先生 リトリコ

—広場外れ—

［呼応するように、同じく徐々にか細くなっていき やがて 優しい声音で呼ばれる自身の名。>>19
　我儘を叶えてくれた彼に 緩み切った表情で、はいと噛み締めるように応え。］


　……。
　そうやって、自分の気持ちを真摯に伝えようとする貴方が好き。
　こちらこそ、よろしくお願いいたします。

　
［ゆっくりと吐き出される言葉は、当たり障りのないものでなく。此方の顔色を窺ったものでなく。真に、彼がそう思っているんだって、その言葉のリアル感にふわりと笑んだ。だからこそ、私からの提案にも、笑みを浮かべて 応えてくれるその言葉も、きっと本当のものなんだって。>>21］
　

先生 リトリコ

　……ええ、アロイス。


［未だ慣れない呼び方を口にしながら、差し出された手へと指先を伸ばせば 、きゅうと掴まれる。彼に引かれるままに、広場へと向かう足取りは何時になく、軽くて。］
　

先生 リトリコ

—広場—

［流れる音楽は、聞き馴染んだものではない。>>22
　背筋をしゃんと伸ばして 角度を意識することも、
　歩幅を合わせて 一定の間隔の中で身体を動かすことも。
　古くに口酸っぱく教えられた知識も必要なこともあるが、それ以上に大切なものがあると知った。］


　私も、……楽しい。


［喜色溢れる目の前の彼の、———想い人の笑顔。
　一緒に軽快に踊っていく彼の、その表情が
　ステップの踏み外しなんて些細なものだと、覚えさせた。
　途端、意図しないふわりと浮遊するような感覚に目を大きく見開いて、腕の中で周囲が見えず彼だけが支配する視界の中で ゆるりと笑みを落とす。>>24

　きっと、彼の隣でこんな日々が続いていくのだろう。
　彼が楽しいから楽しいと、彼が嬉しいから、嬉しいのだと。
　踊った後、屋台を見回ったり、彼と一緒に飲んで、———その間、繋いだ手を外さずに。心中を満たす幸せは、今までの人生の中で知らないもので、ひどく甘く。］
　

先生 リトリコ

日暮れ

　大丈夫ですよ、……疲れよりも楽しさが勝っちゃいました。
　貴方と、一緒だからでしょうか。


［賑やかさを背景にふふりと笑みを零しながら密やかにこうやって語り合う様は まるで此処だけ世界を切り取ったかのよう。
　あれほど澄み渡っていた空は陰りが見え、夜が近づいていた。>>26
　彼の時間から、私の時間に移り変わっていく景色を眺めながら すいと目を細める。
　未だちらほらしか見えない頭上の光から目を逸らして、彼の方へと向き直し。］
　

先生 リトリコ

　一緒にやりたいな、と思ったことがありまして。

　学校の近くに公園に、子どもたちとよく行くのですが。
　夜に行く公園から見える景色が、———空がきれいで。
　あなた……アロイス、と一緒に見ることができたならって。


［途中、少し寄りたいところもありますが、と加えて。それが自身にとって大切なことだというのは、今はまだ伏せたまま。そっと、彼の方へと手を差し出した。それは、彼が自身をエスコートしたときと同じように。］


　一緒に参りませんか。
　

［その応えの先に対しての推測に、きっと誤りはないだろう。だって、私と彼は同じ気持ちだとそう思えるから。
　———いつまでも、好きなだけ、彼と共にいたいと。安心の中で、繋いだ手を引き寄せることができるのは、彼がしっかりと言葉で表してくれるからだ。>>26］

先生 リトリコ

-広場　→　学校-


丁度、仕事から帰る時に こうやって上を見上げるんです。
……星も少しずつ見えてきましたね。


［彼を引き寄せて、連れ添いながら歩いている最中 頭上へと視線を向ける。
　未だ深まっていない夜の空、星は顔を幾らか出す程度だが、その中でも月は煌々と輝きを放ち。］


遠方の国では、「月が綺麗ですね」とお伝えすることと
その方を慕っていると、告白することは同じ意味なんですって。


［月灯りに照らされる中で、隣で歩く彼へと 顔を向けて。］

先生 リトリコ

ねぇ、アロイス。「とても、月が綺麗ですね。」


［だなんて笑みを見せて、道中を進んでいく。頬の赤みまではどうか照らさないでくれるといいのだが。*］

先生 リトリコ

広場→学校

　

……、う。


［初めに話題を切り出したのは紛れもなく、私のはずなのに。
　いざ、彼の口から伝えられると 云うよりもやっぱり、恥ずかしくて。でも、———それ以上にこみあげる情感が胸中を巣食っていく。
　返される言葉から熱されていく頬を冷ますように空いている手を頬に宛がい。>>63
　もう片方は、それでもしっかりと彼の指先に絡ませつつ きゅうに握り締め離さなかった。>>60］


も、もうすぐ着きますね。
一人で歩くよりも、短く感じたかもしれません。


［先に歩き出す彼へと小走りに追い付いてはその羞恥を紛らすかのように、言葉を並べていく。
　繋がっているこの手のひらから、この脈打つ心臓の鼓音が伝わらなければいい。］

先生 リトリコ

学校

［公園までもう間近というところで道を逸れたその先には見馴染んだ小さな学校が其処にあった。校門の傍の木蓮は蕾から今にも花を咲かせようと少しばかり開いた状態で此方を見詰めている。］


持っていきたいものがございまして。
少々、此処でお待ち頂いても宜しいでしょうか。


［ごめんなさいね、と背を向けて 雇い人から貰った校舎の合鍵を使って そろりと開けていく。何時も通りの渡り廊下は静けさを保っていて、まるで別世界のよう。その先の扉を開けば其処は、教室だった。丸つけや質問を丁寧に聞く場所でもある、先生の机へと足を向けて 引き出しの奥に隠したロケットペンダントを取り出した。薄らと輝く金製のチェーンはこの場所に来る前からずっと、持っていたもので。手の中の首飾りをきゅうと握っては 布袋にそれを入れて その場を後にした。］


……すみません、お待たせいたしました。
それでは、本当に公園へと向かいましょうか。


［姿を現した自身に、一見特に変化が見られなかっただろう。が、淡い薄桃色の布袋が下がった手で、彼の手を取って 先程と同じく 一緒に歩いていった。］

先生 リトリコ

公園

どうでしょう、アロイスの仕事場よりも見えているでしょうか。


［広場からの道のりに対して、学校から公園は瞬く間に辿り着く。
　此処迄来るのに聊か時間がかかったからか、少しばかり日の光の名残が残っていた空とは異なって 濃紺の夜空を月だけでなく、彼方此方にと数多に瞬く星々が私たちを迎え入れていた。
　子どもたちが思い切り遊ぶことができることができる拓けた場所の先にあるベンチへと彼を誘い、一緒に腰掛けた。］


……一人で考えごとをしたいときに、此処に来るんです。
昼は子どもたちの声で賑やかなのですが、ほら村の少し外れたところにありますから。
夜は殆ど人が来ないんです。だから、一人になりやすくて。


［しんと静まり返っている周囲に彼と自身の声だけが響きながら、ふいと彼の方へと向いて。］

先生 リトリコ

実は、……その。

此処に一緒に来たかったのは星を見たかったのもそうなのですが。
それよりも、アロイスに渡したいものがあって、来ていただいたんです。
お返しの、プレゼントといいますか。


［なんて苦笑を帯びながら、手に取ったのは手首に掛けていた薄桃色の布袋。その袋から、金製のロケットペンダントを取り出して 手のひらに置き。］


此処に来る前からずっと、これを持っていたんです。ただ中身はこの村に来た時に破いて捨て去ってしまったのですが。

代わりに、アッシャーの祝祭の話を伺いまして
……それで、毎年中身を入れては変えての、繰り返しで。

今年も、首飾りとして……中身を作ってみたんです。
開いて、見てくださいませんか。

先生 リトリコ

　
［彼の指先が、もしそのロケットへと伸ばされて 中を見ようとしてくれるのなら。］


……私、本当は画家になりたかったんです。


［其処には砂に色を塗した砂絵が施されており、砂はこの村の風土と異なるさらさらしたもののように窺えるだろう。
そして、その砂絵には私の好きな色である澄み切った空に燦燦と瞬く太陽の絵が其処に埋め込まれていた。* ］
　

先生 リトリコ

公園

［互いにベンチに腰掛け、笑みを零しながら話す言葉に小さく首を振って。>>90］


……これから、一緒に来ましょう。

一緒にこの夜空を見て、語り合って、嗚呼。
貴方の好きな場所にも、行ってみたいです。

［なんて、ちょっとだけ強請ってみたのがプレゼントを渡す前のおはなし。］
　

先生 リトリコ

［彼の問いに頷いてみせて、ペンダントを見詰める姿を見届ける。>>91
　続く言葉に、ほうと息をついて———他でもない彼に喜んでもらえたことが、こんなにも心踊らせるなんて。］


　……いいえ、喜んで貰えて 私もうれしい。


［素直な思いのままに ふわりと笑みが零れ落ちた。
　距離を縫って ほんの少し身を寄せれば触れるほどの距離感に、慣れないといけないのに 視線は地にどうしても落ちてしまい。彼に間近で此方を見られている。其処へと意識が向いて、今でも高鳴る心臓の音が、張り裂けそうなほどに激しくなりそうだから。］


　そうですね、子どもたちに少しだけ。
　……みんな覚えが早くて、センスもあって。
　一人一人、出来上がった作品が面白いんです。


［つい先日貰った首飾りたちを思い起こして、口元が緩んでいく。同じ花を使っていても、編み方も 蕾の使い方もまるで違う。個性が窺える作品たちへと思考を飛ばした頭は、続く言葉に 此方へと戻って。］

先生 リトリコ

　……なりませんでした。

　諦めたんです、生活さえも覚束ない中で 夢を追うには度胸もお金も無くて。


［そう言って、口を噤む。少しの間、その間は言いあぐねているというより、言葉を選ぶための余白であった。今まで口にしたことが少ない記憶を思い起こしていく。］

先生 リトリコ

　此処から随分と離れた場所、———それこそ 王都よりも遠い砂の覆うオアシス。
　昔はその、少しばかりお金を持っている場所で生まれ育ったんです。
　貴族、と呼ばれていたのですが。


［幼少期から、社交界に出る為のある程度の教養を叩き込まれる日々。
　ダンスの身のこなしから生活での振舞い、言葉回しなど細かい所作から一つずつ日中教わる中で 屋敷に飾られていた絵画の数々を眺めることが唯一の憩いだった。そこから、絵画を自分でも描いてみたいと筆を持ち始めるようになったのは必然で。］


　だからこそ、趣味に———様々な絵画を描くことに父から様々な道具を買って貰っては、��先生�≠�付けてもらったりと。
　そうやって本格的に絵を始めたら、更にのめり込んでしまって。

　何時か、この趣味を仕事にして 色んな世界を旅して、その土地の絵を描きたいと思うようになったんです。
　……今思えば、不自由ない環境だったからこそそう願えたのですが。
　
　
［薄ら笑いを浮かべたまま 周囲と馴染んでいくためのお茶会よりも、一面に広がる砂漠と空の境目を描いた一枚の絵の方が私にとってはとても価値のあるものだったから。本の中で読んだ、今いる場所とは異なる景色が広がっている様を想像しては、霧散していく日々。それを形にしたいという、願いを募らせて。でも。］

先生 リトリコ

　でも、………ある日 身分をはく奪され、その場所を追われる身となりました。
　理由は、……理由を教えてくれる人もいなくて。両親は……


［彼の触れる指先を、ペンダントごときゅうと握り締める。］


　……。
　物事に絶対はなくて、想像すらしてなかったことが唐突に起こることもあると。
　知ってしまいましたから、……これまで学んできた教養でお金が貰える職をと 探して……そうして、此処に至ります。


［ゆっくりと彼の方へと向き、薄く笑む。心臓の音はどくどくと速まるのを覚えながらも、彼のその眼差しに絡めるように目を向けて。］

先生 リトリコ

　
　………元々、このペンダントに入れていたのは 故郷の景色を描いた絵なんです。
　でも、それをずっと持って居たら、……自分が駄目になりそうで。

　ふふ、ごめんなさい。こんな話になってしまって。
　もう、昔の話なんです。でも、……その。
　貴方だから、伝えたくて。


［真摯に対峙して、向き合う彼だからこそ。自身を知りたいとそう言ってくれた彼だから。——何より、ずっと隣に居たい想い人だから。
　楽しいことは勿論のこと、古傷も全て曝け出しながらも、日向の元で互いに笑い合いたいと、彼とならそう思うことができた。］


　……私を好きになってくださってありがとう、アロイス（私の太陽）。*
　　

先生 リトリコ

公園

［急かすこともなく、相槌を入れてくれる彼だから 最後まで伝えることができたのだとそう思う。
　まるでお姫様みたい、だなんて 、そんな彼の第一感にふるふると首を振って見せたり。>>112
　生まれた場所を見て見たかった、と。その言葉にくしゃりと表情を崩れてしまいそうになったり。>>113］


　必要、……そう。必要だったんです。

　
［その時の自分には、と頷いて。過去へと目を向けずに来た日々だったが、こうやって ゆっくりと話を聞いて 頷いてくれることが、何処か整理が付かない過去を昇華してくれているような、そんな気がした。］

先生 リトリコ

　………ふふ。


［こうやって彼の口から、名前を呼ばれるだけで感傷さえも吹っ飛んでいく。
　少しだけ 彼の方へと身体を傾けるのは許されるだろうか。
　なんて、そう思っていたのだから、伸ばされた腕にすいと目を細め。］

先生 リトリコ

　私の、時間。……エスコートの時間はこれで、おしまいです。

　次は、そしてこれからは。
　二人で、一緒にしたいことをやりましょう？*