C：伝説 ラムロルズ

人狼、か。
近頃の都市伝説ではそんな未確認生物が人気なのかい？

灯火の鼓動 エイビ

静かな夜の寂れた古城

灯火の鼓動 エイビ

　今年は90年ぶりの特別な年だってのに、
　オレは未だに天国も地獄も出入り禁止だってよ……。

　ま、別にいいんだけどさ。
　地獄にはハナから行きたくはないし、
　かといって天国のほうだって、なァ。
　

灯火の鼓動 エイビ

♪　ジャック・オー・ランタンは夜の道案内
　　けども今様の人間にゃ衛星の導きが良い
　　わざわざ悪い鬼火に縋りたくも別にない――


[エイビがひとり、うたう歌。
　　　　冷たくもやわらかな夜風にも退屈そうに。
　前方に投げ出された両脚は
　　　　ただ虚空を振り子のように
　　　　行ったり来たりするばかり。]

死者の日 イリハモニ

ふん♪ふん♪ふん♪　ふふ、ふんふんふん♪
るららったっ　たっ　たららったららった♪

[鼻歌を歌いながら、賑やかな街を歩き回る。
もうすぐ死者の日ともあって、街中が華やかに彩られ、
彩り鮮やか奇抜な骸骨や花が世界を極彩色に形作っていっている。

本番は数日後。
皆で盛大に祝うその日を待ちわびる。
が、それはそれとして]

死者の日 イリハモニ

なー、ハロウィンも祝おうぜー？
1日くらいいいじゃねえか、ズレたってぇ

ハロウィンも死者の日もまとめて祝えば
賑やかさ2倍じゃねえのぉ？

[ハロウィンは見向きもされないことに、
青年は少々遺憾の意を示していたのであった]

[ハロウィン差別…反対！**]

死者の日 イリハモニ

[青年の住む街は、日照りがよく当たる
灼熱と珈琲の国にある小さな小さな田舎町だ。


この街は昔からの古い伝統…代々の先祖を祀る「死者の日」を盛大に祝うのが伝統になっていた。
生きるには少々太陽が厳しい地域ではあれど、それでも必死に生きてきた証。この町の歴史を築き、我々を直接支えてくれている先祖の霊をたくさんのマリーゴールドと飾りと家族の愛が迎え入れ、讃える。
古い祖霊信仰がいまでも大切にされている素朴な場所だった。


一方、「ハロウィン」というものはあまり祝われず馴染みはなく、若者の浮ついた行事だと言われることが多い。
曰く、

「ご先祖様の霊魂を悪霊扱いして追い払おうとするなどけしからん。菓子だけ配るなんておかしい。妙な仮想をしたいだけならば、敬意ある死者の日に伝統的な仮装を豪勢にやればよろしい」

というのが街のジジババの見解だった]

死者の日 イリハモニ

ちぇっ。なんだよ全然分かってくれてねーじゃん。
ハロウィンだって、ご先祖様ありがと〜って言えるっつの。
浮ついた仮装…ってのは否定しねえが、いつもの奇抜なメイクや仮装だって十分賑やかに浮ついてんだろ。

祝う内容に「パンプキングばんざ〜い」が追加されてもいーじゃん

な、あんたもそう思うよな？

[さて、青年は伝統のドクロ飾りに筆で色を乗せながら、その落ち窪んだ眼窩に問いかけた。青年はハロウィンというものに興味があった
昔テレビで見た海外のお祭り。
この街の外…都会や人の多い街では、何だったらもうすでに死者の日の前日祭のように取り入れているところもあるらしいのだが、青年の街では古き伝統に則って、11/1から11/2の2日間で執り行うことにこだわり続けている。

保守的かつ閉鎖的で代わり映えのない賑やかさに、青年はうんざりしていた。新たな風をこの街に持ち込みたかった]

死者の日 イリハモニ

…ハロウィンかぁ。
モンスターの仮装って、どんなことやるんだろーなあ。
……はーあ、マリーゴールドの仮装でもしちゃおうかなあ。
体中に貼り付けちゃおうかなぁ

[青年はため息をつく。
花の模様だらけになった骸骨は嬉しそうに、
いたずらっぽく「やってみたらどうだ？」と。

かたかたその顎を鳴らした気がした**]

死者の日 イリハモニ

[色を付け終えて血色の良くなった骸骨たちを抱えて
墓地の道を歩く。

うちの墓以外にも密集する先祖の寝床たちは今、
マリーゴールドや蝋燭で温かみを与えられ、
まるで太陽の光を浴びているかのように暖かだった。

自分以外にも墓を飾りに来た者達はちらほらいて、
様々な飾り物を星を散りばめるかのように捧ぐ。

うちの墓の前にも、大量のマリーゴールドを抱えた両親や、飾り付け方のアイデアを出すジジババ孫達が集まってきていて、身を寄せ合うたくさんの墓場それぞれに、きちんと敬意と親しみを持って飾り付けをしていっていた。
もうすぐ先祖たちの魂が帰ってくる。皆で愉快に楽しく過ごす。……なら、新しい祭りのハロウィンも一緒に楽しめねえか？？？いけるんじゃねえか？？？と俺は思うんだけどなあ］

死者の日 イリハモニ

「イリ、おそーい！はやくかざるのてつだってー！」


ぁーったよぉ！
いまいくからまってろい！！！

[全く、俺以外の孫世代は真面目というか、家族思いというか‥それとも俺が祭り好きすぎてちょっと薄情なのか？？？
青年は少し疑問を抱くのであった］

追想 オクターヴ

[遠い遠い昔の、冷たい海の記憶なんて、
　今を生きているあたしにはどうでもいい。]

　

追想 オクターヴ

　　　　　　[……どうでもいい、はずなんだ。]

追想 オクターヴ

[あたしは、オクターヴ。
　本名はオクタヴィア・エフだけど、「オクタヴィア」なんてちょっと堅苦しいでしょ？　だからあたしを呼ぶときは「オクターヴ」でいい。

　あたしは今、海沿いのおばあちゃん家にいる。]

追想 オクターヴ

[何日か前にちょっと色々あって、町を飛び出して、でもだからって、どこかに行く当てがあったワケでも全然なくって。
　で、気が付いたら、なんか自然に、おばあちゃん家のあるこの海沿いの村に来てたってワケだ。

　普段のウチらギャルのメイクそのままでここに来たもんだったから、おばあちゃん以外の村の人には結構ギョっとされた。
　あからさまにギャルないわーって感じの視線もビシバシ来たけど、なんか地元の飲み屋のオッサンが「ハロウィンの仮装じゃねェか〜」とか言い出してからは、なんか自然とそういう共通認識になったみたいだ。平和になったってやつ？]

追想 オクターヴ

[ぶっちゃけこの村には、なんにもない。
　もうすぐハロウィンっていっても、都会のハデさでフェアしたりとかパレードしたりとかもないし。ちょっと飲み屋がカボチャとかコウモリとかでデコってるくらい。
　あ、飲み屋に昼間からバイオリン？とか笛とか持ち込んで演奏してるお年寄りたちはいるか。いるけど……。

　そういえば、海岸の岩場には野生のアザラシも出るけど……野生だし、動物園みたいにいつも見られるワケじゃない。
（漁師の人からは「アザラシマジ困る」って感じで嫌な顔されたこともあった）

　はっきり言って、ここに来てからは地味な日々だ。
　でも今のあたしには、そのくらいの地味さが丁度良かったのかな。]

死者の日 イリハモニ

[お墓を飾る作業の合間、
うちの農園で取れた珈琲豆で淹れた
出来たての珈琲をグビリと煽る。

山岳地帯にある我が街は、水はけの良さやその気候も相まって、
とてもいい珈琲豆が取れる。
そのため我が家も代々珈琲農家、家の周りも珈琲農家が多い。

その他にはトウモロコシだのサトウキビだのトマトだの。
俺達のソウルフードを作ってくれる家も多くて、
うまい飯が食える自慢の土地だ。

からっとした爽やかな風。太陽の日差し。
マリーゴールドの香りとみんなの笑い声が辺りを包む。
今年の死者の日のパレードやダンスパーティーが楽しみだと俺より年下の弟妹たちが笑い、それを見たジジババが、浮かれるのはいいがご先祖様のことを忘れるなよ！ともに楽しむのだからな！と当日の段取りにまだ頭を悩ませている。

今年のメイク、着ていく衣装、どれもこれもチビたちには楽しみなものなのだろう。俺にとってもそうだ。…けど］

死者の日 イリハモニ

…なぁ〜。せっかくだしさあ。
今年飾るかぼちゃは、中くり抜いてランタンにしねえ？
もったいねえよ、ただ飾るだけってのはよ〜。せっかくのハロウィ…前夜祭を見逃すなんてよぉ〜

[なんて愚痴る。…それを聞きつけたジジババの一人が目を吊り上げて、ポコッ！と杖で殴ってきた！］

『イリ…お前はまーた「はろいん」とやらにうつつを抜かしおって！
　良いか！そもそもオフレンダに飾るカボチャは、ご先祖様と食べるためのものであり捧げものであり…！！！』

だーーー！！！
一個ぐらい飾り物があってもいいだろっ！！？
ジッジのケチ！！！賑やかな方がいいじゃん！！！

『屁理屈ごねおって！大体、賑やかさならカラベラのほうが上じゃわい！よく分からんかぼちゃのお化けなんぞ入れたら、変な化物が寄ってきたらどうする気じゃ！』

だーかーらー！ジャックオランタンは変な化物じゃなくて〜！ちくしょーーー！

[…異文化交流の難しさを思い知った］

追想 オクターヴ

[これは、あたしが町を飛び出す前の話。
　いつもつるんでいたダチの間でさ、また妙な怪談？　都市伝説？　みたいなのが流行り出したんだ。]

「今年のハロウィンさ〜なんか〜
　あの世から手紙が飛んでくるらしいって〜〜！」

　手紙？

「うん手紙〜。まんま手紙だって〜。しらんけど」

　それしゃばい〜……っつかマジでガチ？
　マジ案件なら普通にめっちゃコワくね？
　■■■■（サブスク）で見たホラーとかじゃんそれ〜。

「だよね〜」
　

追想 オクターヴ

[なんて、その時はマジでしょうもない都市伝説くらいに考えてたんだ。
　ほら、世相とかなんか暗いし、物騒だし、先も見えないし。
　そういう感じなもんだから、こんな話でも出てくるのかって。


　でもさ……。]
　

追想 オクターヴ

[この村にまで来てから、なんとはなしに、おばあちゃんにこの「あの世からの手紙」の話したんだよね。そしたらさあ。]

「あなたのひいひいおばあちゃんもね、
　いつかのハロウィンの時に、
　あの世の人とお手紙の遣り取りを
　したって言っていたわ」

[おばあちゃんってばこれを大真面目に、それもなんかほっこりした顔で言い出したんだから、あたしの方がびっくりした。マジで。]

追想 オクターヴ

　……おばあちゃん、それホントにマジでガチ？

「ええ、ええ、そうよ。
　ひいひいおばあちゃんの引き出しの中に
　その時のお手紙が残っているかもしれないわ。
　ちょっと探してみ――」

　いや、いいです。

[あたしは思わず首を横に振っていた。
　おばあちゃん、ちょっと残念そうにしていた。]

追想 オクターヴ

「……そうね。今年もあの世と繋がれるのなら、
　わたしたちの、海に帰ったご先祖様にも
　お手紙が届くかもしれないわね」

　…………………。
　別に、いいや。あたしは。
　

追想 オクターヴ

[やんわりと否定を口にしたあたしの脳裏に、
　こんな時に、
　あの冷たい海と、波間に遊ぶアザラシが過ったんだ。]

　

幽玄卿 テヌート

―10/29 未明―

それでは、今晩はこれで終わりだ。
ハロウィンに会おう。

[Webカメラの捉える男の動きに合わせて、2Dのアバターが上半身をゆっくりと左右に揺らす。

ブルネットの髪にガーネットの瞳とプラム色のルージュ。
右目の下からは氷に走ったひび割れにも、樹木にも見えるメイク。
月明かりしかない闇夜で相見えれば吸血鬼と錯覚しそうな姿形は、友人に頼んで作成して貰ったもの。]

幽玄卿 テヌート

あ゛あーーー。

[配信を終了させ、機材の電源を落とすと、プラチナブロンドの男はリクライニングチェアの上で伸びをした。

男はOnetubeと呼ばれる動画サイトで活動しているVチューバー『幽玄卿』である。]

幽玄卿 テヌート

[職業はエクソシストで、吸血鬼の血を引くダンピール。
仕事の後にナイトティーを嗜むストイックな紳士。
……という設定ではあるが、ゲーム配信中に素が出てしまってその設定は有名無実化しており、設定に沿った発言をすると古参リスナーからコメントで「エクソシストしてる」「おかえり、初期設定」などと書かれる。
演じ続けるというのも難しいので、そこは助かっている。

三年ほど前から週三、四回ほどのペースで活動しているが、残念ながらそれだけで生計を立てるには至らず、コンビニ店員を兼業している。
収入的にはどちらが副業か分からないのが悲しい話だ。
企業に所属しておらず、個人で活動しているのもあって、派手な企画も難しい。

歌やアクションゲームはそこまで得意ではないので、雑談やノベルゲーム、朗読が主な配信内容となっていた。
ジャンルはホラーやオカルト、超常現象を好んで取り上げるので、そういったものを好むファンが多い。
この手のジャンルは苦手な者からは特に敬遠されるので、知る人ぞ知る、といった程度の知名度だろう。]

幽玄卿 テヌート

[配信を終えていそいそと向かうのは、配信用のデスクトップとは別のノートPCの画面である。
配信とネットサーフィンは別物なのだ。

男の日参するのは、SNSとオカルト現象や都市伝説などを扱う掲示板。
日々、同好の士とやりとりを交わしていた。
掲示板には最近賑わっているスレッドがあった。


──それは、“ハロウィンの時期に、死者から手紙が届く”というもの。]

幽玄卿 テヌート

[スレッドが立ったのは数年前の事。

スレッド主は、ハロウィンの夜に手元に届いた妙に古めかしい手紙の送り主を調べたところ、それは百数十年前に実在していた人物である事が分かったらしい。
便箋や封筒はエイジング処理したようには見えず、知り合いに見せてみたところ、真っ当に経年劣化したものではないかと言われたという事だ。

故に、死者から手紙が届いたのではないか、という解釈だ。]

『ハロウィンは死者の魂や化け物がこの世を彷徨うっていうもんな。』
『それって霊界から届いたんじゃない？ひいばあちゃんからそんな話を聞いた事がある。』
『自分も送ってみたけど、返送されてきた。残念。』

[──などなど。
スレッドには、いくつもの書き込みが連なっている。]

幽玄卿 テヌート

[今年も季節が近づいてから、スレッドに書き込みが追加されていた。

中でも目を引くのは、今年こそ手紙のやり取りが叶うのではないかというもの。]

『今年は特にこの世が霊界と繋がりやすくなるんだって。
霊界からの手紙がこの世に届いたり、霊界に手紙を送ったりできるようになるらしいよ！』

[そんな書き込みに、スレッドは沸いていた。]

幽玄卿 テヌート

[嘘か誠かは分からないが、男にとっても興味深い内容だ。
同好の士が集まっているだけあって、否定的な意見は少数派である。
男もまた、その掲示板では多数派だった。]

ハロウィンに届く霊界からの手紙、かぁ……。

もし叶ったら、めちゃくちゃ面白いよなー。

[男はブラウンの目を輝かせる。
好奇心半分、もしも撮れ高があったら嬉しいというのが半分。]

幽玄卿 テヌート

[今はメールやアプリでほぼリアルタイムでやり取りが交わせる時代。
手書きの手紙など、もう何年書いていないだろうか。
思い出す限り、プライマリースクールで母親に出したくらいだ。

そんな風に思案していれば、メールの通知が表示された。
ハロウィン当日に予定しているコラボレーション相手―TRPGを切欠に仲良くなった―からの連絡だ。
男はそれに目を通し始める。]

死者の日 イリハモニ

あーあ…ジッジもバッバも分かってねえな〜…ｱｸﾞｱｸﾞ
今時ハロウィンのことをかけらも知らねえなんて…ﾓｸﾞﾓｸﾞ
もったいねえったらありゃしねえ…ｶﾞﾂｶﾞﾂ


[本日の飾り付け作業に大方目処がつき、親戚家族たちは皆、それぞれ遊びに行ったり家に帰ったり、明日の作業の準備のためにバラバラに立ち去る。
かくいう俺は、牛肉ステーキとハーブがはいった大きなタコス…カルネアサーダを大通りの屋台で買って思いっきりかぶりつきながら、わからず屋たちへの不満を漏らしていた。

死者の日のお祭りに向けて準備をすすめる大通りはガヤガヤと人に溢れている。
両手にマリーゴールドの花束を抱える者。広場を大きな祭壇（オフレンダ）やパペルピカドで飾る者。この大喧騒をいいことにスリを働こうとする輩…。
いろんなものがいる中で、太陽の日差しだけは皆に平等だ。

はあ〜とため息をつきつつ、カルネアサーダを食べ歩いているとふと一つ、骸骨で飾られた奇妙なポストが目に入る。これはこの地域特有のものだ］

死者の日 イリハモニ

あ。死者の郵便受け（ブソン・デ・ムエルトス）じゃねえか。
こんなとこにも置くってことは、今年はなんか手紙に関するイベントとかもするつもりなんかな？

[死者の郵便受け。それは、「帰ってきた死者と手紙のやり取りするために使う」と伝えられている飾り物だ。
曰く、話をしたい死者相手に宛に手紙を書くと、それを読んだ死者が返事を書いてくれて、数日後に手紙が届く…といった具合の伝説である。
実際に死んだ家族から返事が帰ってきたというものもいるため、この地域では厚く進行されているものだ。

（もちろん、手紙を見た生者の誰かが、死者のふりをして代わりに返事を書くこともよくあるわけだが…。これら本人に書けない！間違いなく本人が書いた！と言いはるジジババや小さな子供もいるので強く否定しきれないのも、うちの地域ならではの伝統だ）

おそらく他の地域では見られないだろう。死者の日に対する並々ならぬ想いが根付いているからこそ存在するものの一つだ］

死者の日 イリハモニ

ん〜〜〜。
ん〜〜〜。手紙ぃ〜〜〜。
手紙ねえ…
ご先祖様にはあんま送る内容はないんだが〜〜〜…

[いつもならテキトーに飾りを眺めるだけなのだが、今年は妙に気になるというか、何というか死者の日への反逆精神が心をくすぐってくる。

生者が分かってくんねえなら、
死者に話を聞いてやろうか！！！
ハロウィンの許可取ってやろうか！！！と謎の反骨精神が芽生え、思いつきのまま近くの店で粗雑な素材で出来たレターセットとペンを買い込む。］

だれか〜だれかいい感じに死んでるやつで
話聞いてくれそうな…
あ、そうだ。

[ふと、思いついた。いや知り合いではない。知り合いではないが『伝説』だけは知る相手だ］

死者の日 イリハモニ

よーし、これでジジババ共も
納得の『ハロウィン』ができるだろ！

…あ、ヤベ便箋余った…他にも手紙送れるとこは…
う〜ん…よーしほんなら〜

［次は思いつきのまま書いてみる。
死者に届いたら届いたで面白そうだ。
とにかく出せるだけ出して手紙の残数をはけさせよう。
というわけで走り書きでも何でも送っちまえー！と落書きのように書きなぐった］

死者の日 イリハモニ

ふ〜、つかいきったつかいきった。
返事くるかな〜

［ぱんぱん。
手を叩いて、お手紙セットを使い切ったことに満足する。
死者からの返事はあまり期待してない。（外国で言うと頃の、サンタクロースのプレゼントのようなものだからだ）
全部使い切れたからそれで良し！後腐れなし！
変な手紙を送ろうとしてることもジジババにバレない！
うんそれでいいのだ！］

幽玄卿 テヌート

[男は手早くメールに返信を終える。
内容は、二日後に控えたハロウィンの企画のリマインドの謝礼や、相手が送ってきたアイデアへの返事。
頑張ろうという鼓舞の言葉で締めくくった。

夏頃に声を掛けて貰った事から始まった今回の企画は、こつこつ打ち合わせと準備を進めて行って、二日後にようやく日の目を見る事になる。
このままお互いに体調を崩す事もなく、ハロウィンの夜を迎えたいものだ。]

幽玄卿 テヌート

[季節のイベントにする企画を何にするかは、配信者によってカラーが出るものだ。
衣裳を変えたり、イベントに因んだゲームをしたり。
歌やダンスを得意とする者であればそういった手段もあるだろう。
普段と変わらない配信をする、という選択も含めて。

個人勢の2Dアバターは軽率に衣装を変えたり、小物を増やしたりする事は難しい。
2Dモデル制作用のソフトを購入して試行錯誤している最中なので、いつか形にする事が出来ればいい。
イラストを提供してくれた友人の為にも。

有難い事にアバターの制作者の友人が時々『幽玄卿』のイラストを描いてくれるので、許可を得て配信で使わせてもらう事はあった。
リスナーが投稿してくれる事もあるので、SNSでエゴサをするのも忘れない。]

幽玄卿 テヌート

[そして、意識は再び死者からの手紙に向かう。
デスクの抽斗を探してみるが、久しく手紙を書いていない男の手元には便箋がなかった。
そうしている間に空は白み始めており。]

やばい、一旦寝よう。

[男はタオルや着替えを手にバスへと向かう。
そうして手早くシャワーを浴びると、床に就いた。]

幽玄卿 テヌート

―29日午後―

[陽が高い時間に男は起きる。
スウェットにジーンズに着替えると、シリアルとヨーグルト、カフェオレで簡単に朝食を済ませ、文房具屋に赴いた。

少し足を延ばして大型店舗に来た甲斐があって、一角にはレターブックにライティングセットがずらりと並び、圧巻の品揃えだ。
そうして見つけたのは、裏面にパープルにブラックのインクでよく見ると蝙蝠と南瓜の意匠が隠れている壁紙風のイラストが印刷された便箋である。
表面にはブラックのインクで横向きに罫線が入っており、揃いの封筒もセットになっていた。

どうせならハロウィンらしくしたいと思ったところ、さりげなく印象付けるデザインが気に入った。
男は気に入りのカフェでティーラテをテイクアウトすると、ほくほくしながら自宅へと帰る。]

幽玄卿 テヌート

[そうして男はデスクに向かう。
さて、誰に宛てて手紙を書こうかと。

幸いにも男は直近で身内の不幸に遭っておらず、誰かに宛てて書く事は難しそうだ。


というわけで誰でもない誰かに。
霊界にいる誰かを想定して、買ったばかりの便箋にペンで文字を綴り始めた。]

幽玄卿 テヌート

久々に書くと勝手が分からないな。
手紙って、こんなんで良かったんだっけ？

[どうにか形にすると、男は便箋を封筒に収めてから、そっと息をついた。

今日はコンビニでの夜勤である。
勤務先に向かう道すがら、ポストに投函しよう。]

追想 オクターヴ

― 追想：10月25日 ―

[あたしが町を飛び出すまでには、ほんとうに、ちょっと色々あった。

　ウチの親は進学のことばっかりうるさくて。学校でもこの頃は進路どうすんのみたいな話ばっかり。
　で、親からも学校からも離れられるウチらの居場所……もさ、いつだって最強のウチらでいられる訳じゃないってのも、分かってたんだ。

　あるコは結局親の方に折れちゃって、ギャルもやめて。
　あるコはヤバい連中とつるみはじめて、たぶん、ちょっとマズい。
　あるコは、……、これ思い出すのは大分キツい。ここで話すのはやめとく。あのコについて部外者からいろいろ言われるのもイヤだし。]

追想 オクターヴ

[今の世の中は先が見えないとか危機的だとかなんとかかんとか言われるけれど。
　あたし自身だって、自分のこの先が見えてたワケじゃなかったんだ。

　いやさ、ギャルはそりゃ続けたいよ。今の仲間たちとも思いっきり騒ぎたいし、どうしようもないことぐだぐだ喋りたい。美味しいモノも食べたい。ハデなカッコもめっちゃ突き詰めたい！
　でもそれは、全部「今」の話。明日はこうしよう、みたいなこと考えてたワケじゃない。]

追想 オクターヴ

[そういう感じでさ。
　なんか、ふっと、自分の中の糸が切れちゃって、
　どこか、遠くに行っちゃいたくなったのが、10月25日。]

　

追想 オクターヴ

― 10月29日 ―

[さっきも言った通り、この村にはだいたいなんにもない。
　でも「なんにもない」くらいが、たぶん丁度良かった。

　町を飛び出してから、スマホの電源はぶち切っている。捨ててまではいないけど。
　いつも気にしてたSNSの通知も、気になるあのコの投稿の新着も、なんか、見たくなくなった。見たくなくなった途端に興味も消えてった。
　ここまでスマホ断ちしてる自分がいるとか、たぶん1週間前のあたしだったら想像もしてなかったと思う。

　……まあそれでも、スマホ越しの世界の住人のこととか、ちょっと思い出したりはしていたんだ。]

追想 オクターヴ

　……“あの人”なら、なんって思うのかな。

[なんでそんな風に思っちゃったのかなあ。
　そりゃさ、あたしにだってネットとリアル、「キャラ」と「中の人」みたいな区別はついてるつもりだよ。リテラシーとかなんとか知らないけど。
　だから「そんなキャラ」なんてリアルにいるワケない、とは思ってた、ハズなんだ。]

追想 オクターヴ

[でもさ、だからって、「そういうヤツ」の存在まで否定しきれてたワケじゃなかったんだろう、な。
　だってそれは、あたしが……いや、別にあたしだって、「そういうヤツ」だって自分を考えてるワケじゃない。
　ただ、おばあちゃんが、そういう言い伝え話してたってだけの話。
　ただのよくある伝説で、ただの迷信だ、きっと。]

追想 オクターヴ

　　　　　　　　　　　[……だよね？]

追想 オクターヴ

　あったあった。

[あたしはおばあちゃん家のリビングの引き出しから、勝手にレターセットを取り出した（勝手に使っていいって言われてた）。
　ウチらのあいだで使ってたレターセットよりも大分地味で、それがわりと新鮮でさ。
　かといって別にワクワクするような気持ちがあったワケでもなかったんだけれど……。

　なんだかんだで「あの世からの手紙」の噂の所為で、書きたくちゃったのかなあ。おばあちゃんもあの噂、ものすごく本気にしてたし。
　それでなんとなく、ダメモトみたいな気持ちで、ちょっとだけ書いてみることにしたんだ。]