花屋 フローラ

［『お兄ちゃん。』

幼い頃呼んでいたその呼び方を。
もうその人にする事はなくなった。
私は少し大人になって。
孤児院で守られている子どもでは居られなくなった。

街の人たちみんなを名前で呼んだ。
その方が親しみを感じてもらえるし。
子ども扱いされたらお仕事も上手に出来ない気がして。］

花屋 フローラ

［私のお仕事はお花屋さん。

土をふかふかにして。花を育てるの。
この時期は切り花やアレンジメントも売ってるけど。
鉢植えのお花や緑のプランターも売ってるのよ？
私の育てたお花や緑が。
誰かの家を彩っている。
それって想像すると素敵じゃない？］

花屋 フローラ

[最初にお花を育てる事に興味を持ったのは。
本当に小さい頃の冒険譚。
村の外れのお屋敷で。
シルヴァンに出会ったの。
その頃の彼の薬草園は小さな物だったけれど。>>20
物知りの彼は私の知らないたくさんの事を教えてくれた。

見たこともない綺麗で繊細な色付きの絵が描かれた。
『図鑑』と言う物も見せてもらったの。
彼は草花の効能についても話して聞かせてくれあけど。私は図鑑に描かれた花の美しさに夢中になった。

『きれい』と呟いた。
『私にも育てられるかな？』

まだ字も満足に読めなくて。
図鑑を読んでもらってたような私に。
シルヴァンはなんと答えたのだったかしら。*］

花屋 フローラ

［お花屋さんをすると決めた時。
花壇を作るのを手伝ってくれたのは、アロイスだった。
孤児の私にまともな土地は引き継がれて無くて。
岩だらけの土地を鍬で耕して。
雑草を根切りして。土をふわふわにして。
そんな作業をするのは大変だった。

それでも嫌な顔一つしないで。
手伝ってくれて。
土がふかふかになったら。
石組みの花壇を作ってくれたの。

私だけの秘密の花園。
これからお花を育てて行く場所。
何ももたない私に。花を育てる柔らかな土と。
育てた花を彩る。綺麗な石造りの花壇をくれたのは。
アロイスだった。*］

花屋 フローラ

［コウセツはお菓子屋さん。
お菓子屋さんってとても素敵だと思う！
お花屋さんと同じ。

だって。
食べた人の事を少し幸せにしてくれるでしょ？
お花を見た人が、少し幸せになるように。

お店が開いた時にお祝いのお花をもっていって。
そんなことを話したの。
たくさん修行してるの知ってたから。
その間に私も異国の花の苗や種を取り寄せて。
育ててみた。彼のお店の彩になったらなって。
プレゼントしたアレンジメント。
気に入ってくれたかしら？

気に入ったなら。是非次はお店で買ってね。
育てられるように鉢植えもあるのよって。
私は笑って営業までしちゃった。*］

花屋 フローラ

［ライトは私と同じ年なのに。
とても難しいお勉強をしてる。

でも彼の天気予報はとっても頼りになるの。
雨が降って欲しい時。尋ねに行ったり。
嵐が来そうな時は。事前に花壇を保護したり。
”ジジ”は優しくて。
時々頼まれてハーブを持って行った。

何に使っているのか分からなかったけれど。
薬草茶をご馳走してくれた時はあったはね。
その時は、”ジジ”とライトと３人で。
お土産のお菓子と一緒にお茶を飲んだわ。
……”ジジ”が居なくなったライト。
淋しく無いといいな。時々顔を出して。
『欲しいハーブはありませんかー？』なんて。
押し売りにおしかけたりしたの。
赤い熊さんとはすっかり馴染んでもう仲良しよ。**］

菓子屋 コウセツ

[ 幸せを呼ぶ菓子は、それ自体が誰かの幸せを願う祈りのように
　優しくも強い甘さで心を包んでくれる。
　
　だからだろう。
　私はかつて──そう、二年前のとある時期。>>44
　
　気の利いた言葉も、力強い腕も持たない私の
　せめてもの出来る事として。
　彼女が食べて笑ってくれたあの手製の大福を、
　そっといつもより多く
　店先に差し入れていたことがあっただろう。]

菓子屋 コウセツ

[ そして今。
　祝祭を前に彩られた広場で話す彼女は、
　あの時よりもほんの少しばかり大人びていて。
　
　あの時から変わらないこと、変わったことが色々とある中、
　ずっと自分の菓子を楽しみにしてくれている彼女に返すのは
　今年の出店が無くなった知らせだった。>>63 ]
　
　
　いやぁ…私も今年の春に向けて、
　綺麗な自信作の菓子が出来たから
　食べてもらいたいのは山々なんだがな。
　
[ 待ってくれていた人を前にこんな事を言うのは、
　悪いことではないと知りつつも
　なんとなく申し訳ない気持ちになってしまう。
　
　祭りが無くとも新作はいつも彼女の店に届けに行ってたから、
　数日もすれば渡せただろうが…
　やはり祭りの中で食べる菓子というのは別であろう。 ]

菓子屋 コウセツ

[ そうして慣れぬ祭りの話に言及すれば、
　ラヴはどこか言いよどむ様子を見せる。>>64
　なんだろうと言葉を待っていれば、
　不意にじっと此方を見つめる瞳と目が合った。>>65
　
　その瞳に図星をつかれてぎくりと大きく揺れる肩は、
　我ながらあまりにも正直で。 ]
　
　ッな
　い、いや……ッ
　ない………ない…ぞ。
　その、今のところは……だが。
　
[ ラヴが私にそんな言葉を向けるのも、
　思えば無理もないことかも知れない。
　
　なんせ私は今まで色恋の匂いをさせた事もないのだ。
　そんな菓子売りばかりに夢中になっていた独身の男が
　突然祭りに積極的に参加する理由といったら
　当然話はそこに行き着いてしまうだろう。 ]

菓子屋 コウセツ

[ どこか気まずそうに視線を反らし、
　「今のところアテはない」だなんて
　またしても曖昧な言葉で誤魔化して。
　
　こほん、と小さく咳払いをすると
　此方を見る眼とようやく目線を合わせた。 ]
　
　踊れたらいい、とは思うが…まだ…
　……最悪一人で踊る羽目になるかもな。
　
　だが…そういうラヴ、君は？
　
[ そうして、話を彼女自身の方へと向ける。
　
　毎年店ばかりに夢中になっている私と同じように、
　そういえばラヴもまた、誰かと共に踊っている様子は見ていない。
　ひょっとしたら私が見ていないだけかもしれないが…。
　
　今年は早々に誰かと踊る約束を取り付けたりしているのかと、
　探るように彼女を見つめた。** ]

石工 アロイス

2週間ほど前・ラヴの工房

こんちは。…いるか？

[この店を訪れるのはそんなに珍しくはない。
錬金術の使える人間はこの小さな村にそうはいないし、
諸々の雑貨を手に入れられるというだけで割と重宝する。

少なくとも、俺は仕事の用や使いででも、割と来ることは多かった。
もっとも、祭りの前となると訪れる客の顔ぶれも少し変わってくるのかもしれないが。

祭の数日前、年若い店主が店内にいる時を見て>>6、店を訪れた]


相変わらずそうだな、ラヴ。元気でやってるか？
いつもどおり砥石2つと楔1ダース。月末でつけといてくれ。

[ここまでならいつも通りの無骨な使い走りだが。]

石工 アロイス

…それと首飾りに使う鎖1本と…
なんかいい感じの青紫系の鉱石とかあったりするか？

いや、形はきちんとしてなくていいんだ。
ただ見栄えのよさそうな…このぐらいの予算でいい感じのやつ。
なる早（なるべく早く）で頼む。


[そこまで言ってから、ふっと店内を見渡す。
親父さんの頃からこの店にはずっと世話になっていたが…]

最近はうまくいってんだな、店。

[ほんの2年前の頃を思い出して、ぽつっとそんな言葉が漏れたろうか。*]

研究者 シルヴァン

─あの頃

[同じ年頃の友達がいないわけではないけれど、
ひ弱だった少年はやんちゃな冒険にはついていかずに、
代わりに、本の世界を冒険するのが常だった。

まさか自分の元へ小さな冒険者>>69が
やってくるとは思わなかったけれど。
もちろんそれは嬉しいサプライズで。

自分の庭に興味を持ってくれたことに
気を良くして『図鑑』を見せたり、
自分が得た知識を色々披露したり。

だから、彼女が植物の栽培に興味を持ったら、
大喜びで、「フローラなら、できるよ。」

きっと僕より、きれいな花を咲かせられるよ。
　確信めいた強さで、答えたのだった。]

錬金術師 ラヴェーナ

[二年前、父さんが死んで沈み込んでいた頃のボクは
あまり碌に食事も喉を通らなくて
下手したら一日一食、みたいな生活してて
端から見たら随分不健康に見えてたかも。

そんな工房にそっと差し入れられたお菓子。
箱の中に綺麗に並べられた白くて丸いそれが、
誰からのものなのかはすぐにわかった。＞>74
工房の片隅で膝を抱えて齧ったそれは
あの日と同じ甘くて暖かい味がした。]

……美味しい。

[甘いお菓子はどうしようもない寂しさを
優しく包み込んでくれるようだった。

ほろほろと涙を流しながらダイフクを頬張る、
そんな夜があったっけな。]

錬金術師 ラヴェーナ

[そんな死の悲しみも、やがて時間とともに癒えて。
多少持ち直した頃に改めて彼の店に
お礼をしに行ったっけな。]

あのさ。あの節はありがとね。
コウにいの差し入れがなかったら
ボクあのまま飢えて倒れてたかも。

[なんて、冗談交じりに言えるくらいには
元気になったことが伝わればいいと思って。]

研究者 シルヴァン

[ そんな彼女にあんなことを言われて、
　大人たちに冷やかされることもあったけれど、
　今だけですよって涼しい顔で受け流して。

大人になったら、なかったことにして、なんて、
　言われてしまうだろう。
　もしかしたら忘れてしまうかも、しれない。

　それでも…*]

錬金術師 ラヴェーナ

[まあ、そんなこともありましたが。

ボクに新作のお菓子をくれるよりも大事なことってある！？>>74
そんな思いで問えば、彼は露骨にギクリと肩を揺らした。
分かりやすい。分りやすすぎる。>>75
自然、眼差しがもの言いたげな色を帯び。]

……ふぅぅ〜〜〜〜〜ん………
コウにい、誤魔化し下手すぎ。

[ふーーん。ふーーーーん。
今のところはないけど、誘いたい子は居る。と。
いや、いいんですよ。別に？

コウにいだって今年で27？28？とにかくそんくらいで
村の中じゃもう結婚して子持ちの人だっている年。
今まで浮いた噂のひとつもなかったのが不思議なくらいで
相手だってきっと村の女の子の誰かなんじゃないの。
長年お世話になってる彼に春が来たのなら、
きっともろ手をあげて祝福すべきだ。]

錬金術師 ラヴェーナ

[そうは思うのだけど…なんか……何となく面白くない。

幼稚で自分勝手なわがままだって分かってるけど
何だか置いてけぼりを喰らった気分だ。

そんな気持ちが前面に出てしまい
彼を見つめる眼差しはどこかじっとりしていたと思う。]