便箋上の文字は活字体に酷似しているが、よく確かめれば、手書きで綴られたものだと分かるだろう。]
机城勤務 コルンバ から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
海の向こう側のきみへ
こんばんは、夜のもとに在るきみ。
わたしからのこの便りが、無事に浜辺へと流れ着くといい。
物語のひとひらを送ってくれて、ありがとう。
わたしは、わたしの元となった妖しと同様に、
物語というものを好ましく思っている。
この物語は、根源倫敦の街の作家が著した
『ウィラード・ヴァンダインの探偵事件簿』
の一ページであると推測する。
とはいえこの作品内容の具体的なデータは
わたしのメモリには保存されていないが。
わたしの元となった妖しは、このシリーズを
読了している可能性があるが、仮にそうであっても
その記憶は、わたしの記録には移されていない
――という説明的な情報は、きみにとって、
さして面白くもないかもしれないがね。
机城勤務 コルンバ から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
心がないやつだとは、わたしもよく言われるものだ。
わたしはあくまで、有機体ではない機械だから
なおのこと、有機生命体にとっては「心無い」と
認識されてしまう傾向があるらしい。
わたしにせよ、わたしの元になった妖しにせよ、
「人情」というものを表現しようとは
常に試みている心算なのだがね。
ウィル君は、わたしとは異なり、
心から「人情家」であると自認しているようだが、
その自認がノックス君からの評価とズレてしまうのは、
当人にとっても助手にとっても
悩ましいこと、なのかもしれないね。
机城勤務 コルンバ から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
ともあれ、きみからの面白い便りのお陰で、
有意義な時間を少しばかり過ごすことができた。
わたしは暇をしているようで暇でもない機械だが、
それでもきみからの便りは、いつでも歓迎する。
わたし自身に夢と呼べるものがあったかは
わたしにとっても定かではないが――
わたしの元となったモノが捨てた夢については、
後日、当の妖しが目覚めた際に問い正してみるとしよう。
コルンバ
バラ・トルーパーズより
机城勤務 コルンバ から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
……まだ当分は目覚めない見込みか、「わたし」は。
[コルンバの鳩型は、人型がしたためた手紙をその背に負い、
メカの馬力を以て、難なく虚空を飛翔し――
発着場の郵便シップの一隻へと、その手紙を紛れ込ませた。]
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これ俺の方は多分更新までに間に合わないな!!!!
ま まあいいやソロルだし……次に回想の形で落とそう……
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