[ その血が、
階段の手摺に軽く打ってしまった自分の鼻から
出ている事に気づいたのは、そのすぐ後のことで。
鼻血を出して、かっこよさのカケラもない顔で
ただ彼女の無事に胸を撫で下ろしたのを覚えている。 ]
(……ああ……私は……………。)
[ 人は、失いそうになって初めて大切なものに気付くと言う。
この村の誰が同じように落ちそうになったとして
私は同じように助けた事だろう。
だけど、無事だとわかった時に感じた、あの気持だけは。
ただの安心だけではない泣きそうなあの感情だけは、
きっと彼女にしか抱くことはないのだろうと、
私はその時初めて、知らなかった感情を知ったんだ。 ]