51 ― ハロウィンの手紙 ― (2025/10/30(Thu) 10:00:00 に更新) RSS
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幽玄卿 テヌート
―31日 20時―
[夕暮れの中、古びた教会が佇む待機画面は右端の方でNow Loading...と表示されていたが、時刻になれば、サムネイルと同じ闇夜にぼんやり浮かぶ不気味な幽霊屋敷を背景に四人が並ぶ。
皆、笑顔で身体を左右に揺らしながら口々に“ハッピーハロウィン！”と口にした。]
「都会にやって来た狼男のナハだよー。今夜も楽しい時間を過ごそうね。」
「こんばんは、フランケンシュタインのナハだ。」
「半魔のバーテンダーリミレッタよ。今日はよろしく。」
ダンピールのエクソシスト、幽玄卿だ。
今日は私のプレイしてみたいゲーム『Haunted house』にお付き合いいただく事になった。
「一人では手が出せないと言っていたからな。」
「久しぶりに四人で遊べて嬉しいよー。」
「企画を立ててくれたナハには感謝しているわ。」
幽玄卿 テヌート
[四人が賑やかに雑談をしながらプレイヤーキャラの選択を行う。
ハロウィン仕様でジャック・オー・ランタンや魔女の扮装などを選ぶ事が出来るようになっているらしい。
リフは狼の着ぐるみ、ナハは潜水服、リミレッタは魔女の扮装、幽玄卿はジャック・オー・ランタンの扮装をチョイスした。
そうして屋敷を舐めるようなカメラワークで映した後、プレイヤーが閉じ込められる短いムービーの後、探索が始まった。
屋敷はそれなりの広さがある為、二人組で回る事になる。
リフとナハ、リミレッタと幽玄卿。
TRPGのPCではなく、自らが演じるアバターの人格として話しながらの探索。
彼女とTRPGの思い出話をしながら屋敷内を歩いていると、不意にリミレッタが足を止める。]
「──……幽玄卿。」
幽玄卿 テヌート
どうした、リミレッ……Ahhhhh!
[ドンと言う衝撃音と共に、画面にドアアップで映ったのは、血の涙を流した亡霊の生気のない顔。
幽玄卿の音割れしそうな程の叫び声が響き渡る。]
「走って！」
分かった！
[相方の背を追いかけて振り切った後、男は道中で見つけた回復薬で精神を癒した。]
幽玄卿 テヌート
「落ち着いた？」
……ああ、すまない……。
[幽玄卿は一息ついた。
エクソシストも驚く事があるのね、と言うフォローに内心で苦笑いを浮かべながら相槌を打った。]
亡霊の背後に、扉のようなものが見えた気がする。
「暗かったけど……確かにあったかも。」
あの亡霊が移動するのなら、近付いてみたいな。
「もしくは何かで気を逸らすかね。」
[周辺でアイテムを探し周り、花瓶を投げるアクションがある事に気付き、意識を逸らす作戦に出る。
一方、リフとナハ組は、屋敷で暮らしていた家族に起きた悲劇の痕跡を発見していた──。]
幽玄卿 テヌート
[途中でもう一組と合流し、相方を変えながら、亡霊から逃れつつ、情報を集める。
亡霊を聖水で足止めや、アイテムで気を逸らすなど、途中でギミックもあるので飽きは来ない。
相方が変わればやり取りも変わり、最年少で社交的な性格のリフは男から『霊界との手紙のやり取り』の噂について拾い上げる。
彼はホラーやオカルトには詳しくないが、“楽しそう！”と乗り気だった。
言葉数の少ないナフは、廃屋(家)で飼っている猫の話をして心を和ませる。
男も近所の犬の話をしていたのだが、その直後に亡霊に遭遇して、悲鳴の二重奏が響き渡った。
どちらもアクションに慣れていない二人なので、画面がばたばたと揺れた。
アイテムや散りばめられたヒントを集め終え、四人は亡霊に悩まされていた家族の祖先が作っていた脱出口への扉を開く為に謎を解く。
プレイヤー達が脱出口を見つけた事に気付き、亡霊達が追いかけてくる。
彼らを妨害しながら続けたチェイスの先に、明かりが見えた──。]
幽玄卿 テヌート
「いやー、めちゃくちゃ叫んだ。楽しかったねー。」
「最後のチェイスは熱かったな。」
「チームワークは良かったんじゃない？」
皆、付き合ってくれてありがとう。
「どういたしましてー。」
「いい機会になった。」
「また遊びましょう。」
[三十分程度、四人で感想戦を行った後、リミレッタからオリジナルMVの公開の告知が行われた。
メインボーカルはリミレッタで、コーラスに他の三人が参加しているという試みだ。
自枠のコメントの流れが速くなったのが見える。
幽玄卿は楽曲を出した事がないのだから、リスナーにとってはサプライズだったろう。
近々、四人のチーム名も付けるか、といった話にもなったが、そろそろお開きの時間だ。]
幽玄卿 テヌート
[コメント欄が落ち着けば、四人は別れのあいさつを交わしてそれぞれの配信枠に戻っていく。
ゲームのプレイングに関してが主だが、楽曲に参加する事へのコメントも多かった。
男自身でも驚いているのだ。
けれど、これもいい経験だと思って先達に胸を貸して貰う事にした。]
リミレッタ嬢のMVも是非見に行ってくれ。
俺以外が素晴らしいんだ。
それでは、次回の配信は11月3日を予定している。
また会おう。
[男もリスナーのコメントを幾つか読んだ後に配信を終える。]
幽玄卿 テヌート
[リクライニングチェアで一息ついたところで、メッセージの通知音が鳴った。
リフからだ。
“いくらでも喋っていられる”という言葉に嘘がない程、彼は長時間配信もお手の物だ。
だからもう少し配信を続けていると思っていたのだが。]
『幽玄卿、明日の夜、話さない？
噂の話、もっと聞きたい！』
[明日は昼間にコンビニで働いた後、明後日は完全オフになっている。
男が了承する旨の返事を送れば、待ち合わせの時間と近くにあるカフェバーのURLが送られてきた。]
追想 オクターヴ
……………どこ、ここ。
ってか、いま何時……。
[手紙の返事を書いていたらいつの間にか夕方になってた、っていうだるだる休暇あるあるだたったのか。それとも、おばあちゃん家と飛び出してからものっすごく長い間、あてどもなくふらついてたってことなのか。
まあいまさらどっちでもいいか……、ってワケでもないんだけど。]
あ、手紙……。
[その手紙は、着てきたうさぎパーカーのちょっと大きめのポケットに仕舞われていた。しっかりしてるぜあたし。
なんか変に冷静になったあたしは、とりあえず手紙だけでも出しちゃおうってこの時思って、あの海沿いの郵便局まで小走りで駆け出したんだ。]
追想 オクターヴ
[郵便局自体はもう閉まっちゃってた。
ポストの中身の集荷も、明日からになっちゃうかも。
でももしかしたら誰か郵便屋さんが気づいて配達してくれないかなーとか……いやそれは残業？ロードーキジュンホー違反？ってヤツなんだっけ。よくわかんないけど。
いやいやもしかしたらのもしかしたらだ。また今夜ハロウィンの魔法が起こって届いてくれないかな～とか……]
……………
[遠くから小さく聞こえてくる音楽は、たぶんあの飲み屋からのだ。
村のお年寄りたち（この時間なら若めの人もいるかも）がバイオリン？や笛で一斉にメロディ演奏して、ギターの伴奏もついてきて（なんか伴奏だけじゃない気もするけど）、手持ちの太鼓もダダダダダって鳴らされて…………。
ハロウィンの夜だもんね。こんな地味な村でも、みんなめっちゃ楽しみたいよね。
でもお仕事終わった郵便局のそばには、あたし以外の誰もいないんだ。]
追想 オクターヴ
[誰か、あたしを探してないかな。
おばあちゃん、心配させてるかな。
おばあちゃんはもう年の所為であんまし身体動かないって言ってたから、村中走り回ってあたしを探しになんていけないと思う。
他の人に頼んでるかな。誰か、来てくれるのかな。
……誰もあたしのこと、探しになんて来ないのかな。
そうだ、ママはここにもう来てるんだ。来ちゃってるんだ。
じゃあママはあたしを探しに……]
追想 オクターヴ
[……来てるワケないじゃん。
ママが探してるのは、求めてるのは、「未来のあたし」。
ママにとって都合のいい、ここにはいない未来のあたしだ。
ママは、それにパパも、いつだって、「今いるあたし」のことなんて見てくれなかったじゃない。]
『あのね、オクタヴィア、
勉強は将来のために必要なんだ。
この時代、ちゃんと大学まで行かないと、
安定した仕事にもつけないし結婚もできない。
将来の選択肢の幅が狭くなっちゃうんだよ』
[ね。ママはそう言い続けて、未来ばかりを見続けてた。
そうやってさ、「今日の」あたしの誕生日のことだって、「そんなことより勉強して」なんて言って、祝ってくれなかったじゃん。
追想 オクターヴ
[だから、「今の」あたしが出会って好きになったギャルファッションだって。
街で出会ったギャルの仲間たちとの毎日だって。
ママはろくに頷いてくれなかった。今のあたしのこと、受け入れてくれなかった。]
『あのね、オクタヴィア。
ママはあなたに、普通の暮らしをしてほしいの。
穏やかに、人並みに暮らしてほしいの。
そのためにもちゃんと落ち着いて、
大学受験の準備だってちゃんとしてほしいんだ』
[「普通」って何？ あたしもママも普通の人間なんかじゃないのに。
今のあたしが自然と望んだのが、ここにいるギャルなあたしだよ。
未来のことなんて見えないし見られない、今しか見えないあたしの。]
追想 オクターヴ
[パパはママほどうるさく言わない。
でも、仕事と自分の趣味にばっか出かけて、ママとはあたしの進学先のことで論争ばっかしてて、いざあたしと顔を合わせりゃ「勉強はかどってるか」ばっか言ってくるパパだって、ママと大して変わらない。
学校で会ってた友達も、最初のほうはさ、たぶん、いい感じに仲良くなれそうだった。
でもみんな次第に進路とか成績とか、塾とかなんとかのこと気にし始めて……。
なんとなく、そこでもあたしは居心地悪くなり始めて……。]
追想 オクターヴ
[やっと、やっと見つけたと思ってたあたしの居場所。
賑やかだけど他愛ない、仲間たちとのストリート。そんな今を、今のこの一瞬を精一杯楽しむ場所。
でもそこだって永遠じゃないんだって、もう解ってる。
だってあのコも、あのコも、……あのコだって、もう、]
追想 オクターヴ
[陽が落ちて暗くなって、潮風がふっと変わって。
海の方に向かう強い風に促されるみたいに、あたしは真っ暗な海の方を見た。
波間にいくつか……ううん、たくさん、何かが顔を出しているのが見えたんだ。]
アザラシ？
[はっきり見えたワケじゃないけど、あたしはすぐにそう思った。解った。
そう解った瞬間に、あたしのはだしの脚は動いていた。不思議と足の裏は痛くなかった。
郵便局の前の道路から、海岸の岩場まで、あたしはひとりで歩いて行って、]
追想 オクターヴ
[……行って、いって、波の音を聞いたんだ。]
「おかえり、オクタヴィア」
「おかえり、オクターヴ」
「今夜なら、ココに帰ってこられるよ」
「やっとまた、このハロウィンが巡ってきたから。
最後のあの夜から長かったけれど、
わたしたちはまた、こうしてあなたたちと繋がれるの」
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