3 ― 星見る手紙 ―
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【独】 青年 シャト
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皆にできることってあるだろうか、とシャトは考えそうだが、シャトはできることを精一杯やって、それが誰かの力になることを、その奇跡が起こることを信じるしかないんだよな。
【墓】 次期当主 レグルス
（魅了については役者の領域、本人の実力。
私が尽力出来るのは実力勝負に持って行くまでの
道程と保護、私対これから役者に向き合う
世論と民衆……其処から生まれる観衆との勝負よ。）
[「閣下！聞いておられますか！」という軍医の叫びは
またもや右から左へ流したまま。]
【墓】 次期当主 レグルス
（私の“悔恨”と“覚悟”を示す時は、もう直ぐ其処だ）
（生きろよ、役者）
（此れより先、貴公を取り巻く世界全てが貴公の舞台）
（開幕のベルは鳴らしてみせる）
【独】 演者 シェルタン
[封筒と便箋はこれまでと同じ種類のもので、宛名書きも同じ。
差出人名だけが、「二色の花を受け取った者」に代わっている。]
【独】 演者 シェルタン
アルレシャさん
この手紙がアルレシャさんの元に届くかはわかりません。
もう二度と届くこともないのかもしれません。
それでも、どうしてもあなたに伝えたいことがあって、この手紙を書きました。
先日ヘイヴンから、シェルタンさんのお手紙が二通、アルレシャさんの元に届いたと思います。
（もしかしたら、一通しか届いていないかもしれませんが）
そのどちらのお手紙も、本当は、シェルタンさんが書いたものではありません。
どちらも、今この手紙を書いている僕が綴ったものです。
僕は、“ 演者 ”です。
神さまから生まれた僕らの ロサの民の身体が星に還るのを妨げ、自らのものにして奪い取ると言われる、あの“ 演者 ”という生命体です。
僕は、シェルタンさんの身体を用いて、ヘイヴンからアルレシャさんに手紙を送り続けていました。
今もまだ、詳細をお伝えすることはできませんが……。
シェルタンさんは、消息を絶ったその夜に命を落としました。
落命した丁度その時に僕は彼に出くわし、その身体を蘇生し、ヘイヴンまで逃げ延びてきました。
【独】 演者 シェルタン
彼の死をアルレシャさんにお知らせすることは、本当に心苦しいです。
ですが、あなたからの手紙に確かに「会いたいな」と書き綴られていたのを見て、僕はこれ以上嘘を重ねることができなくなりました。
アルレシャさん、今まで騙し続けてきて、ごめんなさい。
とはいえ今の僕の思考や感情は、シェルタンさんが残した頭脳に強く影響されています。
（先ほどの書き間違いも、そのためです）
ですので、以前お送りした手紙のどちらも、彼の考えや想いに基づいたものと考えてくださって構いません。
【独】 演者 シェルタン
アルレシャさんが最後に僕に、いえ、シェルタンさんに綴ったお手紙も読みました。
僕からこれを書くのもどうかと思いますが、シェルタンさんへの謝罪、確かに受け取りました。
これまでの手紙にも記しましたが、彼は、夢渡りとしてのあなたの立場を尊重していました。
己の不幸すら受け入れる自らの信念と理想に、あなたまで巻き込んではいけない、とも。
だからどうか謝らないでください……とは、彼本人ではない僕が言うことではないのでしょう。
それでも、この身体の胸の内が告げる「いいんだよ」の言葉を信じて、そうお伝えします。
[便箋に、ぽたりと雫の滲んだ痕がひとつ。]
【独】 演者 シェルタン
ところで、シェルタンさんの死については、アルレシャさんだけにお伝えしています。
他の人々に対してはこの訃報を伝えていません。
（シェルタンさんの友人にひとりだけ、“ 演者 ”としての僕を察している人はいるかもしれません）
僕はこれから、「死んではいない」舞台役者シェルタンとして生きていきます。
彼の生存を信じ、舞台への復帰を待ち望んでいる人々のため、あくまで彼本人を演じ続けると心に決めました。
シェルタンさんの復帰が叶った折に、彼がどんなトラブルを抱えていたのかもお話しできると思います。
アルレシャさんに対しても、僕は僕の素性を明かすべきではなかったかもしれません。
けれど、嘘も見ないフリもしたくないと打ち明けてくれたあなたに、僕ももう、嘘を重ね続けたくはなかった。そしてシェルタンさんの想いを、自分のものにしてはいけないと思った。
だって彼は、あなたに募らせてきた想いを、神さまから賜った幸いだなんて思いたくなかったのだから。
あくまで自分ものと信じる想いを、僕が奪い取るなんて許されない。
【独】 演者 シェルタン
[ここから、雫の痕はさらに増えていく。
文字はところどころ滲み、読めない程ではないものの、幾分か読みづらくなっている。]
あなたに二通目の手紙が届いているなら重ねてになってしまいますが、彼はあなたの視線にずっと気づいていました。
歌劇の役者として重ねる鍛錬の苦しさをあくまで幸いと信じ続けて、ひそかに胸の内に傷を重ねていた。
その痛みが、あなたの眼差しを受けていた時に、少し和らいだ。
だから側にあなたが来た時には、居心地の良さを覚えていた。
あなたの内に憂いを垣間見た時には、守ってあげたい、とひそかに思っていた。
（あの頃はただの格好つけだと思われたくなくて、口には出せなかったけれど）
そんな彼は、意識が途絶える最期の時に、アルレシャさんのことを思い出していた。
薄桃色と水色に染まる、微かな星のような花を見て笑うあなたを、思い出していた。
彼のこの目には、確かに、あなたという星が見えていた。
【独】 演者 シェルタン
あなたに残っているのは、「今まで沢山の人を否定してきた」ことだけではないと思います。
僕もシェルタンさんも知らない縁だって、あるかもしれない。
少なくとも、彼に対して繋ぎ続けてきた想いは残っているじゃないかと、僕は思います。
シェルタンさんの魂はもう、この身体には宿ってはいません。
僕はあくまで、彼の代役にしかなれません。
彼の想いを自らのものと騙る権利も、あなたの恋人になる権利も、ありません。
けれども、こんな僕でも、構わないならば。
僕は、あなたに会いたい。
あなたの居場所として、在りたい。
最果ての島に辿り着いた姫君の、
その肩に静かに留まる、名前のない小鳥より
演者 シェルタン
[もう相手には届かないかもしれない想いを、シェルタンを演じる生き物は手紙に認める。
努めて、
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