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机城勤務 コルンバ は 煙霞山 山主 蓬儡 の前に死神のカードを置いた。
泥の男 ガァド は 煙霞山 山主 蓬儡 の前に死神のカードを置いた。
越境貿易商 マーチェンド は 煙霞山 山主 蓬儡 の前に死神のカードを置いた。
爆発爆散 ベアー は 煙霞山 山主 蓬儡 の前に死神のカードを置いた。
"トラッシュ" イオニス は 煙霞山 山主 蓬儡 の前に死神のカードを置いた。
疼躊化葬 コルデリア は 煙霞山 山主 蓬儡 の前に死神のカードを置いた。
煙霞山 山主 蓬儡 は 煙霞山 山主 蓬儡 の前に死神のカードを置いた。
煙霞山 山主 蓬儡 に 7名が死を宣告した。
煙霞山 山主 蓬儡 の命が儚く散った。
翌朝、 爆発爆散 ベアー の姿が消えていた……。
現在所在が確認できるのは 机城勤務 コルンバ、 泥の男 ガァド、 越境貿易商 マーチェンド、 "トラッシュ" イオニス、 疼躊化葬 コルデリア の 5 名。
机城勤務 コルンバは、 越境貿易商 マーチェンド を投票先に選びました。
机城勤務 コルンバは、 疼躊化葬 コルデリア を能力(襲う)の対象に選びました。
越境貿易商 マーチェンドは、 越境貿易商 マーチェンド を投票先に選びました。
[MTによる手紙の集配の際、リージョン間移動においては
通常、MT所有の集配業務用シップが用いられる。
勿論、「橋」での行き来が可能なリージョン間であれば
バイク等の車両や、馬などの生物の助けを借りて
そうした「橋」を駆け抜ける、ということもある。
そしてごくまれに、業務上の必要次第で
「リージョン移動の魔法」を有する構成員による
郵便物の集配が行われることもある。]
[ただ、リージョン移動魔法による集配は
極めてイレギュラーな対応であり、
(リージョン界広しといえども、こうした力の使い手は
決して多くはないのだから!)
実際にこれを行う際にはMT本局及び、移動先リージョンの
当局等の許可を得る必要がある。
このため、「瞬間移動」での集配であっても、
多数の煩雑な手続きによって、結局は1日以上の時間を
郵送に要する……というのが実情である。
それでも、手紙の送り手や受け取り手の事情を鑑みて
この、便利なのか煩雑なのか分からない
リージョン移動の魔法での集配が選択されることがある。]
[そして今日も、そうした案件の話がひとつ、
本局での業務に就くコルンバの元に届いたのだが]
きみは、この件に不満を抱くのかい?
あの要請については、寧ろきみにとって
喜ばしく誇らしいことだと
わたしは推察していたのだが。
「誇らしい、は確かにそうですよ。
カレ……あの方からのご依頼ですもの、
お役に立てるのは本望です。でも……」
でも?
「……だって、
対象リージョンへの到着時からXX分以内に同地を退去、
退去後最低XXX時間以内は、術者の同リージョンへの
立ち入りを禁止する……という
社内規定になっているじゃないですか」
ああ、そうだね。それで?
「それで? じゃないですよ、」
「
私、決死のチケット争奪戦に勝利して
しかも
ホテルの客室も満室ギリギリのところで確保して
さあ! 明日! って気合入れてたところだったのに!!」
ああ、それで「インジエアー」発着便が殺到して
現地の道路も長期間の混雑が起こることが予想されるから、
郵送遅延を極力避けるために、きみが有する
“門”の術式利用の申請が来たのだったね。
[その場に頽れて泣き出す“魔法使い”の構成員を前に、
コルンバの人型は、特段泣きも笑いもせずに
至って淡々とその様子を観測していた。]
「なんで……どうして………
こんなことでまでカレに振り回されるなんて
私……思ってもなかった……。
社内規定上……受取主さまだけじゃ……なく……
差出主……さまと……
直にお会いすること……も……できないし……」
チケットを無駄にしてしまうのが
ファンとして居た堪れないというのであれば、、
わたしのネットワークで、チケットの譲渡先を
今から探すこともできるが、どうするかい?
「ちょっとは慰めてください!」
……慰めた心算なのだがね。
そうだね、かれが楽屋前のボックスに託したという手紙を
きみが
わたしが美味しい昼食をおごるとしようか。
[コルンバのメモリに記録されている、前日に綴った手紙の文面。
その記録を再度参照しながら、人型は溜息の仕草を行い、
鳩型は“魔法使い”の肩に静かにその脚を下ろしたのだった。]
"トラッシュ" イオニスは、 越境貿易商 マーチェンド を投票先に選びました。
疼躊化葬 コルデリアは、 越境貿易商 マーチェンド を投票先に選びました。
エンデの朝は今日も暗かった。
いつものように身体を持ち上げようと、して
視界がぐらりと揺れる感覚があった。
ぐわんと響くような頭痛と、気分の悪さに
しばらくそのまま蹲って。
「 ──今日は だめな日、ですかね…… 」
よわい声でも静かな部屋ではよく響く。
何度かそのまま咳込んで、ベッドに逆戻り。
そうして今日もまた、変わり映えのしない
おわりに向かうまでの一日が始まる。
泥の男 ガァドは、 越境貿易商 マーチェンド を投票先に選びました。
ねむる ねむる そこまでねむる
いわばのうえで どろのように
とどいてほしい なにかをまって
……とどいたのは てんのめぐみ
あめのしずく あらしのよかん
ひらいたぎんのめはぼんやりと
おぼろづきよを ながめていた
『…………ーー……』
身体からの塩抜きを終え、泥の男は遠い空を眺める
空の裾野に霧のようなものがかかっている
ちがう、あれは くも
これからもっと おおきくなるもの
この海が嵐に見舞われたことは、
泥の男が目覚めてからは見たことがない。
……どのようにしてやり過ごすべきかはわからない。
そもそもその必要があるのかも。
ひとまずは、ふらりふらりと渓流を遡り、
以前にも眠った あの巨木の虚へ
今朝は誰に叩き起こされることもなく、自然に目を覚ました。
もうすぐスリープモードの解除されるクロウを横目に、身支度を整える。
昨日増やした手荷物……という名の土産物の大半は、その日のうちにトーチバードに積み込んでいた。
どの土産物も個人使用目的扱いで当局に届け出ていたんだが(実際、本当に個人的な買い物だ)、何かが役所のチェックに引っかかって時間を取られるってこともあり得たんで、なるべく早く積めるうちに……って訳だ。
そして今日が出立予定日。
シップ発着所に向かうまでの手荷物は最小限に抑えられそうだ。多少手荷物が増えてもクロウに任せることはできるんだが、“自我”が芽生えたと思しきコイツを……以前に、“護衛”としてのメカだって身軽にさせておきたかったからな。
そんな今朝がたに、客室扉の郵便受けの中に見つけた2通の手紙。
どちらもその装丁から(つっても片方はまた“本体”のみの形で届いた手紙だったんだが)送り主はすぐに分かり、またどちらも以前の手紙への返信だろうと察せられた。
で、まずは“本体”のみの形でここに来た手紙から目を通したんだが――。
/*
Q.なんでガァドさんのボトルメールを二度ともボトルメールとして受け取っていないんですか
A.秘話内に記載がなかったのでどうしようかな……とちょっと悩みながら悩んでいるうちに「ボトルだとこれ客室扉にありがちな郵便受けには入らないんじゃないか」という考えが過ってしまって……すまない……気が付いたら窓辺にあるとかそんな形式で受け取っても良かったなーとは他の方のログを見て思ったところです……
普通にデスクの周りにしかいないコルンバのほうは特にボトルの形で受け取れなくする必要は何もなかったので、こちらまでメッセージのみにしてしまわなくて良かったですね……(というかこの対応でマーチェンドが村建て透けしてしまっていたらという心配もあり)
――ああ。こっちの名前で呼んでくれたか。
まあこっちの方が大体通りが良いし、
あの倫敦の物語を送るような
――倫敦。ああー…
とまあ、件の物語のタイトルが一体何だったかもう少しで思い出せそうな気もしていたんだが……それはこの時は一旦置くことにした。
相変わらず泥めいた拙い文で綴られたメッセージは、決してすらすら読めるような代物じゃない。前の手紙同様に部分的に読めなくなっている字もあり、幾らか頭を捻りもさせる――そういう意味ではちゃんと「読者にじっくりと読ませる」手紙だろう(多分、書き手にその心算はなかったとは思うんだが)。
冒頭で感謝の言葉が繰り返される様に、読んでるこっちが妙にこそばゆくもなったりしつつ……。
とにかく、俺はその手紙を読み進めた。件の物語自体についての話題も、その感想についての返答も、俺の方から送った“物語”への答えも。
「……………………… は?」
一瞬だけ、こちらの視界を切り替えてくるような――霧を晴らすような――そんな感覚をも得させる答えが、そこにはあったんだ。
いつの間にか、クロウが“目覚める”時刻は過ぎていた。
あの烏色の羽飾りの帽子を被ったまま此方を覗き込むクロウに対し「ちょっと待ってな」と小さく言い添えてから、俺はその手紙の裏面を確かめた。
今度もまた、物語の断片がそこにはあった。その筆跡は、前回の手紙の裏に記された物語のそれと良く似て見えた。おそらく同一の書き手だろう。作中に見える幾つかの単語や内容にも、前回のそれと共通するものが見られて――…
「ノックス ……」
多分この時の俺にはもう、この物語の心当たりの正体が掴めていたんだ。いたんだが……表面の言葉から受けたばかりのものが聊か大きすぎて、閃いたばかりの心当たりもすぐに忘れちまって。
そのまま、紙の隅の走り書きのほうに、俺の視線は吸い寄せられていた。
――多分、もう、今しか、ない。
「行こうか、クロウ」
今朝手に取った2通の手紙も含めた全ての手荷物を携えて、俺はクロウと共に客室を後にした。
朝の時刻としてはまだ少し早く、他の客はまだ食事処に降りてこない頃合いと踏んで。
――こりゃ、「誇り」高き旦那からの手紙の確認ともども、
返信は発着場の待合室で書くことになりそうだ。
ごぽ、と溢れたのを最後に、
しばし続いていた発作が収まるを感じた。
赤く染まったタオルを口元から離して、
一応の小康状態にはなったかと、荒い息を吐く。
現在私の手元にある薬や点滴は殆どが
苦痛を取り除く為のものであって──
積極的な治療に向けてのものではない。
そもそもエンデはそこまで医療分野に特化した
リージョンでも無い。漢方やらの原料ならば
産出していた過去もあったが、今は見る影も無く。
だから、これらの物資が尽きた時には
苦しんで終わるしかないのだろう。
栄養補給の手段さえも数少ない。
固形物は身体が受け付けなくなって久しいから。
今の物資が余る程足りてしまっている幸せは、
ひとりになる速さが存外あっという間だった、
そんな不幸と背中合わせ。
あなただけは心配だからと、そう言って最後に
山ほど物資をくれたお年寄りすら居たのだった。
── 生かされている、と思う。
「 ……罰があたった、かなぁ 」
嘘は吐いたし他人も傷つけた。
許されていないからまだここにいる。
何に?わからない。でもずっと死が怖い。
足場をじわじわと奪われながらも長らえている。
熱があると思考は極端な方向に向かう。
気分転換に、……なるといいな。
汚さないようにそっと手紙のひとつを取って、
今なら何とか読むことは出来そうだ。
昨日は瓶がふたつだったが、今日は
しっかりとした封筒がふたつ。
……出したのは、返事と、未練と、嘆き。
何も戻ってこないというのは、きっと
あの手紙は誰の所にも届かずに終わった、
おそらくはそういう事だと 結論付けた。
ほっとしたような気持ちでひとつ封を切る。
生成りの封筒、……と、思った以上の厚み。
何か大変なことでもしでかしてしまったかと
おそるおそる、手紙を開く。
丁寧さとやさしさが端々に感じられる、
そんな文字をゆっくり、追って、
「 ……リージョン間貿易の、……? 」
私の未練を載せた手紙は、
普通なら縁もゆかりもない方の元へと渡った様だ。
あちこちのリージョンへと、飛び回る。
自分には想像もつかないような生き方。
何でも過去のエンデに訪れた事があったそう。
栄えているあの頃のまま、この人の記憶には
エンデが残っているのだろうか。
読み進めるとともに、私もまた昔を思い出す。
ゆっくり、文字を目でなぞりつつ、懐かしんで、
尚のこと、書かれているものすべてここに無い、
その事実ばかりがのし掛かった。
「 ……なん、っで、 ッごほ、 」
動揺──しない筈もない。
心臓が止まるかと思った。比喩でなく。
いつになくばくばく煩い胸を抑えながら、
その内容を、もう一度、理解しようと。
幸い……なのだろうか。
文章はどこまでも優しくて、
こちらへの気遣いに溢れていて。
余計になにか、息が詰まった。
… 大きな樹の虚 自然の棺桶
真っ暗闇に見える底を 光るキノコがゆらりと灯す
3つの小瓶を抱えて戻った泥人形は
少し意外そうにことりことりと鞄の近くにそれを並べた
漣ではなく 小川が届けたその手紙
奇縁がそれを引き寄せたのか
くるりくるりと瓶を回してそれを見る
虚ろだった眼は、様々な人との繋がりで
少しばかり旺盛に ぎょとぎょととその眼球を動かす。
■がおくった こびんとにてる
もとあるせかいに しぜんともどった?
きせいほんのう というものは
がらすのびんにも あるものだろうか
一つ目の小瓶を開けて、中を見る。
白い縦型の封筒に 帆船の絵柄の印紙がぺたり。
まるで 海を渡ってここまで辿り着いたよう。
はらりと便箋を開けば、
あまり馴染みのない花が版画されていた。
『……?……』
暗い土…沼?から生えてくる花に
泥は首を傾げる。
汚れた場所に咲く花が 本当にこの世にあるのだろうか
その文の内容へと入る。
…随分とまあ闊達で…豪気な字だ
嘘のないきれいな字だ
まもの ようま
おとぎばなしできくようなワード
つよいおもいをもったものがしぬとかわるもの らしい
■がしぬまえには なにか つよくおもうものが?おぼえてないから わからない
それをくらう どろが ■ なのかもしれない
ふしぎなひとだ とても たのしんでいるのがわかる
なぜか ひかれる ■も ようまならいいなと
俺の予想は正しかった。この時間帯の1階の食事処には、まだ“女将”の姿しか見えなかった。
クロウのスリープ解除時刻を昨日よりも幾らか早めに設定しておいたのが功を奏したらしい。これは単に寝過ごしを警戒していただけの理由ではあったんだが。
「マーチェンド、マーチェンド。
おはよう。あなた、今日は早いのね!
またあなたと二人きりなんて、あたし、嬉しいわ」
「女将、クロウもいますんで、そこんとこよろしく」
「ソノトオリ!」
――何のコントだよこれ!?
とにかく、“素顔”をどうにも零しすぎている様子の(この
作りかけのベイクドビーンズを待つよりも前に、「二人きり」を喜んでくれたその妖精の隻眼に視線を合わせて、俺は口を開いた。
「その、女将――」
……完全に“女将”の仕事の邪魔をする形になっちまったが、それも承知の上で、だ。
しつもんへの こたえは しんぷるだった
そうするかもしれない。
じぶんは。そうなったら。
ゆるすゆるさないでなく、そういうものだから。
そういうものだから やったのだ。
なんて かいかつなこたえ 。
ああ、■も
そういう■■だからと おもえていたら
けどけっきょく 何を思っていたのかは
自分の中からはきえているけど
妖精の“女将”――エナガは、隻眼を縁取る白黒のつけまつげを瞬かせていた。
ある時、エナガから零された。
王城に入れないながらも王の衣装を任されていた
優れたお針子の妖精のエナガは、
王の怒りに触れたために片方の眼を奪われ、
お針後の任をも解かれて今に至るのだと。
それまでの屈託ない笑顔は少しだけ強張り、それから、苦笑の形に緩んでいた。
ある時、ヘロンから聞かされた。
この国を華やかな装いで歩く“人型”の民には、
身体に負荷を掛けて人に擬態するモンスターや
ヒトに似せた高額な外装を維持し続けるメカも、
少なからず存在するのだと。
妖精の“女将”――エナガは、隻眼を縁取る白黒のつけまつげを瞬かせていた。
ある時、エナガから零された。
王城に入れないながらも王の衣装を任されていた
優れたお針子の妖精のエナガは、
王の怒りに触れたために片方の眼を奪われ、
お針子の任も解かれて、今に至るのだと。
それまでの屈託ない笑顔は少しだけ強張り、それから、苦笑の形に緩んでいた。
ある時、ヘロンから聞かされた。
この国を華やかな装いで歩く“人型”の民には、
身体に負荷を掛けて人に擬態するモンスターや
ヒトに似せた高額な外装を維持し続けるメカも、
少なからず存在するのだと。
……けれど ゆるされない■も
そういういきものだったのなら もう
しかたないのかも しれない
ゆるしては いけないのに きがはれる
『…へんじ ヲ かこウ カ、 ■■■■』
ぐちゃぐちゃの泥の隙間から 低く澄んだ声がした
溺れていた人間が まるで蓮の花のように
空気の通り道を得たように
「マーチェンド、マーチェンド。
素直に言えばいいのに。
あたしを外の世界に連れ出したいって」
ああ、この妖精の隻眼には、人間の真意もお見通しらしい。
また別の時に、ヘロンから聞かされた。
この王国を支配する人間たちは、
衣装や化粧を劣らせぬ身体美をも作るため、
妖精や魔獣から魔力を搾取しているのだと。
そして魔力どころか、その身体の「素材」をも
衣装や装飾品の材料にしている、とも。
そうまでしてでも、この地の王城の人間たちは、
「美貌」を至高とする妖魔たちにも劣らぬ美を、
尊大なまでに追及し続けているのだと。
「……はは。叶わないですね、貴女には。
流石に解ってるとは思いますが、
別にプロポーズの心算じゃありませんよ?」
「ええ、ええ、マーチェンド。
これがプロポーズだったら素敵だったのに。
今日という日が、至高の光たる高貴な方々の
建国記念のファッションショーだけじゃなく、
あたしたちの記念日にもなっていたのに」
そして昨日、トーチバードの外装確認後、
エンジニアの工房の立ち去り際に、
耳打ちの形でヘロンから聞かされた。
ああ、この国では機械からの電波も、
術による念話もしばしば傍受される――
この地の電波事情の悪さはその所為らしい。
故に耳打ちで密かに教えられたこと。それは、
/*
だから、焦っていたんかな。
もしかしたら、イオニスも知っていたのかもしれない。
"永住するのなら兎も角、観光程度ならいい場所"だってね。
「……でもね、あたしはそれでも。
この
ここが人間サマ……いえ、人間たちの
あたしの生きる場所はここ。死ぬ場所もここ。
あたしはね、ちゃんと、ここの森で死にたいの」
「そう、ですか。
エナガさん、……本当に、それでいいんですか?」
「ええ、ええ。いいの。これは本当よ。
ごめんなさいね、マーチェンド。
あたしは、あなたの“未練”を繕ってあげられない」
――ああ、もう! こっちから打ち明けていないことを
先に言い当ててくるのはやめろっての!
これじゃ自分から「笑顔の鎧」を解く前に、向こうから鎧をはぎ取られているって有様だ。そんなんじゃあ意味ないだろ……と、“■■■■■・ガード■■■”からの言葉を思い起こしながら、俺は盛大に溜息をついたんだった。
――ところでこの名前、まさか、な。
「はいそうですよ、俺は未練がましくて嘘つきで、
本当はとんでもなく根が暗い野郎ですよ!」
俺が開き直ってこう吐き捨てた時、それまで静寂の影に徹していたと思しきクロウのホバー音が耳を突いてきた。流石に見かねて傍に寄ってきた……ってやつなんだろうかね。
「ソノトオリ!
マスター マーチェンド ハ ウソツキ!」
「クロウ、お前なあ!!」
エナガにはくすくすと笑われちまったが……多分これは、心からの笑いなんだろうな。
「とにかく、貴女の意志は受け入れます、エナガさん。
その代わりって訳じゃあないですが――…」
「俺、時々でも、手紙、書きますから。
エナガさんからも、たまにでもいいんで
手紙貰えたら、嬉しいです。
宛先は、トーチバード――
貴女が生まれた森で、貴女が見つけて、
貴女が翼を縫ってくれた、あのシップで」
「ふふ。勿論よ、マーチェンド。
可愛い火の鳥に乗って、正直者の烏と一緒に飛び立つ、
うそつきだった、マーチェンド」
/*
女将とのこのくだり、本当は昨日のうちに落とす心算だったんですが、
ガァドさんのお返事見て今日に移転させちゃいまし た
ちなみに元々はこのまま革命でどえらいことになる展開をぼんやり考えていたのですが、パンパス・コートに蓬儡さんのご友人が来訪予定>>2:104&蓬儡さん自身も足を運んでみたいってお手紙で書いてくださったので、このまま暗殺も革命も失敗させて現体制を維持させることにします 安心して観光できるね!!
落ち着くまでにしばらくかかった。
頭の中はいつになくごちゃついていて、
嗚咽と咳とでめちゃくちゃだった。
「 ……返事、 」
私の未練がこんな返事を齎すものかと
微塵も思っていやしなかったけれど。
ペンを握る。書かねばならない、と思って。
インクにしては妙に茶色い、
粘性のある物体が
ある程度形のある文を描いている。
ゲッカの□□□ □□ さま
(□のところは煙霞山や蓬儡と見様見真似で書こうとしたのがわかるだろう…よく似ている形だが漢字としてはおかしな文字だ)
こん ばんは □□。
あ なたの おてがみ とどきました。
もの がたり も よんでくれて
ありがとう。
よ んで もらえて
うれしいのだと おもいます。
よろこんでいるのだとおもいます。
だれか に よんでほしかった ものがたり。
たのしんでほしかったものがたりを。
――ただいま大規模ステアが発生しています。危険なので廃棄物処理区画へは近寄らないようにしてください。
自動音声による注意喚起アナウンスが流れる中、ベアーは絵本を読んでいた。
物語を作るならこういうのはどうかしら?と育成施設の職員だった研究員から借りた本だ。
「いも むし は りっぱな ちょう ちょ に なりまし た……おしまい」
声に出しながらゆっくりと一冊読み終え、ふーと大きなため息をついた。
「ものがたり……すごいな……」
満足げに笑みを浮かべると胸の辺りをぎゅうと押さえた。
「いもむし……ちょうちょになれてよかった……」
食いしん坊の芋虫が色んなものを食べていく物語、途中で芋虫が食べ過ぎたせいで具合が悪くなってしまった時、ベアーは芋虫が心配で仕方がなかった。
しかし、芋虫ら立派な蝶になったのだ。
「いもむしよかった……」
■は ■■がなんなのか
かんがえたことが ありませんでした
ようま … というのは とうようのまもの
こちらでいう モンスターのような ものときいてます
おとぎ話のなかにしかいないそれは
ほかのせかい には いるのですね
■ は …どろになるまえ に なにをおもったか
あまり うまく おもいだせません
ものかき も そうだったのか おぼえてなくて。
だれかに ものがたりを よんでほしい
ゆるされない ゆるせない ゆるされたい
それだけが いま のこっています
■■によんでほしかった それだけのきもちで
ようま になるのでしょうか
それだけ みれんがあったのでしょうか
植物の香りと薬の香りは相変わらず。
弱々しい筆跡はさらに薄くなったようにも見え、
丁寧な筆致も時折乱れていた。
前よりも切羽詰まっているのか、余裕の無さが窺える。
便箋の端には前と同じ菊の押し花。
血の跡はつかぬように扱ったから、大丈夫な筈。
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
「ものがり……いいな……」
すっかり夢心地でベッドに仰向けになる。
見慣れた天井もなんとなく、キラキラしたように見えるのだ。
「……がぁどにみせるものがたり、かかなきゃ!」
ベアーはベッドから跳び起きた。
やる気に満ち溢れている!
そうして
「あ、てつだいのじかんだ」
日課の畑仕事に向かうのであった。
…いや、それでも
どろにしずんだきおくが
どくをはきつづけるから
どろのおくそこでじくじくといたむのです
たいせつな■が ■んでいるところ
■の■■たものがたりが ■をおいつめた
だいじょうぶだとはげまして うそをつきつづけて
けっきょくそれは ■をきずつけただけだった
■しただけだった
せいぎのために たいせつな■が■んだのです
これは えいえんにきえることのない 悪なのでしょう
■は その悪をえいえんにゆるせないのでしょう
■なんて 自我も残らず消えてしまえと ずっとずっと
トーチバードのマーチェンド様へ
ぐうぜん受け取った手紙に、ご丁寧なお返事を
ありがとうございます。
エンデについて知っている方とこうして
手紙を通じてやり取りが出来るとは思いませんでした。
昔に訪れていたなら、子供だった私ともしかすると
会っていたかもしれませんね。
うつくしい、私が好きだった頃の話を久しぶりに聞けて、
なんだか■■しくなりました。
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
…………
けど あなたは
「じぶんのこころには さからえない」と
いいました。
「ほんしつてきにそういうもの」と。
そういう いきものだから しかたないという
かんがえ は かんがえた こともなかった
ゆるされない ゆるしたくない ゆるせない
ゆるされたい ゆるすわけにはいかない ゆるせない
けど ゆるせない ■も ゆるされない■も
そういう いきものならば しかたないのかもしれません
…■はゆるされたいのか ゆるしたくないのか
もうわかりません。どっちもあります。
どっちもたましいのおくにあって、
ぐずぐず、どろどろ、
きたないきもちをあつめて ころして どろにする
……そういう いき もの 。だとおもいます。
…ようまというのは とても きょうみぶかいです
いつか、、あなたのところに、いってみたい。
……もしかしたら そこで じふんがなんなのか
わかるかも しれないから
外から見たエンデは、そんな小惑星だったんですね。
エンデ出身の美術家は、おそらく私の友人だった人だと思います。
とても絵が上手で、病床の私にいろいろなものを描いて
見せに来てくれました。優しい子でした。
以前に絵が売れたと喜んでいた覚えがあります。
住人たちは様々なリージョンにばらけてしまいましたゆえ、
私は今どこにその子がいるかはわかりませんが。
もし会う機会があれば話してあげてください。
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
それで、申し出についてですが。
来てほしい反面、来てほしくない思いもあります。
あなたが訪れた頃のエンデと現在のエンデは、
すっかり別のものになっています。
手紙に書いてくださっていた豊かさも暖かさも、もう
この場所にはなにひとつありません。
私ももう、以前の姿をよく思い出せません。
きっと同じ場所だとは思えないでしょう。
ですから、あなたの心の中に残っているきれいなまま。
美しく豊かな小惑星のまま、残しておいてほしいという、
……あんな未練を残しておきながら、あまりにも勝手な思いが
少なからずあります。
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
メッセージの裏側には物語が書かれている。
…裏側の文字を書いた人と、文字の癖が似ている。
探偵が行方不明になって早数日…いい加減、ノックスも気がついてきた。この街の警察は無能であると。
あんなにも派手好きで、事件を起こすときにはひと波乱どころか十波乱程度は巻き起こす男がこんなにも静かに潜伏しているわけがない。それなのに、警察側が影も形も見つからないと証言するのは変な話なのだ。
…下町をメインに発生する連続爆破事件。
解決のための糸口も、真犯人の影もまるでつかめない。
犯行動機もわからない。聴くところによれば
貧しいながらも助け合う善人の家ばかりが狙われており…
……全く趣味が悪い。ノックスは大きく舌打ちをした。
「……信じませんから。ウィルには何か考えがある。
絶対絶対…!絶対に見つけ出して聞き出してやる…!
あの馬鹿探偵がそんな大それたことできるわけない…!」
それから。会いに来てくださってもおそらく、
私はきっとまともなもてなしもできません。
けれども、これは申し訳ないことに、来てほしい理由にも
少なからずかかっています。
もしあなたが訪れたときに、すでに私が事切れていたならば、
遺体の埋葬をお願いできるでしょうか。
手紙ひとつで見ず知らずの相手に頼むようなことでは
ありませんし、あまりにも不作法だとは思いましたが。
私には誰にもそれを頼める相手が居ないのです。
もしそうなった場合、部屋の中にあるものは
すきに持って行ってくださってかまいませんから。
まだお話しすることができた場合は……そんなこともあったと、
笑い飛ばしてください。
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
…書き終わった手紙をもとの瓶に詰める。
何か、一緒に入れられるものはないかと思うが、
周りを見ても若干湿ったものしかないので諦めた。
キュ、ポッとコルクを締めて。泥の蝋で封をして。
昨日と同じく、よく乾かした葉っぱに手紙の宛先を書いて
これで届いてくれるだろうかと微笑んだ
…しかし、「ゲッカの煙霞山」や「蓬儡」という文字はほとんどなんとか真似て書いただけのハリボテレベルの拙い字になっていた。これでは仮にMTに届いたとしても、宛先をみつけることができるかどうか。
少なくとも、嵐が来るであろうこの島の浜辺から遠い遠い山まで届くのはかなりの時間を有することだろう
…………泥の男は次の手紙を開いた。
しとしとと 雨がふりはじめたころだった
ひとりで死ぬのが怖いのです。
ですので、もしも訪れる場合はゆっくりと
来てくださると助かります。
……あなたのやさしさに付け込んだお願いです。
来なかったとしても、来たとしても。
未練のぶんの重責まで負わせておいて。
ほんとうに、ごめんなさい。
エンデについて記憶してくださっている、それだけで、
私にとっては望外のことなのです。
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
それから、私の未練について、エンデの元住人には、……
話されると、少しばかり恥ずかしさがありますね。
どこかに行ってしまっても、今も幸せに生きていて欲しい。
ここのことは過去にして忘れてしまっても構わないとも
私は思っているんです。
マーチェンドさんにもさまざま事情があるのでしょう。
あちらこちらに移動するお仕事は大変かと思いますが、
どうかお体にお気をつけてお過ごしください。
あたたかなお返事ありがとうございました。
エンデより コルデリア
疼躊化葬 コルデリア から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
「 …………。 」
届かないこともある、と書き連ねられていた。
だからこれは届かないこともあり得るだろうし、
彼がどちらを選ぶかも私にはわからない。
とんでもないお願いを連ねてしまったが、
藁をも縋るようなところがあって。
「 はは、…………
あの子のことを、書くことになる、とは 」
ペンを取り落としつつ、震えた手のまま
丁寧に封筒へとしまい込む。
随分と書いてしまった。
最後の方の文字が読みにくくなってしまっていたら
申し訳ないとも思いつつ。
/*
コルデリア、
ガァドの存在意義に完全に当てはまるというか
ガァドのいう『うそつき』の定義に合致してしまうのどうしたもんか。
(※本人はそのつもりはないと思うが、ガァド視点で見逃せない嘘であると感じる要素がある的な意味で)
ガァドのおもったとおりにかくと、どうなるのかな
/*
そしてイオニスにも手紙送れてない。どうしよう。
イオニスに触れていきたいのだけど、モノの見事に生息域が噛み合わないというか、手紙を送っていいのいま?イオニスにてがみおくってほんとにいいの???大丈夫?壊してしまわない???生きてる???ってなってる
一番楽なのはコルンバへのお返事だが、楽だからで流したくはねえしなあ
次に選んだのは、桜色のリボンがかけられた小瓶だった。
コルクを開くと自然の香りと…薬の匂い。
桜の押し花の便箋の文字は前よりも細くて頼りない
…よわって いる?
はらり。か細い生命の呼吸のようなそれを
少しずつ少しずつ、手繰り寄せるように読み解く
[飛ぶように、駆ける。駆ける。
山から下りれば、幾らかの平らな大地、大河や路が姿を見せる。
騎獣達に途中で休息を与えながら、一行は先へと進んだ。
やがて男の支配する土地を離れ、隣の山主の領地を抜ける。
途中、関を潜ったが、先触れを出しておいたお蔭か、特に留められるような事もない。]
この調子なら、日暮れ前には着きそうだな。
[正午過ぎの二度目の休息。
木に繋いだ騎獣達が水を飲んでいるのを横目に、男は清水を口にしながら呟いた。
近くの街で買った串焼きや肉や青菜の入った包子、葱油餅などで空腹を満たす。
汁物の代わりは、清水と果実だ。
護衛達はけろりとしているが、弟子達には少しきつかったようで、男の言葉に蒼褪めている。]
これも食べなさい。
[師匠の旅への随伴となれば、これも修練の一つだ。
しかし弱音を吐かなかったのは偉かった。
労うように二人の肩を叩き、蜜三刀を与える。
疲れた身体には、甘さが染み渡る事だろう。
のんびりと行くなら数日間かかる行程を、騎獣達の健脚に任せて一日で進む強行軍。
何かの視察にでも重ねれば……とは考えたのだが、丁度良いものがなかったのだ。
弟子達の様子を眺めながら、地図を広げてこの後の行程について話し合った。
当初の予定通りに進んでいるように思われるので、途中に挟む休憩で英気を養えば問題なく辿り着くだろう。
友人の待つ迎賓館に辿り着けば、美食も待っている。]
[体力に余裕がある護衛達が腹ごなしに組み手を始めるのを、弟子達は愕然としながら見ていた。
男もそれに混じれば、技を目で盗もうとする熱心な視線を感じる。
興に乗ったお陰で、暫くそれは続いた。
勿論、怪我をしない程度に。
間近に師匠以外の手練れの動きを見るのは、弟子達にとってよい刺激になっただろう。
身体を休める時間にも。
乾いた喉を潤すと軽くなった水筒に清水を汲み直し、そろそろと号令を掛ける。
一行は騎乗し、更に南へと向かった。]
『……っ、ッ、ッッ!!!』
ご、ほっ…ゴボッッ…… ゴボッ…!!!』
そのいちぶんをみたとき、
くちのおくからなにかがあふれた
さびしくはないですか。苦しくはないですか。
『……ッ、 ……ゲ、ェェッウッ……』
泥があふれる 奥底から溢れる 溢れる
これを ■は しっている
いわないように、 かつて噛み締め続けた言葉
/*
デフォの青色綺麗だなぁ…。
村建て様と私で一日ベアーさんのロルを独占させて貰っていいのか。(癒されてる)
パンパス・コートは、そうかぁ…と思いつつ、マーチェンドさんの縁故の拾い方凄いなと感動しております。
ガァドさん可愛いですね?
漢字難しいですよね、ごめんなさいね。
コルデリアさん、どうなるんだろう、とはらはらしつつ、
イオニスさんもどうなるのかな…。
そっと見守っておきます。
さびしい
さび しい
さびしい
さび しい
さ びしい
さび しい
さび しい
さびしい
さびしい
さびしい
…原稿用紙一面に泥のような跡が残っている。原稿用紙の下は完全に塗りつぶされて見えなくなっているが、おそらく挿絵のラフ画かかれていたのたろう。誰かの呆れたような顔が微かに泥の隙間から見える。ぐちゃぐちゃと手紙は丸められて、瓶の底へと押し込められた。
泥の男 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
『…っ、……ゥア……』
手紙を読み進める。少しずつ。
しっている この感情を知っている
終わらぬ終わりに取り残されて 結局は
なにもかわらず 何も終わらず
苦しさだけが残って消えて
それがなければ■さえも■せなくて
それでも けっきょく ■をつきつづける
『 うそつき 』
『けっきょく じぶんのことしかかんがえてないのに』
『そのじぶんにもうそをついて ふこうにおぼれて』
『あとはただ どろになってしずむだけ』
何万回 ■自身に言ってきた言葉だろう
『 ■■■■ 』
『けっきょ■ ■■■のことしか■■■■■■いのに』
『その■■■■■■■を■■■ ■■■におぼ■て』
『あ■■ただ どろになって■■■だけ』
何万回 ■自身に言ってきた言葉だろう
もうおぼえていない。おもいだせない。存在しない
この感情こそ 泥となった化物の存在意義。
…紅茶とサンドイッチと
それから真向かいの席に座る 不機嫌な■
もういない■。もう■■■■。
大切だった ■の ■■……
…" かかなければ、 へんじを "
" とどけなければ へんじを "
化物はペンを取る。
どうしても ■にいわねばならないことがある
インクにしては妙に茶色い、
粘性のある物体が
泥の滲んだような文を描いている。
コルデリア の
うそつき
おわる定めのものが正しくおわり、■がまだいる、
それだけのこと なら
どうして きみ は くるしいままなの
おわっ て ない。 おわって ないよ。
こる でりあ。ねえ。
くるしい うちは おわることすらできないのに
慚愧の妖魔 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
晴れない気分を抱えているのなら
余計なことを考える暇をなくせばいい。
私は後回しになっていた"トラッシュ"の人々の
様々な依頼をこなしてまわることにした。
冒険者だった頃のように。
尤も、その時と違うのは
報酬は子供のお小遣い程度のもので、
作業内容に家電や機械の修理、
メカのメンテナンスが加わってるのだが。
人と関わっている間は、余計なことは考えない。
自分が一人だという事も感じない。
一人になった時、より孤独を感じることもあるけれど
すくなくとも気分が晴れないと沈み込んでいるよりは
皆の役に立てているのだという自分を肯定できたから。
そうして触れあっていると自然と
あの"たんぽぽの人"の事が気になってしまっていた。
あの人には
…気分が落ち込んでしまった時に
触れ合って、元気をくれる人は近くにいるだろうか、と。
あの手紙が届いても届かなくても、
少しでも、心が楽になっていればいいな、なんて
自分の贖罪ではなくて、純粋にそう思えたんだ。
きみの ■■■■を
まっさきになかったことにしたのは
きみのことを ■じなかったのは
うんめいを そんなものだと うそをついて
どろのうそでかためたのは
みずから■を水底にしずめたのは
だれでもない うそつきの
慚愧の妖魔 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
結局、家に帰りついたのは夕刻頃。
陽は傾いて、子供は帰る頃。大人は酒盛りに向かう頃。
夕焼け空を背に、郵便受けを開ければ、
そこには一通の手紙が収められていた。
手紙を送ったり送られたり。
そんな経験なんて最近まではなかったけれど。
珍しくもない日常にまでなっていった。
…書き散らす腕が 停められない
だって 彼女は ■ と おなじだから
その果ての姿が ■ だから
■ は りせいをもたない
だからこそ ■になりゆくかのじょに
かけるべきではないことばのかずかずを かきつらねる
じぶんを みてよ
じぶんに うそつかないで よ
たとえ おわって しまうとしても
たとえ いらないほどに きらいなものでも
きみのさいご をみる のは
きみだけ なのだから
かわいそうなこるでりあ しないひとはけっきょくは
泥にまみれて苦しみの中で溺れて■ぬだけ
慚愧の妖魔 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
いつものように部屋に戻って
椅子に座ってから、手紙に目を通してゆく。
勇み足で送った手紙はやっぱり郵便事故にならなくて
彼方に届いてしまったらしい。
思いがけない過去の血気盛んな頃の話
その言葉を紡いでいるのを想像して、苦笑い。
若気の至り、なんてものを併記して
私の勇み足の失敗、その恥ずかしい失敗の気を紛らわそう
そんな風に感じてしまって、気遣いに感心してしまう。
「あのお店、まだやってたんだ。」
勧めたお店はどうやら"未だ"健在だったようで。
そして、口に合ってよかったと、安堵する。
独りよがりな紹介に終わらなくてよかった、と。
"船"の方もどうやら修復が済んだらしく。
彼の短い休暇は、終わりを告げるようだった。
「……。」
空元気はあったかもしれないけれど。
冗句のつもりだった筈なのに、思い悩ませてしまったようで。
けれども、心をほぐそうとしているのが分かったから
申し訳なくはありつつも、有難いという気持ちが湧く。
近しい人の死。大事な人の死。その辛さを想像して。
私はまた、あの時の、あの悪夢の情景が浮かぶ。
それは、仲間たちに置いて行かれたように感じて。
いやというほど味わった。苦しくて、悲しくて、辛いあの時。
何故、一緒に連れて行ってくれないのか。どうして一人にするのか
そう、思った。思ってしまったんだ。だから、嫌だったんだ。
だからあの時、あの場所から私は離れることが、出来なかったんだ。
「……ああ…。」
もうおしまいだと。自分は一人ぼっちになってしまうのだと。
それが理解できたから。私は――
もう二度と、同じ気持ちにさせたくないし、なりたくないと。
「…ありがとう。」
心配してくれる人が、たとえ離れていたとしてもいるという事。
それがこんなにも暖かかったこと、忘れてしまっていたこと。
気分が晴れない今日のような日に、この言葉を紡いでくれたこと。
忘れていたことを思い出させてくれたことに
私は、手紙を手繰り寄せて抱きしめ、お礼を言うのでした。
それでも いらないというのなら
きみのいのちがつきるまえに
どろにかえって なにもわからなくなればいい
たいせつだったなにもかもさえ
くさりになってしまうなら
わすれてしまえば こわくない
慚愧の妖魔 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
慚愧の妖魔 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
ね え こるでりあ
さびし■は かな■いは くるし■は
きみが てをのばさなきゃ きづかなきゃ
亡くならない なくならないんだ
だから ■は
以降は泥で汚れていた。
…裏面のラフ画も完全に泥で汚れて見えなくなっている。
今回は 挿絵だけで 物語は描かれてなさそうだ
…署名もなく、おそらく感情のまま理性もないまま書き連ねられた手紙は、ここで途切れている。
慚愧の妖魔 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
…書き終わったそれを、小瓶に詰め込む。
きれいに折りたたもうとしたつもりだが、
握りつぶしたような跡は消えない。
感情のまま、殴りつけるように小瓶の中へと入れていく。
やさしさの かけらもない
だって彼女は ■の天敵にして同類
どうしょうもない "■■■■" だから、
余計に制御が効かなくなった。
……なんの優しさもない。なんとかして伝えたい。
なにを まにあわなくなるまえに なにを?
やさしい なにか
ことばに でき そうな なにか
…1枚だけきれいな便箋がある。生成りの無地の便箋や黒のインクが使われている。筆跡は…商人の手紙を見たことがあるなら、見覚えがあることだろう。
私は迷い込んだの 華やかなお城のある国に
美しい服 美しいお化粧 美しい街
煌びやかな花の衣装は朝も昼も陽に輝いて
夜になれば陽に代わり 七色の灯りに照らされる
闇は許されないの 何時だって明るいのよ
着飾れないもの 醜いものは許されないの
そんなものは綺麗なカーテンの裏に隠さなきゃ
そんな国を楽しみながら、私はほんの少し、
少しだけ、息苦しさを覚えたわ
この華やかな国にどこか馴染めない貴女に
この街の片隅で出会った時に、そう気づいたの
けれど私は、このお城の国を咎められない
だって私も 素顔を零した貴女の前でさえ
この笑顔を崩せないのだもの
慚愧の妖魔 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
…隅の方に 走り書きがある。
拙い文字。けれども君のための文字。
ずっとのうそ は だれのため?
慚愧の妖魔 ガァド から 疼躊化葬 コルデリア へ、秘密のやり取りが行われました。
瓶に込められたぐしゃぐしゃとした手紙のなかに
その生成りの手紙だけは丁寧に差込み蓋をする。
泥でコルクを締めれば過剰に飛び出し、
ドロリと側面まで覆ってしまいそうなほどだった。
…ぐるり。目印にかつて拾った桜貝を
てっぺんに押し込みくっつける。
届いてほしいと 必死に 懇願するように。
『…?』
…その蝋が固まる頃には、
どろりどろりと悪意は流れて
なにをかいたか よくはおぼえていないけど
ただただ 届いてほしいと願うようになった
せっかくおわりにむかうのに
ようやくただねむれるのだろうに
なにが そんなによくないこと
だったのだろうと思いながら
/*
ガァドの思考補足
ガァドの生前は探偵作家でした。
探偵作家には助手がいましたが、その子は探偵作家が売れれば売れるほど病んでいき、自分がこの世に必要ないものなのだと思いこんで■■してしまいます。
探偵作家は、そんな彼を何度も励まし、自分が護ると言い続けましたが、内心では自分を大切にしない隣人にどうすればいいかわからず、ただただ自分はすごいと虚勢を張りだからついてこい!となんとか鼓舞しようとしてました(※そしてそれが逆効果になって追い詰めていた)
自分を強く見せようとするあまり、
「君がいなくなるのは不安だ」「君自身を大切にしてくれ」
ということすら言えなくなり、大切な友人を失い作品をまともに見ることもできなくなった探偵作家は、ライヘンバッハるのであった…
と、こういう背景がある中、コルデリアの手紙を見てみるとですね。「自分自身を大切にしてない」「身体の弱い自分は残って当たり前(諦め)「そこにのこったのはしかたないことと、どう見ても納得してないのに自分に嘘」「嘘ついた結果、今苦しんでいる」という、生前の彼が聞いたらもっかいライヘンバッハるレベルのないようなので、つい感情的に…という背景でした
/*
イオニスにお手紙送りたいけど蛇足になりそう感ある〜〜〜!!涙
コルンバへのお手紙で茶を濁すのもコルンバにわるいし〜〜〜!!!涙
シンプルに 誰に当てたものでもないものが偶然…のほうでいくかあ…?
/*
そしてイオニスさんからの反応にもほっこりしつつ
>>61い いまさら言えない……まじでただ俺ってばあの時は若気の至りやらかして恥ずかしかったわー的な意味合いで(PLPC共に)書いただけだったって……(※言ってる)
て てれる ああああありがとうな………!
/*
>>68>>69おてがみ転載(転送)してもらったらしいことに嬉しくなりつつ
ぼくはガァドさんの肩書きの変化に気づいてしまったよ……妖魔だった……だと……
こ これからちゃんとしたおてがみおへんじかくんだからね…… !!
手紙を書くことは、存外に消耗することらしい。
それに気が付いたのは今日明日の事だけど。
体調が低空飛行しているせいも、内容が内容なせいも、
ずっと考えないようにしていたことを
考えてしまっているせいも、あるんだろうが。
──だって、人がいたころは、
誰かとあって話をすることは
別段とくべつなことでも なくって、
これでいいんだ。
これでいいんだ。
これでいいんだ。
これでいいんだから。
私がそれを選んだ、だから。
祈るように振り返らぬように
じぶんの中でずっと唱えてきた。
そのツケが今来ているのかな、と。
頑張り続けるのも前を向き続けるのも
ひとりで折れないようにするのも、
何もかもいずれ疲れ果てる日が来る。
だってあの子がここに残るだなんて、
そんなことがおこったら、
私はあの子をおいて行ってしまう。
この苦しみを受けるのは
あの子になってしまう。
「 ──……、あーあ 」
何に対してかはわからないけれど。
よくない考えが廻っている、気がする。
熱が上がってきたのかもしれない。
手を伸ばした先。もうひとつの封筒。
のろのろと封を切って、ぼんやりしたまま
そのまま、手紙を開いた。
昨日エンジニア・ヘロンから伝えられた「革命」の話を、この朝、エナガに対して話す機会は得られなかった。
込み入った密やかな話をここでするには時間が足りなかった――他の客の足音が階段の方から近づいてくりゃ、また当たり障りのない会話と「本日のベイクドビーンズ」の遣り取りに戻るしかなかった(調理作業を邪魔したことはちゃんと詫びたからな!)。
王国に虐げられた古き妖精であり、宿の“女将”でもあるエナガが、果たして件の地下組織の構成員なのか否かは分からない。
下層民ながらも人間の身であるヘロンは、自分がかの組織の構成員だということ自体は否定していたが――。
ところで“建国記念日”に合わせたメニューとして供されたその朝食は、
見た目はこの通りだが、濃すぎず薄すぎず調和のとれた味わいだったことにも変わりはない。ビーンズソースの微かな辛みと苦みも、ちゃんとその調和の中に在る。
ともあれこうして朝食を摂り終わった後は、すぐにチェックアウトを済ませて発着場へと向かうことにした。
『ランウェイのお披露目、夕方からだったよね?
まだ混み切ってない今のうちに
お店とか回っておこうよ〜』
『陛下の衣装、今年もスゴいらしいぞ!
前に情報があったクリノリンだけじゃなく、いつもの
孔雀羽のマントと王冠にも新素材を採用してるらしい』
『陛下もだけれど、私の一推しの
プリンス・ラルスカヌスも忘れないでくれ!
あの御方の純白のヒールと裳裾を毎年拝むのが
私の生きる楽しみなんだ……はあ……』
幾らか警備が目立ち始めているとはいえ、決して物々しい――ようには見えない城下の賑わいを抜けて。
さて、すっかり様変わりしちまったトーチバードは、昨日のうちにシップ発着場に移動されていた。……この
今日が国のイベントの日だということもあってか、発着場はそれなりに混み合っている。
トーチバードの出発時間も予め決められていたから、飛行前の最終確認が済んでからの待ち時間で、俺はあの手紙への返信をまず綴ることにした。
メール・トルーパーズの設置したポストは発着場内にもあったから、この待合室から手紙を投函しに行くのに、さして時間はかからない。
さて、すっかり様変わりしちまったトーチバードは、昨日のうちにシップ発着場に移動されている。……この
今日が国のイベントの日だということもあってか、発着場はそれなりに混み合っている。
トーチバードの出発時間も予め決められていたから、飛行前の最終確認が済んでからの待ち時間で、俺はあの手紙への返信をまず綴ることにした。
メール・トルーパーズの設置したポストは発着場内にもあったから、この待合室から手紙を投函しに行くのに、さして時間はかからない。
『…… …………』
薄暗い虚の中。吐いて泥まみれになったそこで
ぼんやりと銀の目が小瓶たちを見つめる
意識があるのか定かではなく、
かくり、かくりと左右に首が揺れた
… な に するんだっけ
どうやら…
泥を生成し、吐き出したあとのしばらくは
意識や記憶がぼんやりとするらしい
ぐちゅりぐちゅりと泥を引き寄せ、形を作る。
本能として 泥の男は紙の束へと腕を伸ばす。
…なん、だっけ
■ に なに を
幾らか悩んだんだが、今回送る手紙の宛先にも、明確な宛先は記載しなかった。
ああしてあの御仁との手紙の往復が叶ったんだ、メール・トルーパーズの勘か何かを、或いは“混沌”の神秘を信頼してみてもいいだろう、と。
下手な推測を――或いは、過去の縁に基づいた名を――記してしまうより、却って正しい宛先に届きやすいんじゃないかと。
――まさか、な。
そりゃ、この広く果てしない“混沌”のことだ、
何があったって不思議じゃないんだが……。
[手紙の封筒や便箋の素材、筆記に用いられたインクや字体は、前回の手紙と変わりない。
封筒に宛名書きが特に記されていないのも、前回と同様。]
Dear G.
おはよう、ガード。
(署名に泥か何かが滲んでしまっていたため、
貴方のお名前のうち、読み取れた箇所だけで
お呼びすることを、どうかお許しください)
私の手紙へのお返事と、物語の続きの断片を
送ってくださったことに感謝します。
貴方からの言葉と物語に私が気づけたことを、
あの物語に、物語の書き手に、そして貴方に
喜んでいただけたのなら何よりです。
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
先日の手紙で物語の感想をお送りした時には
恥ずかしながら失念してしまっていたのですが、
私は以前、根源倫敦の街を訪れた際に
あの物語の書き手にお会いし、
その方の作品を拝読したように覚えています。
その際手渡された冊子はまだ試作品の段階で、
結末についても未定のようでしたが、
それでも、誰かに伝えてほしい、とのことで
書き手の作家から草稿を預けられた記憶があります。
私自身はその時、書籍の買い付けのために
根源倫敦を訪れていた訳ではなかったのですが、
直に頼まれてしまった以上は断れないな、と
作家先生から原稿用紙を一度お預かりしました。
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
待合室の書棚には生憎、件のシリーズは置かれちゃいなかった。データ検索用の端末も設置されていない。
俺は手元に在る2枚の物語と記憶だけを頼りに、ペンを進めていく。
その草稿が丁度、貴方が送ってくださった、
札束泥棒のエピソードだったように覚えています。
“能力”無き倫敦が舞台であるにも関わらず、
札束に爆弾を仕掛けるのは流石に無理がある――
そう頭では考えてしまうのですが、それでも、
非現実的なトリックに不思議と現実味を感じさせる、
読者を魅せる筆力を、当時感じたものでした。
今思えば、突飛もないトリックだけでなく、
荒唐無稽に思える物語自体も、
どこか不思議な面白さを感じさせるものでしたね。
勿論、草稿はあくまで草稿でしたから、
原稿用紙は作家先生に一度お返ししました。
あの後、単行本が実際に発売されたなら
書籍の買い付けのために、再び根源倫敦に
足を運ぼうかと考えていたのですが――
実際にはその機会は得られず仕舞いでしたね。
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
――っていうか、さあ。これが本当に奇縁なら、
俺はひどく恥ずかしいリアクションを
あの御仁に送っちまったってことになるな……。
――……まあ、喜んでくれたなら、いいってことで。
さて、私のほうからお送りした物語への
感想をくださり、ありがとうございます。
“綺麗”の前に“汚い”想いを隠すことが
「貴女」には上手くできない、ということだけでなく、
「私」の器用さはそんな「貴女」の為のもの――
そのことまで貴方は読み取ってくださったのですね。
相手の為に、という想いゆえに、
笑顔の嘘を鎧として着込み続けてしまう――
笑顔に限らず、何かしらの嘘の鎧で
自らに重しを掛け続け、沈んだ果ての苦しみを
貴方は既にご存じなのでしょう。
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
ここで正直に種明かしをしますが、あの物語は、
私自身の経験を基にして書いたものです。
「私」はそのまま私のことであり、
「貴女」は不夜城の地で私を助けた恩人のことです。
(正確には「人」ではなく、古来からの森に生きる妖精ですが)
それ故に私は、貴方がこの物語に寄せた感想を、
私自身と恩人のこととして受け取りました。
貴方がくれた感想、そして忠告のお陰で、
これまで恩人の前で抑えていた“汚い”願いを、
思い切って打ち明けることができました。
その結果、彼女自身の願いをも知ることができ、
また、彼女の前では笑顔を取り繕わずにも
いられるようになれた、と感じています。
私の出立が差し迫っていたこともあり、
決して多くを話し合えた訳ではありませんが、
彼女とは手紙を通じて、これからも、お互いに
様々な話を交わしていけたらと思っています。
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
私が「正直に、隣にいてあげたい」相手は、
彼女だけでなく他にもいますが――
多くをここで書いてしまえば、この手紙を
更に冗長にしてしまいそうでしたから、
これについては、また別の機会にお話できればと思います。
あの札束泥棒の話ではありませんが、
己が纏い続ける嘘が、己だけでなく、
他の誰か、愛する誰かの命や心までも
失わせることもあるでしょう。
一度染み付いたものを自ら拭うのは
決して容易いことではありませんが、
それでも、自分が助けたい相手の前では
己の弱さも苦しさも、過ちも、
曝け出せるように努めてみます。
自分から嘘の鎧を脱がなければ、
相手のありのままの怖れや辛さ、無念、無力、
それらに触れることすら、叶わないでしょうから。
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
――なあ、
“混沌”に沈むって、どんな感じなんだろうな。
幸いにして――ああ、幸いって言っていい――俺はこれまでも、海賊に撃たれたあの時にも、それを免れた訳なんだが……。
最後に、ひとつだけ貴方にお伺いします。
それこそ、ここで思い抱いてしまったことを
下手に隠して取り繕ってしまうよりは、
たとえ誤りであっても、ここで正直に
打ち明けた方が良いと考えて。
貴方は、かつて私に
『ウィラード・ヴァンダインの探偵事件簿』の
試作品の原稿を預けてくださった、
「ハーヴィス・ガードロイド」さんで
間違いありませんか?
マーチェンド
越境貿易商 マーチェンド から 泥の男 ガァド へ、秘密のやり取りが行われました。
――沈んで、沈んだ先で息が止まって、泥になる、なんてさ。
そこまでの問いは、この時の手紙には記さなかった。これは疑問を隠したかったからとか、触れない方がいい話題だと考えたからっていう訳じゃなく、単純に、今尋ねることじゃないと考えたから。
それよりも今は、もっと肝心な問いに対しての答えが欲しかったんだ。
「……げ、」
壁に掛かった時計の針を見て、思いの他結構な時が過ぎていたことに気づいたんだが……(ああ、クロウは何も教えてくれなかったさ!)
――まだ、まだ時間はある! 問題ない!
そう判断した俺は、この場で漸く、あの旦那からの手紙の封を切ったんだ。
自分がひとりきりでしかないと思わせる日
それは外でともだちのはしゃぎ声がする時
うつってしまうからダメだと離される言葉
そう変わらぬ歩幅でどんどん先に行く背中
手からすり抜けて飛んで行ってしまう風船
あっという間に離れて飛びさった大きな舟
圧倒的な力でなす術もなく潰えてゆく生命
未だにここに残ったままの暗く澱んだ部屋
息が詰まる。
ベッドにくてんと横たわったまま、
縦型の封筒をくるくると透かした。
綺麗なそれが血で汚れないよう注意を払って。
印紙と言ったっけ。何かの景色が描かれていて、
おそらくはそれがゲッカの風景……なのやも。
便箋の方には紅葉が。
じめりとした樹木とは違う、爽やかな紅葉色。
違う処の香りを纏った文面は、すこしの戸惑いも
含んでいるようにかんじた。
「 移民の、受け容れ、……、
やっぱ り、お偉方、なんでしょう ね 」
山主がそこにまで裁量を持つ方だとは露知らず。
前の手紙で無礼な事は書いていない…とは思うが。
上に立つ方はこんな隅にまで目をかけるものか。
わたしは自分のことで手一杯だというのに。
きっと見える景色も違うのだろう。
遥か高みの峰と、木々に埋もれた半地下。
場所も位も何もかも違う。
その高い視座であれば、多くのことがわかるの?
ステアが発生すると池にゴミが溜まる。
だから研究員たちは頻繁に池の掃除をしているのだが、今日は何やら勝手が違うようだ。
『この瓶、ベアー宛の物じゃないかな?』
そう、招待状に返事が来たのだ。
「へんじだ!おれの!おれのだよ!」
ピョンピョンと飛び跳ねながら瓶を受け取ろうとするベアーを見て、研究員の頬は緩んだ。
『落ち着きなさい、中に何か入っているようだし、落としたら危ないから机に置くよ』
「お……おう!」
ただ瓶を机に置くだけの動作をベアーは頬を上気させながらまじまじと見つめる。
そんなにか、とベアーの様子に苦笑しながら瓶を置くと、研究員は
『早く返事出せるといいな』
と言い残して立ち去ったのである。
机に置かれた瓶は二本。
研究員がいなくなるやいなや、ベアーは瓶を開封する。
一本目、中に入っていたのは手紙と小さな包み。
包みは後回しにして、先に手紙を読む。
「べ、あ、あ、さ、ん、へ……」
じっくりと声を出しながら読む。
どうやらこの手紙を送ってくれたのはエンデというところに住むコルデリアという人物のようだ。その人はエンデから出ることができないらしく、リジェットXに行く代わりに花の種を送った、と。
「えでん……あいにいかなきゃな……」
包みには花の種が入っていて、その育て方を書いた手紙も入っている。
読めない字があったが、ベアーは賢いので他の文章から意味を推理して読んだのだ。天才かな?
「なるほどなー」
ベアーは完全に理解した。
やはり天才。
/*
今のガァドってどうなのかな。
ちょっとセルフ相談。
探偵ですか?→『いいえ』
作家ですか?→『いいえ』
探偵作家の経験がありますか?→『たぶんそう。部分的にそう。』
ハーヴィス・ガードロイドという名前に聞き覚えはありますか?→『たぶんそう。部分的にそう。』
その名前は自分のものだと思いますか?→『いいえ。』
あなたは『ハーヴィス・ガードロイド』ですか?→『たぶん違う。部分的に違う。』
あなたは『探偵作家』が嫌いですか?→はい。
あなたは『妖魔』ですか?→たぶんそう。部分的にそう。
あなたは『探偵作家』を憎んでいますか?→はい。
あなたは『探偵作家』の死体ですか?→はい。
とは言ったものの、おりこうさんのベアーは種を扱ってはいけないという研究員との約束をちゃんと守るつもりだ。
だから手紙と包みを瓶に戻し、研究員に手紙と種を見せようと心に誓ったのだ。
ちゃんと瓶に戻した後、もう一本の瓶を開封する。
/*
もともとの想定…というか、もともとの人格を考えるのであれば、
やっぱり彼は『探偵作家 ハーヴィス・ガードロイド』
ではないのだろうな。
どちらかといえば
探偵作家をもとに生まれた、探偵作家の嘘を殺す
『慚愧の妖魔 ハーヴィス・ガードロイド』なのだと思う。
探偵が無理してた部分何もかもを壊してしまうもの
人格そのものを破壊するもの。
終わりが欲しくて許されたくて許せなくて足掻くもの
ポツポツという雨音が
さあさあざあざあ 変わっていく
ガララガラララと 雷が遠くに落ちる音がした
すこしずつ近づいてくる嵐の音は
静かなしじまのうみを閉じ込めていく
巨木の裾野は 虚を隠す。
きれいな雨から 雷の光から。
[陽が落ちてゆく空は、青に紫、橙に桃色と、多彩な色彩を映していた。
望崋山に初めて訪れた者は、圧巻の光景に言葉を失ってしまう。
大きな池の前にある山は、それ程高いわけではないのだが、山の上半分程を白壁の建物が覆っているように見える。
赤い瓦葺屋根の大棟の両端には鴟尾があり、軒瓦には花を意匠とする美しい装飾が施されていた。
中腹にある大門の前で騎獣から降り、門番達に訪いを告げる。
彼らに荷物や騎獣を預け、男たちは大門を潜った。
外壁の脇に山の起伏に合わせて造られたなだらかな石段を上れば、折り返した先に更に門が待ち構えていた。
そこを潜れば、彫像や噴水などが配置された前庭の奥に、太い柱が等間隔に何本も並べられた朱い建物が見える。
赤い建物──迎賓館の石畳の前には、出迎えの者達が並んでいた。
ふと、思い出して男は弟子達の方を振り返る。]
大きく息を吸いなさい。
[すべて言い終えるか、言い終えないかといった時、突如、男達に水が被せられる。
まるで空から降ってきたように。
唖然としている弟子達に対して、護衛達は水の勢いを殺す程度の余裕はあったらしい。
下手に止めてもいけない。]
これはまた熱烈な歓迎だな、芸鵬。
[男は進み出た友人に向かって笑みを向ける。
これは一種の通過儀礼だ。
彼は紫の長袍に黒の上着を羽織っていた。
色とりどりの意図で施された刺繍はまるで着る絵画のよう。]
「だって、そんなに土埃を浴びてくるんだもの。
近くに一泊して汚れを落としてきてくれたら良かったのに。」
[つんと胸を逸らす齊芸鵬は大変な綺麗好きでもある。
汚れる事を憎んでいるのかという程に。
恐らく、裏道から男達の様子について報告がいったのだろう。
これでも多少は払ったのだが。]
早く再会したくてな。
「どうせ修練だからとか言って無茶苦茶な日程で此処に来たんでしょう。
さ、まずは湯浴みしてきて。
着替えはこちらで用意してあるから。」
あぁ、感謝する。
[あれよあれよという内に、一行は迎賓館の脇にある湯殿に案内される。
騎獣や荷物が大門で受け取られたのは、濡らさぬ為でもあった。
薫りが気に入らなければ容赦なく風を浴びせられ、汚れていれば水を浴びせられ、湯殿に直行させられる。
齊芸鵬の眼鏡に敵う程の身なりに整える事は難しい。
美貌を至高とする者であれば叶うかもしれないが、大抵の者はこの洗礼を浴びていた。]
言い忘れてすまなかった。
避ければ機嫌を損ね、あの整った顔を般若のようにして怒るのだ。
どうせあれの満足いくようにはできないから、好きにやらせた方が良い。
郷に入っては郷に従えという奴だな。
[弟子達はまだ理解が追い付いていない様子だが、そっとその背中を押してやりながら囁いた。
例え無礼と思われようと、己の領内に入れるのならば、己の定めた掟に問答無用で従わせるのは、妖魔の山主らしかった。
湯殿は貴人とその伴に分けられている。
湯殿に詰めていた者達は、煙霞山 山主は最低限の世話でいいと何度目かの訪いで心得ていた。
濡れた衣装を脱ぎ、中に入って旅の汗を流す。
疲労回復の効果のある薬湯であるところは友人の気遣いだろうか。]
『…………』
まだ意識は白濁としたままぼんやりしたまま
樹の虚の入り口から外を眺める。
大きな葉が生い茂る樹木であるために
虚のあるところまでは雨はたどり着かないが
その向こうに見える雨の滝が強くなっている様子はわかる。
…海まで 手紙を届けに行けるだろうか
そう考えたまま 相変わらず紙の束へと向き直る。
… ■■■ ほしい ■って ほ■■ …
いしきをむけるまでもなく いしきされることもなく
ただ ただ 羽根ペンを踊らせる
[迎賓館に通される頃、一行はすっかり身綺麗になっていた。
肌触りの優しい衣は間違いなく上質なもので、上着には美しい刺繍が施されている。
煙霞山では袖を通す事のない衣装に弟子達は緊張しているようだ。]
改めて、久しぶり。
変わらないようで何よりだ。
「そちらは相変わらずなようで。
何処のお上りさんかと思った。」
[齊芸鵬は笑いながら顔の前で扇子を開いた。
そうして一行を一通り見やると満足げに頷く。]
「うん、私の見立て通り。
お弟子さん達もサイズが合ったようだね。」
[上機嫌の友人に促されて、勧められた席に着いた皆が盃を掲げる。
上座の卓には男と友人。
下座の卓には護衛や弟子達が並んで座っている。]
「──乾杯。」
[一息に飲めば、僅かに喉が熱くなる。
やがて、山海の珍味が卓に運ばれてきた。]
皆が贅沢に慣れてしまうと困るんだが。
[並ぶ皿の多さにいつもながら驚かされつつ、形ばかりは恐縮しておく。]
「此処にいる貴方達は私の客人だ。
持て成されるのが仕事だよ。
さ、食べて食べて。
お肌にも健康にもとっても良いのだから。」
[そうして歓迎の宴は始まった。
干した盃にはすぐに酒が満たされる。]
インクにしては妙に茶色い、
粘性のある物体が
拙い文を描いている。
こ んばんは。
だれ か そこに います か。
ここは しず か な うみ。
いまは あめが ふ り やまぬ しま。
かみ なり が なります。
あめが せ かいを しろく します。
いつ も は しずか な うみも
いまごろは きっ と あらしの うみ
この あ らし のはて に だれ か いますか?
泥の男 ガァド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
これは、土産の酒は明日にした方がよさそうだな。
[男が肩を竦めるのに対し、友人はにやりと笑ってみせた。
稀なる美貌であれば、多少行儀がよくない表情でも許されてしまうらしい。]
「儡兄ってば耄碌したの。」
年寄り扱いするなよ。
そう年が違うわけでもない癖に。
[そう軽口を叩き合い、笑い合う。
うまく乗せられた気がするが、煙霞山から持ってきた酒も空ける事となった。]
■ は いま きのあなのなか に います
きの あなのなか で これを かきます
■は どろ から う まれ た ものだから
きれいな みず が にがてだから
さわれ ないから にげて にげて ここにいます
にげた から あんぜ ん です
あなたの いるところ は あんぜんですか
あらし は よくないじ けんを
おこします から
あなた の いるば しょに あらし が
あり ま せん ように
泥の男 ガァド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
■ は ■■を ■■■■ほしく ないので
■は ものがたり を おくり ます
ものがたり を ■■にみて ■■■て
きづい■ほ しくて
■を■■れないで ほしいので
なの で あなた にも
ものが たりが とどくと うれしいです
泥の男 ガァド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
メッセージの裏側には物語が書かれている。
どうやら、裏側の文字を書いた人とは違うようだ。
「ぜえっ、はあっ…!う、ウィル!あなた一体何をやらかしたんですか!!!」
「まてまてっ…!!! 私はただ酒場で聞き込みをしていただけだ!!!何もしてない!!!」
たくさんの暴漢に追い立てられながら、
ふたりは何度も曲がり道を曲がり、追手を振り切ろうとする。
全く、おかしい。何に彼らがおこっているのか
わからないままにげていく。 たとえば 今の探しびとに何か?と思うところもあったが…それにしてはわけもわからず追われている
泥の男 ガァド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
…紙の隅に走り書きがある
な ぜか いきる だけで
じけん におわれ る ものが いま す
じけん から かくれる ために
にげるのは ずる でしょ うか?
泥の男 ガァド から "トラッシュ" イオニス へ、秘密のやり取りが行われました。
――旦那、まさかとは思うが、これ、
火急の手紙とかじゃないだろうな!?
印紙の図柄の中で咲き誇る淡いオレンジの長春花は、まさかそんな非日常が起こってる訳じゃないさなんて言ってるようでもあったが……なんて訳の分からないことを考えたくらいには、この時の俺は相当に焦っていた。
急いで封筒の中身を確認し、便箋上の薄らとした凹みの間を流れるような、相変わらずの自由闊達な筆遣いの文を読み進めて――これが別に急ぎの手紙でも何でもなかったと分かり、盛大に安堵の溜息を零したんだった。ああ、恥ずかしい。
封筒をよくよく見れば宛先の住所はきちんと「トーチバード」になっていたから、俺がもうこの王国を発って飛び回っている可能性も考慮しての手紙なんだろう。
――旦那、まさかとは思うが、これ、
火急の手紙とかじゃないだろうな!?
印紙の絵柄として目に映る淡いオレンジの長春花は、まさかそんな非日常が起こってる訳ないじゃないさなんて言ってるようでもあったが……なんて訳の分からないことを考えたくらいには、この時の俺は相当に焦っていた。
急いで封筒の中身を確認し、便箋上の薄らとした凹みの間を流れるような、相変わらずの自由闊達な筆遣いの文を読み進めて――これが別に急ぎの手紙でも何でもなかったと分かり、盛大に安堵の溜息を零したんだった。ああ、恥ずかしい。
封筒をよくよく見れば宛先の住所はきちんと「トーチバード」になっていたから、俺がもうこの王国を発って飛び回っている可能性も考慮しての手紙なんだろう。
もう一つの瓶の手紙は読めない文字がいっぱい書いてあったので、ベアーはマチェットのところに向かった。
「まちぇっと!てがみかいたのすげーあたまいいやつだ!」
マチェットが何事かと思うよりも早く、手紙を判決等速報用手持幡(通称びろーん)のように掲げながら走ってくるベアーの姿が目に入った。
一瞬、手紙に 勝訴 という文字が見えた気がしたが、それは全くの気のせいであった。
「おれぜんぜんよめないから、おれのかわりによんで!」
勝訴どころではなく敗訴した後だった。
急ぎではないとはいえ要望がひとつ載せられている手紙でもあったんだが、ここで時間に追われるあまり文字通りの乱筆乱文でも送っちまえば、それこそ旦那への礼を欠くだろう。
それに――それこそ酒を片手に語らうくらいに、もうちょっと落ち着いた時に綴りたい答えもある。
そんな訳で、気長に待ってくれるっていう旦那の言葉に甘える形で、返信を綴るのは次の停泊時に持ち越すことにした。
……しかしまさかこのお偉い上級妖魔の旦那が、ちっぽけな人間の俺にここまで気遣いをみせてくれる御仁とは、なあ。俺は本当に良い縁に巡り合えてるんだろう。
……ああ、あの“元冒険者”の昔話を聞かされた時。
俺はそれでも、大層暗い顔ひとつ零して、
黙り込んじまうくらいのことはあったんだ。
それが、あの“元お針子”の昔話を聞かされた時には
流石に内心凍り付きはしたが、結局、
労りながら気丈に笑うなんて芸当ができちまった。
この間の時の流れは、長いようでも短いようでもあった気がするが――何れにしても、嘘に嘘を重ねて鎧われた結果がありありと見えるような、そんな変化がここにはあったんだろう。
ああ、長い時をのんびりと生き続けている妖魔のお方には、数年での人間の変化なんて無常の儚さに見えちまうもんなのかね……。
仕方ない、とマチェットは膝にベアーを乗せながら手紙を読んだ。
ゲッカというところに住む蓬儡という人物が書いたということ。
招待してくれたのでここに来たいということ。
ゲッカではベアーという名前は熊という生き物の名前だということ。
熊という生き物のおもちゃを持って行きたいということ。
欲しいものがあったら教えてほしいということ。
要約しながら説明すると、ベアーはほわーとした顔でマチェットの顔を見上げた。
「おれ、くまなんだ?」
『どうやらそのようだね』
マチェットの知る範囲ではベアーはウノレヌという生き物のキメラだったはずだ。もしかするとウノレヌはゲッカでは熊と呼ばれているのかもしれない。
新たな学びを得てマチェットは唸った。
『もしかするとこの封筒に貼られた切手の生き物が熊なのかもしれない』
マチェットの指差した先にはウオを咥える毛むくじゃらの黒い生き物の絵が描いてあった。
「おれとぜんぜんにてない!へんなの」
ケラケラと笑って切手とマチェットを見比べる。
「おれよりまちぇっとににてるな、くま」
マチェットの腕に生えるビロードのような黒い毛のほうが、この熊という生き物に似ているとベアーは思ったのだ。
『そうかもしれないね』
本当は違うことを知っているが、マチェットは真相をベアー自身が探り当てるまで黙っていようと思った。
『ところで、ベアーは何が欲しいんだい?』
お土産に熊のおもちゃを持って行きたいという一文を指さしながらマチェットは聞いた。
まあ、それでもさ。
イオニスに昨日出せた手紙の中では、俺はすこしだけ、己の根の暗い部分を曝け出したんだよ。
果たしてそれが正しかったのかって、迷った時も、ありはしたが……。
多分、いや、本当に。
あれは、正しかったんだと思う――いや、「正しい」から良いってもんでもない、か。少なくとも、一歩、前には進めた。
俺がそう思えるようになったのは、あの手紙の中での“ガード”からの忠告があったお陰だ。
エナガの前でなんだかんだ吐き出せたのは、“彼女”のほうから半ば強引に嘘の鎧を引っぺがされたこともあってではあったんだが……。
これからはもう少し、もっと、自分から、「笑えない」自分を見せていけたらいい。
……そうして自分を上手く赦せるようになったなら、
あの日、義母さんからの何気ない帰郷の誘いを
仕事忙しさに断った結果、生き延びてしまった、
そんな自分を、赦せるようになったなら、
罪なき命、守るべき命たちと共に生きる友の元にも、嘘じゃない笑みと共に帰れるんだろうか。
――……、それにしても、本当に。
きな臭い空気は漂っていた筈なのに、
どうにも、騒がしさがない。
そうふっと想いながら、俺は1通の返信のみを、発着場内のポストに投函してきた。
もう、出立予定時刻は間近だ。
「ほしいものか……うーん……」
ベアーはおもちゃが好きだ、とは言ってもベアーが遊ぶおもちゃは育成施設の子供たちが使っていたものだとか、研究員が作る回る!光る!音が鳴る!DX玩具くらいしかないのだが……。
「うーんとな……ほんがいい!ものがたりの!ものがたりのさんこーになるの!
あとはー、ふわふわのにんぎょう!おれのもってたの、いぬぬぬーぬとぬーぬいにあげたから……おれもふわふわのにんぎょうほしい!
あとねー……」
フンスフンスと鼻息荒く欲しいものを次々とあげていくベアー。
よっぽど外からのお土産に夢が膨らんでいるのだろう。
『あんまりいっぱいほしがると困らせてしまうよ』
このままでは延々とほしいものを挙げていきそうだ。
マチェットはやんわりとベアーを止めた。
『二つくらいにしておこう?』
そう言うとベアーはきょとんとした後に頷いた。
「じゃあ、じゃあ、ものがたりのほんとふわふわのにんぎょうにする!
へへへ、すてあおわってぶんつーできるようになったらほうがいにてがみかくんだ!」
ステアが終わった時の楽しみがまた増えてしまった。
「そうだ!おれのものがたり、ほうがいにもみせてやるんだ!」
わくわくが止まらないのか、マチェットの膝から勢いよく飛び降りるベアー。
「もっかいものがりのほんよんで、ものがたりかんがえなきゃ!」
じゃーなーと手を振ってせわしなく走り去るベアーの背中を、マチェットは手紙と交互に見た。
大事なものを忘れていってしまったがいいのだろうか?
そう思いながらマチェットはもう一度手紙に目を通す。
……そう、幸いなことに通信障害は起きていない。
ならばダメもと、とマチェットは端末に向かった。
/*
孫……。(ちがう)
山ほどあげようねってなってしまう。
熊の玩具=テディーベアにしようかと考えておりました。
大きいのにしようね……。
電子書簡を紙媒体の手紙にするサービスを経由して封書の住所に届けられた手紙だ。
住所と個人の連絡先に紐づけられていれば、個人が持っている通信機器に電子書簡が届くかもしれない。
『蓬儡様へ
初めまして、ベアーの友人です。
この度はベアーの招待状に返信をしてくださりありがとうございます。
現在リジェットXはステアと呼ばれる混沌嵐のため定期船が動かず、手紙のやり取りができない状態にあります。
この手紙は紙媒体変換サービスを使用して送っています。
これは文通をしたいというベアーの意志を介さない、ベアーの友人としての個人的な手紙です。』
『ベアーは絵本とぬいぐるみが欲しいと言っていました。
ベアーは最近ようやく簡単な読み書きができるようになったばかりです、ヒューマンの子供が読むような絵本ならきっと喜ぶと思います。
蓬儡様がリジェットXに来てくれることをベアーは大変喜んでいます。
楽しみにしていた文通ができない状態でありながらも、ステアが終わったら手紙を書くと、とても楽しみにしています。
そこで、もしリジェットXに来られるときには手紙で行く日時を知らせるのではなく、この手紙の連絡先にこっそり教えて貰えないでしょうか?
ベアーをびっくりさせてやりたいのです。
厚かましい申し出だと思いますが、何卒宜しくお願いします。
ベアーの招待状に返事をくれたあなたが良き人だと信じて。
ベアーの友人より』
今着ているそれは見せたかった服ではないんだろう?
[楽に合わせて舞う踊り子達を眺めながら友人に問う。
弟子達はうつらうつらとして、その度に気付いて目を擦ったり口元を抑えたりしている。
行儀はよくないが、強行軍で疲れた上に入浴を済ませ、腹も適度に膨れてきたなら致し方ない部分はある。]
「あ、分かる?」
あぁ、勿論それも美しいが。
わざわざ足を運ばせる程ではない。
それに気に入った服を汚れると分かっていて着るとは思えない。
「言うじゃないか。」
[齊芸鵬は口の端を上げる。
彼の纏う衣類は、全てお抱えの職人に作らせた特注品だ。
来客への応対時は大抵、風や水が飛び交う。
勿論、彼程の格の高い妖魔であれば、汚れぬようにする術はあるだろうが。]
「お楽しみは明日にね。
あ、儡兄達にも着せるからその心算で。」
……は?
[いつぞやの悪夢を思い出して男は硬直し、すぐに確認する。]
それは、男物だろうな?
「美は性別を超えるものなんだよ。
なーんて、嘘、嘘。
ちゃんと着られるものにするってば。」
[酒の入った友人はけらけらと笑う。
化粧を施され、髪を弄られ、引っかけたら破れてしまいそうな繊細なレースのふんだんにあしらわれたコルセット付きドレスに身を包み、ハイヒールを履いてランウェイを歩かされた記憶が蘇る。
鍛え上げられた体幹で何とかねじ伏せたが、あれは二度と味わいたくない。]
あれは、何かの拷問かと思ったぞ……。
「そんなまさか。
私なんて日常使いしているのに。
まぁ、慣れていないなら仕方ないかもね。」
[確かに、彼はいつも踵の高い靴を履いている気がする。
けれど日常使いなど正気か、と男は心身ともに引いてしまった。
椅子ごと引く様子に、齊芸鵬は失礼な、と頬を膨らませる。
同じ
心の指標となるものが異なるのだから、致し方ない事ではあるのだが。]
……お手柔らかに頼む。
[やがて弟子が寝落ちる頃、宴はお開きとなった。
護衛の者達が彼らを担ぎ、宛がわれた部屋の寝台に寝かせる。
何も知らないですやすやと寝息を立てている彼らは明日にはどうなる事か。]
さて、私達も休もう。
[護衛に左右を挟まれた男の部屋は、景色の良い特等の部屋だ。
男も眠気を覚えており、その日はすぐに床に就く事となった。]
わたしの知っていること。
わたしの見ている世界。
わたしの感じるもの。
それらはきっとひどく狭くて小さいもの。
然程大きくはない小惑星の、更に狭い家。
ここにあるものが今の私にあるもの全て。
何も知れないまま来る終焉を受け入れた。
「 ゲホッ、…… 手紙、 」
今はなんだか、この場所の良いところが
なにひとつうまく浮かばずに終わる、
そんな気がしてしまって。
もう少し、よいことを、良いところを
考えられるようになったら、返事しよう。
枕元にでも置いておいたら、夢の中で
他の小惑星の夢でも見られようか。
ゲッカから来た封筒は、なにやらどこか
不思議で落ち着くような香りがしたもの。
そう思いつつ、丁寧に手紙を畳んで──
「 ──っ、 ……う゛、ぐぅ…… 」
雨垂れが戸を打つようにざわざわと、
頭への痛みがつのる。視界がぐらつく。
頭を抱えるよう蹲って、胸の奥から熱いものが
なにか込み上げてきて。抵抗の間もなく戻した。
ぜえ、ひゅうと不規則な呼吸を繰り返し、
現状を理解しようとつとめるけれども
今のわたしにそのような余裕はないに等しくて。
また、ごぼりと鉄の味が通っていった。
「 っ゛え、…… はっ、は、 っぶ゛ 」
掃除しないとたぶんこれは染みになって、
こんなに酷くなったことって、薬切れたっけ、
気持ちわるい、怠い、痛い、 どうして、
数多の疑問が浮かんでは棄却されて、
身体を支えるのが難しくなって、倒れ込む。
意識を保てたのはそこまで。
次に目が覚めたら、きっと目の前は惨状だろう。
目を覚ますことができれば、よいのだけれど!
/*
>>102下段ーーーーーーーーー!!
俺も墓下行きだからこの後どうなるかすぐにわかっちゃうんだよな……どきどき……
マーチェンド
この手紙を読んでる時は、何処か遠い空の下でしょうか。
余裕なんてないかもだけど
どうしても、あなたにお礼が言いたかった。
だから、ペンを取りました。
昔の事を思い出して、沈んでいたから
遠くにいるあなたが、私の事を気遣ってくれて。
とても、救われる気持ちになりました。
"トラッシュ" イオニス から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
あなたと出会ってから。
あなたが沢山声をかけてくれたから
私はとても救われました。
近くにいる人たちも気を遣ってくれるけれど。
でも、遠くにいる人が心配をしてくれた事。
案じてくれる人がいるという事。
それを教えてくれた事。
死んでしまった仲間たちもきっと
あなたのように私を案じてくれているのだと
そう思えたら、涙が出るくらいに嬉しかった。
"トラッシュ" イオニス から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
"トラッシュ" イオニス から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
本当はもっといろいろ書きたいけれど。
言葉が、思い浮かびませんでした。
あなたの船がどんな壮麗な威容になったのか
会える日と一緒に、楽しみにしておきますね。
イオニス
"トラッシュ" イオニス から 越境貿易商 マーチェンド へ、秘密のやり取りが行われました。
本当はもっといろいろ書きたかった。
あのお店のアップルパイ以外の料理微妙だったでしょ、とか。
とりとめのない話を、もっと綴りたかったけれど。
でも言葉が出てこなかった。感謝の言葉以外は。
いくども いくども ■■■をつづる
なんども なんども ■■■をつめる
おわってほしくなかった
どうしようもなく おわってしまった
■に ■■■ ほしかった
■■■■■の けつまつを
「……いつかきっと」
お墓参り、出来るといいなって思えるくらいには回復して。
視界に映るのは、瓶の中に入ってる"招待状"。
いままで、選ぶことをたくさん失敗してきたけれど。
でも、この招待状を処分しなかったのはきっと
そして、この招待状を拾い上げたことすらも、
今考えてみても、"正解"だったと確信できた。
無数の遺書が出来上がった頃
それを入れるべき小瓶が足りないということに
泥は今になって ようやく気づく
周りを見て、完成品が2つと…おや
一つの小瓶がまだ開けられていないことに気がつく
どうやら 書く方に意識が向いていて
読む方はそのがらんどうの頭から抜けていたようだった
……雨脚はどんどん強くなっていく。
今読んでいると、小瓶の回収や手紙を送り出すことが難しくなりそうだ。
泥は、完成品だけを抱えて、清濁合わさる雨の中に身を這い出した
清い雨が 体を溶かす
淀んだ地面が 泥の体を再構築する
とけてはもどる ちってはあつまる
ひしゃげたひめいをあげながら
それでも ■かへととどく うみへとむかう
/*
体調が悪かったことを書くのは憚られたし
メモは置かないでおこう。
最終日、ガァドさんのお手紙、どんな気持ちで受け取れるだろ。
多分、一杯回復してるだろうし…。
…たどり着いた砂浜は いつより波がたかく
そして潮に満ちていた。何度も寄せては返す波をみて
まだ使える小瓶はないかと探す。
……波が荒々しいおかげで、いつもより漂着物が多い。
使えそうなもののいくつかを拾い上げて、泥の体に飲み込む。
そして、完成していた2つの返事と
一通だけ混ざっていた誰かのための物語を小瓶につめて
その荒れ狂う波へと放り投げたのだ。
「 もしもわたしたちをおぼえているひとが
だれもいなくなったならば
それはなかったのとおなじでしょうか 」
何かにくっついて来てしまったのか、
端に血痕のついた弱々しい筆致のメモが
ひらりと一枚、落ちていた。
疼躊化葬 コルデリア から 机城勤務 コルンバ へ、秘密のやり取りが行われました。
これは、エンジニア・ヘロンが「革命」について俺に密かに知らせてからの遣り取りだ。
「なあ、ヘロン姐さん。
どうしてわざわざ俺にこんなことまで話したんだ?
俺に実は王の連中の息が掛かっているとか、
そうでなくとも情報を漏らすとか、考えなかったのか」
「……君は“夜の女王”との繋がりを疑われる方を
心配した方がいいぞ。全く。
まあそうだな。まず、君の口は堅いと見込んで。
そして部外者である君に、この国で起こることを、
“地を這う”者の口から伝えておきたかった――
といった理由だと考えてくれ」
「私はな、別に“夜の女王”の構成員そのものじゃない。
とはいえ――…まあ、察してくれ。
このトーチバードも入念に調べられるだろうとは思うが、
“夜の女王”と繋がるものは何一つ組み込んでいないから、
その点は安心してくれていい。勿論、クロウの方もな」
……俺は別に、革命の争乱を望んでいる訳じゃ、ない。
過去に訪れたリージョンで、実際に革命に巻き込まれたことがある身としては、望めない。
硝煙。銃声。炎。怒号と悲鳴。―――――。
どうしたって、ああいった争いごととその先にある犠牲は、好めそうになりやしない。
ただそれでも、この地に根付きながらも虐げられている民の中には。
その生き辛さから、愛する者への想いから、王国との戦いを望んだ民もいる訳で――。
……トーチバードに積み込んだ土産物は、大丈夫だ。「民の一部」を原料に組み込んだ素材を扱っていない店から購入している。
生地や資材の産地を直接訪ねられた訳じゃないが――エナガやヘロンの話から、幾つかの店舗について教えて貰えたからな。
そしてそれは、今ここを飛び立とうとしている
それまでの特に代わり映えのしない鋼鉄の輸送機は、
いまや灯火のごときオレンジの“羽毛”で胴部を覆い、燦燦と輝く金と紅蓮の“風切羽”を纏った翼で空を翔けるモノとなった。
フロント部分に一対の可愛らしい鳥の目のボタンがついちまっているのは、まあ、うん、妥協した。
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