錬金術師 ラヴェーナ

[ 『アッシャー祭の日に結ばれた恋人同士は末永く結ばれる』
　
　物心ついた時から聞かされてきた、
　この村で生まれ育った人間なら
　誰しも知っているような習わし。]

錬金術師 ラヴェーナ

[――そんなの、嘘ばっかり。]

錬金術師 ラヴェーナ

[ボクの両親は二人ともこの村の生まれで
やっぱりお祭りで結ばれてそのまま結婚したんだって。
貰った首飾りをまんざらでもなさそうに見せながら
思い出話を聞かせてくれた母さんの記憶も、
朧気だけど記憶に残っている。

本当に小さかった頃は、
ボクも村の普通の女の子みたいに
――あるいは母さんみたいに。

そのうち誰かいい人が出来て、お嫁さんになるんだって
漠然と思ってたりしたかな。]

錬金術師 ラヴェーナ

[でも――どこにでもあるような幸せな家庭ってやつは
ボクが7つの時に脆くも崩れ去ってしまった。

いつからか夫婦喧嘩の絶えなかった両親。
とうとう母さんはボクと父さんを残して
どこか遠くに行ってしまった。

ちょっとした魔法が使えて、村で錬金術を利用して
雑貨屋みたいなことを営んでいた父さんは、
魔法を教えながら男手ひとつでボクを育ててくれた。

そのことには勿論感謝しているけれど、
父さんがわざわざ町まで仕事だって行って向かって
朝に香水の匂いをさせて帰ってくること、ちょくちょくあって。
知らない女の人と腕を組んで歩いてたこと。
狭い村だから噂が回ってくるのも早くって、ボクは知ってる。

そのことが直接的な不仲の原因になったのか、
そこまではもう分かんないけどさ。]

錬金術師 ラヴェーナ

[そんな父さんも2年前に亡くなって。
19才になったボクは父さんのやってたお店を継いで
村の片隅でひっそりと錬金術師をやっている。

年頃の男女は意中の相手に告白する
算段を建ててたりするんだろうけど
当然ボクにそんな相手がいるわけもなくて。

このシーズンはただただ浮かれる若人が
首飾りに使う金属や魔法石、
そのほかなんやかんやを錬成する稼ぎ時ってわけ。

とは言ってももう前日だからね。
ピークは大体数日前に過ぎて、
今日はカウンターでのんびりしているつもりのボクだ。]

錬金術師 ラヴェーナ

よいしょーっと。


[自宅兼店のドアを開け、
「ラヴの工房」と書かれた
木製の看板をオープンにする。

ラヴってのはボクの愛称。
父さんがそう呼んでたから、
村でも親しかったり付き合いがあったり、
一部の人はそう呼んでるかも。

でもなんかラブの工房って、
何となく惚れ薬でも作りそうな響きだよね。
ボクが愛を語るなんてちゃんちゃらおかしいし、
内実は至って健全なんですけど。]

錬金術師 ラヴェーナ

いっそ本当に惚れ薬、…でも作れたらいいのになあ。


[そんなものあれば、首飾りを贈り合うなんて
不確かなジンクスだかおまじないだかより
よほど良いのにな〜って。

とりとめのないぼやきを零し、
んーーー、と店の前で大きく伸びをした。**]

錬金術師 ラヴェーナ

回想：シュクルについて

[一つ下のシュクルは
小さいころからよく父さんの魔法を見に
ウチの工房まで通っていたから
個人としても店としても馴染みの相手で、今も仲は良好だ。>>33

元気の出る飴、っていうのがどういう種類の魔法なのか
ボクとしても興味はあって色々聞いてみたりしたっけ。

すごいすごいと後をついて来る様子は
何だか小動物みたいで、悪い気はしなかったし。

もし妹が居たらこんな感じなのかなあって思ったりする。
まあ、その割には成長にするにつれて
あちこちボクを追い越していったけれどもね！

父さんが死んだ時も大層ショックだったらしくて
まるで自分のことのように悲しんでくれたものだった。*]

錬金術師 ラヴェーナ

回想：父の死

[――そう、父さんが死んだ、17歳のある日。

病気だった。
調子悪そうにしてるのは気にしてたけど
すぐ治るよって言って笑って。
もう治らないんだってこと、
ギリギリまでボクには告げてくれなかった。

母さんが出て行った日もやっぱりショックだったけど
まだ父さんがいてくれた。
でも、父さんまで亡くなってしまって
まるで世界で一人ぼっちになってしまったような気がして。]

錬金術師 ラヴェーナ

[朝から晩までぼーっとしてることが増えて。
それでも仕事はしなきゃいけないから
重い荷物を抱えて村の中を歩いている時に
うっかり足を滑らせて階段から落ちそうになったりした。

あの時助けてくれたのは誰だったかな。
男の人、だったと思う。

その手が少しだけ父さんと重なって、
泣きそうになってしまったから。**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　店→広場　―

[暫く店番をしていたものの
特に客が訪れるわけでもなく暇を持て余していた。

まあ、村人の多くは祭りの準備に駆り出されているだろうし
店を持つ者はそちらの準備もある。
当然と言えば当然かもしれない。
それでも例年駆け込んでくる者が何人かはいるものだが
今年はそういうこともないのかも。

この様子なら店を離れても
さほど問題はなさそうな気もする。
ならば今のうちに買い出しにでも行こうかな。

そんな風に思い、鞄を持つと
札をクローズにひっくり返し
店を出て、大通りの方に向かって歩き出した。]

錬金術師 ラヴェーナ

[祭りのメイン会場である中央広場は
主に村の男衆たちが準備に勤しんでおり
賑わっているようだった。

首飾り云々については眉唾だと思っているけれど、
お祭り自体は嫌いじゃない。お客も増えるし。
ラヴェーナにとってのアッシャー祭は美味しい食べ物や
この時期だけ並ぶ物珍しい品を見て回る為のもので
雰囲気そのものは結構好きだった。

そう、この飾りつけられた中央広場も、
今の時期だけの特別、春の訪れって感じでさ。

ふと色とりどりの花のモニュメントが目に入り、目を細める。>>30]

錬金術師 ラヴェーナ

あ、コウにいじゃない。
今日はお祭りのお手伝い？精が出るね。

[その傍で青空を仰いでいる青年が
見知った顔だったのでつい声をかけた。>>31

菓子屋、暁亭の店主ことコウセツ。
昔からこの村にはいるけど、
どこか遠くの血が混じってるんだろうなって人。
そのへんボクはよくわかんないけどね。

近所のお兄さんって感じだった彼の作る
お菓子を初めて見たのは
ボクがまだ子供の頃だったかな。

父さんと出かけた時に出店でお菓子を売ってるの見かけて
当時から珍しいものや新しいものが好きだったボクは
なにこれ見たことない！って
目を輝かせて食いついたんだった。]

錬金術師 ラヴェーナ

なにこれ！おいしいね！
なんて名前のお菓子なの！？


[黒いクリームみたいなものが
いっぱい詰まったモチモチのそれは
甘いけどどこか素朴で上品な味で、
でもとっても美味しかった。
すっかり気にいって以来、ボクは彼の店の常連だと言って良い。

だから彼が念願叶ってお店を構えたんだって知った時
ボクはとっても喜んでお祝いの品――
錬金術で作った特製の鍋を送っただろう。
喜んでもらえてたらいんだけど。]

錬金術師 ラヴェーナ

ね、明日はまた出店出すの？
新作のお菓子とかあったりする？


[ともあれ、
毎年アッシャー祭では屋台を出しているから
今年もきっとそうなのだろう、なんて思い込んでいるボクは
呑気にそんなことを尋ねる。

まさか彼が　今年こそは、なんて思っている
ことなんて知る由もないのだけれど。**]

錬金術師 ラヴェーナ

ダイフク！これ好きかも！

[幸せを呼ぶと言うその菓子は
ほっぺたのように柔らかくて丸くて
確かに何となく"幸せ"って感じの形状をしていた。>>57

喜ぶボクに気を良くしたのか、
彼はちょくちょく工房まで新作を届けてくれる。
それはボクが子供のころからだから、
もう何年も続いていて、日々の楽しみの一つだ。

その対価として新作の改良に協力する、
いわばうぃんうぃんの関係ってワケ。>>58

鍋を贈ったのはせめてものお返し。
これでもっと美味しいお菓子を作ってね！
（そしてボクにも頂戴ね！）という意味を含め。]

錬金術師 ラヴェーナ

[そんなコウにいに何気なく、
いつものように店を出すのかと尋ねてみた。

当然肯定が返って来るものと思っていたのに
首を横に振られて、
ボクは一瞬ぽかんと呆けたような顔をする。>>60]

そうなんだ。
えー新作楽しみにしてたのに、残念。

[当たり障りのない返しをしつつも。

祭りを楽しむ。
って、文字通り祭りを見て回るって意味なのかな。
でも、今年になって急にお祭りに参加するって言い出した、それってさつまり……

ぐるぐると思考の中に色んなものが巡って、
どこかバツ悪そうに予防線を張る彼に
一拍遅れてううん、と首を横に振った。]

錬金術師 ラヴェーナ

いや、別に笑ったりはしないけどさ。
………それって………ええっと………

[何となく、妙にどぎまぎして言い淀んでしまう。
だって彼はいつもこのお祭りでは裏方で、
ボクが知る限り積極的に誰かと回ってる様子を見たことない。

だからなんか、"そういうもの"なのかなって思ってた。
この村のお祭りにまつわるあれこれとか、
興味ない側の人間なのかなって。勝手に。だから。]

錬金術師 ラヴェーナ

…………それってつまり……
誰かと踊るアテがある…ってコト？


[じいぃ、とその目を見つめる。
つまり今年になって好きな人が出来た、
ってことなのかなって。さ。**]

錬金術師 ラヴェーナ

[二年前、父さんが死んで沈み込んでいた頃のボクは
あまり碌に食事も喉を通らなくて
下手したら一日一食、みたいな生活してて
端から見たら随分不健康に見えてたかも。

そんな工房にそっと差し入れられたお菓子。
箱の中に綺麗に並べられた白くて丸いそれが、
誰からのものなのかはすぐにわかった。＞>74
工房の片隅で膝を抱えて齧ったそれは
あの日と同じ甘くて暖かい味がした。]

……美味しい。

[甘いお菓子はどうしようもない寂しさを
優しく包み込んでくれるようだった。

ほろほろと涙を流しながらダイフクを頬張る、
そんな夜があったっけな。]

錬金術師 ラヴェーナ

[そんな死の悲しみも、やがて時間とともに癒えて。
多少持ち直した頃に改めて彼の店に
お礼をしに行ったっけな。]

あのさ。あの節はありがとね。
コウにいの差し入れがなかったら
ボクあのまま飢えて倒れてたかも。

[なんて、冗談交じりに言えるくらいには
元気になったことが伝わればいいと思って。]

錬金術師 ラヴェーナ

[まあ、そんなこともありましたが。

ボクに新作のお菓子をくれるよりも大事なことってある！？>>74
そんな思いで問えば、彼は露骨にギクリと肩を揺らした。
分かりやすい。分りやすすぎる。>>75
自然、眼差しがもの言いたげな色を帯び。]

……ふぅぅ〜〜〜〜〜ん………
コウにい、誤魔化し下手すぎ。

[ふーーん。ふーーーーん。
今のところはないけど、誘いたい子は居る。と。
いや、いいんですよ。別に？

コウにいだって今年で27？28？とにかくそんくらいで
村の中じゃもう結婚して子持ちの人だっている年。
今まで浮いた噂のひとつもなかったのが不思議なくらいで
相手だってきっと村の女の子の誰かなんじゃないの。
長年お世話になってる彼に春が来たのなら、
きっともろ手をあげて祝福すべきだ。]

錬金術師 ラヴェーナ

[そうは思うのだけど…なんか……何となく面白くない。

幼稚で自分勝手なわがままだって分かってるけど
何だか置いてけぼりを喰らった気分だ。

そんな気持ちが前面に出てしまい
彼を見つめる眼差しはどこかじっとりしていたと思う。]

錬金術師 ラヴェーナ

[やがて持ち直したらしい彼が咳ばらいをし
ようやくこちらを見る。]

………ふーん。
相手の子がダンス下手でも気にしないといいね。

は？ボク？

[どこか不貞腐れたような口ぶりは、
こちらに水を向けられて一転、驚きに変わる。
いや、それこそよく分かってるんじゃない？
お祭りでは大体いつも一人でお菓子買いに来てるんだし。]

錬金術師 ラヴェーナ

ないない。
ボクにあるわけないじゃん。浮いた話とか。
第一そんな物好きいないでしょ。

[ボク自身が恋愛なんて…と思ってるのを抜きにしても
同世代ならいくらでもかわいい子がいる。
可愛いシュクルに、女の子らしいフローラに、美人なリトリコ先生。
こんな大して色気もない女、あえて誘う男いないでしょ。

肩を竦め、こともなげに答えた。**]

錬金術師 ラヴェーナ

[錬金術には理屈がある。

どんなに荒唐無稽に見えたって、
ほんとは厳密な計算の上でなりたっていて、
そこには必然と安心感があるんだ。

恋愛なんてさ。人の気持ちなんて。
目に見えない、不確かなもの。
永遠だと信じた次の日には
なかったことにしてしまえる、その程度のもの。
そんなのに心を預けて、振り回されて一喜一憂して、人生を左右されてばかみたい。

確かめようがないものなら、
最初から全部「ない」ことにしてしまった方が、シンプルでめんどくさくない。

そうでしょう？]

錬金術師 ラヴェーナ

[そう、ボクがやつれていた際は
随分と心配をかけてしまった。
毎日お菓子くれるならそれもいいかもね、
なんて笑いあったのが懐かしい。

彼の隣人としての温かさ、
面倒見の良さをボクは心地よく感じていて、
ずっと続いていくような気さえしてた。

肩を竦めて見せれば、
さっきまでなんだか気まずそうにしていたコウにいが
こちらに向き直る。]

錬金術師 ラヴェーナ

ん？

[ボクを誘う人なんて、ずっといなかったんだから今年もいないよ。
単純な経験則だ。
なのに、コウにいは怪訝な顔でボクを見る。
なにさその反応。
何言ってるんだはこっちの台詞なんだけど、と
その顔を見つめかえし。

その顔が至極真剣だったので、
なんとなくむずむずしてしまって。
じんわりと落ち着かないのを誤魔化すように、
先程と反対に目を逸らした。]

錬金術師 ラヴェーナ

...はは。当然って。
なんの根拠があって言ってるのさ。
そういうお世辞いいから。

[苦笑しながら口にするのは
我ながら可愛くない返し。

たぶんこういう場面で素直にはにかんで
ありがとうって言うのがかわいい女の子ってやつなんだろな〜。
まあそんなものなれないだろうし、別にいいんだけどさ。

でも、まるでお説教みたいに続いた言葉に
ボクはちょっとムッとして、
またその顔を睨むように見た。

なにそれ。
ちょーっと年上だからって大人ぶっちゃってさ。
適当なこと言わないでよね。
拗ねたように唇を尖らせる。]

錬金術師 ラヴェーナ

鈍感もなにも事実だし。
じゃ、そんな人連れてきてみてよ。
そしたら考えも改めるけど？

[いや無茶だろな、って思いながら口にする
売り言葉に買い言葉みたいな言い分は
我ながら本当子供じみていて。

自分でもなんでこんなことでむきになってるのか
よくわからなかったけど。]

錬金術師 ラヴェーナ

......自分だってボクのことなんて眼中ないくせに


[不貞腐れたような顔のまま、ぽろ、と零れる**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　回想：アロイスと　―

んー？いらっしゃい、アロイス。
今日もお使い？

[それは二週間ほど前の事。
店の扉を潜った赤毛の青年に、
いつものようにボクは応対した。>>77]

元気だよぉ。
この時期は稼ぎ時だから気張んないと。
はいはい、いつものやつね。ちょっとお待ちー。

[アロイス…と言うか街の職人さんたちは
度々仕事の関係で訪れるから
父さんの代からのお得意様だと言ってもいい。
ねぎらいの言葉に軽く笑って返し、
手元の紙にさらさらとメモを走らせる。

術に使う材料を奥の倉庫から取ってこようと
足を向けかけた所で、続いた注文に足を止めた。]

錬金術師 ラヴェーナ

……ほーん？

[ぱちぱちと瞬きをする。
このシーズンはよくある系統の注文。
それが彼の口から出てくるとは。
意外、と言う程でもなかったが、
そうなのか、と思うと何だか不思議な気持ちでもある。

ともあれオーダーの内容を聞き、頷いて。]

はいよ。勿論承りますとも。
青紫の鉱石かー。
そしたらラピスラズリとか、アイオライトとかどうかな。
ラピスラズリは神様につながる
幸運を齎すって言われてる石。
アイオライトは不安を取り払ってくれる石…って言われてるよ。

自分で加工したいなら少し大きめの奴の方がいいかな。
お値段は鎖入れてこれくらいで。

錬金術師 ラヴェーナ

[ま、どれもこれもあくまでおまじないの域を出ず、
効果は人による。ってやつなんだけどさ。
そこはボクも商売なので、一応そのテの知識は持ってるのだ。

そのほかにもいくつか見本を見せてみて、
アロイスが気に入った石があればそれを使うことだろう。]

……しかし、そっかあ。
アロイスもいよいよか。

[ボクは首飾りのなんちゃらを信じてないけど、
別に信じてる人を否定するわけじゃない。
むしろ何の疑いもなくまっすぐに信じて、
素直に恋が出来るって、眩しいし羨ましいと思う。

年頃になってから、村の数少ない同世代の若者は
一人、また一人と結ばれていって。
アロイスもとうとうそっち側の人間になっちゃうのか…と
一人なんとなくしんみりしていた。]

錬金術師 ラヴェーナ

……うん？まあぼちぼちね。
父さんが死んでもう二年でしょ。
そろそろ様になって来たと自分でも思ってるんだけど。


[そんな時にふと零れた言葉に顔を上げて、笑いかける。
アロイスはボクが塞ぎこんでた時の事、
どれくらい知ってたかな。
もし迷惑をかけていたとしたらお恥ずかしい限りだ。**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　回想・シュクル　―

え、そうなの？
いや、でも考えてみればそっか。

[魔法って別に万能じゃない。
錬金術を習うにあたり、父さんから最初に教わったのはそれだった。

錬金術はたとえるなら水を氷にするのを
もっと複雑にしたようなもので、
既にあるものをほんの少し弄くるだけ。

無いものを生み出すことはできないし、
時を巻き戻すことも、死者を蘇らせることも、
ましてや人の想いを操ることもできない。
ゆめゆめ驕ることなかれ。

だから「勇気が出る」って言うのは
つまり治癒術の一種かなって思ってたんだけど
タネを明かされてしまえばむしろ納得ではあった。]

錬金術師 ラヴェーナ

シュクルはさ、
じゃあどうして「魔法の飴」を作ることにしたの？

[これは別に嫌味とかそういうんじゃなくって、
純粋に不思議だったんだ。

誰かの幸せを願い、悲しみを癒す魔法の飴。>>10
皆に等しく与えられる、それは慈悲の祈りに似てて。
魔法を冠することにしたのも、
なんか理由とかあるのかなって。
尋ねたのもまだボクたちが子供の頃の話。]

錬金術師 ラヴェーナ

[ところでシュクルには実の親が居ない。>>187

っていうのは、狭い村だからどこからともなく耳に入る話で、
でも彼女を引き取った夫婦もいい人たちだったから
ボクはそこまで深刻に考えたことってなくて。

工房によく顔を出すのも、後をくっついてくるのも
ただ錬金術が珍しいのかなって思ってたんだよ。
まさかその影が心の底にそんな深く根付いているなんて知らなくて。>>190

彼女が急にいなくなったって騒ぎになった時、
ボクも皆と一緒に探しただろう。
大したことはできなかったかもしれないけど。
無事見つかった時にはもー心配かけて！バカバカ！って
涙目で詰っただろうな。**]

錬金術師 ラヴェーナ

[別にいいんだよ、そんな気を使わなくても。
なんか自虐っぽくなったのは悪かったけど、
適当に話を合わせて流してくれればさ。

だってのにコウにいはボクの言い分に
どうしても納得がいかないみたいだった。>>210
そう言うくそ真面目なとこは彼の長所だし好ましいと思ってるけど。

案外頑固だな、なんて自分の事を棚に上げて思う。]

なによ。

[名を呼ばれ、じとっとした目で見上げれば
そっと肩に両手が置かれて。>>212

彼の顔がすぐ目の前に映り――
さらっと口にされた台詞に
ぽかん、と目を見開いた。]

錬金術師 ラヴェーナ

……は？？？？？


[いや、大真面目に何言っちゃってんのこのひと。>>213
そんなつっこみをする間もなく
つらつらと――まるで林檎は赤い、みたいな顔して
褒め言葉が並べたてられていって
僕の顔の方が林檎みたいになってしまった。]

いやいやいや……ちょ、ちょっと待って。

[何言ってんのこのひと？？？？？？
大事なことなので二度言いました。
いや、他意はない。他意はないんだよね、きっとね。
ボクが根拠は何？とか言うから
コウにい的にボクの美点だと思う箇所を
客観的に述べてるだけであって。たぶん。]

錬金術師 ラヴェーナ

[でもなんか、普段そんなこと言わない人からの
ストレートパンチ、衝撃がすごくて。
さっきまでの不貞腐れた気持ちが
完全にどこかに飛んでしまった。

真っ赤になって動揺しているこちらを他所に
あっちはあっちで何か眉間に皺を寄せて考えている。
いや、もういいよ！分かったよ！分かったから…]

へえっ！？！？

[そんな折にふと思い出したように問われ、
裏返った声を上げてしまう。]

錬金術師 ラヴェーナ

な、なんでって……だって………

[じいっとこちらを見つめてくる双眸は
心の内側を探るみたい。>>214
どうにも居心地の悪さを覚えて、もにょもにょと言い淀む。
なんで？なんでって聞かれても…ねえ？]

……だ、だって、………だって！
さっき踊りに誘いたい子がいるって。言ったじゃん！！

[眼差しに負けて、ちょっとやけくそみたいに吐き捨てる。
いや、言ってない。厳密には言ってないかもだけどさあ。
でも限りなく近いニュアンスのことは言った！]

錬金術師 ラヴェーナ

踊ってるとこ見ても笑わないで、ってさぁ。
それってつまり踊るかもしれない相手に
ハナからボクは入ってないから出てくる台詞でしょ！

なのになに、　耳障りのいいこと言っちゃっ……て………


[ぶちぶちと文句を垂れてていた途中で、ふと我に返る。]

錬金術師 ラヴェーナ

（―――……何言ってんだボク？？？）


[ボクは恋なんてしないし、
首飾りの言い伝えも信じてないし、
男の人に誘われてお祭りで踊りたいなんて
全然これっぽっちも思っちゃいない。

なのに、何か、なんだこれ。
「コウにいが今年は誰か女の子を誘って踊るかも」
って聞いてから、何だかやたらむしゃくしゃする。

こんなのまるで、まるで………]

錬金術師 ラヴェーナ

………………何でもない。
やっぱ今の無し。


[自分でも考えがまとまらないまま、
無理やり話を打ち切って不機嫌な顔で俯いた。

とは言っても両肩を掴まれてる状態じゃ
逃げられるわけもないし、
言ってしまった言葉だって
消えてなくなるわけでもないけど。**]

錬金術師 ラヴェーナ

[コウにいはコウにいで
己の放った言葉に動揺していたことなんて
いっぱいいっぱいなボクには気づけやしなかったけど。>>224

やけくそみたいに文句をぶつければ
動揺と困惑――と取れる反応が返って来て。>>225
ほんと、何言ってんだろなって自己嫌悪が顔を出す。

コウにいが誰を誘って誰と踊ってようが、
そもそもボクが何か言うような筋じゃない。
恋なんてしないでよ。何も変わらずにボクの傍にいてよ。
なんて、そんなの。
身勝手な押し付けでしかないこと、分かってる。]

錬金術師 ラヴェーナ

[やがて肩に置かれていた手がどいて、
優しく髪が撫でられる。

否定でも肯定でもない、
ただ言い含めるようなその言葉を
どういう風に受け取ればいいのかも、
ボクはよくわからなくって。>>226>>227]

（……………なんか、煙に巻かれてる気がする……）

[ってちょっと思わないでもなかったけど、
ボクはボクで自分が何にむくれているのかも
イマイチよくわかっていなかったから
追及はせずに大人しく撫でられていた。

その言い方だとまるでボクが
お祭りでの何かしらを期待してるみたいじゃん、とか
言いたいことはあったけど！]

錬金術師 ラヴェーナ

何かってなに……
ま、期待しないでおくよ。

[自分が理不尽に駄々こねてる自覚はある…し
話していると墓穴を掘りそうな気もしたから、
このあたりで引き下がっておこうか。>>228

それでも眉間に皺を寄せたままなのを見かねたのか
目の前に黄色い花が差し出される。
可愛らしい春の花。]

……きれい。

[息を吐いてそれを少し見つめた後
ふ、と目を細めて柔く微笑む。
仕方ないから絆されてあげることにした。
花に罪はないからね。]

錬金術師 ラヴェーナ

…じゃ、ボクはそろそろお店に戻るよ。
お祭りの準備、頑張って。

[買い出しに来たつもりが
気付けば随分長居してしまった。
彼も暇じゃないだろうし、自分にも店がある。
何かあれば一言二言交わし、
このあたりで退散しようかな。**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　回想・アロイス　―

ううん、ちょっと驚いただけー。
アロイスももう22だもんね。そんな話出て当然か。

なるはやだっけ？
今から鎖作るけど、だいたい三時間くらいかな。
後で取りに来てもいいし、
暇なら待っててもいいよ。お茶くらい出すし。

[意外かと尋ねるアロイスに首を横に振る。
なんていうか子供のころから見知ってる人から
"そういう"話を出されると不思議な気持ちになるってだけだ。

アロイスはアイオライトを気に入ったらしいので
石類が入っている棚の中からそれをひとつ取り出して。

鎖の方は錬金術で作る。
材料になる粉末と魔法薬を鍋の中に入れて、
大鍋でぐつぐつ煮詰めるんだ。
代金を受け取り、早速準備に取り掛かりながら、アロイスと会話をする。]

錬金術師 ラヴェーナ

まあそれはそうだけど。
何ていうか、あるじゃん。ほら。
そうやってまた一人、
大人の階段上ってくんだなーみたいな。

[お祭りで告白したからって言って
上手くいくかどうかは分からないし
それでボクとアロイスとの関係が変わるわけじゃない。
それは尤なんだけれど、
やっぱりちょっとしんみりした気持ちになっちゃう。

自分に出来ないことだからかなあ。
そんないいものなのかなって思っちゃう。]

錬金術師 ラヴェーナ

ちょっと、見てられなかったって。言い方！
まあいつまでも落ち込んでられませんから。
この店がなくなったら困る人いっぱいいるでしょ？

[わざとらしくむくれてみせたけど。
それでもアロイスのご両親も
評価してくれてるっていうのは嬉しいな。
へへへ、と少し得意げに笑った後。]

ん？どうって……今年のお祭りどう的な話？
ないよーなんにも。縁ないもん。

[おからこういうこと聞かれるの、
この時期は別に珍しくないけど。
決まってボクはそう返していた。

特に照れ隠しとかそういうわけでもなく
本気でそう思っていた。
少なくともこの時は。]

錬金術師 ラヴェーナ

……アロイスはさあ、
なんで告白とかする気になったの？
恋ってそんな良いもん？
もし上手くいかなかったら…って考えると怖かったりしない？

[やっぱりこの時期って、
誰も彼も浮かれていて。

ウチで首飾りの材料を買ってったお客さんも
後で上手く行きましたよ！って報告してくれる人とかいて
それは誰も彼もすごく幸せそうで。
恋なんて、って斜に構えながらも
やっぱり少し眩しいものを見る気持ちになっちゃう。

アロイスもそうなるのかな。
想像がつくような、つかないような気持ちで。
何気なくそんなことを尋ねていた。**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　回想・シュクル　―

[シュクルが明かしてくれた「魔法の飴」のひみつ。>>256
それを聞いたボクはぱち、と瞬きをして。
言葉を何度か心の中で反芻した。]

………やさしい魔法だね。

[シュクルが語る想いは、
母さんが出て行って間もなかったボクには、
何だかひどく温かく染みて。

そっと心に寄り添うような彼女の優しさが
色んな人に届けばいいって、純粋に思った。

不確かなものに対して懐疑的なボクだけど
あの日から、シュクルの"魔法"はボクが信じている
数少ない「目に見えないもの」のひとつ。]

錬金術師 ラヴェーナ

[あの日シュクルの行方が分からなくなって、
涙ながらに怒るボクに
シュクルは本気で反省したみたいだったけど。>>259

あの時憤ってたのは、半分はボク自身に対してだった。
どうして気づかなかったんだろう。
誰かが寂しくないようにって寄り添える優しさは、
その人自身が孤独の痛みを知ってるからだってこと。

シュクルが家出の理由、
話してくれたかどうかは分からないけど。
ボクはその後も心配して、飴を貰うのを口実に
ちょくちょく彼女の所に顔を出したし。
うちの工房に年の近い村の子たち集めて
サプライズパーティしよ！なんて企画したりしたっけな。

彼女にもどうか「寂しくない魔法」がかかればいい。
いつも貰ってばかりなんだから、これくらいは、ね。**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　回想・アロイス　―

[別に社交辞令を求めているわけでもないので
さらっと流してくれると却って気が楽だ。>>267
大鍋の横で湯を沸かし、お茶を淹れながら。]

な、なによ。
そんなことって言うけどさあ。
嫌じゃんか。無駄に傷ついたり、振り回されたり、するの……

[事も無げに言うアロイスに
む、と少しばかりむきになる。>>268
彼の言うことは尤もで、
それはそうかもしれないけど……

さっぱりしたアロイスの言い分を聞いてると
自分が何だかすごくちっぽけなこと気にしてるみたい。
納得いかずにもにょもにょしていたけれど。]

錬金術師 ラヴェーナ

……何も言わずに終わっちゃう………


[そうなのかな。

始まる前に終わっちゃう、ってのがどういうことなのか
ボクはイマイチピンと来なかったけど
それだけに何だか妙に心に残った。

少なくともアロイスがボクよりも
ずっと胆が据わってるっていうのは分かる。]

ふーーーん………

[分かったような、分かんないような返事をひとつ零して。]

錬金術師 ラヴェーナ

男前だね、アロイスは。
ま、結果どうだったかは教えてよ。

上手く行ったら祝ったげるし、
ダメだったら同情で割引したげる。

[そう言えば相手誰とかも聞いてなかったな。
ボクの知ってる子なのかな…って思ったけど
村の人なら多分顔見知りだろし、
上手くいって付き合い始めたら自然と知れるでしょ。
お客さんの事情にあんまり踏み込むと色々あれだし
そのへんは後々のお楽しみってことで。**]

錬金術師 ラヴェーナ

[もっとボクの察しが良ければ
言外に込められた何かしらに気づいたのかもしれない。>>253
でも、ボクは鈍感で――ううん、そういうの、
無意識に深く考えないようにしていたから。
いまいちはっきりしない言い回しに
「だから何かってなに」って不満そうにしていた。>>254

だって、深く考えたらきっと、
"なにか"を期待してしまう気がして。
期待するのは嫌。期待なんてしない。
期待しなければ傷つくこともないもん。

期待しないでおくってのはそういう意味だったけれど、
コウにいには違う受け取られ方をしたみたいだ。
ともあれ花を受け取り、手を振ってその場を後にする。]

錬金術師 ラヴェーナ

[花を持ったまま幾つかの買い出しを済ませ、
どこかぼんやりしたまま広場を歩いていると
フローラに声をかけられた。>>294]

あ、フローラ……
うん、今帰り。

[この時期、フローラはいつも
村の人に花飾りを配っている。
なんだけど、去年も一昨年も、
ボクは特にお祭りで着飾ったりしてなかった。
見て喜ぶ人がいるわけでもなし、いらんでしょって。

ま、本当に小さい頃は違ったけどさ。
頭に可愛らしい花飾りをつけて喜ぶ、
そんな頃がボクにもあったかもしれない。]

錬金術師 ラヴェーナ

「フローラはシルヴァンのおよめさんになるの？いいなあ。
　わたしもいつかすてきなおとこのひとの
　およめさんにしてもらえるかなあ…」

錬金術師 ラヴェーナ

（……な、なんで今そんなこと思い出すんだ）

[ふいに断片的な過去の記憶が過って、咄嗟にかぶりを振った。

「わたし」が「ボク」になる前。
まだ母さんが家を出ていく前のことだ。

小さな彼女はシルヴァンのことをお兄ちゃんと呼んで堂々と慕っていて、>>37
シルヴァンも満更でもなさそうで。>>66

こんな年でもう結婚の約束をしてる二人は
「らぶらぶ」ってやつなんだ、って幼心に思ってて、
小さなボクはそんな二人に憧れみたいな気持ち抱いてた。]

錬金術師 ラヴェーナ

[ある程度大きくなってもそれは変わらなくて、
でも、シルヴァンは王都に行ってしまって、
帰ってきても何だか二人はぎこちなくって。

その頃にはすっかりヒネた感じだったボクは
やっぱそんなもんだよな、とか思いながらもちょっと悲しかった。

なので、帰って来たシルヴァンのお屋敷に仕事で赴いた時は
フローラには会わないの？
あんなに仲良かったんだから顔くらい見せれば？
ってお節介ながらちくちく言ったかもしんない。]

錬金術師 ラヴェーナ

[まあそんなことはさておき。
花籠を持ったフローラが
ミモザの花を見て小さく笑う。>>295

もし花言葉を教えられてもボクは
たまたまじゃない？とか言っただろうから
知らなくて正解だったかも。

花籠を差し出されて一瞬迷ったあと。]

え、っと……

[去年までだったらきっと。
ううん、ボクはいいよ、って言ったと思う。
でも―――……]

錬金術師 ラヴェーナ

……ボク、こういうのよくわかんないからさ。
もしよかったら選んでもらえるかな。
一番似合いそうなやつ。


[職業柄、薬草の種類には精通してるけど、
嗜好品としての花にはてんで詳しくない。

だからおずおず、フローラに尋ねたら
どれかいいのを見繕ってくれただろうか。**]

錬金術師 ラヴェーナ

[頼もしい言葉と共に差し出されたのは
薄ピンク色の愛らしい花と、白いリボンで飾られた
清楚な印象の花飾りだった。>>311]

…かわいい。

[けど、ほんとにいいのかなこんなの。
ちょっとボクには可愛らしすぎない？

なんてちょっと過りつつ。
あんまりここらじゃ見かけないけど、
これなんて花なんだろうって思ったのを
読み取ったようにフローラが口を開いて。>>312]

錬金術師 ラヴェーナ

へ、あ、…いや、その、
…そ、そう…なんだ

[フローラがさっきボクたちが話してたこと
見てたなんて知らないものだから。

なんでここでコウにいの名前が出てくるのさって
まるで何もかも見透かされてるような心地を覚えて
謂れを聞きながらぶわ、と頬が熱くなってしまう。

でも、フローラがすごく大切そうにそれを差し出すから。>>313
心からボクに似合うと思って選んでくれたんだなって、伝わるから。
そんなのは些末なことだ。]

錬金術師 ラヴェーナ

………うん。もちろんだよ。

すごく綺麗で可愛い。
ありがとね、フローラ。


[「乙女のはにかみ」だって。
主張しすぎない淡いピンクが、
優しく心に寄り添ってくれてるような気がする…
ってのは流石にポエミーかな。

口元に柔く微笑みを浮かべ。
大事そうに花飾りを受け取った。]

錬金術師 ラヴェーナ

シュクルは今日は見てないな。
今年も飴を配ってるんだろうと思うけど…。
家に居なければ街中かなあ。

[シュクルの行方を尋ねられれればそう答え]

フローラも、もしなんか入用だったらウチの工房に来てね。
今日中は居るからさ。
花飾りのお礼ってことで、タダにしとくよ。

[立ち去る前にそんな風に告げただろう。

かつての彼女の想いが今はどうなってるのか
それはボクは知らないし、
お祭りをどう過ごすつもりなのかも知らないけどさ。

あなたにとってもどうか、
楽しいお祭りでありますように。**]

錬金術師 ラヴェーナ

広場→自宅へ

[フローラと別れた後、工房へ。
やはり客足は少ないのでのんびりしていたが
ライトが訪ねてきたのはいつ頃だったか。>>308

彼の家はアッシャー村を支えてきた呪術師。
ボクの扱う錬金術とはまた違う系統の術で、
どういう仕組みなのかは厳密にはよく分かんないけど
万能ではないという点に置いて通じるところも多い。

錬金術は物質を一度分解して
自らの魔力を媒介に再構築することで成り立つ術だけど
ライトのところ呪術はこの地に宿る精霊の力を借りて行使する。
何にせよ昔からこの村に必要とされてきた呪いってことで
同じ魔法畑の人間としてもアッシャー村の住人としても、
一定の敬意を払ってきた。

彼の先代である"ジジ"は父さんがお店を切り盛りしてた頃からのお得意だったし、ライトとももう長い付き合いになる。]

錬金術師 ラヴェーナ

はーい？
あ、ライト。いらっしゃい。

どんくらい入り用？
在庫はそこにある分で最後。
もうちょっと必要なら足しとくけど。

[そんなライトを店の中に招き入れて注文を聞く。

呪術に使うらしいけど、
不純物を取り除くだけなので
そこまで難しい作業でもない。

お祭りの後に取りに来るらしいので
お代はその時に払ってもらえばいいだろう。]

錬金術師 ラヴェーナ

ライトはさすがに忙しそうだね、今年。
明日はもう少しゆっくりできるんだっけ？

[棚の整理をしながら話しかける。

ジジが去年末に亡くなって、ライトは晴れて
この村の呪術師の跡を継いだらしく
今年は何かと忙しそうにしている。

ボクも父さんが亡くなって仕事を継いでも
やっぱり最初は色々と大変だったから
その苦労については何となく推し量れるつもりだ。

おつかれ、と労いつつ。]

錬金術師 ラヴェーナ

...ライトも、お祭り誰かと回るの？


[三人娘と弟分、なんて評したのはジジだっけ。
一つ年下なのもあって、
未だになんとなく弟扱いが抜けないライトだけれど。

そんなライトももう18才。
村の大人の仲間入りをする初めてのお祭り、
やっぱなにか思うところとかあるのかなって。
なにげなく尋ねてみた。**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　回想・シュクル　―

[あの時、ぽつりと零されたシュクルの弱音には>>329]

そっ、
そんなの居てほしいに決まってるでしょ！！！！！

[って食い気味に言った。

ボクには生まれた時から血縁がいない
本当の寂しさってたぶんずっとわかんない。
たとえ二人が居なくなっても、
父さんと母さんの思い出が消えるわけじゃないから。

でもでも、ボクはシュクルのこと大事な幼馴染だと思ってるし、
この村に居てほしいし、きっとシュクルの周りには
そう思ってる人いっぱいいる。
シュクルが義両親と何があったのか分かんなくても、
それは知っていて欲しくて。]

錬金術師 ラヴェーナ

[でもね、あれから少しは大人になって、
ボクは時々こうも考えるんだ。

「ここにいてほしいって言ってほしい」
それって、言葉通りの単純な話じゃなくってさ。
誰かって言っても本当に誰でもいいわけじゃないし、
言葉だけじゃ埋まらないものなんだって。

シュクルの寂しさ、ボクとはまた違うその穴は。
あれから少しは埋まったのかな。
いつか話す機会はあるかな。

その時はボクがずっと抱え続けているものの話も、
君にするのかもしれないね。**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　回想・アロイス　―

……な…るほどね……？

[片思いしてた人が、自分の知らない所で誰かと付き合う。
確かにみじめな気持ちにはなるだろうけど、
その場合告白したところで玉砕するだけなんじゃ…

想像しようとしてはみたが、
ボクの想像力の乏しさ故なのか、
あるいは無意識に脳が拒否しているのか、
もやもやとしたまま輪郭を描けずに。>>348

アロイスもそんなボクを見て
ないならないでいいや、と話を打ち切る。

というかアロイスにはそんな経験あるんだろうか…
ボクが知らないだけでいつの間にか
色んな場数を踏んでいるのかもしれない。]

錬金術師 ラヴェーナ

まあね。
でもせっかくなら本人の口から聞きたい気もするし。

[ひらひらと手を振るアロイスが
忠告じみたことを口にする。
何だか妙に知ったような口ぶりが癪で
むうっと唇を尖らせた。]

…ほんとに大きなお世話だよ。
大事にするも何も、そんな人いませんよーだ！
アロイスこそ精々余計なこと言って
愛想尽かされないようにね！

[支えて貰うって、なんかボクが
めちゃくちゃめんどくさい女みたいじゃん。
善意なんだろうなってのは分かるけど、一言多い！
子供っぽくべーっと舌を出したりして、
平和な一幕は過ぎて行った。**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　工房・ライト　―

[分解ってのはまず
細胞レベルまで魔力を流し込んで…っていう
理論的な話はさておき。>>353]

はいはい。ふわっとしてるなあもう。
馴染みだからいいけど、
ほんとはそういうのもこれからはちゃんと
ライトが管理してかないとダメなんだからね。

[以前"ジジ"が発注に来た時のメモが残っているので
取りあえずそれを目安にすればよかろう。
姉ぶってお小言を言いながら
棚に薬草を戻したりして。]

錬金術師 ラヴェーナ

そっか、なんてったって一番の大仕事だもんね。
無事に晴れそうで良かった。
目の下にクマ作るくらいがんばったんでしょ？えらいえらい。
今日はしっかり寝なよ。

[呪術師の春一番の大仕事と言えば
やはりアッシャー祭の快晴を願うことであろう。
明らかに疲労が窺えるライトに
冗談を交えつつ労って。

明日の予定を尋ねれば
いつも通りだって帰って来る。>>354
ふーん…？って思ったけど。]

錬金術師 ラヴェーナ

へ？ボク？

……や…　別に。
なんもないけど。

[こちらに矛先が向いて、一瞬言いよどむ。

うん、そう。だって。
別に誰かと何か約束してるわけでもないし、
お祭り回ろうとか誘われたわけでもない。
何も嘘は言ってない。よね。うん。

それで通そうと思ったのに、
ライトの視線がテーブルに置いたままになっていた
花たちに向いてることに気づいて、はっ…とした顔になった。]

錬金術師 ラヴェーナ

いやっ、違…、予定とか！ないし！
これは……そう、フローラが配ってたから！
せっかくのお祭りだし！たまには着飾るのもいいかなって！思っただけ！
別にそんな深い意味とかないから！！

[ライトの露骨な話題反らしに
まんまと乗ってしまったことにも気づかず
わたわたと弁明を並べれば並べる程に
何だか嘘くさくなって、顔が赤くなって変な汗が滲む。

それでも、お呪いかけようかって言われたら
う…と言葉に詰まって。]

……ま、まあ……その…
可愛いのがすぐ枯れちゃったら悲しいし？
かけてくれるって言うなら…かけてもらうけど。

[せっかくもらったものだから！大事にしたいから！！
ただそれだけだからね！！**]

錬金術師 ラヴェーナ

―　広場で：フローラと　―

[別れ際、フローラが教えてくれた内緒の話。>>364
それを聞いてボクは目を見開いた。
鬼ごっこ？って一瞬首を傾げたけれど。]

……へ、え……　　お誘い……
も、もちろん、変じゃないよ！

……そっかぁ、そうなんだ……

[フローラはどうするの、なんて
野暮なこと聞くまでもなく。
どことなく不安と喜びが入り混じったように見える彼女に
思わず勢いよく答えていた。

何でかな。
恋なんて、って気持ちが今だけ飛んで、
子供の頃に返ったみたい。
むずむずとしたくすぐったさが顔を出す。]

錬金術師 ラヴェーナ

[時を経て、離れてしまったように思えた二人の気持ち。
もしもそれが、まだ今でも続いていて。
もしも…　別離とは違う未来を迎えるのなら。
…それは、少し見てみたい。

っていう、ボクのエゴのようなもの。]

……うん、待ってるね。

[だから、それだけをそっと添えて。
手を振って彼女と一旦別れただろう。>>398**]

錬金術師 ラヴェーナ

ー　昔のこと　ー

母さんがいなくなった。

恋や愛を信じられなくなったボクは
お嫁さんになりたいって幼い憧れを捨てた。

父さんの真似をして喋るようになった。
熱心に錬金術の勉強をするようになった。
難しい魔法の計算式だって覚えたんだ。

将来は村の錬金術師になって
村の皆から頼られて、
一人で生きていくからいいもん。

首飾りの言い伝えなんかいらない。
恋人なんかいなくても、結婚なんかしなくても生きていけるもん。
そんな風に斜に構えて、強がっていた。]

錬金術師 ラヴェーナ

[なのに父さんが亡くなって、
いざお店と一緒に一人だけ残されて。

慌ただしく葬儀が終われば
どうすればいいのかもわからなくて、
迷子みたいに途方にくれていた。

夜もあんまり眠れなかったし
ご飯も喉を通らなくて。
自分でも自覚なくふらふらしていたんだ。]

錬金術師 ラヴェーナ

あ、


[ガクン、と体が嫌な感じに傾いて
踏み外したと認識する前に
ラヴ！と、誰かが大声で名前を呼んだ。>>383

でも、いつまでたっても
当然体に走るだったはずの衝撃はなく
気づいたら誰かの腕の中にいた。]


(...ーー　とうさん、)


[大きな肩幅。広い胸。己を抱きとめる腕。
かつて自分を抱き締めてくれた人と
一瞬だけその温もりがだぶって、目頭が熱くなる。]

錬金術師 ラヴェーナ

(...じゃ、ない。
父さんはもういないんだ)

[でも、それはすぐに消えた。
じわじわと現実感が戻ってきて
その人の顔を見上げる。]

...コウ、にい...？
な、なんで、...　あ、ぼ、ボク、落ち......

[まだ混乱して震えているさなか、
白いエプロンにぽたりと血が落ちてぎょっとした。

ボクを受け止めた拍子に
どこかをぶつけたらしく鼻から血が出ている。
ボクの方は軽く足を捻ったくらいで、
大した外傷もなかったけれど。]

錬金術師 ラヴェーナ

......、

[ボクに大した怪我がないって
わかったときの彼の顔を見て
思わず言葉につまってしまった。

泣いてるような、笑ってるような。
自分から血が出てるのも構わずに
心の底から安堵したような、気の抜けた笑顔。>>384

ああ、あなたは、
こんな顔で心配してくれるんだって。
思ったらどうしようもなく頭の奥が熱くなって。

一人ぼっちになってしまったと思ってたボクは
なんだか、久々に、本当に久々に、
人の温もりを肌で感じた気がして。

ふつ、と張りつめていた糸が切れた。]

錬金術師 ラヴェーナ

うっ...、...ふ、うぅ...　
うぇぇえ......


[後から後から熱いものが
こみあげてくるのが止まらなくて。
人目も憚らずにしばらく腕の中で、
しゃくりあげるように泣いたんだ。]

錬金術師 ラヴェーナ

[あの時に思い知った。
ボクは自分が思ってるより寂しがりやで
一人ぼっちじゃ生きていけない。

でもかといって愛なんて嘘っぱちだ。

だから、どうか、名をつけないまま
ずっと変わらずに側にいてよ。
他の誰が変わってしまっても、
あなただけは、そうして。

それがどんなに難しくて傲慢で、
そして自分が本当は何を望んでいるのかってことも
臆病で幼稚なボクは、まだまだわからずに。*]

錬金術師 ラヴェーナ

仕事が終わった後の事

[日が沈み、工房を店じまいした後の事。>>410
郵便受けに何かが入っていることに来づく。

郵便受けを開ければ封筒と…何？袋？
首を傾げながら手紙に目を通し。
カサリと音を立てて包みを開いて
中を確かめた瞬間、ド、と心臓が変な音を立てた]

錬金術師 ラヴェーナ

な、……………　はぁ〜〜〜〜？？？？？


[思わず叫んでしまう。
な、なにそれ！！！！！！なにそれ！？！？

実際顔合わせた時はそんな素振り見せなかったくせに！
明日は新作お菓子はあげられないとかしれっと言ってたくせに！
こんな…なんか…回りくどい…なにそれ！！！！

力が抜けて、ドアを背にしてずるずると座り込んだ。
真っ赤になった顔を、抱えた膝に埋めて蹲る。

だって、こんなの。突きつけられたら。
あの時言ってた「何か」が「なに」かって、
流石にいくらボクだって分かっちゃうじゃん。]

錬金術師 ラヴェーナ

(…………だから嫌だったんだ。）


[恋なんて、愛なんて、不確かなものに振り回されて、
一喜一憂してばかみたい。

いくらそんなものないって、
信用しないぞって言い聞かせた所で、
制御できない衝動が体と脳をハックして、
簡単に一線を踏み越えていく。

何もかも君が悪い。

嬉しそうにお菓子を届ける君なんて。
優しく頭を撫でる君なんて。
必死になってボクを心配する君なんて。

言葉一つでこんな風にボクをかき乱すあなたなんて、きらい。
きらいだよ。]

錬金術師 ラヴェーナ

　だから恋なんて、したくなかったのに。



[小さな小さな呟きが、誰もいない工房に落ちた。**]